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 御坂美琴はとある公園の自販機の前に立っていた。
 時刻は昼の12時を少し回ったところ。
 美琴はお金を入れてザクロコーラかヤシの実サイダーのどちらかにしようとボタンを指差し迷っている。
 そんな迷っている彼女に後ろから声がかかった。

「御坂ー! 今おまえ暇かー!?」

 美琴がここにいる理由でもあったその声の主は上条当麻。
 美琴は上条がいつもここを通るので、もしかしたら会えるんじゃないかとドキドキしながら待っていたのだ。
 しかしあまりに唐突だったために美琴は自販機の押すボタンを間違えた。
 ハバネロパイナップルジュース―――。

「……あ、アンタねぇ! いきなり大声でビックリする…じゃな、い?」

 思い切り振り返ったが、いない。
 声の主が、上条当麻がいない。
 しかし何か足元にある。いや、いる。それはまるで土下座をしたツンツン頭の制服姿の男子高校生のようだった。
 彼は額を地面に押し当てこれ以上は小さくならないであろう体制で土下座していた。

「あのさ、安いのは認めるけどそんな用事だけで一週間も私に頼るのはどうなのよ?」
「いえ。お礼はもちろんさせていただきます」
「あ、当たり前よそんなの!」
「で・す・か・ら!」
「ぅお」
「今は一刻の猶予もありません。私上条当麻とご一緒頂けないでしょうか?」
「…はぁ。で? 今日は何の特売なわけ?」
「お一人様2点限りの納豆と牛乳で御座います」
「はいはい。じゃあ行きましょうか」

 その言葉を待ってましたかのように顔を上げて満面の笑みを見せる上条。
 その笑顔に美琴は不覚にも頬を赤らめてしまう。

(まったくもうこいつは! ひ、人の気も知らないで!)



 スーパーから出てきた上条と美琴は笑みを浮かべている。
 上条はお目当ての特売品&タイムセールの戦利品ゲットで満足の笑み。
 美琴は上条と嬉恥ずかしの買い物デートでご満悦の笑み。
 しかしあまりに買いすぎた為、袋が3つになってしまい美琴が上条の寮まで持っていってあげることとなった。

「何から何まですみませんねぇ、御坂さん」
「べ、別にいいのよ。一番軽いやつだし…そ、それにもっと一緒にいたいし…」勿論この台詞はデクレシェンドである。
「ん?」
「(こ、こんな彼女みたいこと…はっ! ち、違うわよ? 困ってたから! 困ってる人を助けるのは当然よね! うん)」

 美琴は周りから見れば仲のいいカップルのシチュエーションに顔を真っ赤にして俯きながら歩いている。
 上条はそんな美琴を見て荷物重いか? と言ったが美琴は首を振ったので?の表情をしながらも帰路を歩いて行く。

「そういや御坂。お礼」
「ふぇ?」
「お礼。何がいい? 財布を苦しめない事なら何でもしてやるから」
「え? な、ななっ何でも? じゃ、じゃあさ! うーんうーん」
「まぁ寮に着くまでに考えとけよ」

 その後美琴はあれもいいしこれもいいしと悩み続けた。
 上条は一体どんな事をさせられるのだとうかと少し恐怖を抱いたが、今の上条家にとって激安の食材は必要不可欠だ。
 とあるシスターが食べ盛りなので。
 なので上条は考えることをやめた。

 そして2人は寮の前まで帰ってきた。
 上条は重かったろ? 本当ありがとなと言い、美琴から袋を受け取った。
 もちろん美琴は上条の部屋に行きたかったので少し不満な顔をして袋を渡す。

「で、決まった?」
「う、うん」
「お。なになに? 上条さんに出来る事なら何でも聞いて――」
「………………して」
「え!」
「……モーニングコール」
「あ、あぁ。モーニングコールね。ビックリした…」
「あ、明日から一週間! 朝7時にモーニングコールね! い、いいい一日でも忘れたらもう一週間追加!」

 それから御坂美琴お姉さまの幸せな一週間が始まったのだった。


 一日目。AM6:00。月曜日。
 美琴は目覚めていた。
 5時半には起きており、シャワーを浴びて布団の上で携帯を前に正座している。

「まさか楽しみすぎて目が覚めるとは思わなかったわ」

 携帯を開き時間を確認する。

「…ま、まだ6時か。私どんだけ緊張してるのよ」

 そんな美琴が出すオーラに何かを感じたらしく隣のベッドで寝ていた白井黒子が目を覚ます。

「ん…? お姉さま? 今日は随分とお早いですのね?」

 美琴はベッドから飛び上がるほどドキっとした。
 白井の声が心臓にわるかったのか暫く息を荒げていた。

「はぁ…はぁ…。く、黒子。お、おはよう」
「お、お姉さま? どうしましたの? どこかお体が優れないので?」
「う、うぅん。ちょっとビックリしただけだから…」
「そうですか。…あら? シャワーをお浴びになられたのですか?」
「う、うん。何か目が覚めちゃって。あは、あはは」
「はっ! 今ならお風呂場にお姉さまの残り香が! お姉さま! 黒子もシャワーを浴びてきますわ」
「い、いってらっしゃーい」

 美琴は黒子が風呂場へ入るのを確認すると携帯を握りしめ布団に包まった。

(うふふ。早く7時にならないかなー♪)

 AM7:02
 
 美琴は毛布に包まって体を震わせていた。
 白井はというとまだ風呂場から出てきていない。
 時々「お姉さま! お姉さま! あぁあああああ!!」とか聞こえてくるが美琴はそれどころではなかった。

(し、ししし心臓に悪いわね。これは。は、はやく電話かけてきなさいよ! もう2分も過ぎてるじゃな…)

♪~ ♪~ ♪~

【上条当麻】

「きっ…きっ…きっ、来たっ!! あわわわわわわ、あうあうあうあう」

 美琴は布団から跳ね上がり、なぜか髪型をチェックし始めた。
 そして自分の匂いを嗅ぎ始め変な臭いじゃないわよねとか言い出した。
 まぁ要するにテンパっていた。
 そして落ち着きを取り戻したのかいざ通話ボタンに指を置いたところで、

(はっ! 今ここですぐに出たらいかにも待ってたみたいじゃない! そ、そんなのダメよ!
 これはあいつの罰ゲームというか買い物のお礼というかごにょごにょ……はっ!)

 切れた。コール時間49秒。
 美琴の時は暫く止まっていたが、やがて携帯を握り締め某ボクサーのように真っ白になってしまった。

(う…うぅ。お、終わった…もう全部終わったわ…)

♪~ ♪~ ♪~

【上条当麻】

「っ!」

 美琴は音速の3倍で飛ばすコインよりも早く通話ボタンを押した。しかし――

「も!」

 押したはいいが緊張しすぎて、も! としか言えなかった。

(ああああああああああ! 何言ってるのよ私! き、きき…緊張しすぎ!)
『あぁ? もしもし? 御坂か?』
「はぇ!? あ…う、うん。お、おはよう…」
『お、おはよう。おまえ今起きたのか。まぁモーニングコールだからそういうもんかもしれないが…くくっ』
「な、なによ。何笑ってるのよ」
『だって、も! だぜ? なかなか聞けないよな。美琴お嬢様の寝ぼけた声はよ』
「~~~~~っ!! ね、寝ぼけてないわよ! そ、そそそれより電話するのが遅い!」
『あのなー7時ぴったりってわけにはいかないだろうがよ。まぁそれだけ言えれば大丈夫だな。学校頑張れよ』
「え? あ…うん。頑張る…」
『じゃあまたなー。俺飯作らないといけないからさー』
「う、うん。ま、またね」

 …………。

「ふー、朝からちょっとエキサイト…もといシャワーを浴びすぎてしまいましたわ。…あら? お姉さま? お姉さま?」
「ふにゃー」
「お、お姉ざばばばばばばばばばっ!!!」


 2日目。AM6:10。火曜日。
 美琴動き出す。着替えとタオルを持ち、風呂場へと消えていった。

「昨日の反省を生かし、学校の準備をしている時間くらいに電話がくるタイミングの方がいいわね」
「さすがに昨日は早すぎたわ。今日は冷静に行くのよ」
「心を無に」
「無に」
「そもそもモーニングコールなんだからギリギリまで寝ててもいいんだからね?」
「アイツの電話を心待ちにしてるわけじゃないんだから。だ、だから言ってやるのよ」 
「あら? おはよう。もう起きてたけどご苦労様」
「…だ、ダメよ。折角電話してきてくれるんだからもっと素直に」
「おはよー…。まだ眠いー。何か目の覚める言葉言ってー」
「…とか? んー。私のキャラじゃないわね」
「で、でも! もし『ほら美琴。起きないと遅刻しちゃうだろ?』とか『もう…美琴はお寝坊さんだな』と、とか!」
「『美琴…起きないと、ちゅ、ちゅちゅちゅ…チューしちゃうぞ?』とかだったらどうしようー!」
「どうしようどうしようー! えへ、えへへへへへ、へへへ」

「……お姉さまとお風呂ご一緒にと思いましたが今行くと危険な気がしますわ」

 AM6:50
 美琴は風呂からあがるとふらふらーとベッドにダイブした。
 そして携帯を開き時間を確認する。
 もちろん例のモーニングコールが楽しみなので足はパタパタさせていた。

「あと10分かー。なんかお湯にあたりすぎたせいでのぼせちゃったわ…ま、まずい。ここで…寝る、わけ、には―――」

 ………。

「――ま? お姉さま?」
「んぁ?」
「お姉さま? そろそろ起きないと学校に遅刻しますわよ?」
「黒子ー? ……え! い、今! 今何時!?」
「今は―――7時45分になりますわね」
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「ど…どうなさいましたの、お姉さま。 今朝はサンドイッチだったので走りながらでも食べられますわよ?」
「で、でで…電話は……モーニングコールは……?」

 そして美琴は携帯を開く。カエルの目はバッチリ何かを受信していたらしく光っていた。
 不在着信3件。
 【上条当麻】コール41秒。
 【上条当麻】コール33秒。
 【上条当麻】コール60秒。

「…」
「お、おねえ…さま?」
「……、う…うぅ……」
「そ、そんなちょっと寝過ごしたくらいで泣かないで下さいまし!」
「く、黒子ぉー…ん?」

 よく見ると何か留守番メッセージが録音してあるようだ。
 そういえば60秒以上コールすると留守電に繋ぐ設定にしたような。
 ま、まさかっ―――
 美琴は恐る恐る留守電メッセージを再生した。

『もしもし、御坂? おまえな! どんだけ起きないんだよったく! 一応留守電に入れておくから電話してないとか言うなよな?
 昨日といいおまえ朝弱いのか? …まぁいいや。早く起きろよ? 上条さんもこれからご飯だからさー。じゃまたな!』

「…」
「お、おねえ…さま?」
「……、ふ…ふふ……」
「そ、そんな泣いてるんだか笑ってるんだか分からない顔で笑わないで下さいまし!」
「ふふふ、ふふ、ふにゃー」
「お、お姉ざばばばばばばばばばばばばっ!!!!」

 PM21:30
「黒子ー? 私もう寝るねー?」
「え? あ、はい。随分とお早いですのね? 朝寝坊しないためですの?」
「え!? う、うん。そうね。や、やややっぱり早寝早起きは生活リズムを構築する上で―――」
「はぁ。まぁおやすみなさいですわ」
「お、おやすみー」
(今朝のお姉さまは確かにモーニングコールと言いましたわ。お姉さまがこれ程までに待ち焦がれる相手と言うと…)

 黒子は美琴が寝たのを確認するとアサシンの如く忍び寄りカエルの携帯を掴んだ。
 万が一の事も考え黒子は美琴からテレポートで距離を取り、着信履歴を確認しはじめる。
 着信履歴は『上条当麻』の名前が大半をしめてあった。
 黒子は確か学校が終わったら美琴に電話したと思ったが、これを見る限りバッチリ履歴を消されていた。

(あ、ああ、あのボンクラがあああああっ! お、おお、お姉さまの一日は黒子との甘い会話から始まりますの!
 邪魔はさせませんわ! 邪魔はさせませんわーーーーっ!!)
 
 黒子はマナーモード+振動無しにして携帯を美琴の枕元に戻した。


 3日目。AM6:30。水曜日。
 美琴は目を覚ました。いつもは携帯の目覚ましで起きていたが今日は普通に目を覚ました。

「う、うわ! もうこんな時間じゃない! 目覚まし鳴らなかったわよね? 消しちゃったのかしら…
 と、とにかくすぐにシャワー浴びないと!」

 美琴は着替えとタオルを持って風呂場に行こうとするが既に誰かが入っていた。
 まぁ、相部屋なので白井黒子以外いないのだが。
 美琴は扉のシルエットに向かって話かける。

「く、黒子!? 入ってるの!?」
「あら、お姉さま? すみません、先に入らせていただいてますわ」
「そ、そう。まだかかりそうなの?」
「すみません。今入り始めたばかりでして…、軽く浴びる程度ですので20分くらいしたら出ますわ」
「20分…わ、わかったわ!」
(プランA完了ですわ)

 美琴は20分以内に学校の支度をする。
 制服出して、シャツだして、靴下だして、今日の授業で使う教科書の類を鞄にぶち込む。
 漫画で見たら恐らく3,4人はいるんじゃないのかと思うほど美琴はあせっていた。

(早く準備してシャワー浴びないと! あいつから電話かかってきちゃう!!)

 AM6:45
「お姉さまー? あがりま――」
「黒子! 待っていたわ! 私すぐに入ってきちゃうわね!」
「は、はい。どうぞごゆっくり…」

 美琴は脱衣所のドアの前で待ち構えており、黒子を入れ違いで入っていった。

「…ふむ。予想通り学校の準備をして待ってましたわね。携帯は、と」

 白井は机の引き出しから何やら携帯充電器のような小型の機械を取り出すと美琴の携帯にセットした。
 実はこの機械携帯を充電するものではなく、携帯の残りバッテリーを正確に測れる機械。
 普通の状態なら何分で電池切れになるか、会話をしていたら何分で切れるかなど。科学最先端は余り使わなそうな物も生み出すのだ。

(ふむふむ。会話で12分ですか。もう少し電池使ったほうがよさそうですわね)

 そう言うと黒子は自分の携帯から美琴に電話をかけ通話状態にした。
 もちろん美琴が風呂場から出てくるまで通話状態にしておき、服を着ている時に自分からの着信履歴を消しベットに戻す。
 マナーモード解除も忘れない。
 ちなみになぜ美琴の携帯はこんなに電池が少ないかというと昨日のうちに白井が色々やっていた。
 そしてそんな事を知らない美琴が風呂場から出てくる。

(プランB、C完了ですわ)


 AM6:55
 シャワーから出てきた美琴は身支度をしていた。

(ギリギリ5分前ね。危なかったわ)
「お姉さまー。朝ごはん食べに行きましょうー」
「え!? う、うん。…あー、私はもうちょっとしたら行くわ」
「あら。お腹減ってないんですの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…。電話が…」
「電話? 持っていけばよろしいじゃありませんの」
「そ、そうだけど…」
「ささ。行きましょう、お姉さま」
「あ、ちょっと黒子ー」
(プランD完了。いよいよ最後の締めですわね)

 美琴と白井は寮の食堂行くと既に他の寮生も疎らにいて空いている席に座る。
 今日の朝はバイキング形式になっているのだが美琴は何故か取りに行かず、ソワソワしている。

「…? お姉さま? ご飯取りに行きませんの?」
「う、うん。もうちょっとしたら…」
「そうですか。では、わたくしは先に取りに行ってますわね」
「うん。いってらっしゃい。黒子」

 美琴は黒子に(引きつった)笑顔で送ると携帯を確認する。
 もう7時5分。そろそろ着てもいい頃だが――

♪~ ♪~ ♪~
【上条当麻】

(きっ…きた! 初日は待ちすぎたけどきょ、今日は…………………………………このくらいで!)
「も、もしもし~…」

 美琴は全然眠くないのだが眠そうな声をして電話に出た。
 私はアンタからの電話なんか忘れちゃってたくらい熟睡してたのよというツンデレ思考で。
 しかし、そんな素直になれない美琴に白井の積み重ねてきたプランが炸裂する。

『ピロン… ピロン… ピロン…』
「あ、あら? もしもし? もしもーし?」

 なにやら電子音だけで上条の声は聞こえない。

「んー? 寮内は県外じゃないし…はっ! ま、まさか!」

 そう言って美琴は携帯の画面を見る。
 そこにはバッチリ電池切れのマークと共に全アイコンが点滅していた。

「ああああああああああああああああああ!!! な、なんで!? 昨日の夜ちゃんと充電したのにぃぃぃぃぃいいいい!!???」

 朝。お嬢様の朝。
 そんな寮内の食堂からはウフフだのオホホだの聞こえてきそうな雰囲気だっかが、この美琴の一言で全てをぶち壊した。
 周りからは「み、御坂様? どうなさいましたの?」「なんですの今の?」「御坂! 飯くらい黙って食え!」だの色々言われたが、
 美琴はそれどころではなかった。

「と、とにかく充電! 充電しないと!!」

 美琴は周りの視線に気付きもせず食堂を飛び出して行った。
 しかし白井は後を追わない。何故なら白井のポケットには2人分の携帯充電器が入っているのだから。

(計画通り――――ですの)


 PM6:45
 朝の騒動から美琴は寮監にキツくお仕置きを受けたがそんな事は些細な事だった。
 美琴は帰ってくるなり白井の挨拶をスルーし、ベットに倒れ込んだ。
 ちなみに充電器はバッチリ元の場所に戻してある。抜け目無し。白井黒子。

「う…うぅ…」
「お、お姉さま? どうなさいましたの…?」
「く、黒子ぉ…こ、コレ…」

 美琴が持っていたのは黒焦げたカエルだった。
 正確にはカエルの携帯。
 何故こうなったかと言うと、朝美琴は充電器が見つからないあまり自分の電気で充電して会話しようとしたらしいのだが、
 失敗し携帯をショートさせてしまったらしい。
 もしかしたら普段の彼女なら成功したかもしれないが余りにも焦っていたのでとのこと。

「電池もすぐ切れちゃうし…どっちみち寿命だったのかなぁ…」
「そ、そうですわね…ズキズキ」
「まぁ機種は変えないんだけどね。でも在庫少ないらしくて取り寄せなんだって。一週間後くらいに来るって言ってたけど」
「そ、そうなのですか…そ、それは……残念でしたわね…ズキズキ」
「はぁ…」
「ど、どうなさいましたの? お姉さま?」
「……なんでもない。う…うぅ…」
「お姉さま…」

 上条当麻からのモーニングコール。
 3日目にして終了。


 4日目。AM7:03。木曜日。
 上条は美琴にモーニングコールするべく携帯を取り出す。

「そろそろかけるか。それにしても御坂。あいつこの4日間でまともに出たの一回もねぇじゃねえかよ、ったく…」

 そんな文句を言いつつも上条は美琴へコールする…はずだったのだが、コール出来ない。

『只今電波の届かない所にあるか、電源は入っていない―――』
「…………またか。昨日は最初はコール出来たけど2回目以降これだし。留守電も入れられないしで」

 上条は携帯をポケットにしまうと、朝食の準備をする。
 今日の朝ごはんは昨日の特売品『朝のともだち』たる名前の6枚切りの食パン。
 それと牛乳にマーガリン。上条当麻の精一杯の朝食である。
 上条はその6枚をもはや習慣的に、自分1枚インデックス5枚と配った。

「いつもありがとうなんだよ、とうまー」
「いいんだよ、インデックス。まだあると思って帰ってきたら無いっていう絶望感に比べたら、目の前でおいしく食べてもらった方が涙出ないし」
「もぐもぐもぐもぐ…」
「…食パン両手で交互に食う奴初めて見たぜ」

 上条は1枚のパンを心ゆくまで堪能すると鞄を持って部屋を出た。
 もちろんだるいし、腹も満たされていないのでいつもの台詞が口から漏れる。

「不幸だ…」

 そんな彼の目の前に少女が飛び出してきた。
 上条は俯いていたためその少女とぶつかってしまい転びそうになる。

「おっ…と。すみません。ちょっと余所見してて……って、おまえは」
「あはようございますですの。上条当麻さん」
「白井、黒子だっけ?」
「覚えていただいて光栄ですわ。突然ですがお願いがございますの」
「はぁ? ほんと突然だな、おい。…で何だよ?」
「今日の放課後お時間宜しいでしょうか?」

 PM6:44
 白井は常盤台の寮まで戻ってきていた。
 美琴はというと昨日の携帯故障+上条からのモーニングコールにありつけないショックで不貞寝してしまっている。
 もちろん学校へは行ったのだが、朝の異様なテンションの低さに白井はさすがにやりすぎたと思いプレゼントを買ってきたのだ。

「お姉さまー。お姉さま、起きてくださいまし」
「んー…ん? 黒子ぉ? 何? もうご飯だっけ?」
「それはもうすぐですわ。それよりお姉さま。あの殿方よりお姉さまへプレゼントがございますのよ」
「殿方ぁー? プレゼントぉー? ………………ええええええ!!!???? あ、あああアイツがっ、わっわっわわ私に!!???」
「はい。どうぞですの」

 そう言って白井は美琴に綺麗に包装された真四角の小箱を差し出した。
 美琴はさっきまで寝ていたとは思えないほど目をギラギラさせて、胸をドキドキさせてその小箱の包みを解いた。

「……目覚まし時計?」
「はいですの。お姉さまが電話に余りにお出られないから目覚まし時計を、と」
「…そっか。携帯壊れちゃったし、あと3日じゃ電話出来ないもんね」
「携帯が壊れてしまったことはあの殿方には言っておきましたわ」
「…」
「それにちょっとしたサプライズもございますの」
「え? なによそれ?」
「朝になってのお楽しみ、ですわ」
「???」
「ささっ、もうご夕食が出来てる頃ですわ。お姉さま、一緒に行きましょう」
「あ、うん。…あれ? 黒子も何か買ってもらったの? その小さな袋」
「え? あぁ、これは自分で求めた物ですわ。中身は耳栓ですの」
「………………………なんで?」
「街を誰かの血で汚さないためですわ」


 5日目。AM6:55。金曜日。
 美琴はまだ布団の中にいた。起きてはいるのだがだるくて起きる気になれないといったところ。
 でも早くしないとシャワーも浴びれないし、ご飯も食べれないしでもぞもぞしている。
 そして美琴はあと5分だけー…と言った時―――

『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「―――え!?」
 
 美琴はガバッと体を起こすが周りにその声の主はいそうにない。
 隣のベットで白井は寝ているようだが、それ以外にこの部屋に人はいなかった。

「気の…せいよね。あはは…アイツの声が聞こえるとか、私いよいよおかしく―――」
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』
「なってない! やっぱり聞こえる! ど、どこから!? 携帯は壊れてるし…ん?」

 美琴は昨日白井から渡された目覚まし時計を持つ。
 なにかを警告しているようにランプがチカチカと可愛らしく光っており、目覚めの時間だと言う事を教えてくれているようだ。

「でも鳴らないわねコイツ…私、止めたかし――」
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』
「こ、こここコイツだああああああ!!! コイツが喋ってたぁああああ!!!」
『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「あ…あぁ…」

 目覚まし時計から聞こえてくる上条当麻の声は美琴にとって最高の目覚ましになった。
 上条の言葉は棒読みだが、それでも美琴は嬉しくて顔を赤らめずにはいられない。
 美琴はその時計を自分の胸に押し当て少し強めに抱きしめた。そうすると体中にその声が響き渡り幸せな気分になれる。
 時計に録音されている台詞は3つだけだったが、美琴はそれだけで十分だったのか目覚ましが切れるまで止めることなく聞き続けた。
 そしていつの間にか体のだるさが消え、心が軽くなった気がしたので美琴は笑ってしまった。

「あは。こんなので喜んじゃうなんて…」
 
 美琴は時計を枕元に戻すと、一回だけ背筋を伸ばし着替えを持って風呂場へと消えていった。
 その足取りは軽くシャワーの音が聞こえると同時に鼻歌も聞こえてくる。

「………た、たたた耐えるのですわ。お、おおおお姉さまの為ですもの。と、ところでこの耳栓全くもって役立たずですわね」

 昨日白井は放課後に上条を連れて雑貨屋へ買い物に行ったのだ。
 そこで美琴の携帯が壊れたから朝起きる事が難しくなったのでと上条に時計を買わせた。
 その時計は声が録音できるやつで一番安いやつだった。白井は用意してあった台詞が書いてある紙を上条に渡し、その言葉を読ませた。
 自分で考えた台詞で、聞いても怒りを覚えないようにしたのだが、万が一の事も考え一緒に耳栓も購入した。
 それが白井の言うサプライズだったのだが、実はもう一個――――


 6日目。AM6:50。土曜日。
 美琴は夢の中にいる。ふわふわと気持ちいい。
 夢の中では上条との幸せライフを送っていて、いつものように夢なら覚めないでほしいと思うところだが今朝は違った。
 私にはあの目覚ましがある。
 あの目覚ましがあれば起きても幸せになれる。
 そして―――

『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』

 ………。

「ふにゅ…」

 美琴の顔は完全に緩みきっていた。
 幸せを噛み締めるように目を閉じているが口元からは甘い溜息を吐き、頬や耳は真っ赤になっていた。
 今日は学校は休みなので、しばらくこのままでいようと思ったが目覚ましの声が止まってしまったので起きることにした。
 ―――が。

「御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー」

 また上条の声が聞こえてきた。
 あれ? おかしいな。時間過ぎたらもう鳴らないはずなのに…。

「あれ…? なんで当麻っち(時計の名前。当麻+ウォッチ)また鳴ってるのー。まぁ、気持ちいいからいいんだけど」
「美琴はお寝坊さんだなー」
「そうよー。だって大好きな当麻の声で起きたいからゆっくりしてるんだもん」
「だ、大好きなんですか」
「うん。大好きー。えへへー、とうまぁー。とー、…ま?」

 御坂美琴の時は止まった。
 何か目覚ましの台詞違うんじゃない? って言うか今普通に会話したわよね?
 そして美琴は恐る恐る毛布から顔を出してみる。

「…」

 いない。
 ホッと胸を撫で下ろす。隣のベットを見るが白井もいなかった。
 シャワーかしらと思った美琴は当麻っちを持って時間を確認する。

「げ。まだ7時半じゃない。黒子休日にこんな時間に起きるなんて…」

 そう言った時にまた時が止まった。
 おかしい。7時に目覚ましセットしたんだから鳴っても5分か10分。
 でも今は30分。さっき鳴ったばかりなのになんで30分?
 その時美琴は何かが背後にいるような気配を感じた。
 美琴の体は白井のベットの方を向いて横になっているため、ゆっくりとゆっくりと視線を壁側に向ける。
 そこには。

「…」

 ツンツン頭の。

「あ…」
「よ。おはよう」

 不幸そうな顔をした。

「あ、ああ…アンタ……」
「やっと起きたか。いやーどうよこのサプライズ。つっても考えたの白井だけどな」

 美琴が恋する上条当麻が。

「なっななな…い、今の……聞こえてて」
「あ? 当麻っち? …いえいえ! 聞こえてませんよ? 大好きな当麻の声で起きたいとか聞こえてないですから!」
「~~~~~~~~~ッ!!!!!!」

 顔を真っ赤にして立っていた。

「なんでアンタがここにいるのよ!!!! しかもバッチリ聞いてるじゃないーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
「どおおおおおおおおおおおおおおおおお!!???」
「ふにゃーーー! ふにゃーーーーー!! ふにゃーーーーーーーーー!!!」

 美琴は上条以上に顔を真っ赤にし、上条に電撃を浴びせる。
 …はずだったのだが、いち早くそれに感知した上条は美琴の手を握り電撃を封じ込めた。

「あ、あっぶねぇ! おまえその可愛らしいかえるパジャマにもコイン忍ばせてあんのかよ!」
「ふにゃー!!!」
「お、おいコラ! 暴れんな! つか力強っ! もってかれる! 腕持ってかれる!!」
「わっ忘れろーーーー!! 全て忘れろーーーー!!! 記憶を消してくれるーーーーーーーーー!!!」
「やばい! 今手を離すのはやばい! 絶対死ねる。楽になれる。でも死ぬのは嫌だーーーー! 朝はパン一枚でもいいから死ぬのは嫌だああああ!!!」
「離せこのバカーー! 女の子の寝顔見るなんてアンタって奴はホントに―――」
「うぉ―――」

 上条はよく耐えた。美琴のテンパリ時の怪力から。しかしここまでのようだ。
 上条はこれから起こるであろう映像が予想できた。恐らく美琴のどこか恥ずかしい所に顔を埋め、それにさらに激怒した美琴が
 上条を振りほどき電撃を浴びせるという映像が。
 …はは。不幸だ。

 ちゅっ。

 …ん? 手はちゃんと握っている。他の所には当たっていない。
 左手はベットの柵にかかっている。美琴の体にさえ触れていない。
 首から下の感覚もいつもと変わりない。が。
 首から上。特に唇がいつもと違った。
 柔らかい何かに押し付けられているような? いなような?
 唇が押し付けられているため息を吸う事が出来ず、苦しくなっていく。
 ついには耐え切れなくなり口を開けるとさっきまで押し当てていた何かも同時に開く。
 そのタイミングが成せる技かどうかは定かではないが、舌に何かが触れた。
 味なんか全く感じなかった、というか感じる状態ではなかったのだが。それはとても官能的な触感だった。
 まぁ要するに上条が美琴にキスしていた。
 おはようのちゅーをしていた。
 上条は状況を理解したのかゆっくりと美琴の唇から離れる。
 離れる時に熱も一緒に無くなっていったのだが、自分の唇と美琴の唇とで何かよくわからない水の端が出来たため一瞬にして顔を真っ赤に染めた。

「あっ…あああああの。み、さか…さん。こ、こここコレは、その…事故というか。不幸というか、何と言うか…」
「ふぇ…? あ…は……ぇ」

 美琴の目は完全にとろけきっているが上条の目だけを見ている事は分かった。

「い、今の…私……あの…」
「ち、違…くないけど! 絶対あれだぞ! あれっていうのはアレで、だ…だから……!」
「あ、ああああアンタと…!
「きっキスじゃないからな!!」
「キッ!!???」

 ボン!ボボン!ぼぼぼぼぼ…と美琴の顔が真っ赤になり、沸点を越えたのかと思うほど湯気が出た(気がした)。
 美琴は手を振りほどくと顔を隠ししばらくいやんいやんしていた。

「わっ私…こ、コイツと。きっキスぅを……」
「み、御坂…さん?」
「う…」
「う?」
「嬉しい…」
「…ぇ」

 嬉しいと顔を上げて言った美琴の顔は本当に幸せそうで顔全体を使って喜びを表現している。
 恋する乙女はファーストキスは絶対に好きな人とと思っており、理想のシチュエーションとは違えど相手が相手なら嬉しいに違いない。
 上条はそんな美琴の言葉と満面の笑みに、今まで築き上げてきた精神と理性が圧倒的な何かに粉砕される衝動に駆られ動けなくなってしまった。

「う、嬉しいなー。私のファーストキスがこ、ここコイツとなんて…えへへ」
「……ふ…」
「えへへ…へ?」
「ふぅ…」
「ちょ…」
「ふにゃー」
「わあああああああっ! ちょ、ちょっと! アンタ大丈夫!?」

 AM9:13
 白井は浴室からではなく部屋のドアから入ってきた。きちんと常盤台の制服を身にまとい風紀委員の腕章をつけて。

「ただいま戻りましたわー」
「あ。黒子おかえりー。どこ行ってたの?」
「おはようございます。ちょっと風紀委員の支部の方に忘れ物をしてしまいまして」
「そうなんだー、…えへ」
「…お姉さま。何か機嫌がいいみたいですわね?」
「そ、そそ…そうかなぁ。そんな事…ない……けど」
「言っておきますが今日は特別ですわよ。寮監が朝からいないからであって、あの殿方もなかなか頷かなかったんですから」
「わっわかってるわよ! ……ありがとね、黒子」
「………いいんですの。それより今日はどこにも出だしませんの? お姉さまが休日に部屋にいるなんて珍しいですわね」
「うん。これから行くとこ」
「…お姉さま? と、常盤台は出歩く時も制服姿と義務付けられてますのよ?」
「大丈夫大丈夫♪ 今日寮監いないんでしょ♪」
「…お姉さま? ち、ちなみに聞きますけど…どなたとお出かけになられるのですか?」
「へ!? や、やーねぇ黒子ったら。ひ、1人で行くに決まってるじゃない! あは、あはは」
「でしたら! わたくしもご一緒――」
「ダメ」
「うっ。………………と、ところでお姉さま。実はここにわたくしがこの前買った下着があるのですが、ちょっとサイズを間違えてしまいまして」
「………とか何とか言って私に穿かせようってんでしょ」
「ま、まさかそんなわけありませんわ!」
「ふーん。じゃ、じゃあ貰っておこうかしらね。す、捨てるの勿体無いしね。うん」
「え……………………………おねえ、さま?」
「た、たまにはね、気分転換も大切よね! じゃじゃあ私もう行くから! ありがとね黒子~~」
「お姉さまああああああああっ!!!」

 美琴は白井から下着入りの小袋を受け取るといそいそと部屋と後にした。
 白井は呆気にとられていたがしばらくして正気に戻る。そしてどっと冷や汗をかき自分のベットに腰掛けた。

「まっまさか…サービスしすぎましたの? カマをかけた下着さえも持っていかれるとは……」
「後を追うしかないですわね。わたくしのサイズでしかも布小さめのを選んだ下着なんかお姉さまが穿いたら―――」
「…」
「おねえさまああああああああああああああっ!! ぴっちぴち!!! ぴっちぴちですわあああああああああああああああっ!!!!」

 白井はいつの間にかベットに仰向けになっていると何やらしだした。
 それは何とは言わないが、テレポートの演算が出来ないような何かをしているようだ。
 何をしているんだろうね。分かる人いますか? ちなみに僕はわかりませんね。
 そして事終えた白井は美琴のベットへと歩み寄り目覚まし時計を手に取った。

「はぁはぁ…こ、この目覚まし……こいつがやっぱりいけなかったんですわ…中身を確認すれば全部分かるはずですわ」

 白井は目覚まし時計の時間をアラームが鳴る時間まで戻す。
 確か録音した台詞は
『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 
『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 
『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』だったはず。

『美琴ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』
「あ、あら? 今美琴って……?」
『いい加減起きろよなー。遅刻するぞ? あの場所で待ってるぜー』
「…………今、何つった?」
『ほら美琴。遅刻したら何だっけ? ほ、ほっぺにch―――』

 消した。アラームを消した。

「お、お姉さま。まさか…まさかあの類人猿に! 認めませんわ許しませんわ信じてますわあああああああ!!!」
「……そ、そうですわ。ちょっとこの目覚ましに」


 7日目。AM6:57。日曜日。
 美琴と白井は既に目を覚ましていたが起きあがる動きは起こさない。
 美琴は昨日門限ギリギリに帰ってきたがとても満足気な顔をしていた。
 あの例の小袋はというと渡した時よりもちょっと膨らんでるように見えたような、見えないような?
 そして白井はドキドキしていた。
 目覚ましのアラームに。

(ふふ。お姉さま。今目を覚まさせてあげますわ。黒子のあま~いこ・え・で♪)
(えへへー。早く鳴らないかなぁー。楽しみだなー。当麻っち♪)
(ドキドキドキ)
(どきどきどき)

 カチッ―――

(きたっ!)(きましたわっ!)
『おねえさまぁ~ん。起きてくださいましぃ~』
「……………………………………へ?」
(や、やややりましたわ!)
『遅刻してしまいますわよ? それとも黒子が直接起こしにくるのをお望みですのん』
「と…当麻っち? な、なんで黒子の声に……黒子っちに…」
(せっ成功ですわ! お姉さま! 嬉しすぎてぷるぷる震えてますわ!!)
『お姉さまぁん。今参りますわね? 黒子はっ黒子はもう我慢できませ――カチッ』
「……………黒子ぉ」
(――はっ! お姉さまが呼んでいる! 黒子を待ってるんですわ!! 今行きますわね!!!)
「黒子ぉ?」
「おねえさまぁあああああああああああん!! おはようござ――――」
「何してくれちゃってるのよ!! アンタはぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」
「あああああああああああああああああああああああっ!!!」

『待ってたのに! 楽しみにしてたのにぃいいいいい!!!!』
『あぁああああああ! お、お姉さま!! 朝からっ朝から激しすぎますわあああああ!』
『誤解招くような事言うなぁああああ!!!』
『あああああああ~~!!』
「…ふむ。また御坂と白井か。さて、今日は首を90度曲げるだけでは済まさんぞ」
 
 眼鏡をかけ直した寮監が208号室のドアノブに手をかける。
 その日美琴は上条とデートの約束をしていたが、集合時間になってもなかなかこないので上条は不幸だと連呼していたとか。
 その時間に美琴と白井は部屋で気絶していた。もちろんベットにいるわけではない。
 寮監のロックで極められた後、そのまま投げ出されて部屋の隅にぐったりしている。
 その後目を覚ました美琴が、当麻っち改め黒子っちの示す時間を見て光の如く駆け出したのはまた別のおはなし。
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 学園都市第7学区にあるとある寮。
 そこに住む上条当麻は何やら最近になって思いつめる事が多くなっていた。
 ぼーっとする時間が多いせいか、料理には失敗するし、授業では先生にチョーク投げられるし、街ではスキルアウトのお兄さん達に
 からまれまくるし。とにかく何をやるのも上の空だった。
 しかし、そんな上条もある人物の前だけ反応を示す。それは――

「ちょっとアンタ! さっきから何ぽけーっとしながら歩いてるのよ!」
「あ…み、御坂」
「ん? ど、どうしたのよアンタ! 顔真っ赤じゃない!! 熱でもあるの!?」
「ちょ…熱なんかねえよ! か、顔! 顔近い!!」
「あ、…ご、ごめん」

 彼女は御坂美琴。学園都市で5指に入るお嬢様学校常盤台中学のエースでレベル5の第3位。
 そんな彼女が上条に気さくに話しかけてくるのは、とある事件で上条が美琴の事を救った事から始まったのだが。
 美琴はその一件から少しずつ上条に惹かれていった。
 そして最近になって、普段は自分の想いも分からなかった彼女だが、上条に自分だけの現実を揺るがすくらいの恋をしている事に気付いたのだ。
 しかし気恥ずかしさか、今の関係が壊れてしまう恐怖からかわからないが、いつまで経っても素直になれなかった。
 色々上条に対してそれらしいアプローチはしているのだが、鈍感大魔王の上条は美琴の想いに気付かない。
 最近になって減ってきたが、以前は事あるごとに上条を目の敵にしビリビリと電撃を浴びせられていた。
 もちろんこれは、美琴の『かまって欲しい』の表現なのだが、面と向かって言い出せない。
 そんな事が色々とあったのだが、その上条が最近になって美琴の事を過剰に意識し始めてきた。
 以前の美琴の様に胸がもやもやしているのだ。これが恋なのか女性を好きになった事がない上条には分からない。
 ただ、美琴を見ると顔が熱くなるし、美琴と遊んでいると時間はあっという間に過ぎてしまう程面白い一時を送れる。
 上条は上条なりに、美琴に対して好きかどうか自分でも分からないようなアプローチをしている。
 手を握ったり、頭に手を置いて撫でたり。
 このもやもやした感情がない時はこんな事たいした事なかったが、美琴を意識し始めた上条にとっては顔を真っ赤にしるほどのものだった。
 だが、そんな上条にとってはうれしくない誤解があり、アプローチをしたら美琴は必ずと言っていい程漏電し出す。
 上条はこの漏電を、以前の出会い頭に電撃を浴びせるという風に捉えてしまい、自分が美琴に近づけば近づくほど美琴に毛嫌いされると
 誤解してしまって、その先のアプローチまで至っていないのだった。

「あ、あぁ。俺の方こそ…ごめん。やっぱり何か病気みたいかもしれない。顔が熱いし、胸痛いし」
「え…? 病気? じゃ、じゃあこんな所にいちゃダメじゃない! ほら。アンタの寮まで送ってあげるから掴まりなさいよ」
「………………えっと、御坂さん? 掴まれとは?」
「病気でダルいんでしょ? だから肩貸してあげるって言ってんの!」
「かっ、かかかかか肩ぁ!? い、いえいえいえいえいえ!! そ、そんな事したらまた悪化するというか近くなるけど遠くなると言うか!」
「……はぁ!? アンタほんとに大丈夫!? 最近変よ? …、もしかして何か隠してるわけじゃないでしょうね?」
「なっ、何にも隠してない! と、ととととにかく何でもないから! それじゃ!!!」
「あっ! ちょ…アンタ! 待ちなさいよ!!」

 上条は美琴の申し出を断り、光の速さで逃げ出した。超電磁砲も光には追いつけないのだ。
 この上条の逃げるという行為は、美琴の漏電の様なもので、この事にも美琴は悩んでいた。
 美琴も過剰に上条とスキンシップを取ろうとすると、上条は慌てて逃げ出してしまう。あまり親しくするのは迷惑なのか、と。
 もちろん上条にとっては照れ隠しなワケで、そんな迷惑なんかとは全然思っていない。
 そして、その場に残された美琴は「ちぇ。何よアイツったら…人の気も知らないで」といい自分の寮へと戻っていった。

 上条は顔を真っ赤にしながら走っている。
 途中、なんか最近会ったスキルアウトのお兄さんに声を掛けられた気がしたが、そんな声なんか聞こえないくらい頭が美琴の事でいっぱいだった。

「か、肩に手を回すって事は…その、抱きつくって事だよな。……あぁ、素直にしてもらうんだった………じゃない! 死ぬかと思った…」

 上条は寮まで帰ってくると一気に部屋に駆け込み、ドアを閉めて息を荒げた。
 顔は真っ赤で、頭の中はさっきの映像がフラッシュバックする。

「はぁ…」
「ん? あ。とーまおかえりー」
「おぅ、ただいま。インデックス」
「…? どうしたの? 顔真っ赤だけど」
「え!? そ、そんなに真っ赤か!?」
「うん。恋する乙女が想い人に迫られた時みたいに真っ赤なんだよ」

 インデックスは妙に核心突いた言い回しをしてくる。
 それもそのはずで、最近の上条は誰が見ても変だった。何をやるにも上の空だし、話しかけても生返事ばかりで。
 これは恋に敏感な高校生、中学生ならまだしも、恋に疎い小学生でも気付くであろうレベルだった。

「―――で。とーまはどこの誰にその心を奪われちゃったのかな?」
「……………恥ずかしくて言えません」
「まっまさか…私!?」
「それは違うと言い切れます」
「むぅ! そこまでハッキリ言われたら流石に傷つくんだよ!……あぐっ!」
「ぎゃああああああっ! い、インデックスさん、すみませんでしたーーーッ!! 頭噛み付かないでぇぇぇぇ!!!」
「ほーまふぁほっほほんなほころほふぁんふぁえないふぉいふぇないふぁよ!(とーまはもっと女心を考えないといけないんだよ!)」

 インデックスの噛みつき攻撃によりダメージをうけた上条は鬱な表情で夕食の準備に取り掛かる。
 しかし、ここ最近まともな料理が出来ないためか、軽く作れるものが多くなってきた。
 そんな料理でもインデックスは美味しそうにバクバク食べる為、上条はその時だけは美琴の事は忘れ溜息を吐きながらも笑ってしまう。
 それで夕食も食べ終わり、食器を流し台に持っていった時インデックスが「さっきの続きだけど…」と言い出した。

「とーまはもっと真っ直ぐ向き合うとおもってたよ」
「……なにが」
「好きな人にはハッキリ好きっていうと思ってたって言ってるんだよ」
「…」
「何か言えない理由があるの?」
「それは……」
「私はとーまより全然年もいってないから偉そうな事言えないけど…苦しいならいっそその思いを相手にぶつければいいと思うよ」
「……そ、そんな…こと」
「たとえ相手がとーまを拒絶しても、私が慰めてあげるんだよ。なんて言ったってシスターだからね。ちょっとくらいなら力になってあげられるかも」
「インデックス…」
「居候してる身だからね。なにかの役に立ちたいんだよ。私も」
「ありがとな。インデックス…。そうだよな、いつまでもこのままじゃいけないよな」
「そうだよ。真っ直ぐ進んだ方がとーまらしいかも」
「あぁ」

 上条はその後またありがとうとインデックスに言って頭を撫でた。
 インデックスはいいんだよーと気持ちさそうに撫でられている。そんなインデックスを見て上条は小さく笑い、着替えとタオルを持って
 風呂場へと消えていった。
 上条の背中を見送ったインデックスは小さく、本当に小さく言葉を漏らした。

「とーまにそこまで好かれるなんて、その子は幸せすぎるんだよ」


 美琴は常盤台の女子寮に帰ってくるなり、シャワーを浴びて夕食を済ませた。
 そして自分の部屋、208号室に帰ってくると一直線にベットに倒れ込んだ。208号室は相部屋なため、もう一人白井黒子がいるのだが、
 そんな倒れ込んだ美琴に白井は心配そうに声を掛ける。

「お姉さま? お体でも優れませんの?」
「んー? んーん。全然平気。ありがとね」
「それならいいんですが、黒子に出来る事があればなんなりとお申し付けくださいですの」
「うん」

 会話が終わると白井は風紀委員の仕事が残ってましたのと言い、机に向かいパソコンで作業をし出した。
 お嬢様の寮だけあって周りには騒がしい音が無く、今は時計が時間を刻む音と、白井がキーボードを打つ音しか聞こえない。
 耳を傾ければ自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい静かな、夜だった。

「黒子」

 美琴は枕に顔を埋めたまま白井に語りかけた。
 白井も一回は美琴の方を見て、何でしょうか? と言ったが美琴が伏せていたために、目を見て話せない事なのだと思いパソコンに視線を戻す。
 そしてキーボードを打つ音が聞こえてきたのを確認すると美琴はまた言い出した。

「気付いてるかもしれないけどさ。私…好きな人がいるの」

 美琴のその言葉に白井は一瞬キーボードを打つ手を止めたが、また打ち始めた。

「そんな事、とっくの大昔に気付いておりましたわ」
「………そっか」
「お姉さまは素直じゃありませんものね。でもこうして黒子に言い出した事は大きな進歩ですわ」
「もっと反対って言うか…色々言われるかと思った」
「確かに言いたい事は沢山ありますわ。でもお姉さまもそんなになるまで悩んでるんですもの、黒子は反対なんて出来ないじゃありませんの」
「…」
「お姉さまは―――」
「ん」
「お姉さまは黒子の、大切な大切な『親友』ですから」
「ありがと。…なんか、……はは」
「お姉さま?」
「先輩の面子丸潰れね」
「親友の前なら弱みを見せてもいいじゃありませんの。いつも常盤台のエースとしてのお姉さまじゃ頼る相手も少なくなってしまいますでしょう?」
「………ありがと。ほんとに」
「いえ。それにお姉さまは悩むよりまず行動…という性格だと思ってましたわ」
「…そう、よね。こんな悩んじゃって私らしくないわよね」
「超電磁砲の様に、真っ直ぐに…ですわ」
「うん。ありがとね黒子…私、あんたの事誤解してたわ。とてもいい子だったのね。もっと変態だと思ってた」
「いやですわお姉さま。黒子が変態だなんて。ところでその想い人の前に、わたくしに貞操を捧げる気はございませんの?」


 翌日。学校が終わり、下校中の上条当麻は溜息を吐いて歩いていた。
 今日も今日で授業中ぼけっとしてしまい課題プリントを沢山出されたからだ。そんな上条を見かねて委員長の吹寄が気合の説教1時間コースを実施。
 終わる頃には完全下校時間が近くなっており、上条と吹寄は下校すると、明日からはシャキっとしろよ! と言い残し吹寄は去っていった。
 上条は夕食の材料を買わなくてはいけなかった為に、最寄のスーパーまで足を運んでいた。
 しかし時間帯がずれていたのかタイムセールは終わっており、今日特売であった物が置いてあったらしき場所には『完売しました』の
 札が貼ってあった。

「不幸だ…」

 上条がその言葉を漏らすと、後ろから背中を思い切り叩かれる。
 こんな事をするのはデルタフォース所属の土御門か青ピくらいだが、この時間にスーパーにいるはずがないのでそれ以外の人物。

「よぉ御坂。いきなり背中ど突くのはやめてくれよ。ビックリして心臓止まりかけた」
「何言ってんのよ。あの電撃でも止まらなかったアンタの心臓は、これくらいじゃビクともしないでしょ?」
「おまえな…」
「えへへ」

 上条は美琴の笑顔を見ると途端に胸の中にある何かに駆られる。
 それはとても苦しく、とても熱いもの。
 上条はこの苦しみの正体が分からなかったが、苦しみを抑える事は出来ずに美琴に言った。

「……御坂。この後時間あるか? 下校時間過ぎちゃってるけど」
「へっ? こ、この後……う、うん。別にいい……けど。何かあるの?」
「ちょっと最近悩んでる事あってさ。御坂に色々聞いて欲しいんだ」
「……………驚いたわね。アンタでも悩む事あるんだ。まぁ、そういう事ならこの美琴先生にお任せね。何でも相談しなさい」
「恐れ入ります。美琴先生」
「ッ―――」

 美琴は自分で美琴先生と言っておきながら、その言葉を返されると顔を赤らめて俯いてしまう。
 上条は夕食の材料を買い物を始める。その材料は野菜や肉など。この後に訪れるであろう美琴に対する思いの打ち上げで、
 この苦しい気持ちが消えるであろうと確信したのか、久しぶりに本格的な料理をするため材料を買っていった。
 美琴はそんな買い物をする上条を隣でぽけーっと見入っている。

 そして会計を済ませた上条たちは自販機のある公園へ向かう。
 その間上条は今日学校であった事を美琴に溜息混じりに話すと、美琴は自業自得よと手厳しいお言葉を言い放った。
 公園に着くと、上条は美琴をベンチに座らせ、自販機でジュースを買ってきた。
 買ってきたのはザクロコーラとヤシの実サイダー。

「ほい。ヤシの実サイダー」
「…たまにはザクロコーラがいいな」
「へぇ、珍しいな。いつもサイダーなのに」
「アンタはいつもコーラよね。それで美味しそうに飲んでるから私も飲んでみたくなっちゃった」
「ふーん。まぁいいや。ほらよ」
「ありがと」

 美琴は上条からザクロコーラを受け取ると、その栓を開け一口付けた。
 そんな美琴を見て上条もヤシの実サイダーに口を付ける。

「…そんな美味しくないわね、コレ」
「そうか? 俺は好きだけどな。サイダーは美味いな」
「……ねぇ」
「うん?」
「やっぱそっちがいい」
「ブホッ!!」

 美琴はザクロコーラを両手で持って顔を赤らめながら、上目使いでねだってきた。
 美琴の事を意識している上条にはキツすぎる行為で、もう有無を言わずに真っ赤な顔を伏せ、ヤシの実サイダーを差し出した。
 受け取った美琴もさらに顔を伏せザクロコーラを上条に渡す。
 共に想い人の口を付けた缶ジュースを持っているため、その後どうすればいいのか分からなくなっていた。
 相手から先に飲んでくれればこっちも踏ん切りつくのに、といった牽制のし合い。
 しかしさっきの美琴がどうしても頭から離れないのか上条は全く動かない。
 美琴も美琴で動けなかったが、この空気に耐え切れず先程のスーパーでの事を話し始めた。

「…で。な、なにかしら? 美琴先生に相談事って」
「あ、……あの。その…えっと……」
「んー? やっぱり言えなくなった? そんなに顔真っ赤にしちゃって。さぞ恥ずかしい事なんでしょうけど」
「う…」
「へ? そ、そうなの!? あ、ご…ごめん。話づらくなるような事言っちゃって…」
「………いや、いいよ。俺がハッキリしなかったのがいけなかったんだから」
「そ、そう?」
「じゃあ言うぞ?」
「ど、どうぞ」

 上条は美琴の隣に座ると一回大きく深呼吸をした。
 美琴は上条が隣に座ってきたので緊張を解すために深呼吸した。
 そして―――

「俺さ、もしかしたらおまえに恋したかもしんねぇんだ」
「……………………は、…い?」
「この気持ちが何なのか、俺分からないんだよ。胸が苦しいっつーか。おまえを見ると体温上がるっつーか」
「え…あの、ふぇ? わ、私…?」
「これ恋なのか…御坂。おまえ今まで恋した事あるか? この苦しみ何なのか教えてくれよ!」
「わ、私だって恋した事くらいあるけど……えっと、それは」
「さ、さすが美琴先生だ。…で?」
「そ、そうね。たっ、たたた確かにそれは…こ、恋かもしれないわね。私を見たらドキドキしちゃうんでしょ!?」
「そうなんです…」
「そっかそっか。えへへ、なんだそうだったんだ…。えへへへ」
「なるほど。やっぱり恋だったのか…。いやー、気分晴れた。ありがとな、御坂!」
「ふぇ!? そ、そんな…いいよ。わ、私も…その…気分晴れたし」
「よっしゃ! じゃあ俺もう帰るな! 今日は気合入れて夕食つくれそうだぜ!!」
「そっそうね。夕食は気合入れて作らなきゃダメよね……………………………………って、はい?」
「ありがとなー。今度何か奢るからさー」
「ちょ! ちょっと待ちなさいよ! アンタ私の返事聞かないの!?」
「いいよー。俺この気持ちが何なのか知りたかっただけだしー。それに早く帰らないとインデックスに何されるか分からないしなー」
「な、に……を」
「じゃ、またなー」
「考えとるんじゃおのれはあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああす!!!」

 美琴は上条の小さくなる影に向かって電撃をお見舞いした。
 どうやら右手にかき消されたらしいがそれなりの恐怖を与えたようだ。

「あ、アンタね! 自分の気持ち言うだけ言って帰るってどういう神経してるのよ!!」
「はぁ…はぁ…し、死にかけた」
「ちゃ、ちゃんと私の返事も聞いてもらうわよ!!!」
「わかった。わかったからもう電撃は止めてくれ。本当に死にそう」
「わかればいいのよ。じゃあ言うわね? じ、実は―――」
「っとその前に!」
「……な、なによ?」
「俺の家で言ってもらってもいい? インデックスが飢えてペットの猫食いかねない」
「…うふ♪」
「あ、あれ…御坂さん? な、なんで眉をひそめながら笑ってるんでせうか? 笑う時はさっきみたいに、えへへと笑ってほしいのですが」
「それは無理ね♪ だってほんとは笑ってないもん。これは作り笑い」
「えっと……、では本心は?」
「アンタのその脳みそにちょっとばかし電撃を流しこんで無神経な考えを――――」
「ちょ! ちょっと待て!! んな事したらまた記憶喪失になるわ!」
「いいから。ちょっとだけちょっとだけ」
「いやだー! つーわけで去らば!!」
「あ! こら!! 逃げんな!!」

 上条と美琴は、またいつものように走りだした。
 しかし表情はいつもとは違う。、二人ともとても楽しそうで、幸せそうで、とにかく不幸そうな顔ではなかった。


 とある休日。上条当麻は一人、映画館の前で涙を流しながら立っていた。
 男子高校生が映画館の前で泣くなんて傍から見たら何事かと思う光景だが、この映画館前だけはそれも頷けるようだ。
 ふと周りを見渡せば、自分と同い年のカップルや女の子達、ちらほらとだが男の人も涙を流していた。
 みんなの涙の原因。それは今日公開の『赤い糸を信じて』という恋愛映画である。
 公開前のCMだけでも涙を流すであろうストーリー構成は、恋に敏感な女子中高生に絶大な支持を得て、公開初日は大混雑していた。
 上条は恋愛映画など興味は全く無かったが、スーパーの福引で奇跡的に前売り券を当て、その当日特にやる事もなかったので、
 映画を観に来たというのが今までの流れ。
 恋愛映画なのだから、男の上条は誰か女の子でも引き連れて一緒に観に来た方が不自然ではない。
 しかし、知り合いに恋愛映画を一緒に観に行こうなどと純な上条はとても気恥ずかしくて言い出せなかった。
 もちろん前売り券はそんな男女を応援するように二枚あったのだが、結局は一人で観に来ていた。
 さて、前置きはここらでいいだろう。
 実を言うと上条は映画の内容で感動し、涙を流していたわけではないのだ。
 いや、内容で泣いていたには泣いていたのだが、他の人達とは理由が違った。
 周りの皆様はその感動的なストーリーに感極まって、映画が終わった後でも泣いている。
 そんな感動的な雰囲気の中、上条当麻はポツリ呟いた。

「お、俺…一生独身なのか……。…はは、そうだよな、不幸だもんな。こんな俺が好きな女の子と一緒になるなんて、幻想もいいところか…」

 上条が泣いていた理由。それは『赤い糸を信じて』の映画の冒頭で説明があった、人には生まれついた時に運命の人が決まっているらしいという事。
 もちろんその人は気付きもしないし、その二人は偶然に出会っただけなのだが、それも含めて全てが運命なのだという、
 いかにも女の子が好きそうな設定にしているようだ。
 では何故上条は泣いていたか。それは―――

「お姉さま。さすが噂になるだけあって面白い映画でしたわね」
「ふにゃー」
「お姉さま?」

 お姉さまお姉さま言っているのは白井黒子。常盤台中学に通う一年生の女の子。
 そんな彼女からお姉さまと呼ばれているのは、ここ学園都市の中で第3位の位置につける御坂美琴。常盤台中学の二年生。
 そんな美琴は放心状態で頬を染めながら映画館から出てきた。
 現在絶賛恋愛中の美琴にとっては、この映画は完全に今の自分そのものだった。
 もちろんヒロインは自分で、愛しの王子様は――

「あ、アイツ…とか? って! な、なにを言ってるのよ私は! えへ、えへへ」

 美琴は顔を真っ赤にしていやんいやんしている。
 そんな美琴の乙女チックな行動に、白井は胸打たれ、美琴に腕を絡めた。

「お姉さま? やっぱり黒子とお姉さまは運命の赤い糸で結ばれていたのですわね。黒子これからも一段とお姉さまにお使えに――」
「…はい? 何を言ってるのよ黒子。わ、わわ私には、もう運命の赤い糸で結ばれた人がいるの!」
「お、お姉さま!? な、ななな何を言い出しますの! そ、そんなのはこの黒子を置いて他にいるはずはっ! …って、お姉さま? まさかとは思いますが…」
「ち、違うわよ! な、何で私の運命の人がアイツなわけ!? そ、それは色々と助けて貰ったけど…でもだからって運命の人だなんて!」
「お姉さま。別にあの殿方の話をしているわけではございませんわよ?」
「う」
「…はぁ、やはりお姉さまは身も心も上条さんに捧げたのですわね。うぅ…」
「な、ななななな何言ってくれちゃってるのよアンタは! ないないない! 私とアイツが結ばれるなんて―――」
「だよな。そんな事は絶対に有り得ないみたいだ」
「え?」

 白井と美琴はその声の主の方へと顔を向けた。
 そこにはこの場の雰囲気には似合わしくない、負のオーラで包まれた上条当麻が立っていた。

「な、なな…なんでアンタがこんな所にいるのよ! それにそんな絶望的な顔で!」
「あら。上条さん、こんにちはですの。こんな所でお会いするなんて、いよいよお姉さまと結ばれる時が来たようですわね」
「く、黒子! そ、そんな…わ、私とコイツが結ばれるなんて…あぅ。い、いや…でも、嫌じゃないと言うか、それしか考えられないと言うか…」

 上条に会ったことで更に顔を赤くした美琴は変な妄想を始めたようだ。
 そんな美琴を見て白井は肩を揺するが、美琴はえへえへしているだけでなかなか帰ってこない。
 だが、次の上条の一言で美琴は現実に引き戻される事になった。

「俺と御坂が結ばれるわけないだろ?」
「えへえへへ…へ?」
「か、上条さん! お姉さまの前ですのよ!? いくらあなたが女心を分かっていない屑野郎でもそれくらいは分かりますでしょうに!」
「だって…」
「上条さん?」
「ど、どうしたのよアンタ。顔真っ青じゃない? 何があったの? また何か変な事に巻き込まれているの?」

 美琴は完全に妄想から帰ってきて、上条の異常さに気付きオロオロしだす。
 白井も不幸な姿の上条を時折見かけるが、この落ち込みようは未だかつて見た事が無かった。
 それ程絶望的な顔をしていた上条当麻。しかし、その理由はとても男子高校生とは思えない程メルヘンで、可愛くて、
 とにかく上条当麻と言う人間は、こんなにも純真無垢だったのかと思わせる事だった。

「映画の中で話があった赤い糸…俺には無いんだ」
「………えっと? すみません、上条さん。話がいまいち見えてこないのですが…」
「赤い糸? たしか右手の小指に結ばれてるっていうあの事でしょ? で? それがどうしたって言うのよ?」
「俺の右手は手首から先にどんな能力も、神の加護も消してしまう幻想殺しがある」
「…それで?」
「ま、まさかとは思いますが…」
「だ、だから…運命の赤い糸も……無くなっちゃって、誰とも結婚なんか出来ないんじゃないかと思って…」
「…」
「…」

 美琴と白井は完全に思考停止していた。それもそのはずで今、この上条当麻は何と言ったのか?
 幻想殺しがあるから赤い糸は消滅し、運命の人とは結ばれない…みたいな事を言っていた気がする。
 しかし上条は男子高校生。彼から二つも三つも年下の美琴達にとって、その事は受け入れがたい現実だった。
 恋に恋する美琴達でも、映画の話が現実にはありえない事を十分分かっているし、何より今まで女の子とならば見境無しにフラグを
 立て続けた上条の口からそんな台詞が出てくるものだから、もう笑いを堪えきれずに壮大に吹き出してしまった。

「ぶっはっはっはっははは! な、何言ってんのよアンタは! そ、それが顔を真っ青にしてた理由だっての? ぐっ…くくく…」
「なっ…」
「お、お姉さま…本人の前で笑うのは失礼ですわっ…く、くくっ…お、お腹が…」
「あ、アンタねぇ…実際に赤い糸なんてあると思うの? こ、この映画は科学に染まった学園都市だからこそヒットする一昔前のネタで…くく…」
「そそそれをわたくし達よりも年上の殿方が…ひっ、あ、ああ赤い糸が無いから結婚できないだなんて…ひ、ひくっ…」
「う、うるせぇ! いいだろそんなの! 大体おまえ達は糸があるからそんな事が言えるんだ! 運命の人がいるからそんな事が言えるんだーーーっ!」

 上条は目の前で大爆笑した二人に顔を真っ赤にして、うわぁぁぁんと走って逃げてしまった。
 そんな逃げる様も美琴達には可笑しかったらしく、上条が去った後もしばらく笑いこけていた。

 そしてそんな事があった日の夜。
 常盤台の女子寮208号室。美琴と白井はシャワーを浴びたのか、寝巻き姿でベットに寝転がりながら昼の事を思い出しながら笑いあっていた。

「そ、それにしても久しぶりにこんな大笑いしたわ。アイツは馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまでとは…くくっ」
「これは明日辺りお腹が筋肉痛で痛いですわね…ひ、ひひっ」
「ほ、ほんとよね。アイツどんだけ私達を苦しめれば気が済むっていうのよ。ったく…」
「運命の赤い糸だなんて…あの映画を見ていた事でさえ笑ってしまうって言うのに、それに加えてないから結婚出来ないだなんて…ひっ」
「…」
「ひひっ…お、お姉さま? どうされたんですの…?」
「ね、ねぇ黒子。笑わないで聞いて欲しいんだけど…黒子は赤い糸を信じる?」
「……………え。お、お姉さま? 何をいきなりそのような事を?」
「い、いや。ほ、ほほほほんとにあったらどうなるのかなーって思っただけで、べっ別に深い意味は…」
「まぁ本当にありましたら上条さんは不憫ですわよね。何せその糸が消えて無くなってしまってるわけですし」
「…」
「赤い糸伝説が本当なら上条さんは一生独身ですわね」
「ぅ…」
「…お姉さま? まさかとは思いますが、上条さんと自分に赤い糸が結ばれてないんじゃないかとか考えてるわけではございませんわよね?」
「…」
「考えておりましたのね…」

 白井は真っ赤になって動きが止まっている美琴を見て溜息を吐く。
 そんな美琴はしばらく不動の状態だったが、ゆっくりと右手を天井の方へと伸ばし始め、小指以外の指を全て握って小さく呟いた。

「赤い糸伝説なんて…あるわけ、ないじゃない」
「お姉さま…」


 翌日――。
 学校は二連休なのか上条は朝市のスーパーの特売へ向け、とぼとぼと肩を落として歩いていた。
 昨日の出来事がとても効いたのか、今日も不幸そうな顔をしている。
 上条は昨日、美琴達に笑い飛ばされて泣きながら部屋に帰ってきた。上条はこの悲しみを誰でもいいから癒してほしいと思い、
 部屋にいる悩みを聞いてくれそうなシスターことインデックスにこの事を話たが、返ってくる反応は美琴達と同じであった。
 インデックスは「も、もしとーまが誰にも貰えなかったら私が貰ってあげるんだよ!」とか笑いながら言ってきた。

「不幸だ…」

 上条はもはやお決まりの台詞を呟くとスーパーから出てきた。
 朝市に行ったは行ったが、世間には上条よりもその朝市にかけていた学生がいたらしく、お目当ての物は手に入れられなかったらしい。
 上条はそのまま帰ってまた夕方のセールに来るという行動を取ろうとしたが、今のテンションでまた夕方で出すというのも気がのらない。
 渋々普段と変わりない買い物をして帰っていった。
 そして自販機がある公園を通った時に、後ろから声をかけられた。

「ちょっとアンタ! さっきから何度も話かけてるのに無視してんじゃないわよ!」
「…んぁ?」

 上条はその声に反応し、後ろを振り返った。
 そこにいたのは手に電撃を溜め込んでいた御坂美琴で、彼が気付かずにそのまま歩いて行ったらその手の電撃でも浴びせようと思っていたのだろう。
 上条が振り向いたことで、美琴はその電撃をしまい、上条の前に寄ってきた。

「あ、あの…き、きき昨日はごめんね? ま、まさかアンタの口からあんな台詞が出てくるとは思わなかったから…、つい……」

 昨日のこと。それはもはや上条にとっては封印したい黒歴史の一つだった。
 上条はその事を思い出し、枯れた笑いを美琴に向けた。

「あぁ。いいよ、もう。別に怒ってないし、今になって考えると笑われてもおかしくない事言ったしな」
「あ…あの、その…気にしてるの?」
「ん? だから笑ったことは怒ってないって…」
「そ、そうじゃなくて…その、けっけけ結婚出来ないかもしれないってこと…」
「あー、そっちね。んー? どうだろうな…今は別にどうでもいいかなって思えてきた」
「あ、あ、あ、あの! も、もしあああアンタが売れ残ったら、このわわわ私が貰ってあげてもいいわよ!」
「…はぁ」
「な、なによその溜息。何か不満があるって言うの?」
「お前にまでそんな事言われるなんてな…。これは相当問題なようだ……」
「え? お前にまで? 問題? え? えぇ?」

 上条はそのまま俯いて何かを夏考えているのか動かなくなった。
 美琴は上条の事を元気付けようと今日ここに来たのだが、余計に落ち込ませてしまったのかとオロオロしだした。
 そんな美琴に手を顎に当てて考えていた上条は、何かを思いついたらしく「あ、そうか」と言って顔を上げた。

「赤い糸なんて無いんなら自分から探せばいいんじゃねえか。自分が本当に好きになった相手なら、そこから見つければいい」
「え? す、すすす好きな人!? あ、ああアンタ好きな人いんの!?」
「いや、いねぇ。でも見つけてやる。この幻想殺しが赤い糸を消したのなら、今この時この時間にその相手も俺の事を探しているはずだ」
「え…あ、あの…そ、それは…わ、わわ私かも……なんて」
「待ってろよ! 未来のフィアンセ! 男上条どこにいようと必ずお前を見つけてやるぜ!」
「ちょ、ちょっと…私の話聞いてるの!? そのフィアンセならここにいるって…!」
「そうと決まればこうしちゃいられねぇ! 一刻も早く見つけ出さなければ! きっと相手も悲しんでいるぜ!」
「聞けって言ってんだろうがぁあぁぁぁああ!!」

 上条は美琴の怒りの電撃を光の速さで消し飛ばし、走って行ってしまった。
 残された美琴は荒い息を収めると、途端に冷や汗がどっと出てくるのが分かった。
 何せ恋愛に興味が無かった(ように見えた)上条がフィアンセ探しをすると言い出したのだ。
 あまり認めたくはないが、上条はあちこちで人助けをしておりその度に相手の女性の心を奪っている。
 そんな相手に上条がアプローチを始めようものなら、相手は喜んでそのアプローチを受けるだろう。書く言う自分もそうなのだから。
 だから上条に恋する美琴は相当に焦っていた。
 もし、自分より先に上条が他の誰かに言い寄ったら?
 もし、自分より先に上条が他の誰かの事を好きになってしまったら?
 もし、自分より先に上条が…上条が―――

「こ、ここここうしちゃいられないわ!!! あ、あああああの鈍感馬鹿が今日限りで恋愛を探す少年になったのよ!!!!」

 そう言って美琴は上条の後を追って行った。
 その背中は上条を必ず射止めるという決意に満ちていた。
 誰にも負けたくない。誰にも負けるはずがない。

(だって…こんなにもアイツの事が好きなんだからっ!!!!!)

 上条は先程の美琴のやり取りで意を決したのか、ある物を買う為に本屋へと寄っていた。
 上条が普段目当てにする漫画や参考書の並べられている棚をスルーし、女の子が好きそうな本がある場所まで行き、足を止めた。

「んー、これでいいかなぁ…」

 そう言って本を手に取り、立ち読みをしだす。

「おおお…、なるほど。こんな出会いもあるのか。朝遅刻しようで走ってたら同じく遅刻しそうな食パン咥えた転校生と? ふむふむ」
「なにさっきからぶつぶつ言ってるのよ。アンタは」
「う、うわぁぁぁぁぁあああ!!!」

 上条は本の内容に相当見入っていたのか、いきなり隣から話しかけられて大声を出す。
 話かけてきた相手は、先程まで一緒にいた御坂美琴で、上条の大声にビックリしつつも彼の呼んでいる本に目をやった。
 なにやら嫌な予感しかしない本のようだが…。

「アンタ何読んでるのよ? どれどれ…?」
「うわっ! よせ! 見るな! な、何だっていいだろ!」
「……『恋の出会いと愛の育て方』」
「…」
「あ、アンタっ…こ、ここここんなの読んで、な、何をするつもりよ…?」
「………これ、読んで…恋の勉強しようと…思ったり、思わなかったり?」
「…っ」

 美琴は顔が真っ赤になっていた。
 それはもう真っ赤に。
 美琴は昨日の上条のメルヘンチックな言動に大変大笑いしたのだが、今日も今日で上条に似合わしくない行動と取っているため、
 笑いを堪えるのに必死で顔を真っ赤にしていた。
 そして、その吹き出そうな何かになんとか耐え、美琴は上条に言い出した。

「アンタね。こんなのは読んでる人の自己満足なのよ? ここに書いてある事をすれば全部が全部うまく行くわけでもないし、
 そもそも恋愛なんて自分で掴み取るものじゃない」
「そう言われましても上条さんはこの年になるまで恋という恋をして来なかったわけで、してきたのかもしれないが忘れてしまってるわけで」
「あ…そっか、アンタ記憶が……」
「そうそう。だからこういう本でも参考にしようかなぁって。ネットとかで調べるのもいいけど、うちにパソコンないしさ」
「ふぅん。…で? 何買うのよ?」
「とりあえずこれでいいかなぁ。他に色々あるけどたまたまこの本を選んだ事に運命を感じる」
「アンタ昨日から運命って言葉にやたら拘ってるわね」
「いいじゃんかよー、別に。ところでおまえは何しに本屋に来たんだよ。漫画の立ち読みか? それならここじゃなくて、入り口近くの本棚に――」
「…アンタはこの本を買いに来て、この本の事をやろうとしてるのよね?」
「あ? 聞いてます? 御坂さん? …って、まぁそうだけど……それが?」
「わっ私もこの本買おうかしらね! 実はこの本前々から気になっててさ! うん」
「あの…本日発売なんですけど?」
「…気になっててさ!」
「そ、そうですか。じゃ、じゃあ買わなくちゃな。ほらよ」
「あ、ありがと…」

 上条は残っている同じ本を美琴に渡すとすたすたとレジの方へと歩いていった。
 そして会計を済ませ、美琴の方に振り返ると「じゃあ俺帰るから、またなー」と言って行ってしまった。
 美琴はそんな上条を見て、大慌てで会計を済まし、後を追う。
 その会計の時にレジにいる店員が、上条と同じ本を買っている美琴の慌てぶりを見て「大変そうですけど、頑張ってくださいね」と言ってきた。
 美琴はその事で顔を真っ赤にし、軽く頭を下げて本屋を出て行った。

「ちょっと待ちなさいってば!」
「ん? なんだよ? まだ何か用があるのか? 俺これから朝飯兼昼飯を作ろうとだな」
「え、えっと…その、用って程じゃないけど…って、朝飯? 昼飯?」
「あぁ。今日スーパーで朝市やってたから起きたらすぐ来たんだよ。だから飯食ってないんだ。よって腹ペコなため、家に帰らなくてはならない」
「ふ、ふぅ~ん? じゃ、じゃあさ! あの…わ、私がご飯作ってあげようか?」
「…へ? なんだよおまえ。何か用があるんじゃなかったのか?」
「そそそうだけど、アンタが飢えて死んじゃったらこっちも後味悪いし…」
「そう簡単に人が飢え死にするかよ…」
「い・い・か・ら! ほら! さっさと行くわよ! アンタの部屋に案内しなさい!」
「まぁ…飯作ってくれるっつーんなら俺はいいけどさ」
「か、感謝しなさいよね! ここで『運命的に』私に会って『運命的に』ご飯作りに行ってあげるんだから!」
「……お前が勝手について来てるだけだと思うのは…、俺だけ?」
「何か言った?」
「イエ。ナニモイッテマセンDEATH。ハイ」
(や、やややった! とうとうコイツの部屋に行く事が出来るわ! えへえへへ)


 そして二人は上条の部屋の前まで帰ってきてきた。
 上条はここまで来て部屋の中にインデックスがいると言うのも何だと思ったが、どうやら朝ご飯を作らなかった為に、飢えに耐え切れず
 小萌先生宅に行くというメモが残されていた。
 上条はそのメモを丸めて捨てると、美琴を部屋に入れた。

「どうぞ。散らかってるけど」
「お、お邪魔します…」

 上条に招き入れられた美琴は、正に借りてきた猫みたいになっていた。
 顔を真っ赤にし、俯きながらちょとちょとと入ってくる。入る時に、靴をちゃんと揃えるあたりお嬢様っぽいなと思った。
 上条はスーパーの袋から買ってきた食材を出すと冷蔵庫の中に入れて、美琴にお茶を差し出した。

「ほらよ。飯はもう少ししたらお願いするわ。もう少しで正午だしな」
「あ、ありがと。じゃあ…十二時前に作り出すわね」
「おぉ。…さてと」
「…アンタねぇ。仮にも女の子が部屋にいるっていうのにいきなりその本読むわけ?」
「ん? 別に何してたっていいだろ。おまえが勝手について来たんだし」
「そ、そうだけど…」
「おまえは読まないの? この本、気になってたんだろ?」
「よ、読むわよ! 今読もうとしてたの! ったく…」
「何怒ってるんだよ…」

 上条と美琴はさっき購入した『恋の出会いと愛の育て方』を読み出した。
 上条はふんふんと真剣に読んでいるが、美琴はそんな真剣な上条をふんふんと見入っている。
 なのでたまに視線に気付いた上条が「ん?」と美琴の方を見ると、美琴は大慌てで視線を逸らし本に目を落とした。
 そしてしばらくすると上条が美琴に話かけてきた。

「御坂よ、世の中には色々な性格の人がいるんだなぁ」
「なによいきなり。性格なんて人それぞれじゃない。色々あって当たり前なの」
「いやそれでも…この、なんだ?『ツンデレ』っていうの? これは面白いよな」
「ぶぅぅぅううう!! な、なななっ…ど、どこに書いてあるのよ、そんな事!」
「35ページに書いてあるよ。ふんふん、ツンデレとは…?」
「ぅ、ぅわっ…」

 美琴は上条の言ったページを見るが、そこには確かに『性格のタイプその6・ツンデレ』と書かれてあった。
 上条はその内容に興味を持ったらしく、面白そうに声に出して読み出し始めた。

「ツンデレの人は、普段はツンツンして好きな人には素っ気無く接しているが、いざ二人きりになると途端に甘えてくる傾向があるようです。」
「…」
「好きな人についきつく当たってしまい、不器用な事でしか相手に好意を向けられないことが多く、そのせいで相手に勘違いされることも。」
「…」
「代表的な例を挙げれば、ツンデレの人が好きな人に振り向いてほしくて、何かやってあげる際に言う
『アンタのためじゃないからね!』や『か、勘違いしないで!』とかがいい例だろう。」
「…」
「こんな台詞を言ってくる人が近くにいるならば、好きだけど恥ずかしくて、素直になれずにツンツンしているだけかもしれません。」
「…」
「そういうツンデレの人には、ツンの時は普通に接し、デレて来たら相手に合わせて甘やかしてあげるのもよいでしょう。」
「…」
「もちろんここに書いてあるのが全てではないので、あなたが一番いいと思う接し方をしてあげてくださいね! …だってさ! いや、すげぇなツンデレは」
「…」
「え、えっと…御坂さん? 一体どうなさったのでせう? 本を持ちながらプルプル震えて?」
「…ち、違う」
「え?」
「違うわよ! わ、わわわ私はツンデレなんかじゃないんだから!!」
「べ、別におまえがツンデレなんて言ってないだろうが!」
「うっ、うっさい! もう私ご飯作る! 台所借りるわよ!」
「わ、分かった。分かったからその電撃はしまってくれ。うちの家電がお亡くなりになる」
「料理作るって言っても別に『アンタのためじゃないからね!』『か、勘違いしないで!』」

 そう言って美琴はツカツカと台所に行ってしまった。
 そして乱暴に冷蔵庫を開けて「私はツンデレなんかじゃ…ツンデレなんかじゃ…」とぶつぶつ言っていた。
 上条はそんな美琴を見て溜息を吐く。

「ツンデレの例そのままじゃねぇかよ。…でも、あれ? 好き? 素直になれない? あれ?」

 上条は台所で料理をしている美琴をぽけーと見ていた。
 美琴もそんな上条の視線に気付いていたが、今は料理料理と心の中で囁き続け、料理を進めていった。
 しかしあまりにも上条からの視線に気まずくなったのか、美琴は料理が出来ると「こ、ここに置いとくから!」と言い残し帰っていってしまった。
 上条は呆気に取られていたが、やがて立ち上がり台所に用意さてれいた美琴の手料理を取りに行った。

「おー。なんかすごい本格的。ありがたやありがたや」

 上条は料理が乗せられてるおぼんを持ち、テーブルに着くともぐもぐ食べ始めた。

「うまい」


 その日の夜。常盤台女子寮208号室。
 白井黒子は風紀委員の仕事を終え、部屋に帰ってきた。
 部屋の明かりが点いてないので白井はまだ美琴が帰って来てないものだと思い、白井は美琴のベットへとダイビングした。
 ―――が。

「ぐぇ」
「―――――へ?」

 なにやらカエルのような声が聞こえるのと同時に、ベットの柔らかさとは別の、白井にとってとても好きな柔らかさと匂いに包まれた。
 白井はこのままこの気持ちよさを感じていたかったが、それ以上に驚いたために美琴のベットから降りて部屋の電気を点けた。
 そして美琴のベットに目をやると、そこには毛布に包まっている美琴の姿があった。

「お、おおおおお姉さま!? いらしてたんですか!? す、すみません。そうとは知らずに飛びついてしまって…」
「う…うぅ……」
「お、お姉さま…ど、どうしましょうどうしましょう」

 白井は美琴(が包まれているであろう毛布)から急に泣き声が聞こえてきたために、どうしていいのかとオロオロしだす。
 しかし美琴はどうやら白井のダイビングによって与えられたダメージで泣いているわけではないようだ。
 ふと美琴の枕元を見ると、何やらピンク色の本が見えた。
 白井は何でしょう? とその本を取ると表紙を確認する。
 その本は勿論『恋の出会いと愛の育て方』だ。

「お姉さま…? この本……」
「う…うぅ、く…黒子ぉ」
「ど、どうなさったんですの? お姉さま?」
「35ページ」
「へ?」
「35ページ見てみて」
「はぁ…」

 そう言われて白井は35ページを開き、読み始めた。
 そこに載っているのは、昼上条と美琴が見たツンデレの性格判断で、それを読んでいけば読んでいくほど美琴の事を指しているのかように、
 長所や短所や相手へのイメージの与え方などが書かれてあった。

「お姉さま…まさかこれを見て泣いてらしたのですか?」
「…うん」
「な、なんでですの?」
「だって…読めば読むほど私そのもので…」
「……それで?」
「その…、あ、アイツと全然合わない性格なんだって…」
「…アイツ、とは?」
「あ、アイツはアイツよ…」
「………上条、当麻さん…ですの?」
「…うん」
「でも何故合わないなどと? ここを読む限りだとそのような事は…」
「だって、アイツの性格はきっと『異性スルー型』だわ」
「そ、そんな性格があるんですの!?」
「うぅん。無い。わたしが決めた」
「…それで、その異性スルー型の上条さんがツンデレのお姉さまと何で合わないんですの?」
「だってツンデレは相手にされて初めてデレるのよ? 最初から相手されないなんて、ツンツンしてるだけの嫌な奴じゃない…」
「…」
「う、うぅ…」

 白井は、白井はどうしたものか。
 昨日は上条当麻のメルヘンで共に笑った美琴が、今日はまた何とも言えない事で悩んでいた。
 だから、白井はそんな美琴を前から――

「お姉さま。わ、わたくしちょっとお風呂へ…」

 逃げた。


 翌日、月曜日。
 美琴はここ二日間で笑ったり泣いたり照れたり悩んだりを繰り返し、相当鬱になっていた。
 しかし学校に遅刻するわけにもいかないし、美琴はいつも通りに身支度を整え、いつも通りの通学路で学校へ向かった。
 美琴の鬱の原因。それは紛れも無い上条当麻とその相性の事だ。
 しかしそんな中、公園の自販機前でばったり上条と会ってしまって、美琴はどうしようかと思ったが、

「おー、ツンデレ中学生!」
「消えろーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああっ!!!!」

 とりあえず電撃を放った。
 上条はギリギリで高速のそれを掻き消すが、物凄い気迫を感じさせる電撃だったのか、その場で尻餅をついた。

「お、おまえな! いい加減出会い頭に電撃撃つのやめろっつーの!」
「うっさい! アンタが変な事言うのが悪いんでしょうが!!」

 上条は美琴とそんなやりとりをしていると、立ち上がってお尻をパンパンと叩き、砂を払った。
 そして上条は美琴の顔の前に顔を近づけるとじっと見出した。
 美琴はいきなり上条の顔が迫った事で相当焦ったのか、顔を真っ赤にして動けなくなってしまった。

「うーん…」
「な、なによ? なにか文句あんの?」
「おまえさ、彼氏いるの?」
「かっ! …れしなんていないわよ!」
「ふーん…好きな人は?」
「え? えっと…その、あの…」
「ん? その感じだといるみたいだな」
「い、いるには…いる、けど」
「おまえまさかそいつにもビリビリしてんじゃねぇだろうな?」
「やってるわよ!」
「だよな。さすがにやめとけよ? おまえのビリビリは生死に関わる……って、ん? やっている? 今やってるいると言ったのか?」
「だ、だって変な事ばっかり言ってくるから…」
「おまえな。ツンデレにも程があるだろうが。そんな事してたらいつか嫌われるぞ?」
「え!? い、嫌! 嫌われるのは絶対いやっ!」
「だろ? んー…よし、わかった。俺がその恋を応援してやろう! 俺は昨日から恋に敏感っても元から敏感だったけど、
 恋を繋ぐ架け橋になってやりたいのさ!」
「はい? あ、あの…私は」
「あー、はいはい。いいからいいから。じゃあ今日夕方4時に…そうだなー、セブンスミストの近くにあるファミレスな。
 そこで色々子猫ちゃんの悩みを聞いてやるからさ」
「ちょっと! なんでそんな事になってんのよ!? そんな事しなくたってねぇ、私はちゃんと――」
「超行動的なおまえが嫌われるのが絶対嫌な奴に告白しないわけないだろ? だからしたくても出来ない理由があるんじゃないのか?」
「そっ、それは…」
「だからそれを聞いてやろうっつってんの」
「あ、あぅ…」
「じゃあ遅れるなよなー」

 そう言い残すと上条はスタスタと行ってしまった。
 そして残された美琴は思う。
 やはり上条当麻という人間は恋に敏感になっても、根本的なところで、つまり鈍感な性格には変わりないのだと。
 そして残された美琴は思う。
 結局のところ、上条に惚れている自分は、相手が鈍感でも敏感でも結局は振り回されることになるのだ、と。

(どどどどどどどうしようっ!! 絶対勘違いされてるわっ!!!!!!)

 美琴は上条と別れると、気付いたら常盤台中学の自分の教室にいた。
 いつどうやって登校したのか分からないくらいに朝の出来事に動揺しており、今日の放課後の上条との恋愛相談について、
 どのように話すかだけを考えていた。
 もちろんそんな状態なので、授業の方は全く入っていかず、先生や他の生徒に心配される事もあった。
 そして、午前中の授業が終わり昼休みになったのと同時に美琴の教室に白井がテレポートしてきた。

「おっ姉っさま~~~~~~ん♪」

 白井は美琴の後ろから抱きつくように飛び掛る。
 しかし、当の美琴は全く無反応でぼーっとしているだけだった。
 白井はいつもなら電撃をかまされるか、軽く流される程度かと思っていたので、おかしいと思って美琴の顔を覗きこんだ。
 そんな美琴はどこか放心状態で、目の前で手を振っても反応しない。

「うーん。どうなさったのです? お姉さま?」
「あ。白井さん。白井さんなら御坂様が何故この様な事になられたのかご存知でしょうか?」
「え? いえ…申し訳ありませんですの。わたくしも何がなにやら…」
「そうなのですか。白井さんでも存じないとなれば…ま、まさか! 御坂様に殿方が!?」
「っ―――」

 白井に話しかけてきた美琴のクラスメイトから「殿方」という単語が出てきた瞬間に、美琴は顔を真っ赤にさせてガタッと席を立った。
 そして周りをキョロキョロしだす。昼休みだったためか教室にはあまり生徒は残っていなかったが、残っていた生徒はみんな美琴に目をやった。
 美琴はその状況に気付いたのか、俯いてあうあうしだす。
 他の女生徒達は普段とかけ離れた美琴の可愛らしい一面に興奮し、キャーっと騒ぎ始めた。

「見ました? あの御坂様が…」
「殿方のお話をしたら過剰に反応されて…」
「あんな御坂様見た事ないですわ。とても可愛いです!」

 常盤台はお嬢様学校のため、色恋沙汰の話には免疫があまり無く、そういう噂がたとうものなら一気に注目の的になってしまう。
 しかもそれが常盤台が誇る電撃姫御坂美琴となれば、これ以上無くボルテージは上がっていくことだろう。
 お嬢様のたしなみかどうかはわからないが、美琴本人に直接詰め寄る事は無かったが、皆その場で美琴に熱い視線を向けていた。
 美琴はもうどうしていいか分からなくなり「ちょっとご飯食べてくる!」と言い残し、教室を後にした。


 所変わって上条当麻の教室。
 上条は午前中の授業になんとか耐え切り、なんとか昼にありつく事が出来ていた。
 上条の教室には弁当持参な生徒もいるらしく、昼休みになってもそこそこの人数が残っていた。
 しかし上条は弁当なんか持ってきていないため、購買に食べ物を買いに行かなくてはならない。
 そしていざ行こうと席を立ったところでデルタフォースこと土御門元春と青ピが話しかけてきた。

「カミやーん。昼飯一緒に食おうぜい」
「おお。でも俺飯ないから買いに行かねえと」
「今日は何狙いに行くんやー?」
「うーん…」

 上条は悩んでいるが、とりあえず見て決めるという事で購買に向かおうとした。
 そんな上条にまたも人影が迫る。
 委員長の吹寄制理と、自称魔法少女の姫神秋沙だ。

「上条当麻。わたし達も一緒に行こう」
「吹寄? おまえらが購買に行くなんて珍しいな。今日は弁当じゃないのか?」
「今日に限って。忘れた。」
「ふーん。まぁいいか。じゃあ早く行こうぜ? 混み合うとお目当ての物が買えなくなるぞ」
「ふ。その為に貴様と一緒に行くのよ。わたし達の盾になってもらうわ!」
「マジか…」
「あー、そうだカミやん。おまえ今日の放課後暇だろ? 久しぶりにこの5人でお茶でもしないかにゃ?」
「放課後? あー…すまん。今日俺無理だわ」
「ん? なんでや? 今日は珍しくデルタフォース補習なしな日やないか」
「ちょっと恋愛相談してやる約束しててさ。だから今日は――」
「今。なんて?」
「え? だ、だから恋愛…」
「貴様。まさかとは思うが、その相談相手は女ではあるまいな?」
「え? えっと…女の子ですけど………常盤台の」
「と、常盤台!? あのお嬢様学校の生徒にまで手ぇ出したんかい! カミやん! 補習無いのをいい事に自分だけいちゃつこうと思ったんかい!」
「お、落ち着け青ピ! そ、そそそれに皆も…」
「言い訳無用だぜい! 黙って殴られろにゃーーーーっ!!!」
「だああああああっ!!!! な、なんでだあああああっ!!」


 一方の常盤台中学校。
 上条のボコられている原因(と言っても上条が言い出したことだが)の御坂美琴は、食堂へは向かわず、校庭のベンチに俯きながら腰掛けていた。

「はぁ…どうしよう、ホントに」
「ここにいましたのね。お姉さま」
「え?」

 美琴が顔を上げると、そこにはさっきまで教室にいた気がする白井黒子がサンドイッチを二つ持ってたっていた。
 白井は「学食のですが、どうぞですの」と言って美琴に渡すと、美琴は「ありがとう」と受け取りふとももの上に置いた。
 そしてまた俯いたので、白井は美琴の隣に座り自分のサンドイッチを頬張り始めた。

「上条さんの事、まだ悩んでますの?」
「…そうだけど、昨日の事とはまた違う悩みっていうか」
「違う悩み?」
「……うん」

「…なるほど。恋に敏感になっても、上条さんは上条さんだったってわけですわね」
「どうしよう…このままじゃアイツ勘違いして私に好きな人がいるって思われちゃうわ…」
「お姉さま? 勘違いされる事に何をそんな焦っておりますの?」
「え?」
「お姉さまが上条さんに好意を持っておられるのは知っておりますわ。上条さんの事です、お姉さまの気持ちにも気付いてないのも知っております」
「…」
「ですが、結局はお姉さまがはっきりなさらないのがいけないんじゃありませんの。
 昨日の本の事もそうですが、お姉さまは自分で勝手に結論付けて勝手に悩んでるだけですわ。上条さんがいかに鈍感と言えど、
 面と向かって告白されたら勘違いなどしないですし、ちゃんと真剣に答えてくれるのではないでしょうか?」
「で、でも…」
「まぁツンデレなお姉さまが素直になれないのも分からないでもないですが、上条さんが恋に飢えたとなれば急いだ方が良いですわね」
「なっ…なんで? アイツまたどこかに行くんじゃ…!」
「そういう事ではなくて…上条さんに好意を抱いているのはお姉さまだけではないということですわ。今までは『異性スルー型』とやらで
 女性のアプローチを流してただけかもしれませんが、これからはそうも行かなくなりますわね。今まで恋をした事がないとなれば、
 好きになったら周りなど見えないくらいになってしまうかもしれませんわ。お姉さまのように」
「そ…そんなの、嫌よ」
「まぁわたくしとしては? お姉さまが傷心のところを優しく接することで開かれるお姉さま×黒子ルートに―――」
「嫌。アイツが誰かに取られちゃうなんて…そんなの、嫌!」
「お、お姉さま? さ、ささサンドイッチから煙が…」
「決めるのはアイツよ! でも勘違いされたまま、この気持ちに気付いてくれないまま身を引くなんて、絶対嫌だんだから!!」

 美琴はそう言うと焦げたサンドイッチを一気に食らい、校庭へ目掛け走っていった。
 その途中でくるっと振り返り、美琴は笑顔で言い放つ。

「黒子! ありがとうね! 私絶対に素直になるから!」

 その美琴の真っ直ぐな声に白井はドキっとしたが、その後小さく笑ってポケットから何かを取り出すと美琴へ向けてテレポートさせた。
 その何かは美琴の目の前で姿を現し、美琴の手に落ちた。

「これ…」
「お守りですわ。そのお守りが、きっと上条さんとお姉さまを結んでくれるはずですの」
「……ありがとっ!」
「いいんですの。黒子はお姉さまの喜ぶ姿が見たいだけですわ」
「うまくいったら何でもしてあげるね!」
「お、お姉さま!? そ、それは本当ですの!? はぁ…はぁ…。で、でしたらわたくしと毎日熱いヴェーゼを―――」
「それは嫌」
「お、お姉さまあああああああああああああああっ!!!!」


 そして放課後、美琴はファミレスへは向かわず、上条の高校に直接向かった。
 さすがに校門を跨ぐことは出来ないが、その敷地ギリギリの所で仁王立ちしながら上条当麻を待つ。
 高校の生徒は、有名な常盤台のお嬢様が何故校門前で? みたいな感じで見ていたが、美琴はそんな視線など全く気にした様子も無く、
 ただただ上条が出てくるのを待っていた。
 待ち合わせは四時だ。
 ここから徒歩だとするとそろそろ出てくる時間なはず。
 そして、そんなことを考えていると校舎に見覚えのあるツンツン頭が現れた。
 美琴は一瞬にして顔の温度が上がったのが分かった。心臓が高鳴り始めたのが分かった。
 しかし当の上条は、そんな美琴が校門前にいる事など知らずに校庭内を走り回っていた。

「お・ま・え・らーーーっ! いい加減にしろよ! 俺が何したって言うんだよぉおおおおお!!」
「黙れやカミやん! 何もやってないが、絶対この後何かしでかすに決まってるんや!」
「そうだぜい! おまえだけいい思いさせてたまるかにゃーーーっ!」
「な…何を言って……」
「上条当麻ーーーっ! 貴様! またも純情な乙女の心を弄ぶつもりかぁああああっ!」
「許すまじ。とりあえずこの魔法のステッキで。」
「だあああああああ! もおおおおお! おまえらこういう時だけ無駄に足が速いな! 全然撒けねぇ…って、ん?」

 そこで上条は校門前に美琴がいる事に気付く。
 上条は逃げ回りすぎて遅刻したのかと思ったが、時間にはまだ余裕があった。
 とりあえず上条は校門の方へと向かい、美琴の手を引っ張るとスピードを緩めること無く走り続けた。

「ちょ、ちょっと…! なにがあったの!? 追われてるみたいだけど」
「知るか! とにかく捕まったらボコボコにされるのは確かだ! 今はここを離れないと!」
「じゃ、じゃあさ! 川原! 川原に行こう!」
「はぁ? 話を聞くのはファミレスだったろ? なんで川原なんかに?」
「私決めたの! 今日告白する! だからアンタに聞いてほしい!」
「はいぃぃ!? なんで上条さんがそのような事を?」
「私の恋愛応援してくれるって言ったでしょ! だから最後まで見届けてほしいの! 嫌なんか、言わせないから!」
「わーったよ。つか手離すぞ? 走りにくいだろ?」
「だ、ダメ! 離さないで! 川原に着くまで、ずっと繋いでて!」
「…はいよ」
「えへ。えへへ」
「おまえ何か楽しそうだな? こっちは死にかけてるっていうのに…」
「うん! とっても楽しい! あはは、それにこんなに足が軽いの久しぶりかも! 今ならアンタに追いつけそうだわ!」
「は? 追いつく? もう追いついてるじゃねえかよ。何言ってんだ?」
「こっちの話! いいから前見て走れ! 不幸なアンタが余所見しながら走ってるとすっ転ぶわよ!」
「そ、そうだな。このスピードで転ぶのはよろしくないな」
「そうよ。えへへ」
「はは」


 公園の自販機前。
 初春飾利と佐天涙子は各自ジュースを買って立ち話をしていた。
 誰かと待ち合わせでもしているのか、話しながらキョロキョロしながら周りを見ている。

「初春ぅ~? ところで白井さんはぁ~?」
「うーん、そろそろ来るはずですけどねー? 何なんでしょうね? わたし達に頼みごとって」
「ま、まさか御坂さんが振り向いてくれないからってわたし達に…!?」
「ぬっふぇ!? そ、そんなの嫌ですよー!」
「そのような事は決してないので安心して下さいまし」

 そう言って白井は初春達の前に現れた。
 初春達はさっきの会話を聞かれていた事に相当焦ったが、白井の真剣な表情で我にかえる。
 ふと白井の手を見ると、佐天専用金属バットが握りしめられていた。

「し、白井さん…そのバット、私の?」
「そうですの。どうぞ、佐天さん」
「はぁ…?」
「初春?」
「は、はひ!」
「あなたは武器になりそうな物が無かったので体を張ってでも止めてくださいませ」
「と、止める? …って、なにをですか?」
「アレですわ」 

 初春と佐天は白井の指差す方を見ると、美琴と見知らぬ男の人が手を繋いで走ってくるのが見えた。
 どうやら追われているようだが、美琴の顔はとても楽しそうで、男の人もなにやら追われているという感じはしなかった。
 そして色恋沙汰に敏感な佐天と初春は感じ取った。
 止めるとは。
 美琴のこれから起こる事を守ってあげる事なのだと。
 そしてそんな白井達を上条と美琴はスピードを緩める事なく走り抜けた。

「お姉さま! ファイトですわ!」
「み、御坂さん! 頑張ってくださいね!」
「そこのツンツンの人! 御坂さん泣かせたらこのバットが火を吹きますよ!」
「ありがとう! みんな!」
「お、俺…何かすげぇ睨まれてたんですけど」

 そして二人が通り過ぎて間もなく、四人の男女が追いかけてきた。
 白井はすぐに「わたくしが殿方二人を請け負いますわ。あとの女性は任せましたわよ」と言い、身構えた。
 そう言われて初春達も身構える。
 白井vs土御門・青ピ!
 佐天vs姫神!
 初春vs吹寄!

「そこをどくにゃーーーーーーっ!」
「こ、この子も常盤台や! しかも何やら不穏な匂いが…」
「ここから先へは行かせませんわ!」
「いいや! ここは通させてもらうぞ! このまま上条当麻を行かせるわけにはいかないわ!」
「だ、ダメなものはダメです…!」
「どいて。ビリビリする事になる。」
「人の恋路を邪魔する奴ぁ…えっと、何たら何たら何とやらよ!」
「む。出来る…。」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」」」」

 ※ちなみに言っておきますと、この先は平和的な話し合いて解決されました。決して騒ぎになるような事にはなっておりません。


 上条と美琴は、以前妹達の実験の時に相対した鉄橋が見える川原まで来ていた。
 学校からここまで一気に走り抜けてきたので、二人は着く途端に膝から崩れ、息を荒げていた。
 上条はここで今から、美琴が誰かに告白すると言っていたのを思いだし、その人に美琴の悪いイメージを与えないために手を離そうとしたが、
 握る力を緩めたことに気付いた美琴が、強く握りしめてきた。
 上条は変な誤解されるぞと言ったが、美琴はこれに返事をすることなく、息を整えている。
 それから時間は流れた。
 太陽は段々と赤みを増し、土手を歩く人影も少なくなってきた。
 美琴はその沈んでいく太陽を見送ると、辺りが暗くなったのと同時に手を離して言い出した。

「そろそろいいかな」
「え? だって…誰もいないけど」
「ちょっとここに立ってて。右手を開いて前に出して」
「?」

 美琴は上条から5メートル程離れるとポケットの中に手を入れた。
 上条はワケも分からずに、ただ美琴に言われた通り動かずに右手を開き前に差し出した。

「一回しか言わないから」
「へ?―――」

 美琴はポケットから取り出した何かを、デコピンをする様な右手の小指で挟んだ。
 それは白井から自分と上条が結ばれるようにと渡されたお守り、真っ赤な色をしたコインだった。
 そしてコインを挟んだまま右手を上条の方へと向けると、腕に電撃を溜めはじめる。

「ちょ、ちょっと待て! れ、超電磁砲ですか!? おまえまさか、ここまで俺を連れてきたのは俺を亡き者にしようと…!」
「んなワケあるか! いいから黙って聞く!」
「だ、黙って殺されろと…?」
「違うって言ってんでしょ!」
「な、何が違うって…つか、おまえ今日告白するんじゃなかったのかよ!?」
「だからこれからアンタにすんでしょうが!」
「……へ? お、俺?」
「そうよ! 今からアンタに見せてあげる! 私の本気。本当の気持ちを!」
「ほ、本気って…!?」
「アンタは前言ったよね。この幻想殺しが赤い糸を消したのなら、今この時この時間にその相手も俺の事を探しているはずだって」
「言った気がするけど…そ、それが?」
「アンタの赤い糸がどこの誰と結ばれているかは分からないわ。でもね」
「お、おい…」
「私の運命の赤い糸はっ!」
「待っ―――」

「大好きなアンタと結ばれているのよっ! 受け取れやコラーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 美琴はそう言うと、ありったけの電撃を溜め込んだ全力全開の超電磁砲を上条の右手目掛けて放った。
 もちろん音速の数倍もある速度だったため、上条は反応出来なかったが、美琴の狙いは正確で寸分狂う事なく、上条の小指の付け根に直撃する。
 幻想殺しで超電磁砲の威力を無効化しているが、いかんせん威力が半端なかったため一瞬で消滅とはいかなかった。
 そして上条が、超電磁砲の衝撃を受けていた時から瞑っていた目を開けると、そこには―――

「―――――い、糸だ…。赤い、糸――」

 上条の右手の小指と、美琴の右手の小指を赤い糸が繋いでいた。
 それは美琴の放った超電磁砲の軌道なのだが、赤かった。
 今まで何回か超電磁砲を見てきた上条でも、赤い電撃は見た事が無い。
 それは白井のお守りが、赤いコインが生み出したの奇跡なのか、それとも美琴の本心がそうさせたのかわからないが、
 夕日が沈みきった真っ暗な川原で、なんとも言いがたいその幻想的な光景はとても綺麗で、上条はその赤い糸にすっかり見入っていた。

「お、俺にも…あったんだ。運命の赤い糸が―――」

 赤い超電磁砲は30秒も持たなかったが、その時間が終わると、周りは静まりかえり聞こえてくるのは美琴の息使いだけになった。
 上条は自分の右手に目を落とすと、そこには何か役目を終え燃え尽きたように真っ黒なコインがあった。
 そしてそのコインをしっかりと握ると、美琴の方を向いて溜息を吐きながら言った。

「はぁ…おまえな」
「なによ」
「これはあれですか? 今時の中学生はこんな命がけで相手に告白するんですか?」
「そんなわけないでしょ! それにこんな事アンタじゃないと出来ないじゃない!」
「こんな方法じゃないとこんな事言えないとか、どんだけツンデレだよ…」
「つ、ツンデレで悪かったわね! いいでしょ何だって! 恥ずかしいんだから!」
「やっと認めたようだな」
「…あ、あの……ぁぅ」
「じゃあ俺も返事しないとな」
「……うん。聞きたい」
「多分おまえが今聞きたい答えではないかもしれないけど」
「え?」
「俺今までおまえの事、悪友とか…そんな感じで見てたんだ」
「…知ってる。女の子として見てくれてないのは」
「だから今、おまえと付き合うことは出来ない。付き合って俺がやっぱり合わないから別れよう。なんて、おまえも嫌だろ?」
「…うん」
「だからこれから女の子としておまえを見ることにする。悪友でもあるけど、それ以上におまえの女の子としての一面も見てみたい」
「で、でも…私なんか他の女の子に比べたら、生意気で我侭で胸無くて子供で、ビリビリでツンデレで…こんな私なんか」
「うーん…いやでもさ、多分俺はもうおまえしか、御坂しか見えないと思うよ」
「なんで? なんでそんな事言い切れるの?」
「だってさ」
「?」

「こんな『運命的な』告白されたら、意識しないはずねぇじゃんか」



【後日談】

 二週間後。
 日曜日午前十時。
 公園の自販機前で恋人を待つ人影があった。
 その人は時計を頻繁に確認し、待ち合わせの時間が来るのをドキドキしながら待っている。
 そして待ち合わせ時間の三十分前を指すところで待ち人、来る。

「え、えらい早いわね」
「だって…楽しみだったから」
 
 傍から見たら完全に逆のパターンだっただろう。
 自販機の前で待っていたのは上条当麻で、遅れて(と言っても三十分も前だが)御坂美琴が来た。
 美琴は上条の言葉で相当ご機嫌になったのか、腕を絡めて甘えだした。
 上条はそんな美琴に顔を真っ赤にし、オロオロしだす。

「お、おい。こんな人目のあるところで」
「なーに? 嫌じゃないんでしょ? 素直に嬉しいって言えばぁ? デレデレの当麻くん?」
「な、なにを言い出しますか美琴さんは! いつわたくしめがデレデレしたと!?」
「よく言うわ。私の劇的な告白から一週間もしないうちに完全に骨抜きにされたくせに」
「だああああ!! い、言うな! 誰が聞いてるか分からないだろうが!!」
「だったら認めることね。俺は美琴に完全に惚れたって! くくっ」
「…」
「ふふん♪」
「美琴」
「え? わっ――」
「俺は美琴に完全に惚れた」
「ふ、ふぇ? ……っん」

 上条は腕を解くと美琴の両肩に手を乗せて唇を合わせた。
 美琴はいきなりだったのか、心の準備が出来ておらずキスされたと分かった時には、顔中が真っ赤になっていた。
 そして我にかえって上条を睨みつける。

「……あ、アンタね! いきなり何すんのよ! 誰が見てるか分からないんじゃなかったの!?」
「いやいや美琴さん。そんな緩んだ顔で睨み効かせても全然効果ないですから」
「ゆ、ゆるん……うぁ、ふにゅ…」
「おまえもまだまだツンが抜けてないんじゃない? まぁその方が面白くていいけどな」
「……も、もう許さないっ! そこになおれえええいっ!!」
「やだ。じゃあ俺先に行くからなー。遅れた方が昼飯奢り!」
「あ! ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何そのルール!? いつ決めた! そんなのズルいわよ!」
「嫌なら俺に追いつく事だな! 俺は一度捕まったくらいじゃすぐにまた逃げますよっと!」
「待てーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 上条と美琴の追いかけっこは何度目かにしてようやく美琴の勝利で終わった。
 そしてその日以降、上条が美琴から逃げ切った事はない。打ち消されたとしても運命の赤い糸がしっかりと二人を結んでいるのだから。
 なのでこの日の昼を上条が奢ったのは言うまでもないだろう。

 とある夏休み。
 上条当麻は補習を終えると、スーパーに特売品を求めて入って行ったがお目当ての物が買えなかったのか溜息をついていた。
 上条は高校二年生になっており、今年の夏休みには脱貧乏生活を企画している。
 夏休みはまだ始まったばかりでアルバイトをしてお金を貯めようとしているらしい。
 そんな上条がアルバイトの面接を受けたのが一週間前。
 その時に一週間後に合否を携帯で教えると言われていたので、上条は携帯に目を落としながら歩いていた。

「やっと見つけたわよ!」
「んぁ…?」

 上条はその元気のいい声の主が誰か分かった。
 もう何回もこのやりとりをしているので、体が危険だと知らせている。
 ここで聞こえないふりをしたり、いや、本当に聞こえなかったとしても、その瞬間に危険度MAXの電撃が飛んでくるし、
 何よりその後その雷神が不機嫌になる事この上ないので上条は足を止める。
 上条はその声の方を見ると、案の定その主は電撃使いの御坂美琴で手に電撃を溜めて立っていた。
 彼女は今中学三年生。上条は気付いてないが、出会ってから一年で彼女も大人に近い体型に成長している(と言っても本当に些細な成長だが)
 美琴は上条と目が合うと途端に顔を真っ赤にし、手を後ろで組んでモジモジしだした。

「おー、御坂。どうした? 何か用か?」
「ぇ、ぇっと…、その…あ、あの…」
「ん?」
「あ、あのさ! 明日! 明日ひ――」

♪~ ♪~ ♪~

 美琴がなにやら話してる時に、上条の携帯が鳴った。
 番号を見てみるとそれはバイト先の採用担当の人の番号で、上条はドキッとする。
 美琴は話の腰を折られて不機嫌になったが、電話なら出ないわけにはいかないでしょと上条に促す。
 上条はすまんと一言だけ言うと、恐る恐る通話ボタンに指をかけた。

「も、もしもし? …はい。俺です。はい。…は、はい。え!? 本当ですか!? ありがとうございます! はい!
 ………え? 明日…?」

 そういって上条は美琴の方を見る。
 そういえば明日がどうとか言っていた気がするけど…。
 美琴は上条からの明日という言葉を聞いてビクッとしたが、聞こえない振りをしていた。
 そんな美琴を見て上条は大した用事でもないのだろうと思い、携帯に向かって話す。

「あー、はい。大丈夫です。何時に伺えばいいですか? わかりました。では明日9時に伺います。はい。失礼します」

 上条は携帯を切るとふぅと息を吐き、美琴の方を見た。
 美琴はさっきまではモジモジとしていたが、明日上条に用事が入ったのが分かったらしく、今はどこか暗そうだ。

「あー、悪い悪い。…で、何だっけ?」
「あ…えっと、明日…用事入っちゃったのよね?」
「あーすまん。バイトでさ」
「バイト? アンタバイトしてたの?」
「いや。明日初日なんだよ。いきなりで悪いけどって言われて」
「そ、そう…なんだ」
「明日なんか用があったのか?」
「え!? あ、いや…その、……な、何もないわよ。ただ暇なのかなって思っただけ」
「そっか。俺明日からバイトでバイトない日は補習だから、この夏休みは暇な日少ないかもしれないな」
「………そう」
「悪いな。じゃあ俺ちょっと買い物して帰るから。またな」
「うん。また…ね」

 上条はそう言うと、手を振って帰っていった。
 美琴はその背中を見送ると、溜息を吐き、後ろに隠していたチケットを見る。
 そのチケットは遊園地のペアチケットで、期限は明日までだった。
 以前より上条とこの遊園地に二人で行きたいと思っていた美琴だったが、言うに言い出せず今まで来てしまったらしい。
 そしてさすがに期限切れにしてしまうのも勿体無いと思い、決死の思いで誘いに出たのだが失敗してしまった。

「バイトじゃ…仕方ないわよね。黒子でも誘って行こうかしら」

 美琴はトボトボと常盤台の寮へ向かって歩いて行った。
 その途中で何かを思い出した様に立ち止まる。

「あ。そういえばアイツがどこでバイトするのか聞いてなかったわね」

 
 翌日。
 上条当麻は時間通りにバイト先へ向かい、事務所で説明を受けていた。
 そして担当者が一通り説明し終わるとロッカーの上にあるダンボールを降ろし、テーブルの上にドカっと置いた。
 上条はそのダンボールの中身を知っている。
 上条当麻のバイト先。そのバイト内容。それは――――

「あじぃ…」

 上条のバイト先は第六学区にある遊園地で、そのバイト内容はキャラクターの着ぐるみを着て風船を配るというもの。
 何故このバイトにしたかというと、内容はともかく時給が良かった。
 その辺のスーパーやファミレスよりも200円くらい高く、交通費完全支給、社員割引など色々あったので上条は即決したようだ。
 そしてそのキャラクターは、美琴が大好きなゲコ太の着ぐるみだった。
 何かのキャラクターとは聞いていたが、上条はよりにもよってカエルかよっと漏らす。
 上条は子供達に風船を配ったり、一緒に写真を撮ったりと忙しかったが、案外楽しくてすぐにお昼の時間になった。
 休憩所に行くと食堂があり、上条はスタミナ定食を頼んだ。
 社内食という事もあり、定食でも350円。上条がここを選んだ理由の一つだ。
 上条は食堂のおばちゃんから定食を受け取ると、空いてる席を探し、そこに向かった。

「ん? これ…」

 上条はその途中で、ダンボールの中に大量に入ってるゲコ太のぬいぐるみが付いたキーホルダーを見つけた。
 そのダンボールには『社員・アルバイト限定品。ご自由にどうぞ』と書かれてあり、上条は昨日元気がなかった御坂にでも、と思いそれを一個取った。
 そして上条は席に着くと手を合わせてご飯を頂く。
 普段自分で自炊しているが、ここまでの味は出ないよなと食堂のおばちゃんに負けを認める。
 休憩時間は一時間だったが、ご飯と担当者に報告することがあったので、あっという間に過ぎ、またゲコ太を装備して出て行った。
 9時~13時-休憩-14時~17時のシフト。
 上条は午後も風船を配ったり、写真撮ったりと走り回ったが、16時を過ぎたあたりで客足が少なくなってきた事と感じる。
 そういえば17時にある観覧車の前でイベントがあるから皆それを観に行くんんだよ、と担当が言っていたのを思い出し、ちょっと休憩ーとベンチの上に腰を下ろした。
 ここから観覧車へは結構離れているし、客がそっちに流れているならバイトの終わりまではこのままでもいいかと思う。
 何せ初日だったため、緊張もあってか色々疲れた。
 このまま何もなく終わってくれよー、と思っていた矢先に。その少女はやってきたのだ。

「わーっ! ゲコ太だ! ゲコ太! 巨大なゲコ太!!」
『(…!? げ! み、御坂…っ!)』
「お姉さま…そんな小学生みたいな反応はしないでくださいまし」
『(白井も…、不幸だ…)』
「いいじゃない別に。ここには私達とゲコ太しかいないんだし」
「その着ぐるみの中の人に失礼ですわよ?」
「中の人とか言うな! 夢がないな黒子は…ねぇ? ゲコ太?」
『(…)』

 上条(ゲコ太)は美琴の問いに必死にコクコクと頷いた。
 どうやら美琴達は二人でこの遊園地に遊びに来ていたらしく、手にはパンフレットが握られていた。
 上条はあと一時間もないバイト時間なのに、最後の最後で御坂達かよっと鬱になった。
 白井は美琴のゲコ太への懐きっぷりが見てられないのか「クレープでも買ってきますわ」とどこかへ行ってしまった。
 上条は美琴と二人でベンチに座り、何をしようかと考えていると、美琴が一人ごとのように話だした。

「ゲコ太は本当に可愛いよねー。黒子は子供っぽいって言うけど、私はゲコ太が大好きよ?」
『(子供っぽい…)』
「今日もここでゲコ太と出会うあたり、私の愛がゲコ太を引き寄せてるとしか思えないわねー」
『(中身は俺だけどな…)』
「…はぁ。でも今日は本当はアイツと来たかったなぁ…」
『(あいつ? だれ? 誰か誘ったけど断られたのか?)』
「それなのに今日からバイトだなんて…、私は寂しいよ。ゲコ太…」
『(―――ん?)』
「うぅ…、それにアイツこの夏休みは暇な日少ないんだって。つまんないなー。せっかくいっぱい遊ぼうと思ったのに…」
『(あれ…この話どこかで…)』
「まぁ今日はゲコ太に会えたからいいけどね♪」
『(…)』

 上条(ゲコ太)は美琴が笑顔を見せたので、恐る恐る頭を撫でた。
 美琴は最初はビクっと反応したが、その後はゲコ太の方をじっと見て動かない。
 上条はそんな美琴にどうしていいか分からなくなり、頭を撫でる手を止めた。
 しばらくすると、美琴は何かを感じとったのか顔を真っ赤にして俯いてモジモジし始めてしまった。
 上条はそれを見て、昨日の美琴の姿を思い出す。
 ああ。こいつ、俺の事誘おうとしてたのか…。
 上条はそう思うと、何か美琴に悪い事をしてしまったと思い、俯いてる美琴の頭をまた撫でてあげた。
 美琴は今度もビクっとしたが、今度はこちらを見る事なく頭を預けてきた。
 その行為に上条は大変驚いたが、美琴が嫌じゃなさそうだったのでそのままにしておいた。
 白井はどこまで行ったのかまだ帰ってこない。
 そんな感じで周りをキョロキョロしていると、美琴がまた話しかけてきた。

「ねぇ、ゲコ太」
『(…?)』
「ゲコ太は好きな子いる?」
『(…………は、い? いや待て。そんな事聞かれてても俺知らねぇ! …ど、どうしよう)』
「私はいるの。好きな人」
『(どうしようどうしようどうし…よ? う?)』
「そいつは人の気も知らずにどんどん危険な事に首を突っ込んで行っちゃうし」
『(……ん?)』
「私が何かに誘っても興味無さそうに素っ気無くするし」
『(…あれ?)』
「年上のくせに馬鹿で、鈍感で、スルーされる事があるけど…」
『(お、おい…)』
「でもね、それ以上に優しくて…かっこよくて…、強くて」
『(…)』
「そんな人を私は好きになっちゃったみたい」
『(御坂…)』
「ねぇゲコ太。ずっと言おうと思ってたんだけど、私…そいつに告白した方がいいと思う?」
『(…)』

 上条は固まってしまっていた。
 美琴の突然の告白に。告白とは愛の告白ではないのだが。いや、愛の告白予告を告白されてしまった事に。
 その相手は上条の知る限り一人しかいない。
 もちろんその他にもいくらでもいそうなものだが、上条はその一人なのだと確信するに至る理由があった。
 それはこの気の緩み。
 いくらゲコ太が好きだと言っても、美琴も流石に本物だとは思っていないだろうし、中に人が入っていると思っているはずだ。
 それに自分が知る御坂美琴は、常盤台の超電磁砲はこんな簡単に他人に自分の本心を言う人間ではない。
 ということは美琴は自分の中に想いを溜め込み、そしてそれが溢れ出したという事だろうか。
 それは何故?
 ゲコ太を見たから?
 ゲコ太に頭を撫でられたから?
 いや、違う。
 きっと…美琴は知っているのだ。
 ゲコ太の中身を。
 
『(…)』

 上条はそう思ったが、喋れない。
 美琴の恋のベクトルが自分に向いている事をしってしまったから。
 美琴の事が嫌いなわけではないが、今ここですぐ返事をする事は出来ない。
 なので上条は美琴の頭を優しく離すと、立ち上がってモゾモゾとし出した。
 美琴は一瞬だけ悲しそうな顔をするが、そんなゲコ太をじっと見つめている。
 上条はなんとか着ぐるみの中でポケットに手を入れる事に成功し、そこからキーホルダーを取り出した。
 そして美琴の前に立つと、美琴の手を取って優しく渡した。

「これ…キーホルダー? しかも超レアものだわ」
『(…)』

 上条は美琴がキーホルダーに夢中になって見入っている頭を撫でた。
 美琴はそんなゲコ太を見上げる。
 顔は真っ赤に紅潮し、目は涙が溜まっていた。

「ありがとう、ゲコ太。私はまだそいつと付き合えないみたい」
『(…)』
「でも私は諦めないわよ? そいつが私と付き合いたいと思うほど好きにさせればいいだけだしね!」
『(……はは。なんとも御坂らしいな)』
「ありがとね! ゲコ太! 私はやっぱりアンタが大好きだわ!」

 美琴はそう言うと遠くに見えてきた白井のもとへと走りだして行った。
 その足取りは軽く、悲しみもあるだろうが、それ以上に自信や喜びに満ちており、明日への希望へと向かっていくようだ。
 美琴は白井の所まで行くと、白井の手を取り帰っていった。
 途中で一度だけ振り返って。

「ゲコ太ーーーーっ! ありがとーーーーーーーーーーーっ!!!」

 上条当麻は美琴の後ろ姿を見送ると、ゲコ太の頭を取り、息を吐いた。

「ふぅ…完全にバレてたかな」

 そして上条は小さく笑う。

「それにしても…、御坂が俺を?」

 上条の顔は赤かった。
 今は16:30くらいだ。夏なのでまだまだ太陽は赤くない。

「御坂…」

 上条はそう言うと再びゲコ太を被り戻っていった。
 そして時間いっぱいまで歩き回り、ちらほらいる親子連れやカップルに風船を配ると、今日のバイトは終了だと言われて着替えて帰った。

 
 上条は裏口から出て、遊園地の壁に沿ってレンガでひかれている道を歩いていると、入り口のゲートに美琴が立っているのが見えた。
 白井と待ち合わせをしているのかキョロキョロとしている。
 上条は先程の事もあったので見つからないように帰ろうとしたが、目が合ってしまい美琴が走ってきたので冷静に振舞う事に集中した。

「おー、御坂じゃん。どうしたんだこんな所で…って遊園地に遊びに来たんだよな」
「そうよ。今日までのペアチケットがあったから黒子と一緒に来たの」
「ふーん…で、白井は?」
「黒子には先に帰ってもらった。今は私一人」
「何で? 何か忘れ物?」
「うぅん。改めてお礼言おうと思って」
「お礼?」
「これ」

 美琴が取り出したのは先程上条があげたゲコ太のぬいぐるみが付いたキーホルダーだった。
 美琴はそれを嬉しそうに上条の目の前に出すと、胸に戻し大切そうに抱きしめた。

「受付の人が言ってたんだけど、これ社員専用なんだってね?」
「…そうなんだ。知らないけど」
「その人がね、きっとあなたの為に貰ってきたんだろうって」
「そ、それは…うん。えっと…、誰から貰ったんだ?」
「これは私の大好きなゲコ太からのプレゼント♪」
「………そ、そっか。よかったな」
「うん! えへへ、ありがとね!」
「は? いや俺ゲコ太じゃねぇし…俺にお礼言われてもな」
「ねぇ。アンタは週何回バイトしてるの?」
「あれ…聞いてます? 御坂さん? えっと…週4かな? 月・水・土・日」
「そっかそっか。ならその日は暇じゃなくなりそうね♪ えへへ」
「はぁ? おまえな、何を言って…」
「ほらほら! そんな事より早く帰ろう! 帰りに何か奢ってあげるわよ」
「…マジですか。御坂さん」
「うん! 私今すごく気分がいいから何を言われても大丈夫だわ」
「…ビリビリ?」
「ビリビリ言うなっつってんでしょうがああああ!! いい加減にしろぉぉぉぉおおおおお!!!」
「ぎゃあああああああああああっ!!!!! お、おまえ! 何でも言えって!!!」
「そういう事を言えって言ってるんじゃないわよ!! この馬鹿ーーーーっ!!」
「ひぃぃぃぃ!! た、たすけてーーーーっ!」

 こうしてまた二人の追いかけっこは始まった。
 そしてこの夏休み、遊園地にはやたら走り回るゲコ太と、それを追いかける少女がいたそうだ。
 そしてゲコ太は気づく。こういう事をしているうちに、恋のベクトルがその少女に向けられていく事に。少しずつ、少しずつだが。
 その少女は、この夏休みの最終日に最高の喜びを得る事になる。
 それこそがその少女がこの一年間で待ち焦がれた、最高のプレゼントなのだ。
 
2010.07.31 左手デート

「決心した」

 上条当麻はそう言うと突然立ち上がり、身支度をし始めた。

「え? ちょ、ちょっと…どこ行くのよ?」

 上条の言葉と行動に反応したのは御坂美琴。
 そしてここは上条当麻の部屋であり、二人は一ヶ月程前から付き合っていた。
 以前は出会い頭に電撃を浴び続けてきた美琴も、上条への恋心を認めると後は一直線にアタックをかけるのみだった。
 途中どうしたらいいか分からない時期もあったが、いざ付き合ってみればその迷った時期もいい思い出だ。
 問題はその上条が、どうやって自分の事を好いてくれるか。
 美琴は自慢じゃないが普段の接し方で上条に好意を持って貰えるとは思ってなかった。
 しかし恥ずかしさからかなかなか素直になれずにいた。
 だが何時までもこんな状態が続くとこっちの心が持たない。初めての恋だったし、何よりその初恋相手が世界へ飛び回るもんだから
 いつ旅先で不幸に合うか分かったもんじゃなかった。
 美琴は、想いを伝えないまま今生の別れになるなんてそんなのは絶対に嫌だった。
 だから伝えた。恥を捨てて。いや、人を好きになる事に恥ずかしい事は無いのだが、美琴にとってはこの上なく恥ずかしい事だったのだ。
 しかし美琴の告白で上条はOKしなかった。友達と思ってたから、と。
 そんな二人が何故恋人になったか。それは上条が恋の対象として美琴を見始めたからである。
 フラグを立てまくっている所為で勘違いしている人も多いが、上条は恋愛に対しては全くの素人で、美琴の好き好き電波を受信したが最後
 上条は美琴の事しか考えられないくらいに彼女の事を愛するようになった。まだ学生と言う事もあって大事になる事はしていないが。
 だが、そんな上条にも一つ悩みが―――

「ほら、出かけるぞ美琴。準備して」
「だ、だから何処にいくのよ? 今ご飯食べ終わったばかりじゃない」
「遊園地だよ。デートだデート」
「え!? で、デート!? やったぁ! す、すぐ準備するからちょっと待ってて!」

 美琴はデートという言葉に過剰に反応すると、テーブルの上に置いてあった食器を流し台に置いて水に浸す。
 そして洗面所に入っていって歯を磨いたり髪をセットし直したりしていた。
 上条もそんな美琴の隣で歯を磨いている。
 二人の仲の良さは、その光景が証明してくれているように息がぴったりで、同時に歯を磨き終わり、同時にうがいをし、同時に吐き出した。
 タオルで口の周りを拭いて準備完了のようだ。
 美琴は上条の腕を取ると、玄関を出て鼻歌を歌うくらい上機嫌になっていた。

「そんなに楽しみなの?」
「そりゃそうよ! アンタから誘ってくれたの初めてだし♪ 一体どういう風の吹き回しかってね♪」
「…実を申しますと美琴さんに報告しなくてはならないことがあります」
「え――――」

 美琴はその上条の言葉に浮き足立った気持ちが一気に引くのが分かった。
 さっきまではスキップでもしようかと思っていたが、今は上条の次の言葉が気になってそれどこれではなかった。
 まさか、まさかまた何処かに行くからとか、そんな話なのでは…。

「い、嫌! 何処にも行かないで! ここにいて! 私、もうアンタがいてくれないとダメなんだから! もう離れたくないの!」
「は? お、おい美こ――」
「どうしてもって言うなら今度は私もついていく! 嫌われても絶対ついていくんだから! だ、だから…お願いだから、一人にしないで…」
「ちょ、ちょっと待て! 美琴。おまえは何か勘違いをしている」
「う…うぅ、ふぇ? …かん、ちがい?」
「ああ。まず俺は何処にも行かない。美琴の隣にずっといるから」
「ほ、ほんとぉ? よかったぁ…」
「全く…、心配しすぎだっての」
「だって…、また一人で危ない所に行くんだって思ったら…」
「よしよし。んで、さっきの話だけど」
「…うん。何の報告なの? デートに関すること?」
「さすが美琴さんですね。その通り、今日のデートにはルールがあります! それは―――」

「美琴さんには上条さんの左手を握ってデートしていただきますー」
「…………………へ? な、なん…で?」
「ふふ。なんでってそりゃ決まってるじゃないですか、美琴さん♪」
「?」

「おまえがキスする度にふにゃーってなって家の電化製品を根こそぎダメにしてるからじゃああああああああああああああ!!!!!」
「なっ! …なななっ」
「おまえなぁ、乙女にも程があるだろうがよ。俺達付き合って一ヶ月ですよ? キスは告白以降だったけど最近になって毎日してるし」
「だ、だって…嬉しいから……」
「初々しいままでいてくれるのは嬉しいんだけどさ、考えてみてくださいよ美琴さん」
「な、なによ?」
「仮に俺の幻想殺しが無くなったらどうしましょうか?」
「え? そ、それは…ビリビリ、しちゃう」
「でしょう? つまりは上条さんはキスする度に生死の境をさ迷わなくてはいけなくなるわけだ」
「うぅ…」
「だからこれから左手デートを実行します。幻想殺しがなくてもいいようにな。たとえこの体朽ちるとも、愛する美琴たんと生きていくために!」
「あ、愛するって…! えへ、えへへ…」
「やってくれるな? 美琴!?」
「…う、うん! 私頑張る! 私ずっとアンタと、当麻と一緒にいたいから!」
「美琴っ!」
「当麻っ!」

 そうして二人はひしっと抱き合った。
 もちろん上条の玄関先でそんなやり取りをしていたバカップルだったために、隣の土御門宅から苦情が来たので謝りに行った。
 美琴は上条から離れると、いつもの右側のポジションでは無く、未知のファーサイドへと足を踏み入れた。
 そして恐る恐る左手を握る。
 そんな緊張が伝わったのか上条はぴくっと反応し、それにビックリした美琴はピリッと軽く電撃を流してしまった。
 もちろん静電気程度だったので上条は平気だったが、美琴は途端に暗くなってしまった。

「うぅ…ごめんね。いきなりこんな感じで」
「いいって。それよりほら。デートなんだから笑ってくれよ。美琴のそんな顔見たくないからさ」
「……うん! えへへ」
「じゃあ行きますか。楽しみだな!」
「うん!」

 こうして寮を後にした。向かう先は遊園地。
 果たして二人(上条)は問題なく帰ってくる事が出来るのだろうか?
 しかし二人は何より、今こうしてお互いの体温を感じる事が出来る幸せに笑顔を見せていた。


 そして午前十時を少し回った頃、二人は遊園地に到着した。
 早速パスを買い、仲良く入っていく。
 上条は付き合い始めて何回かこの遊園地に来たが、未だに正確な位置は把握しきれていないため、美琴の行きたい所に行く事にした。

「すみませんね、物覚え悪くて…」
「いいの。他のデートとかはちゃんとリードしてくれてるんだから。今日は私がリードする!」
「じゃあお任せいたします」
「うん! 美琴センセーに、まっかせっなさい!!」

 そう言って美琴が最初に向かったのはメリーゴーランドだった。
 いきなりキツイやつ行ってビリビリしたら元も子もないからとの理由のようだ。
 しかし何せここは学園都市。つまりは遊園地も学園都市仕様。
 幼稚園児や小学生なども活用するが、学生のデートスポット一押しでもあるが故に、メリーゴーランドもカップル仕様だった。
 そのお馬さんは二人乗りで、確実に密着しなければ危なそうな感じなのである。
 上条と美琴は、メリーゴーランドの列に並ぶと普段とは違うドキドキに見舞われていた。
 二人はチラチラッとお互いの事を意識し合い、まるで付き合いたて(と言ってもまだ一ヶ月しか経ってないのだが)の初々しいカップルの様だった。

『次のお客様、どうぞー』

 上条たちの番が回ってきた。
 美琴はしっかりと上条の左手を握ると、何かを覚悟したかのように跨った。
 そしてその後ろから上条が跨ぐ。
 美琴は上条の温かさに気持ちよくなって頭から軽くぴりっと漏電するが、すぐに意識を集中させ、それを引っ込めた。
 上条は漏電が収まるのを見送ると、右手で優しく頭を撫でる。
 美琴は最初だけビクっとしたが、この頭を撫でる上条の手がとても好きだったので、上条に体重を預け甘えてきた。

「お。なんだ美琴、結構漏電しないじゃないか。頭撫でたらビリビリするかと思ったのに」
「えへへ、まぁね。私だってアンタに迷惑かけっぱなしだから少しは努力してるんだよ? その成果!」
「すごいな。これなら行けるんじゃないか?今日の目標は『キスしても漏電しない』だからな」
「わかってるわよ。へへ、この状態ならキスの一つや二つお茶の子さいさいね♪」
「お。では…」
「へ!? ちょ、ちょっと――」
「キス、してもいい?」
「ああああ、あの…そのっ」
「ダメなのか?」
「だ、ダメじゃない…けど」
「では、んー」
「あ…あぅ、ふにゅ…にゅ、…ふ」
「え」
「ふにゃー」
「み、美琴ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!?????」


 上条は左半身の服だけを少し焦がし、ベンチに座っていた。
 メリーゴーランドの時は、美琴がキス目前でふにゃー化したため慌てて右手でイマジンブレイクしたが、体の距離が0だったために
 左半身に行く漏電は防げなかった。
 漏電は上条の体からは離れなかったため、右手を美琴の頭に乗せ、メリーゴーランドを楽しんだ。…上条は。

「う…うぅ…」
「いつまでも泣いてるなって。ほら」
「だ、だって…言ってるそばから漏電なんて…恥ずかしすぎて、ぐすっ…」
「美琴。このデートは漏電をしないための訓練でもあるけど、まずは二人で楽しまなくちゃいけないんだよ」
「わ、わかってるけど…」
「ほら。俺は大丈夫だから、笑いなさい。じゃないと置いていきますよ?」
「うっ…な、泣き止むから、置いていかないでぇ…」
「よしよし」
「……ありがと」
「いいよ。じゃあ次は何に乗る?」
「じゃ、じゃあ…えっと、コーヒーカップ…とかは?」
「はいよ。行こうぜ」
「うん。えへへ」

 上条は立ち上がると、美琴の手を引いて歩き始めた。
 美琴も手を握られた事で安心したのか、涙はすっかりと引き、笑顔で肩を並べて歩き出す。
 一度泣いた美琴は少し緊張が解れたのか、コーヒーカップでは漏電する事なく無事に乗り切った。
 その場でキスとまでは行かなかったが、上条が勢いよく回しすぎて美琴が上条へ体を預ける形となってもなんとか耐えた。
 美琴はコーヒーカップで自信をつけたようで、笑顔になって言い出した。

「よっしゃああああ! 今度こそ絶対大丈夫!」
「おぉ! さすがです美琴さん!」
「ふふん。じゃあ次はあれ! あれに行くわよ!」
 
 そう言って美琴は元気よくピッと指を刺した。
 上条はその行為に笑顔になって美琴が指した先を見る。しかし――
 そこには『本日よりオープン! 究極のホーンテッド…いらっしゃいませ。そして逝ってらっしゃい』と書かれた看板があった。
 どうやらお化け屋敷のようだが…。

「…」

 上条はこの先の未来を何となくだが予想できた。
 とりあえずハンカチやティッシュは何枚かあったほうがいいようだ。

「ま、待て美琴。ここはまだ早いんじゃないかな?」
「え? そう?」
「ああ。きっと早い。もうちょっと時間というか時期を置いた方が…」
「だって今日オープンよ? こんなの行かない手はないじゃない?」
「うーん…でも、さ」
「……ははーん。さてはアンタ怖いんだ? 大丈夫よ! 私がずっと隣にいてあげるから!」
「た、確かに怖いんですが…(別の意味で)」
「ほらほら! 今日は私がリードするんだから行くわよ! それ~♪」
「神様…」

 そして上条たちはお化け屋敷に入っていった。
 美琴は全然平静を装っていたが、内心はかなりドキドキしており、何が起こるのかが楽しみでしょうがないようだ。
 対する上条は、恐らくこのお化け屋敷で何回か走馬灯を見るのだろうと考えており、震えてしょうがないようだ。
 そんな手を繋いでた美琴は、上条は怖いから震えているのだと思い、繋ぐ手を左手に変えると空いた右腕を上条の左腕に絡めてきた。

「(うわっ! み、美琴さん! そんな腕組みなんて…い、今ここで漏電したら確実に……)」
「(えへへ。コイツったらこんなに震えちゃって。こ、ここは私が優しくリードしないとダメよね。うん)」

 上条と美琴は違う意味でドキドキしながらお化け屋敷を進んで行くと、次々に仕掛けが発動し始め、その度に二人はビクっとした。
 美琴は素に驚きて上条に抱きつき、その後に感じる上条の温かさにドキドキ。
 上条は仕掛けには多少驚いているが、それ以上に美琴はいつ漏電するのかと気が気でないドキドキ。

「(わっわっわ! どさくさに紛れて抱きついちゃったけど、こいつすごいドキドキしてるじゃん! こ、これは…)」
「(み、み、み…美琴ぉぉぉ。か、かか上条さんのガラスの心はもう壊れる寸前です! 漏電…しないよな? お、俺は信じてるからな?)」
「あ、アンタ…怖いの?」
「…あ、あぁ。こ、怖い…かも」
「わ、わわ私もちょっと怖いけど…ちゃんと隣にいるから安心してね?」
「そ、そそ…そうですね。お、俺は…み、みみ美琴を信じてるからな?」
「えへへ…うん。信じて………ん?」
「え?」

 二人は道を間違えたのか、行き止まりの所まで来てしまった。
 しかしここまで一方通行で間違えるわけはない。上条はおかしいなぁと冷静だったが、美琴はリードをすると言っておきながら
 道に迷ってしまったのかとオロオロとしだす。
 するとその上条たちの場所だけスポットライトが当てられた。
 周りを見てみると、前右左上と4方向に鏡が設置されており、何やら呻き声のような低い声が聞こえてきた。
 その声に美琴は恐怖し、震え始める。
 もちろん上条はそんな美琴に震え始める。
 前の鏡には自分達以外なにも映っていない。上条は美琴に一緒に右の鏡を見ようと言って、ギギギと右を見た。
 ――――いない。
 ほっと美琴が息を漏らすと、じゃあ次は左と上条が言い出し、左を見る。
 ――――いない。
 さらに上と見るが、どうやら何も自分たち以外映ってないみたいで美琴は小さく笑った。

「あ、ははは。何よ結局変な声だけだったじゃ―――」
「そ、そうだな! こ、こんなんじゃその辺にある仕掛けとなんら変わりな―――」

 上条と美琴は、前→右→左→上と見て前の鏡に視線を戻すと、そこには――

『あああああああああああああああああああああっ!!!!』
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!!」
「ふぎゃあああああああああああああああああっ!!?????」

 なにやらどろどろになったモンスター系の何かが叫んで迫ってきた。
 実はこの鏡は一瞬にしてCGを映す事が出来る画面になるハイテクなもので、どこかに仕掛けられているカメラで従業員がその映像を流すという
 大変手の込んだ仕掛けだったようだ。
 もちろん究極にビビっていた二人は、その映像にこの上なく驚き大声を出して抱きついた。

「ふぎゃああああ! ふにゃあああああ! ふにゃああああああああ!!!」
「お、おおおお落ちつけ美琴! し、CGだ! 幻覚だ! 幻想だっ! そのふざけた幻想を――」
「ふんにゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
「だ、ダメだ…帰ってこない。こ、こうなったらッ…!」

 そう言うと上条は美琴の耳元まで顔を近づけ、優しく囁いた。

「み、美琴。落ちつけ、だ、だだ大丈夫だから」
「っ!!!!??????」

 そんな上条の甘く優しい声に、美琴は今まで以上の衝撃を受け、頭からボボンと湯気がたった。
 今までの仕掛けがコーナーをついた緩いカーブだとすると、この上条の声は全く反応出来ないど真ん中の渾身のストレートだ。
 もちろん美琴はさっきまでの恐怖など綺麗さっぱり吹き飛んで、変わりに心臓が飛び出るんじゃないのかと思うほどドキドキしていた。

「ほら…よく見ろよ。もう何も映ってないだろ?」
「う、うん…」
「でも…怖かったな」
「う、うん。で、でも…もう大丈夫。と、当麻が…抱きしめてくれたから」
「はは。美琴たんはこういう時は素直で可愛いな」
「か、かわっ!? あ…あぁ……」
「…美琴?」
「…ふ」
「ん?」
「ふにゃー」
「みっ!? みごごごごごごごごごごごごっ!!!!!!!!」

 上条当麻は付き合ってもそんな急には女心が分かるはずもなく、いつも美琴がやられて嬉しいような事を耳元で囁き続けた。
 美琴はそれは大変嬉しかったのだが、今この状態でそれをやられるもんだから、ワン・ツーの緩急ある攻撃を食らったように
 膝から崩れ、見事にふにゃー化した。
 頼みの幻想殺しは美琴に触れていなかったので反応に遅れた。
 その所為で美琴の漏電は上条に直撃し、意識が飛んだ。
 しかしそんな上条は薄れ行く意識のなか、美琴の手を右手で握ろうと懸命に伸ばす。辺りに電撃が撒き散らさないように。


 美琴は上条を連れてお化け屋敷を出てベンチに座っていた。
 上条は依然意識を失っており、美琴に膝枕されている格好となっている。
 その上条の額に手を置いて美琴は顔を伏せるように心配そうに覗き込んでいた。
 そしてしばらくして上条の意識が戻る。

「……ん、あれ。ここ、は?」
「あ、あぁ…き、気がついた! よ、よかったぁ…よかったよぉ…う、うぅ…」
「あれ美琴さん。何で泣いてるんでせう?」
「ごめんね。ごめんね? ほんとに…っ、ごめん…なさい……」
「……あー、いいんだって。前聞いたけど、おまえがこういう事になるのは嬉しいからなるんだろ?」
「うぅ…う、…っ、う、うん…そう、だけど…」
「じゃあ上条さんも嬉しいですよ。美琴が喜んでくれてるならさ。しかし久しぶりに食らったけど、改めておまえがレベル5なのが認識できたわ」
「ふええええええん! ご、ごめんなさーい! 私の事嫌いにならないでぇーっ!」
「お、おい! わ、悪かった! 泣くな泣くな! ならないから! 嫌いにならないから泣きやんで!」

 上条は右手を動かし、美琴の頬に添えた。
 美琴はその手を両手でしっかりと握るとしばらく泣き続けた。
 そんなベンチは周りからすると何とも言いがたい空間で、通り過ぎる人々はあえて避けて歩いてるようにも見えた。
 しかし上条は気にする様子もなく、美琴が泣き止むまで右手を預け、左手で頭を撫でてあげた。美琴の好きな撫で方で。
 その後しばらくすると美琴が泣き止み、上条の顔に落とした涙をハンカチで優しく拭いてお礼を言った。
 上条はその言葉を受け、立ち上がると腹が減ったから何か食おうと言い出した。
 美琴もそういえばお腹が減ったと立ちあがると、携帯を開き時間を確認する。
 昼の時間はかなり過ぎて、今は午後3時を指そうとしていた。
 上条は夕食が食えなくなるからクレープでも食おう、と美琴の手を握って歩き出した。
 美琴はいつも感じる上条のさり気ない優しさがたまらなく大好きで、真っ赤になりながらも素直に手を引かれ後ろについていく。


「ほらよ。いちごクレープ」
「あ、ありが…とう」
「よし、じゃあ食おうぜ。…んん? うまいなコレ」
「アンタは何買ったの?」
「俺のはチョコバナナ。同じやつにしようかと思ったけど、二つの味も食べてみたいしさ」
「へ? あ、あの…じゃあこれ、食べる?」
「おお。くれくれ」
「はい。あ、あーん…」
「あー…む。んん! こっちもうまい! ほら美琴。チョコバナナ、あーん」
「あ、あー…んっ。んぐんぐ…」
「うまいか?」
「……うん」
「そっかそっか。…んぐ。うん、うまい」
「えへへ」
「あれー? 御坂さん? あぁ、やっぱり御坂さんだよ!」
「わー! ホントですね! こんにちは御坂さん!」
「へ?」
「ん?」

 上条と美琴はその声のする方を見ると、そこには可愛らしい私服を来た女の子が二人クレープを持って立っていた。
 美琴が挨拶するとその女の子達も挨拶を返し上条の方を見て自己紹介してきた。
 どうやら頭の上に花を置いてるのが初春飾利さんで、黒髪ロングな子が佐天涙子さんらしい。
 二人も遊園地に遊びに来ていて、疲れたのでクレープでも食べようとした所に美琴を見つけたので声をかけたらしい。

「ところで御坂さん? さっきたまたま見てしまったんですが…」
「そうです! この人に『あーん』ってしてましたよね!? という事はこの人は御坂さんの彼氏さんなんですか?」
「え? えぇ!? み、見てたの!? あ、あの…その……」
「あー、どうも。上条当麻です。美琴がいつもお世話になりまして」
「んなっ!?」
「きゃー! 聞きました佐天さん!? 美琴ですって! 御坂さんの事、美琴って言いましたよ!」
「聞いた聞いた! 御坂さん水臭いじゃないですかー。彼氏出来たんなら教えてくださいよー」
「そ、それは…その、黒子に知られたら大変そうだったから…、ごめん」
「なんだよ。おまえ友達にも言ってないのか? そんな悪い事してるわけじゃないんだからいいじゃねぇか」
「そ、それは…そう、だけど…その……、恥ずかしくて」
「(あ、あの御坂さんが…こんな可愛くなるなんて!)」
「(この彼氏さんは相当に出来る人ですね! 後で支部に行って調べてみよう)」
「はぁ…まぁいいけどさ」
「あ、あの…上条、さん?」
「ん? えっと…、佐天さん…だっけ?」
「はい! その、ずばり聞きますけど…御坂さんのどんな所が好きなんですか!?」
「ちょ、ちょっと佐天さん!? 恥ずかしいからそんな事聞かなくていいって!」
「えー? 何でですか? 御坂さん知りたくないんですか?」
「そ、それは…」

 よくよく考えると、美琴は何で上条が自分の事を好きになってくれたのか知らない。
 自分が告白した翌日から女の子として見てくれて、それで好きになったとは言っていたけど理由は知らなかった。
 そう考えると、美琴は途端に理由を知りたくなって上条の方を見た。
 上条は顎に手をあてて、うーんと考えているが「あ」と思いついたように言い出した。

「美琴は俺の全部を知ってて唯一向かい合えるから…かな?」
「…」
「…」
「…え?」

 初春と佐天は互いの顔を見合わせた。今この彼氏は何て言ったのか?
 俺の全てを知っている。全て。全てって、何? 分からない。
 あはは。なるほどなるほど。
 私達には分からない事か。いやー中学一年生と二年生じゃこれほど知識の差があるなんて。
 それとも常盤台の人だから頭がいいからなのかな? あはは。

「あ、アンタね! そんな紛らわしい言い方するな! 確かに人には言えない事知ってるけど!」
「なんだよー。ホントの事なんだからいいじゃねぇか」
「そ・れ・で・も! ご、ごめんね? 初春さん佐天さん。コイツの言ってる事はそういう事(どういう事?)じゃな――」
「「御坂さん」」
「…くて?――――」
「「結婚式には呼んでくださいねっ!!」」
「「ぶぅぅぅぅぅ!!!」」

 上条と美琴は、初春達の飛びぬけた台詞に壮大に吹いた。
 初春達はそれだけ言うと「恋人たちの仲にお邪魔するのも悪いので失礼しますねーあははー」と言って走り去った。
 美琴は俯いてぷるぷるし始める。
 恐らく明日からの地獄の質問攻めと、黒子による涙を流しながらの理由追求があると考えると目の前が真っ暗になった。
 上条はそんな美琴にオロオロして話しかける。

「ええっと…な、何かごめんな? 変な誤解させちゃったみたいで」
「……いいわよ別に。あながち間違っても無いし」
「え?」
「わっ私はアンタと結婚するつもりだからね! こんな私じゃ他に貰ってくれそうにないし」
「け、結婚!? …でも、まぁそうですね。普通ならみんな感電しちゃいますもんね」
「うっ…だ、だからアンタと結婚するの! そ、それにちゃんと好きだし文句ないでしょ!」
「上条さんは美琴さんの事大好きですよ?」
「なっ…わ、私なんかアンタの事、超好きよ!」
「ふふんかかったな。じゃあ俺は絶対好きだ。どうだ、これでこれ以上好きになれないだろーわっはっは」
「むかーっ! それでも好きったら好きなんだからーっ!」
「はいはい。つか俺まだ高校生で、おまえなんてまだ中学生じゃないか。こういう話は働き始めたらしような」
「じゃ、じゃあさ…その時になったらちゃんとプロポーズしてくれる?」
「ああ。絶対するよ。だから今は今を楽しもうぜ」
「うん! えへへ」
「おまえあの子達の前とは全然違うのな。別人のような甘えっぷりなんですが…」
「当たり前じゃないそんなの。恥ずかしいもん」
「お、俺の前じゃいいのかよ」
「いいの。好きな人なら全部見て欲しいから」
「そんな素直に愛情をぶつけてきてくれる人がいるなんて、上条さんは不幸時代を抜け出したのかもしれないですな」
「え?」
「俺おまえといるとさ、不幸なんて全然思えない程幸せなんですよ。まぁビリビリはちょっと勘弁だけどそれ以外は本当に楽しい」
「ちょ、ちょっと…真顔でそんな恥ずかしい事、言わないでよ…」
「いいの。好きな人には全部見て欲しいから」
「あぅ…」

 二人は完全に二人だけの世界に入っていた。
 その周りには近づきがたいラブラブオーラが出ており、通行人は目も合わせない。
 二人の距離はどんどん近づいていき、後ほんの少しでキスするところまでくると、手に持っていたクレープのクリームが
 その熱に耐えられなくなったのかとろりと溶けて、互いの手を汚してしまった。
 二人はそれで笑いあい、クレープを片付けて次のアトラクションへと向かって歩いていった。


「う、うぅ…」
「ほら大丈夫? はい。お茶買ってきたから飲んで」
「す、すみません美琴たん…」
「たん言うな!」

 上条と美琴はクレープを食べ終わったのが午後4時くらいという事もあって、ジェットコースターへと向かった。
 食後の絶叫系はいかがなものかと思ったが、美琴の寮の門限を考えるとあと乗れるのは二個程だろう。
 最後に乗るのは決まっていたのでその前にこれ、ということらしい。
 しかし上条にはやはり壁が高かったらしく、乗り終わると真っ白になっていた。
 美琴はそんな上条をベンチに座らせるとお茶を買って上条に渡す。
 その時つっかかる台詞を投げかけるが、それは上条が今頼れるのは自分だけだからという嬉しさの裏返しで、上条もその事をよく理解している。
 上条はしばらくすると立ち上がり、復活をアピールした。

「よし、もう大丈夫だ。ありがとな美琴」
「いいわよ。彼氏の世話は彼女の役目だしね!」
「恐れ入ります」
「それじゃあ最後に行きますか! 二人の思い出の場所に!」
「ああ」

 二人は手を取って最後のアトラクションへと向かった。
 そこは上条が美琴に告白した思い出の場所。遊園地の中でも最高のデートスポット、観覧車だ。
 上条の告白は、ゴンドラが一番高い所に来た時にするというベタなシチュエーションだったが、恋する美琴には最高のシナリオで、
 その言葉を聞いた時には観覧車が揺れて落ちるんじゃないのかと思うほど、勢いよく抱きついてきた。
 そしてその後に二人のファーストキスという正にドラマのような展開だった。
 その後また遊園地に来ても最後には観覧車に乗り、てっぺんに着いたらキスをしている。
 もちろん今回もそうなるだろう。
 今まで漏電してなかったのは、上条がちゃんと右手を握っていたから。
 今日これまでの勝敗を見てみると、最初のメリーゴーランドで黒星。その後のコーヒーカップでは白星。
 お化け屋敷では黒星。ジェットコースターでは勝ちを拾う(というか上条が美琴に対して気分が悪くなって何もしなかったからだが)という二勝二敗。
 夕方の観覧車は案の定混んでいたが、二人はこの待つ時間も楽しかった。
 これから二人だけの時間があるので、それを考えるとそれだけで美琴はふにゃー化しようになる。
 そしていよいよ今日最後にして最大の試練の時間がやってきた。――が。

「ほら、美琴」
「え?」
「お手を。姫」
「…いいの?」
「ああ」
「ありがとっ!」

 上条は先にゴンドラに乗り込むと、美琴に右手を差し出して招いた。
 美琴は笑顔でその手を取ると元気に乗り込んで上条の隣に座る。
 係員の人から「ごゆっくりどうぞー」と言われドアを閉められた。
 そして二人だけの空間はゆっくりと動き始める。

「ねぇ。今日は漏電しないためのデートじゃなかったの? 右手で握ってちゃ漏電してないかわからないじゃない」
「そうなんですけど…その、俺も気にしないで美琴さんとキスがしたいっていうか…」
「え!? あ…ぅ、そう、なんだ…えへへ」
「だから今日はもう左手デートはお終いだ。今まででも結構抑えてたんだろ? ごめんな?」
「うぅん。私の方こそごめんね。二回も漏電しちゃって、しかもお化け屋敷の時なんか気絶までさせちゃって…」
「また今度頑張ろうぜ? 時間はたくさんあるんだからさ」
「うん。ありがとう、えへへ」

 上条はそう言うと美琴の頭を優しく撫でた。
 美琴はその手の気持ちよさに顔を緩めると頭を上条の肩に預け、途端にモジモジし出した。
 最近分かった事だが、美琴がモジモジする時は上条に対して何かを期待している事があり、それを待っているのだ。
 まあ普通に考えれば分かりそうなものだが、鈍感な上条は付き合い始めて初めてその事に気付く。
 もちろんこのゴンドラの中での期待される事といえばキスなので、上条はてっぺんに行くまで夕日に染まった
 学園都市を横目に美琴の頭を優しく撫で続けた。
 そしてゴンドラはてっぺんまで登りきると上条は右手を離し、美琴の右頬に手を添えた。

「美琴」
「っ!――」

 美琴は顔を真っ赤にしながらも、待ってましたとばかりに目を瞑り、顔を少し上に傾けた。
 上条も最近は毎日キスしているからと言っても、この一瞬だけはどうしても緊張する。

「当麻、大好き…」
「ああ。俺も美琴が、大好きだ」

 そうして二人はキスをした。
 それはとても熱く、甘く、優しく、安心できるキス。
 美琴はその瞬間に何とも言いがたい幸せな気持ちになった。
 私は幸せだ。こんなに好きな人に、こんな愛しいキスをしてもらえるんだから―――
 美琴はそう思うと、全身が溶けてしまってるのではないかと思うほどにトロトロになるのが分かった。
 するとそんな中、愛しの上条当麻が囁いた。

「おめでとう、美琴」
「…ふぇ? な、なにが?」
「あなたは左手デートの目標を見事クリアしました」
「……え!? だ、だって右手で触ってたんじゃ……あ」
「実はキス手前で右手は離してたのです。いやー、ドキドキした」
「ほ、ほんとに右手は触ってなかったの?」
「え? あぁ…そうだけど」

 美琴は上条の右手を見ると、確かに右手は行き場を無くしたようにワキワキしていた。
 しかし、それでは美琴は納得いかなかった。
 それは何故か。理由は簡単だ。
 今日はいつにも増して上条とのキスを心待ちにしており、その所為もあって最高にキスが心地よかったから漏電しないわけがなかったからである。
 では何故漏電しなかったのだろう?
 しかし、その理由も実に簡単なものだった。
 あ。そっか…私―――

「私まだ心のどこかでアンタがどこか遠くに、手の届かない何処かに行っちゃうんじゃないかって思ってたのね」
「へ? だから上条さんはどこにも行かないって…」
「うん。でも、そう言われてもまだどこかで信じてなかったんだ。でも今日のアンタの、当麻の幸せを知って気付いた」
「幸せ?」
「さっき言ったじゃない。私といると不幸なんて全然思えない程幸せだって。その言葉を聞いて私も本当に幸せで、本当の意味で繋がった気がした」
「つ、繋がる…とは?」
「言い方は悪いけど、今までは形だけで付き合っていたのかも。でもさっきの言葉で心から当麻と一緒になれた気がする」
「…そっか。それならもう、俺たちが離れる事はないな。心で繋がってるんだからさ」
「うん。…ねぇ? アンタが私を好きになってくれた理由って、本当にさっきのなの?」
「そうだなー。あの二人に言った事が大体だけど、あえて補足をさせていただくと…」
「いただくと?」
「本当の俺を知ってて、本当に心の底から俺を信じ愛してくれているから、俺も心の底から美琴を信じ愛する事が出来るんだと思う」
「……そ、そっか。えへへ…嬉しい。本当に嬉しいよ、当麻。ずっと…一緒にいてね?」
「ああ。ずっと、ずっと一緒にいる」

 そして上条はもう一度美琴にキスをした。
 もう美琴からの漏電は無い。自分でも気付かなかった心の奥底のモヤモヤが綺麗さっぱり消滅し、絶対なる信頼と愛情を手に入れたのだから。
 こうして上条と美琴の脱・漏電左手デートは完結したのだ。

「ん? 何かしらコレ…」

 とある休日の午後。
 御坂美琴は自販機でヤシの実サイダーを買うと、自販機に立てかけられている何かに気付く。
 それはどうやら本のようだがタイトルは書かれてなく、表紙裏表紙共に紫色がベースで銀の止め具が七箇所付いており、
 結構大きめな厚手の本だった。
 美琴はその本を手に取ると周りをキョロキョロと見渡した。

「誰か忘れて置いて行っちゃったのかしら。うーん…」

 美琴がそう言うとサイダーの缶を自販機の上に乗せ、その本を開いた。
 中は何やら文字や絵が描かれていたが、美琴にはそれを読み取ることは出来ない。
 わけもわからずページをぺらぺらと捲っていると、ページとページの間が光っているのに気付いた。
 その光はきれいなピンク色で、何やら声みたいなのが聞こえてくる。
 美琴は恐る恐るそのページを開くと、そこにはキラキラと光っている文字が書かれてあった。

『……? お姉、さま? お姉さま~~~~ん♪』
「へっ!? く、黒子!? な、なんで黒子が本の中に!? しかも手のひらサイズ…」

 美琴が光る文字に触れると、閉じ込めていた蛍が飛び出してくるようにピンクの綺麗な光が本から湧き上がってきた。
 その光の奥には白井黒子っぽい手のひらサイズの女の子が居て、美琴を見るなり飛びついてきた。
 白井っぽい女の子は美琴の頬にくっつくと「お姉さまお姉さま、はぁはぁ…」と頬擦りしてくる。
 美琴はその行為にこのちっこいのは確実に黒子だと感じ親指と人差し指でその少女の服を摘んで引き離した。
 小さな白井からは赤いハートがぽわぽわと出てきており、美琴は不覚にも可愛いと思ってしまった。

「あ、アンタ…ほんとに黒子?」
『もちろんですわお姉さま! 黒子の顔を忘れてしまったんですの!? 黒子は、黒子は悲しいですわっ! …うぅ』
「その口調、さっきの変態性…どうやら本物みたいね」
『それよりお姉さま? いつからそんな大きくなられたのですの? さっきまでは黒子より少し大きかったくらいでしたのに』
「はぁ? 何言ってるのよ黒子。私が大きくなったんじゃなくて、アンタが小さくなったんじゃない」
『へ? そうなんですの? ……、そういえば自動販売機がやたら大きく見えますわ』
「でしょ? てか何でアンタが本の中に入ってんのよ? 変な能力者に何かやられたの?」
『何で…と言われましても、わたくしはさっきまで常盤台の寮にいたんですのよ? お姉さまはちょっと出かけてくるって言ってましたけど』
「ん……?」

 美琴はそう白井が言ったので、何か覚えがあったのか首を傾げた。
 そういえばここに来る前白井にどこに行くのか追求されたので、美琴は「ちょっと出かけてくる」って言った気がする。
 美琴は本を地面に置き、ちび黒子を左手に持つと、右手でゲコ太の携帯を取り出し白井に電話をかけた。
 もし本物ならこのちっこいのが電話に出るはずだ。

【……はい。お姉さま? どうなされたんですの?】
「…」

 美琴はちび黒子を見るが、別に携帯を取り出しているわけでもなく、美琴の手のひらの上が気持ちいいのか親指に頬擦りしている。
 電話で話している白井は今常盤台の寮にいて、風紀委員の仕事をしているらしい。
 美琴はほっとしたのと同時に何やらワケがわからなくなってきたので、とりあえず「えっと、なんでもない。じゃあね」とだけ言って電話を切った。
 そしてちび黒子に視線を落とす。
 よくよく見てみるとちょっとデフォルメされているような、されてないような…。
 手のひらにいるちび黒子は依然どこからかハートをぽわぽわと出しており、体をよじって喜びを表現しているようだ。

「ねえ黒子。そういえばアンタさっきまでは私といたって言ってたわよね?」
『はいですの。お姉さまったらまたあの殿方を探しに行ったんですわ! そうに決まってますわ! キィィィィィイイイ!!!』
「あ、あああの殿方!? ま、まさか私とあの馬鹿もこの中にいるっていうの!?」
『…? はいですの。毎日会ってるじゃありませんの』
「ちょっちょちょ…ど、どこに行ったのよ!? 私は!?」
『そ、そんな事わたくしは存じませんわ。お姉さまは出かけるとだけしか仰っておりませんでしたもの』
「そ、そういえばそうだわ…って、ん? と言う事は…?」

 美琴はさっきまでの白井とのやりとりを思い出し、考える。
 今の自分がここにいるのだから、この中の自分ももしかしたら本の中でここに来ているのではないかと。
 そう思い美琴はちび黒子を本に置くと、ちび黒子は何やら文字に吸い込まれ消えていった。
 その文字も何やら読み取れない文字だったが、そのページを見開きでよくよく見ると、何やら地図になっているような気がした。

「この地図の形……、第七学区だ」

 美琴がそのページを見渡すと確かに第七学区の地図のようで、細かく読めない文字であるが書かれてあった。
 学舎の園もきちんと一つ一つ学校が分かれているし、常盤台女子寮…これがさっき光っていた文字だ。
 それに上条当麻常連の病院、最近閉鎖したと噂されている三沢塾…。
 間違いなくここ学園都市の第七学区だ。
 とすると今自分がいる公園は…これか? 美琴は読み取れない文字に触れると、そこから声が聞こえてきて別のページが光り出した。
 その光は先程ちび黒子を召還したようなピンク色の綺麗な光で、美琴はそのページを開く。

『ったくアイツは一体どこで何をしてるのよ! 電話には出ないし、メールは返さないし!』
「…いる」

 そのページで光っている文字に触れると、先程のちび黒子同様にちび美琴がページの上に現れた。
 ちび美琴は何やらイライラして携帯をいじっており、頭からビリビリっと漏電している。
 美琴は恐る恐るそのちび美琴を摘んだ。

『わっわっわっ! な、なに!? なに? なんなの!? …って、私? 大きい私が…いる』
「間違いない。このちっこいのは私ね。電磁波で分かるわ」
『あ、あああアンタ一体何者なの!? あ、あれね! 私の格好した能力者ね! やたらでっかいし妹達とは思えないし!』
「私は私よ。御坂美琴。常盤台中学二年生」
『御坂美琴は私よ! …て、嘘。確かに出てる電磁波が私と一緒だわ…』
「わかってくれた? それより何でアンタそんなにイライラしてんのよ?」
『ふえ? そ、それはあの馬鹿に電話やメール沢山してるのに全然出てくれないし返してくれないから…』
「あの馬鹿? …あー、あの馬鹿ね! ホントあいつは私の事なんだと思ってるのって聞きたくなるくらいのスルーっぷりよね!」
『そうなのよ! ったくこっちの気も知らないで! あいつの周りにはいっつも胸が大きい女の子がいるし!』
「私だっていつかはあんくらいなるわよね!? あー、何か私もイライラしてきたわ!」
『アンタもよく分かってるじゃない! ったくあの馬鹿今度会ったら超電磁砲の一発や二発…って、ん?』
「あれ…? ま、まさか…やっぱりアンタも、あ、あああいつの事…その、す、好き…なの?」
『すっ!? すすすすすすすっ!!!???? あ、アンタはどうなのよ!? まさかアンタもあいつの事、好き…なんじゃ』
「すっ!? すすすすすすすっ!!!????」

 美琴とちび美琴はボボンと頭から湯気を出し、顔を真っ赤にすると同時にふにゃーとした。
 美琴は本の前で座ると、ちび美琴を両手で優しくすくう様に手のひらに乗せる。
 ちび美琴はその手のひらの上でちょこんと正座している。
 美琴とちび美琴は二人とも俯いてあうあうしていたが、その時本の上に何か見覚えのあるツンツン頭の少年が出てきた。

『ふんふんふんふん~♪』
「わっわっわっわっ!!! あ、ああああの馬鹿ことこの馬鹿が出た!! どっどどどどうしよう!!!」
『おっおおおおおお落ち着いて私!! と、ととととりあえず私を降ろして!!!』
「わっ、わかった!」

 美琴はちび美琴を本に降ろすと、何故か今度はちび黒子の時のように文字に吸い込まれてはいかなかった。
 どうやら光っている文字に触れないと戻らないらしい。
 ちび黒子の時は本の上に置いた際に触れてしまったのだろう。
 そしてツンツン頭、上条当麻みたいな小さな少年はちび美琴がいきなり目の前に現れたので壮大に驚いたのか激しく動揺し始めた。

『う、うわああああああああああっ!!??? み、みみみ御坂さんっ!? な、何だ何だよ何ですかァ!? いつからそこにィィィィ!?』
『あっ…あああアンタ! 何で電話に出ないのよ! メールも沢山送ったのに返してくれないし!』
『電話? …あー、すまんすまん。朝起きたら電池切れててさ、今日は家に置いてきてるんだよ』
『そ、そうなの? そ、それならいいけど…。携帯の料金ただなんだから私が電話したら出て、メールが送ったら返してよねっ!!!』
『あのなー。いくらただだからって買い物でどっち買うか迷った時にいちいちメールで画像送ってくるなよ。
 俺が選んでも結局決めきれなくて両方買って来るみたいだし』
『い、いいじゃないそんなの! あ、ああアンタの意見が聞きたいんだから!!!』
『はぁ? なんだってそんな事…』
『だっ、だって…』
『…ん? どうした御坂? 顔赤くないか? 風邪でもひいたか?』
『うぅ…、ぁぅ』
「イライライライライライライライラ…」

 ちび上条とちび美琴のやりとりを見た美琴はイライラを隠せなく、言葉にイライラと出てしまう程だった。
 それは何故か。理由はちび黒子の時と同じようにちび美琴からも赤いハートがぽわぽわと出ていたから。
 しかしちび上条はそのハートに気付くことなく平然としている。
 ちび美琴はそのハートを誘導ミサイルの如くちび上条に向けて発射させるが、ちび上条にはジャミングがかけられてるかのようにスカスカと当たらない。
 美琴はそのハートの当たらなさっぷりに見るに見かねてちび上条を思い切り握りこんだ。

「ア・ン・タ・わーーーーーーっ!!! そこまでして私からの愛を受け取れないってかぁああああああああああっ!!!????」
『うっうわあああああああああ!!??? こ、ここ今度は何だ!? って御坂!? なっ何でいきなりそんなでかくっ!?』
「んなこたぁどうだっていいのよ! アンタね! ちょっとくらい私を女の子として見てくれたっていいんじゃないの!?」
『なっ、何を…言って…く、くるし……』
「私にそんなに魅力がないか! そんなに巨乳が好きか!? そんなにお姉さんが好きかぁああああああっ!!????」
『お、落ち…着いて、み、みさ…御坂……、さん』
「大体ちょっと考えたら分かるでしょうがぁっ!!! 嫌ってる奴と恋人契約なんかするかぁあああっ!! 好意見え見えでしょっ!!!」
『ちょ…、ま…、………って』
「あ」

 美琴はちび上条を握りこむと前後にガクガクと激しく揺する。
 ちび上条はその圧力と振動に意識が飛んでしまいピクピクとしてしまった。
 そんな上条を見た美琴は動揺してオロオロとしだす。

「あ、ああ…ど、どうしよう! えっとえっと…」
『こら私! はやくその馬鹿をここに置きなさい!』
「へっ!? あ…うん。わ、わかった!」

 美琴はちび美琴に言われた通り本の上にちび上条を戻すと、その上条にトテテと正に文字が出てちび美琴が近づいていった。
 ちび上条からは白いふわふわした何かが出ているが、ちび美琴はその上条の頭を持ち上げると自分の膝の上に乗せて上条の頭を優しく撫で始めた。
 自分もした事がある膝枕だ。今思うとあのツンツンの髪がチクチクしてくすぐったかった。

「なっ…!」
『えへ、やっ…やっぱりここは私が看病しないとダメよね。げ、げげ原因は…わ、私……だし?』

 ちび上条とちび美琴の空間はそこだけ何かピンク色になり、ちび美琴からはこれでもかというくらい真っ赤なハートがぽわぽわ出ている。
 ちび美琴は恥ずかしそうにしながらも幸せそうな顔をして上条の頭や頬を撫でている。
 美琴はそのちび美琴の表情を見ると、この子は本当にこいつの事が好きなんだなと思った。

「(あ。てゆうかコレ私じゃん)」

 美琴はそう思うと途端に顔を真っ赤にし、俯いてモジモジしだす。
 視線はちらっちらと本の上の二人を見るが恥ずかしすぎて見てられなくなり、すぐに視線を外すが気になってまた見る…の繰り返し。
 するとちび美琴は何を思ったのか急にキョロキョロしだし、ちび上条の顔に自分の顔を近づけていった。
 ちび美琴の顔は依然真っ赤で、目は何故かトロンとしていた。
 
「(え? こ、この私は今から何をしようとしてるの…? 段々顔が近くなっていくけど…え? えぇ!?)」

 美琴はいきなりのちび美琴の行動に動揺を隠せなくなっているが、そんな中ちび美琴はちび上条の頬に優しくキスをした。

「なっ、なにをしてんだ私ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!!?????」
『うっうわっ!? い、いきなり大きな声出さないでよ! ビックリするじゃない!!』
「あ、あああアンタ今そいつになにしたか分かってんの!?」
『…へ? 今? 今私何かやったっけ…?』
「あ、アンタ無意識のうちにやっちまったのかぁ!!! あ、アンタはねぇ! 今そいつのほっぺたにキッ、キキ…キスしたのよっ!!!」
『キッ、キスぅぅぅぅ!!??? わ、私がこいつにぃいいい!!?? う、嘘よそんなの!!!!』
「嘘なんかつくかぁああああ!!!! アンタは何を思ったか急にキョロキョロしだして、うっとりした表情でキスしたんじゃああああっ!!!」
『う、うそ…ど、どうしようどうしよう…、ふぁ、ファーストキスはロマンチックにって思ってたのに…』
「だっ大丈夫よ。ファーストキスは唇同士なんだから今のはノーカウント! 挨拶みたいなものだわ!」
『そっ、そうよね! 挨拶よね! あははは』
「そうよ挨拶よ! あはは」
『ははは…はぁ』
「……アンタ本当にこいつの事が好きなのね」
『…うん。私はこいつが大好き…。でもコイツは全然私の気持ちに気付いてくれないし…』
「連絡なしに勝手に海外に行って死にかけるし…」
『見境なしに人助けして、その度に女の子に惚れられるし…』
「でも、そんなところがいいのよね。うまく言えないけど…」
『うん…。私はそんなの全部含めてコイツが大好きなの、えへへ』
「わっ私も。そんなアイツが大好きなんだ。えへ、えへへ」

 美琴とちび美琴はそう言うとお互いに顔を見合って笑いあった。
 自分の本心を全て吐き出したのでどこかスッキリした顔になっているのが分かる。
 きっと相手から見てもそれを感じることが出来るだろう。
 すると美琴は本の上のある変化に気付いた。
 ちび美琴から出る赤いハートがちび上条の胸に入っていくのだ。
 どうやらちび美琴からはそのハートが見えないらしく、笑い合った後また上条に視線を落として優しくツンツンの髪を弄っているが、
 ちび美琴から出てる真っ赤なハートは上条にどんどんと吸い込まれていった。
 心無しかちび上条の頬が赤い気がする。
 ま、まさか―――

「ねぇちょっと…コイツもしかして気付いてるんじゃないの?」
『ふぇ!? う、うそ!?』
「あ! 今こいつから『ドキッ』って文字が出た! 絶対気付いてるわコイツ!」
『アンタ本当に起きてるの? あと五秒以内に起きたら電撃は勘弁してあげるわ。4、3、2…』
『うっ! うぅーーーーん! あ、あれ? 俺気絶してたのか!? あは、あはは!!!』
『アンタどこから気付いてたのよ?』
『な、何を言いますか御坂さん。上条さんは今、まさに今さっき目を覚ましたのですよ?』
「……正直に言えばこの超電磁砲は撃たなくて済むわ」
『でかっ!? コインでかっ! てか素がでかい!』
『そっちを防いだとしてもこっちの超電磁砲もあるわよ?』
『あ…あぁ。に、逃げ場が無い……、不幸だ』
「で? アンタはいつから気付いてたのよ?」
『え、えっと…あの。お、怒らないでせう?』
『うん』
『じゃ、じゃあ言いますけど…、その…
 「嘘なんかつくかぁああああ!!! アンタは何を思ったか急にキョロキョロしだして、うっとりした表情でキスしたんじゃああああっ!!!」ってところから…ですね、はい』
「…」
『…』
「…私だあああああああっ!!!!!」
『あ、アンタねぇ! やっぱりあの大声で起きちゃってたんじゃない!』
「だってだって…いきなりあんな事するから…」
『じゃあ…その、その後の会話も聞いてたって事…?』
『……あぁ。聞いた』
『そう…』
「あ、あの…ご、ごめん。私のせいで」
『ん? いいわよ別に。いつかは言おうとしてたし。何かスッキリしたわ』
「そ、そう…なんだ」
『で? あ、アンタはどうなのよ?』
『へ? ど、どう…とは?』
『アンタ鈍感にもほどがあるでしょうが! この状況でどうって私の事どう思ってるかって事に決まってるでしょ!?』
『えっと…その、あぅ…』
『私はさっき聞いたかもしれないけど、アンタが大好き。全部。全部大好きなの』
『み、御坂…』
「あれ…?」

 美琴は見た。
 ちび美琴から告白された時に、ちび上条からハートが出た事に。
 それはちび美琴ほど大きなハートでは無かったが、しっかりと形を成しふわふわとちび美琴に吸い込まれていった。
 それをちび美琴は気付かないが、美琴は何故かとても嬉しくなった。 
 その光景を見た美琴はこれ以上この二人の邪魔をするのは野暮かなと思い、ちび美琴を出した文字に触れると本の上の二人は吸い込まれていった。
 辺りは一気に静けさを取り戻し、自販機の冷却音だけが聞こえてくる。
 美琴は本を閉じて元あった場所に立てかけると、自販機の上に置いていたヤシの実サイダーを手に取り、一口飲んだ。
 そしてまた自販機の上に缶を戻すと背伸びをする。
 結構な時間座り込んでいたせいか背中がちょっと痛いし、足が痺れている。
 美琴はその後小さく溜息を吐くと何かを感じた。
 後ろに…、誰かいる。
 美琴は恐る恐る振り返るとそこには―――

「よ。やっと気付いたか。何かおもしろい事やってたな」
「あ」

 等身大の上条当麻が立っていた。
 先程の本の上にいた上条は少しデフォルメされた感じだったが、この上条は今日まで美琴が見てきた本物の上条当麻だ。
 今日は休日なのだが何故か学生服姿で、頬を染めて頭をぽりぽりと掻いていた。

「あああアンタ! いつからそこにいたのよ!?」
「ん? 今さっきだよ。超電磁砲がどーとかってところから。うずくまってるから何してんのかと思ったけど」
「そ、そうなんだ」
「と言いますかさっきのって俺とおまえ…なの? やたらハート出てたけど」
「う、うん…。多分…てゆうかあれは絶対私達だった」
「超能力か何かか? でも何つーか面白い能力だな」
「うん。何で本の中にいるのかは分からないけど…」
「さっきの二人いい感じだったしな。よく出来てる人形劇っぽくてさ」
「うぅん。この本の中の世界は本物よ。私の性格とか考えてる事まで全部一緒だったもん」
「マジで!? すげーなそりゃ。…って、ん? 一緒?」
「そ、そうよ。私もあのちっこい私もやりたい事が一緒なの」
「え、えっと…御坂さん? それは…、その、つまり…」
「私…アンタが大好き。ずっと、ずっと好きだったの。あのちっこい私も言ってたけど、いつか言おうと思ってた」
「御坂…」
「ねぇ。アンタは私の事どう思ってるの? 聞かせて。アンタの気持ち…」
「えっと…、その。うん…、正直言ってビックリしたってのが一番かな。でも…それ以上に普通に嬉しい」
「え!? じゃ、じゃあさ…」
「まっ待った! その…、今非常に上条さんは混乱してまして…だっ、だからちょっと言葉を選ぶ時間が欲しいといいますか」
「そっそんなの…必要無いじゃない。好きか………き、らいかで…」
「そ、そうか。じゃあその…好き」
「ホントに!?」
「……かも」
「…アンタね! この状況で乙女心を弄ぶとはいい根性してるじゃない!! 死ぬ覚悟出来た!?」
「ちょっと待て! だ、だから…その、何て言うか…」
「なによ。アンタらしくないわね。はっきり言いなさいよハッキリ!」
「その…さっきまでは友達として見てたけど、なんて言うか今の御坂見てると…、その…可愛くて」
「か、かわっ……!」
「好きに、なっちまった…かも? って言いたかったわけです。はい」
「じゃあ…付き合って、くれるの?」
「御坂が、こんなんでいいならだけど…。でも本当に俺? 俺おまえに何か好かれる事やったっけ?」
「うん…。一生に一度の恋をさせてくれた」
「ちょっ、御坂さん…。さっきから台詞がストレートすぎて、上条さんのひ弱な心臓が張り裂けんばかりに高鳴っているんですが…」
「えへへ。いいの。アンタが自分の好意に気付いてないなら、気付けるくらい私の事好きにさせてあげる♪ だからいっぱい好きになってね♪」
「で、では御坂さんに…これを」
「え?」

 上条は左手で自分の周りの空間をすくうと、美琴に差し出した。
 その手の上には何も見えないが、先程の本で起きていた事を見ていた二人ならそれがどういう意味か分かる。
 つまり上条は、自分から出た赤いハートを美琴にあげようとしているのだ。
 美琴は上条の手にゆっくりと両手を持っていくと、ガラス細工を扱うように優しく受け取り自分の胸にしまった。
 そしてその瞬間、美琴は何とも言えない気持ちになる。
 上条の優しさや温かさが体全体を包んでくれているようだ。
 上条も美琴のその姿を見て恥ずかしそうに顔を染め、頭をぽりぽりと掻いている。

「さっきの二人見てたらさ。今の俺も確実に出てるなと思って」
「ありがとう。アンタの想い、確かに受け取ったわ」
「まだまだおまえ程じゃないみたいだけどな」
「そんなの当たり前よ。私のアンタに対する愛はこの上ないものなの。これを上回る事が出来るのは私だけよ」
「そ、そうなんですか。では、なるべく近づけるように努力します」
「えへへ。期待してるね!」
「えっと…じゃあ。不束者ではありますが、どうぞ宜しく、お願いします」
「うん! よろしくね!」

 そう言うと美琴は上条の腰に手を回し抱きついてきた。
 美琴は上条の胸に幸せそうに頬擦りすると、心の中で白井に何かを感じて同時に謝った。ごめん黒子。アンタの気持ちが分かる気がするわ。
 上条はいきなりの美琴の甘えっぷりに驚きオロオロしだすが、美琴から「えへへ」と聞こえてきたので引き離す事なく頭を撫でてあげた。
 しばらくすると美琴は上条の胸から離れ、腕を絡める。
 まだまだ甘え足りない表情をしていたが、すぐに「じゃあ初デートに行きましょ!」と言い笑顔になった。

「まずゲーセンでプリクラ撮るでしょ? そしたらセブンスミストで買い物して…、それからそれから」
「えっと…その事なんですが、実は上条さん今日課題を貰ってきてしまってですね」
「はぁ!? アンタね。休みの日に補習受けてその上に課題まで出されるとか、どんだけなのよホントに…」
「いやね。上条さんの頭の悪さでも本来なら補習だけで済むんですよ。しかしですね出席日数が足りてないからって」
「それはアンタが学校さぼって海外飛び回ってるからでしょうが!」
「うぅ…そ、そうなんですが」
「まぁいいわ。さっきも言ったけど、私はアンタのそういう所も含めて全部好きなの。だからプリクラだけ撮ったら課題見てあげるわよ」
「御坂さん…女神ですか」
「えへへ。明日から暇な日は無くなりそうね♪」
「上条さんなりに頑張ります」
「ふふん。じゃあ行くわよ! って…この本どうしようか」
「ん? このままでいいんじゃないか? 元からここにあったんだろ?」
「うん。…ねぇ? あの二人はどうなったのかな?」
「わかんねぇけど…、でも、一緒の気持ちならあの二人も今頃こんな感じになってんじゃねぇかな」
「えへへ。そうだといいね♪」

 美琴はそう言うと、笑顔で上条の腕を引いてゲームセンターへ向け歩いていった。
 美琴は今まで想いを寄せていた大好きな上条当麻との初デートに、気持ちが抑えきれずに周りを気にせずはしゃいでおり、
 上条は今さっき生まれた御坂美琴への恋心が激しく膨らみ始め、恥ずかしそうだが満更でもないようだ。
 そして二人が去った後、自販機前に安全ピンで留めている白い修道服を着た少女が現れる。
 その少女は自販機に立てかけてある本を手に取ると溜息を吐いた。

「はぁ…やっぱりここにあったんだよ。ここしか考えられなかったけどあって安心したかも。…って、もうこんな時間なんだよ!
 そろそろとーまが帰ってくるから早く帰らなきゃ!」 
『ほら! 早くゲーセン行こうよ! 課題が終わらなくなるわよ!』
『そ、そんな引っ張るなよ御坂…』
「あれ? とーまと…、短髪の声? ……ま、いっか。ごはん♪ ごはん~♪」
 とある日の深夜。学園都市第七学区のとあるファミレスにて群れている不良達たちがいた。
 角にある大人数のファミリー席を6,7人が陣取りながら話し込んでいる。
 その内容とは、今テレビで人気になっている女優や歌手の話ではなく、面白いドラマや学校であったムカつく話でもない。
 見ると全員が全員まだ息が切れきれで、2,3人は頭を擦っている奴さえいる。
 そんな彼等の話のネタは――

「だぁーっ! くそっ! また逃げられたぜ! あのツンツン頭の逃げ足大王によぉ!!」
「はぁ…、はぁ…、あ、あいつを追いかけるのもう止めにしねぇか? あの逃げっぷりは常人の遥か上を行ってるぜ」
「おいおい待てよ。せっかく今日は可愛い子ちゃんとよろしく出来るチャンスだったんだぜ?」
「だな。でもあの大王が割り込んだせいで結局女には逃げられるは、大王も逃がすはで…、やってらんねぇよ」
「はぁ、んで。その大王なんだがよ?」
「な、なんだ? まさか見つけたのか!?」
「いや、違ぇ。ネットで流れてる噂なんだが、どうやらその大王に手下がいるらしいんだわ」
「て、手下ぁ!? つーと大王はどっかのグループの頭って事になんのかよ?」
「にしては逃げ腰だな。まぁ一対七じゃ逃げたくなる気も分からないわけじゃねぇけど…」
「でも女を助けるとか正直かっけぇな。女からしたら不良から救ってくれた王子様になるわけだからよ」
「…」
「…」
「…」
「…羨ましい」
「で、でだ! その大王の部下ってどんな奴なんだよ?」
「まず一人目は常盤台の超電磁砲」
「ぶぅぅぅぅぅ!!! オイオイッ! 一人目からぶっ飛んでんじゃねぇかよ! 第三位が手下とか大王どんだけだよ!?」
「しかもその超電磁砲、超可愛いらしいぞ」
「…」
「…」
「…」
「…羨ましい」
「で二人目は瞬間移動の美少女。他にも太刀を持った美女に、槍を持った美女、他にも一万人くらいのいる組織らしいぜ」
「おいおいちょっと待てよ! 何でそんな美女ばっかりなんだよ! 何か嘘臭くねぇか!?」
「てか一万!? 学園都市内部に一万の組員!? こ、これは手ぇ出したら確実に殺られるんじゃねぇの!?」
「いや待て。もしかすると今日みたいな事を繰り返し繰り返ししているうちに女から好かれて仲間になっていくとかじゃねぇのか!?」
「も、もしそうなら俺らが組織拡大に貢献してるって事だよな?」
「そ、そうだな…」

 不良達は同時に「はぁ…」と溜息を吐くと、ウエイトレスが持ってきた水に口をつけ一息入れる。
 さっきまでツンツン頭の逃げ足大王を追いかけて走り回っていたのでとてもうまかった。
 不良達はまだ同時に「はぁ…」と溜息と吐くと、走り回って体力を使ったのか、お腹がぐぅと鳴り、食事を取ることにした。
 不良と言ってもまだ学生でお金はあまり持ち合わせていないらしく、クーポンある? とか、こっちの方が安くて多いなとか話し合っていた。

「あー、彼女欲しいなぁー」
「なんだよ急に」
「おまえら欲しくないの? 花の学生生活に女は付きもんじゃねぇ?」
「女ねぇ…、まぁいたらいたで面倒そうだけどな」
「つか俺ら彼女欲しくてナンパしてるんじゃなかったっけ?」
「あ? そ、そういやそうだな」
「……ちょっと待て」
「あ? なんだよ?」
「俺らは彼女が欲しい」
「あぁ」
「で、ナンパをする」
「するね」
「で、大王が邪魔をする」
「…するな」
「で、大王の組織がまた大きくなる…の無限ループになってねぇか!?」
「…」
「…」
「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!???????」」」」」」
「た、確かに言われてみればそうだな!」
「だろ!? 俺等が彼女を欲すれば欲するほど大王の組織拡大に一役かってんだよ!」
「じゃ、じゃあよ! 俺等が彼女をゲットするには…、どうすりゃいいんだ?」
「大王をとっ捕まえたところで後々一万の組員が押しかけてくるし…」
「捕まえるといっても、何でも大王には超電磁砲が側近として付いてるらしいぜ?」
「はぁ!? くそっ! 大王の野郎ぉ! 美女ばっかの組織の上、美少女を側に使わすとはっ!!!」
「こ、これじゃもう打つ手ねぇじゃねぇかよ…、どうすんだ?」
「…」
「…」
「…」
「……俺に、いい考えがある」
「え?」

 そう言い出したのは今までただの一言も話さなかったスキンヘッドの男だ。ダボダボのパンツに大きめのパーカー姿のがっちりした男。
 仲間内からはその男は哲と呼ばれ、寡黙だがやる時はやる男だし、とても情深い奴として人気がある。
 哲は、話の途中で運ばれてきたハンバーグステーキを一口サイズに切ると、猫舌なのか十回程ふーふーして口に運んだ。
 口の中に広がる肉汁を感じつつライスを一緒にかっ込む。
 そして哲は「うめぇ…」と言うと、他の男達に目を向けた。

「要するに、俺等も同じ事をすればいいだけだ」
「は? 同じ事? なんだよ、哲。同じ事って」
「いつも大王がしている事だ。俺らはナンパ側だったが、今度はナンパを止める側に回ればいい」
「な、なるほど! さすが哲だぜ! さすがにナンパを止めてる奴には大王も何も言ってこねぇだろうしな!」
「そんでもって大王の組織も拡大する事なく!」
「助けた美少女が俺らの為に色々とやってくれるってわけだな!!!」
「ふっ…、そういうこった。何故今まで気付かなかったのかと自分を殴りたくなるぜ」
「よっしゃ! じゃ、じゃあ早速明日から作戦開始と行こうぜ!」
「だな! もう夜遅いし早く帰らないと明日の作戦に支障をきたす!」
「じゃあ時間と場所は明日学校で決めようぜ!」
「ああ! よっしゃー! 何か燃えてきたーっ!!!」

 こうして不良達は明日への希望へと走っていくのであった。


 そんな事があった翌日。その不良達の話題とされていたツンツン頭の逃げ足大王こと上条当麻は、眠気眼を擦り登校していた。
 昨日深夜近くまで追いまわされてたせいか、足取りは重く、フラフラと欠伸をしながら歩いている。
 上条当麻はどこにでもいるごく普通の高校生で、ちょっと不思議な力があるが、別に手から電気が出るわけでもなく、太刀や槍を持っている
 わけでも無く、瞬間移動できるわけでもなかった。増してや一万の組員の頭なんか最初からやっていない。
 昨日不良達が言っていたのはあくまでも噂で、上条は今日もなんにもないちょっと不幸な一日を送っているだけだった。
 まぁ噂が全部嘘と言ったらそうでもなく、確かに上条の周りにはちょっと過激な美女がいるし、考えようによっては一万の組員がいる。
 それはあくまで考えようなのだが、その噂で確実な事が一つあった。それは―――

「おっそい! まったく毎日毎日! どれだけ待たせれば気が済むのよ、当麻はっ!」

 そう言って顔を膨らませているのは常盤台の超電磁砲こと御坂美琴。
 彼女は今や上条当麻の恋人であり、登下校を共にして休日には上条とデートなどと学生生活をエンジョイしていた。
 つまりはあの噂の大王の側近が超電磁砲と言うのは強ち間違ってはいない。恋人として常に隣にいるのだから。
 上条は美琴の目の前までフラフラと歩いて行くと、力尽きたようにぽふっと美琴の体に倒れ掛かった。

「なっ…、ちょっちょちょちょ! そ、その…あの…あわわ」
「すみません美琴さんー…、上条さん昨日あまり寝てなくてー…ぐぅ」
「ど、どうしたの? 何かあったの?」
「ちょっと…、過激なお兄さん達に追いかけられてたんですよー」
「追いかけられてた? …アンタまさか、また不良達から女の子庇ってたんじゃないでしょうね?」
「ん? ……そうです、けど」
「あ、アンタね! 庇うのが悪い事とは言わないけど、追いかけられたら私に連絡してよ! 一瞬で終わらせてあげるから!」
「あのですねー、お兄さん達にも命というものがあって…」
「そ・れ・で・も! 当麻に何かあったら、私…」
「ははは、大丈夫ですってー、逃げ足には自信があるんですからー」
「それは嫌ってほど知ってるけど…、あまり無理しないでね?」
「おうよ。優しいなー、美琴さんはー」
「あ…」

 上条は美琴から離れ、美琴の頭を優しく撫でる。
 美琴からすれば大好きな上条に頭を撫でられた上に、笑顔を見せられたのでこの上なく幸せな気分になり、先程まで沈んでいた表情を一気に赤く染め上げた。
 目はトロンと座ってしまい、体を子猫のように一回り小さくさせた。
 上条も美琴の頭が撫でやすいのか笑顔で撫で続けていると、その笑顔につられて美琴も笑顔になる。

「えへへ」
「でも待たせて悪かったな。ごめん」
「い、いいよ。当麻が無事なら…、そ、それに…、頭撫でてもらったし…」
「うんうん。素直な美琴ちゃんも可愛いですな」
「ふにゅ…」
「じゃあそろそろ行きますか。途中までだけどさ」
「う、うん。…あ、ちょっと待って、当麻」
「ん?」
「ほら…、ボタンの穴ずれてるよ。しっかりしてよね」
「あー、寝ぼけてたもんで…。すみませんねぇ、美琴さん…」
「ま、まったくもう! 当麻は私がいないとダメなんだから! ほら、もういいわよ」
「ありがとな。じゃあお詫びに――」
「へっ!?」

 上条は美琴の右頬に手を添えると、鼻の頭に優しくキスをした。
 美琴は上条と付き合うようになって気付いた癖をいうか、習慣みたいのを見抜いており、上条がキスをする時には決まって自分の左頬に手を添えてくるのだ。
 もちろん今回も例外では無いだろうと思った美琴は、いきなりのキスに頭からポンっと湯気を出すが、慣れもあってか漏電はしない。 
 まぁ漏電がないだけで、上条からのキスはいつだって美琴の心をときめかせる事に変わりはないのだが。
 そんな事があった美琴は、頭を撫でてもらった時に真っ赤にした顔をさらに染め上げ、かするような小さな声で俯きながら上条に言う。

「と、当麻…こんな所で恥ずかしいよ……」
「嫌だったの?」
「い、嫌じゃない…けど」
「美琴さんが可愛くて、上条さん我慢出来なかったんですよー」
「うぅ…」
「はは、ほら。早く行かないとホントに遅刻するぞ」
「あ! ま、待ってよ!」

 美琴は上条に走り寄ると、腕を絡めて歩きだした。
 上条はこっちの方が恥ずかしい気がすると思ったが、美琴が楽しそうにしていたのでそのまま登校する事にした。
 ここ学園都市は学生が大多数を占める街であるためカップルも学生しか見ないと言っても過言ではないが、常盤台の制服を身に纏っている女の子を連れて
 歩くのは上条としては幸せな事だが不幸な事でもあった。
 上条が通っている高校と美琴が通っている常盤台中学の丁度分かれ道、二人はここでいつも放課後どこで落ち合うか話し合う。
 今日は上条の補習もないし、昨日のうちに特売品を買い占めたので食材の心配もしなくていい。
 そう言って二人は今日はファミレスでも行ってゆっくり過ごそうって事で別れた。
 美琴は今日の放課後が待ちきれないのか足取り軽く走って行き、その後ろ姿を見送った上条は、たまたま近くにいた土御門と青ピにボコボコにされた。


 そして放課後。
 昨日の深夜に彼女ゲットと意志高らかに掲げた不良達は、昨日と一緒のファミレスに入り獲物を待っていた。
 普段の彼等ならこの獲物は女子中高生なのだが、今日はそうではなく、その中高生を狙うナンパを獲物として待っているのだ。
 ファミリー席を陣取り、仕切りの隙間や影から今か今かと周囲に視線を向ける。
 現在店内に客足は少なく、いても男子やカップル達ばっかりだった。
 不良達は、つまらなそうにドリンクバー用のコップを持つとズズッと一気にジュースを飲み込み溜息を吐く。
 するとそんな中カランカランという鈴の音が鳴り響き、入り口のドアが開いた。

「ん? お、おい見ろよ! 女だ! しかも一人!」
「おぉぉぉ!!! しかも可愛いじゃねぇか!」
「くぅぅぅ! お近づきになりてぇ…! はぁ…はぁ…」
「お、落ち着けお前ら! ここで出て行ったら計画が水の泡だぞ!」
「あ、あぁ…」

 そんな彼等の注目の的になってる女の子は、店員に「いらっしゃいませー」と招かれ、テーブルに着いた。
 店内は空いていたため待ち時間は無く、水を持ってきた店員に何やら注文したのかメニューは受け取らなかった。
 女の子は長い黒髪にセーラー服姿で、その胸元には女性の象徴とも言える膨らみが自分を主張しているようにセーラー服を盛り上げている。
 年はハッキリとは分からないが、中学にあがったばかりか高校生には見えない幼い顔立ちをしており、その少女は鞄からノートを
 取り出すとカリカリとペンと走らせていった。

「…いい子ちゃんじゃねぇか」
「…」
「て、哲ちょっと落ち着け。スキンで凝視はかなり怖い」
「つかまだかよナンパは? あんな可愛い子俺だったら席に座った瞬間に声かけるぜ」
「ん? いやちょっと待て! 何か近づいていってるぞ! いかにもガラ悪そうだ!」
「おおおおおお! ほんとだ! しかも一人! へっへっへっ! さあ、早くいけっ! そこだ! 声かけろっ!」
「…」
「て、哲すまん。さっきのは謝る」

 そんな彼等の願いが通じたのか、そのガラの悪い男は黒髪の少女の向かいに座り、何やら話し込んでるようだ。
 しかしこれだけだとただ単に彼氏という可能性もあるわけだが、どうやら少女は嫌がってるらしく「やめてくださいっ!」という言葉も聞こえてきた。
 その言葉を聞いて彼等は立ち上がる。来たぜ…ぬるりと……。

「おい。おまえ」
「あぁ? 何だおめーら?」
「彼女嫌がってんだろ? 離してやんなよ」
「はぁ? 何? 俺の邪魔しようっての? 上等じゃねぇかよ」
「ははは。おまえ馬鹿なの? 見て分からない? 俺等七人。おまえ一人。ぶち殺し確定じゃん?」
「馬鹿はおめーらだよ。後ろ見てみな」
「はっ! そんな事言ってその隙に逃げ出そうと―――」

 何やら人の気配を感じ後ろを振り返ると、そこには自分達よりもがたいがいい青年達が十人くらいいて睨みを効かせている。
 指の骨をポキポキッと鳴らす奴もいれば顔中傷だらけの奴もいるし、何が面白いのかヘラヘラ笑ってる奴さえもいる。

「――してるんじゃ? ないですよね。はい」
「逃げないからよ。ちょーっと面かせや。うん?」

 そんな青年達を見て、哲たちは一瞬にして顔を真っ青にした。



「痛ててて…、まだあちこち痛ぇ…。不幸だ…」

 上条当麻は朝の美琴とのラブラブ登校を土御門達に見つかりまずその場でボコボコにされ、それでも収まらないのかクラスで常盤台の女の子と
 いちゃいちゃしながら登校して来たと言いふらし、嫉妬の念を持った男子生徒と、絶望に追いやられた女子生徒に追い回されて現在に至っている。
 毎日不良やクラスメイトに追い回されている上条にとっては、大人数を撒くのはもはや慣れてしまっており、放課後もそんなクラスメイトから
 難なく逃れる事が出来た。

「さて、美琴はもう来てるかな…って。ん? なんだあいつら?」

 上条が見るその先には人だかりが出来ていて、その集団はいかにも怪しい感じでファミレスの前にたまっていた。
 その道を通る他の学生は目を合わせないし、ちょっとでも目が合うと二人三人と迫られる。
 その集団の足元には倒れてる人影が見え、男の一人が黒髪の少女を押さえつけてるように見える。
 上条当麻の特性として不幸に会う条件がどんどんと立っていくが、見てみぬ振りも出来ない彼は今や記憶にないあの方法で脱出を図る。

「いや~、こんな所にいたのか。探したぞ? あ、どうもどうも。連れがお世話になりました~」
 
 そう言って上条は爽やかに女の子の手を取ると足早にその場を後にしようと思ったが、倒れている男達を見て足と止めた。
 見れば倒れている男達は昨日深夜まで自分の事を追い回した連中で、何やら腹を抱えてうずくまっている。
 もちろんそんな状態にしたのは青年達で、その集団の中に単身乗り込んだ上条の不幸数値は極限まで跳ね上がっていった。

「何だてめぇは? こいつらのダチか?」
「え? いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあ何だっつーんだ? あぁ!?」
「なめてんのか? コラ?」
「…不幸だ」
「あぁ? 何だって?」

 上条は逃げるに逃げれなくなったためはぁっと溜息を吐き、この先に起こるであろう不幸を嘆いた。
 しかしまぁこのままでいるわけにもいかないので「仕方ねぇ」と一言言って女の子を後ろに隠し、一歩前に出て言い放つ。

「あぁそうだよ。恥ずかしくないのかお前ら。こんな大勢で女の子一人囲んでなっさけねぇ!」

 その一言を受けて青年達は目を見開き、少女にいたっては口をぽかーんと開けていた。


 そんなファミレス前から時間と場所を変えて、こちらは御坂美琴。
 時は少し遡り美琴は走っていた。
 美琴は学校が終わったらすぐにでも上条の待つファミレスへ行くつもりだったが、放課後同じ学校の一年生に相談に乗って欲しいと言われたので、
 教室でその少女の話を聞くことにした。
 相談事を言うのは、美琴自身の能力でもある発電のことで彼女もその系統のレベル3のようだ。
 大能力者や超能力者なら誰もが経験するであろうレベル3から4への壁は飛び越えるのはあまりにも高く、その少女もその事で悩んでいた。
 御坂美琴はレベル1から5まで上り詰めた事で有名であり、発電能力としてその頂点に君臨する美琴に相談に来たというわけだ。
 美琴はその少女の話を聞き、自分が今までやってきた事を話したが、その事に少女は大変驚いた。
 それはそんな血の滲むような事をしてきたのかとかそういう事ではなくて、自分は変に焦りすぎて自分を見失っていたという事だった。
 美琴は満足のいくアドバイスじゃないかもしれないけどと言ったが、少女には全然そんな事は無く、笑顔でお礼を言って帰っていった。
 
 そしてそんな事があってか、美琴はファミレスに行く時間が遅くなり現在絶賛全速力中なのだ。
 美琴も上条の事をその昔夜通し追い掛け回していたので足の速さと体力には自信がある。

「遅れちゃった遅れちゃった遅れちゃったーーー! 待っててね当麻っ! 今行くからねっ! えへ、えへへ」

 まぁ何と言うか色々切羽詰っている美琴なのだが、そんな心境を変える出来事が目の前で起きていた。
 それは遠くからでも分かる上条当麻の特徴でもあるツンツン頭が何やら集団の中に割って入って行ったこと。
 美琴はツンツンが目に入った瞬間に胸を高鳴らせたが、その後の事から、また上条は女の子を守りに行ったのだと直感的に感じる。
 昨日の夜もそれで追い掛け回されていたらしいし、どうしてそんなに無茶をするのかと美琴は思う。
 しかし怒りはしない。そんな上条当麻を自分は好きになったのだから。
 美琴がそんな事を考えてその集団に近づくと、案の定上条は女の子の盾になっており、周囲の男達からその少女を守っていた。
 ココだけの話だが、その時の美琴ビジョンでその女の子が頬を染めてるように見えたのはきっと幻覚だろう。
 そして現在に至り上条が青年達に向かって言い放つ。

「あぁそうだよ。恥ずかしくないのかお前ら。こんな大勢で女の子一人囲んでなっさけねぇ!」
「(はぁ…、アイツったらあんな事言ったらボコボコにされるのがオチじゃない…)」
「大体おまえら声をかけた相手を良く見てみろよ!?」
「(そうね。私の時もそうやって言っ―――)」
「…まぁお前らの目に狂いがないのは認める! でもこんな美少女でも大勢で寄ってたかって迫ってくるってのはどうなんだよ!」
「なんでじゃコラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!?????」

 美琴は上条の言葉に我を忘れ、彼女である事を忘れ、数億ボルトの電撃を上条目掛けてぶっ放した。
 上条も最近美琴と一緒にいる事が多いせいか、空気中の僅かな電気の流れから電撃が飛んでくる事を察知し、その方向へと右手を差し出す。
 きっとその時だけ某パイロットのように頭のあたりに電気みたいのが走ったのだろう。
 周囲は一瞬だけ青白く光ると、その後静けさと取り戻し煙が舞い上がった。
 しばらくして煙が風に流せていくと上条は周りを見渡す。
 そこにはさっきまで対立していた青年達が全員その場に崩れ落ちており、ピクピクと痙攣している。
 上条はこれは絶対に美琴だと思って溜息を吐こうとするが、それよりも先にその本人である御坂美琴に制服の首元をがっしり掴まれてしまった。

「ア・ン・タ・はーーーーーーーーーーッ!!!! 何なの一体!? 私の時はガキだの態度が悪いだの反抗期だの言ってたくせにっ!!」
「み、みみみ美琴…やっぱりおまえか! てか、ちょっと落ち着いて…」
「うっさいうっさい! もう頭にきた! 最近は目の前でこういう事なかったから安心していたけど、やっぱりアンタはアンタなのに変わりはないみたいね!」
「な、何をわけのわからん事を言って…」
「可愛い女の子の前だと見境なく飛び出していくその性格を一度徹底的に調教してあげるって事よ!」
「あー…」

 どうやら美琴姫は相当ご立腹のようだ。
 その理由を記憶を失っている上条は知る由もないが、今やその美琴の彼氏をしている。
 こういう時が過去に無かったと言えばそんな事はなく、付き合って最初の頃には部屋にいるインデックスの件で一波乱あり、それが済んだと思ったら
 今度は太刀を持つ美女や二重瞼の美女と一波乱あり、やっとそれも収まったと思ったら妹達の件で大波乱があった。
 その波乱の原因は元を言ってしまえば上条なのだが、大体は美琴が上条と他の女の子が仲良くしているのが見てられなくて騒ぎを起こして
 いるというのが一番の原因なのである。
 そんな事を積み重ねていくうちに上条はそういう状態の美琴の扱いには慣れ、上条は美琴が喜ぶ頭なでなでをしてあげた。

「あ…」
「ったくおまえは。何をそんなに怒ってるのか知らないけど、そんなに荒くなるなって」
「だ、だって…と、当麻は今は私の彼氏なんだよ? そ、それなのに…、その…、他の女の子に目を向けるから…」
「あのな美琴よ。前にも言ったけどそんなに心配しなくったって上条さんは美琴さんにメロメロなんですってば」
「ホントに…?」
「ああ、ホントだ」
「じゃ、じゃあさ…ん!」
「え!? あ、いや…その、ここではちょっと…」
「なによー、やっぱり私とは出来ないって言うの!? そうなのね! そういう事なのね!? うぅ…」
「いやそういうわけじゃないけど…とりあえず周りを見てみようか?」
「ふぇ?」

 そう言われて美琴が周りを見渡すと、風紀委員の面々が揃っており、騒ぎを起こしていた青年達を捕まえてるところだった。
 もちろん美琴もその騒ぎの一員なのだが、一部始終見ていた人が風紀委員に言ってくれたらしく大事にならずに済んだ。
 美琴は上条とのやりとりを見られていた事に恥ずかしくなり、頭からボボボボと煙を出すと俯いてモジモジし始めた。
 そんな美琴を見た上条は、こういう状態になったらしばらくは帰ってこないなと思い、少女に安否の声をかける。

「えっと…、大丈夫か? 怪我とかないか?」
「は、はい! その…、助けていただいてありがとうございます!」
「礼なら俺じゃなくてそこのふにゃふにゃしてる奴と、あいつらに言ってくれ」
「へ?」

 上条が目で指す先には青年達から少女を守ろうとした男達がいて、フラフラになりながらも立ち上がっていた。

「理由は知らないけど、君の事庇ってくれたんだろ?」
「はい…」
「俺は結局何もやってないからさ。お礼を言うならあいつらに言ってくれ」
「は、はい」

 そう言って上条と少女は男達に近づいていった。
 その男達の顔は殴られたのか腫れており、鼻や口からは血が滲み出ており痛々しい有様だ。
 そんな状態の男達を見て上条は溜息を吐いた。

「おまえらな。勝てないと分かってる相手にはまず逃げようぜ。そんなボロボロじゃ助けられた方も心配で仕方ねぇよ」
「う、うっせんだよ大王がっ! 俺らはテメェみたいな腰抜けじゃねぇんだ! 大体女を守るのが男の役目だろうがっ!!」
「えっと…、昨日ナンパしてたのはどこの誰でしたっけ?」
「…うっせぇ! それを言うんじゃねぇよ!」
「でもよ、確かにそうだよな。今日のお前らは昨日と違ってかっこいいぜ」
「なっ…!」
「ほら、君も」
「は、はい。あ、ああああの! 助けてもらって…ありがとうございましたっ!!」
「……気にすんなよ」
「素直じゃねぇな。ひょっとして照れてます?」
「だああああああっ! うっせぇうっせぇ! おまえらもう行こうぜ! 今日は疲れちまったよ」

 男の言葉を受け、他の奴らものろのろとその場を後にした。哲だけは上条に対して深々とお辞儀をして行く。律儀なり。スキンの哲。
 上条はそんな男達の後姿を見送ると、風紀委員に少女を任せ美琴を連れてファミレスへ向かう。

「ほら美琴行くぞ。しっかり歩けよ?」
「ふにゃー」

 未だ美琴は帰ってこないらしい。


 夕日に染まる学園都市をバックに、川原の土手に腰掛ける七人の男達がいた。
 その男達の顔は夕日で真っ赤に染まっており、何やら昨日までの締りがない顔ではなく、引き締まった表情をしている。
 男達は沈んでいく太陽を見送っていたが、そんな中唐突に哲が話し始めた。

「大王が何で人助けをするのか、分かった気がするな」
「…あぁ」
「つかあんな馬鹿みてぇに強い電撃女を丸め込める所からすると大王も相当の力の持ち主だぞ」
「強い奴は馬鹿みてぇに突っかかっていかないって事か…」
「あぁ…、でもさ、何か嬉しかったよな。人から感謝されるのってさ」
「…」
「…」
「お前らホント素直じゃねぇのな」
「…はぁー、でもよ。結局彼女ゲットならずじゃねぇかよ。ここまで痛めつけられて」
「別にいいんじゃね? 今は何か晴れ晴れとした気分だぜ」
「…あぁ。そうだな」
「…」
「…さて、と」
「あ? 何だよ哲。もう帰んのか? 今日は駄弁らないの?」
「今日は疲れたから帰る。珍しくいい気分だしな」
「そっか。じゃあ俺も帰るかな」
「俺もー」

 そう言って男達は立ち上がると街頭で照らされている学園都市へと消えていった。
 そしてその日からその男達が上条へ突っかかって行くことはなくなった。
 そしてその日から第七学区にいた不良が七人消え、変わりに風紀委員希望者が7人増えたのは、また別のおはなし。
 そしてその7人の中で、逃げ足大王とその手下が目指すべき目標となったのも、また別のおはなしだ。
 11月22日は別に特別な日であるわけではないが、世間では「いい夫婦の日」として知られているだろう。日本中の夫婦がずっと幸せでいられますように、という想いから作られたとても優しい幻想的な日だ。
 しかしここ学園都市では、八割が学生のためか「いい夫婦の日」と言われてもピンと来ない人が多い。
 そこである思い立った学生の一人がインターネット上で学園都市の11月22日を「いい夫婦になる日」と書き込んだのが全ての始まり。
 恋に敏感な中高生はもちろん、大学生や職員までその日は自分の恋人にプレゼントを渡したり、夜景が綺麗なレストランなどでその日を最高の思い出にしたりとバレンタインの様なイベントになる程学園都市では知らない人はいない日になっていた。
 「いい夫婦になる日」のコンセプトは、まだ年齢的に結婚は出来ずに夫婦にはなれないが、夫婦のように相手を思いやり普段は言葉に出しては気恥ずかしくなる『ありがとう』や『愛している』をカタチとして送り、バレンタインデーの告白の延長線上として迎え、約一年間の恋人生活を見直し、お互いもう一度初心に帰って幸せな生活を送ってもらいたいというものらしい。

 そんな幻想的な願いが込められた日の前日、11月21日に御坂美琴は何やら思いつめていた。
 美琴は常盤台指定の制服を身に纏い、雲一つない快晴の空を見上げて一人公園のベンチに腰掛けている。
 彼女の思い悩む原因。それは彼女が恋する上条当麻の事で、つい先日たまたま見つけてしまったサイトに書かれてあった文章を読んだためである。
 その文章の内容は「いい夫婦になる日」は恋人の為の日だが、同時に「その日のうちに恋人になれればいい夫婦になれる」という都市伝説のようなものあるらしく、これを見つけたが最後、11月22日に愛しの彼に告白するしかないと思い立った。
 と、そこまではいいのだが全然いいプランが思いつかない。
 最も簡単な方法をしては素直になって想いを告げるのが一番なのだが、ツンデレである美琴が直接そんな事言えるはずもなく、今日まで悩みに悩んできたが結局はいい案が出て来ず途方に暮れていたと言う訳だ。

「素直になれればこんな事考えないでもいいのに…、馬鹿だなぁ私……」

 今学園都市で明日のイベントを知らない人はいないだろうし、恋人がいない人はバレンタインを前に告白する人もいるはずだ。
 なので美琴は悩んでいた。明日は休日で学校は休みだが、自分が恋する上条当麻は何人からお呼びがかかって告白されるか分かったもんじゃない。
 上条が他の誰かから告白を受け、その日のうちに付き合ってしまったなら、自分は一体どうすればいいのだろう。都市伝説なんて噂よ、噂。あはは、などと顔をヒクヒクさせて笑っているのだろうか。
 上条当麻はとてもやさしい人間だ。それは自分が一番わかっている、つもり。
 その彼が女の子を好きになればその彼女に一途になるだろうし、彼の体質からしても他の女の子にも優しくするだろうが、それは距離を置いた優しさで彼女とは天と地の差があるに違いない。
 そういうことが分かってるのに。

「はぁ…、一体どうすればいいのよ」
「…お姉さま?」
「え?」
「こんにちは。と、ミサカは礼儀正しく頭を下げます」
「…ん? あれアンタ」
「はい。検体番号10032号のミサカです。と、以前見せたネックレスを再度見せびらかしながら返答します」

 美琴に話しかけてきたのは妹達の中の一人で、上条からは御坂妹と呼ばれている。
 手には黒猫が抱えられており、そんな彼女の首元には可愛らしいハートの形をしたネックレスが掛けられていた。

「ぐっ…な、何の用よ?」
「いえ。特に用という用はないのですが。と、ミサカは正直に告げます。ミサカはお姉さまが何やら思いつめているので話でも聞いてやるか。と、出来る妹をアピールしようと思ったまでです」

 御坂妹はそう言うと黒猫を地面に優しく置いて、頭を撫でた。黒猫は以前にもこの二人が向かい合ってるところを見たことがあるようで、キョロキョロと姉妹を見ると「にゃー」と鳴いた。大きくはなってもそんな仕草が可愛らしい。
 それを見た美琴は小さく笑った後、「うーん、そうね。まぁ…」と顎に手を当て言葉を濁す。

「またあの方絡みの事ですか? と、ミサカは予想する本命第一位で真相に迫ります」
「あの方? …あー、あの馬鹿ね。まぁその…、何ていうか夢? みたいな事を考えていたの」
「夢とは何ですか? と、ミサカは興味津々になりお姉さまに問います」
「夢ってのは…やりたい事? 未来の自分はこうなりたいとか、そういうものよ」
「そんな事で悩んでたんですか。と、ミサカは溜息を吐きます」
「そんな事ってアンタね! 誰もが悩むことよ!? アンタには夢ないの?」
「夢かどうかはわかりませんが、やりたい事ならありますよ。と、ミサカは間髪入れずに返答します」
「へ? ど、どんな事なの?」

 美琴は妹の夢がとても気になった。
 それもそのはずで妹も恋する相手は上条当麻なのだ。つまりは恋のライバルという事で、その妹の夢となってはほぼ確実に上条絡みだと考える方が自然だろう。

「ミサカのやりたい事は以前お姉さまに言われた通りあの方の夢を守ってあげる事です。と、ミサカは最近少し大きくなった胸を張ります」

 やっぱり―――
 美琴は妹の告白を受け、言葉が出なかった。やっぱりアイツの事だったから。
 美琴はしばらく思考停止状態が続いたが、やがて動き出し驚愕の声をあげる。

「あ、アイツの夢を守るぅぅぅぅ!? え、えっと…でも、私に言われたからってそんな事する必要は…っ! そ、それにそれは…あの時の事であって…その、あうあうあうあう」
「いえ。これはミサカが考えて自分で決めた事です。お姉さまに言われたからやるということではありません。と、ミサカは――」
「そっそうなんだ! で、でもさ…えっと、その…あぅ」
「うん? 動揺しているところから実は夢は既にあるんですね? と、ミサカは問い詰めます」
「そ、それは…こう、なれたら…いいなぁ…っていうのはあるけど…」
「何ですか? 私だけに言ってみてくださいな。と、ミサカは耳を傾けます」
「い、嫌よそんなの! 恥ずかしいじゃない!」

 美琴は本当に恥ずかしそうで、顔を真っ赤にして視線を外す。
 御坂妹に言ったが最後、彼女の頭の中で繋がれているミサカネットワークで残りの9967体の妹達+αに知われる事になるし、なにより自分の夢は幼稚園児でも最近は持たないだろうと思わせる内容だったからだ。
 しかしそんな美琴の夢は簡単に核心に迫られた。

「まぁ乙女な趣味を持つお姉さまの事ですから……、そうですね。大方あの方のお嫁さんになる、とかそんなところでしょうか? と、ミサカは仮説をたてます」
「なっ…ななな…」
「………まさか本当にそうなのですか。と、ミサカはネットワーク上の多数決で決した仮説に驚愕します」
「そっそれは…」
「ほらほら。正直に言った方が楽になりますよ? と、ミサカは刑事の様に真相に迫ります」
「あ、あいつには言わないでよね! こんな事知れたら会うたび会うたびにネタとしていじられるわ!」
「別にいいと思いますが。と、ミサカは依然として素直になれないお姉さまに溜息を吐きます」
「そ・れ・で・も! まだ告白もしてないのにいきなり、おっおおお嫁さんだなんて!」
「お嫁さんが何だって?」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「おや。噂をすればですね。と、ミサカはお決まりの展開に顔をニヤけさせます」

 御坂妹は依然無表情のままだが、どこか楽しそうに声のする方へ目を向けると、その噂の張本人上条当麻は学ラン姿で学生鞄を持ってダルそうに立っていた。
 上条の高校も今帰りだったのかばったり出くわしてしまい、美琴は上条のいきなりの出現に驚き妹の後ろに隠れてしまう。
 上条もそんな美琴に驚いたが、電撃が飛んでこないだけマシだなと思い御坂妹に目線を向ける。

「よ。御坂妹。おまえもう出歩いて大丈夫なのか?」
「まだ本調子ではありませんが慣れるために少しずつ外に出歩くようにしてます。と、ミサカはあなたの突然の出現にも驚くことなく対応します」
「え? あー、悪かったな、いきなり声かけて。遠くで一応呼んだんだけど、聞こえてないみたいでさ」
「そうなのですか。それは失礼しました。と、ミサカは頭を下げます」
「…で、おまえは何をしてるんだよ」
「うっ」

 御坂妹が頭を下げたことで美琴が丸見えになり、上条にジト目をされ問いかけられた。
 美琴は先程の話から上条の顔をまともにみれなくなり、俯いてモジモジしだすが、そんな美琴を見て御坂妹は美琴の変わりに上条の質問に答えた。

「将来の夢について話し合ってたところです。と、ミサカは先程までお姉さまと話していた内容を教えます」
「ちょっ―――!」
「将来の夢? すげえな。まだ中学生なのに将来の夢なんて。上条さんは夢なんて全然さっぱり思いつきませんよ~」
「あなたもですか。と、ミサカはお姉さまと同じように夢を持ってないあなたに溜息を漏らします」
「何だよ御坂。おまえも夢ないの? まぁおまえならやる気になれば何でも出来そうだけどな」
「な…ない事ない…、けど」
「あれ? でもさっき御坂妹が…」
「実を言いますとお姉さまの夢はあなたのおよ、ふごっ」
「だぁああああああああっ!!! い、言わないで! 恥ずかしいんだから!!!」
「あ? やっぱりあるのか? そんな恥ずかしがる事ないと思うけどな。立派なことじゃねぇか」
「ふごっ、ふごっ」
「そ、そう…なのかな?」
「ああ。夢、叶うといいな」

 そう言って上条は美琴に笑顔を向ける。
 美琴はその優しい笑顔に自分の中に溜めておいた何かが爆ぜるような感覚を感じた。顔は依然真っ赤なままで、だが視線だけはしっかりと上条へ向けられている。
 その目は熱を帯び、涙を溜めていたが、それは恥ずかしいからではなく嬉しかったからである。こんな感情を抱くあたり、自分は本当に上条が好きなのだと改めて思い知らされる。

「ところで御坂妹の夢って何だ?」
「ふごっふごごっ」
「あー、あの御坂さん? 妹さんが窒息死してしまうのでは…?」
「ふぇ? …あ! ご、ごめん…」
「ぱぁっ! …っあ、はぁはぁ…、み、ミサカは…ミサカはミサカ?」
「だ、大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…、はい。ところでミサカの夢ですが」
「おお。それそれ。何なの?」
「ミサカの夢はあなたの夢を守ってあげる事です。と、ミサカは本日二回目の回答をし胸を張ります」
「……へ? お、俺の…夢?」
「はい。ですからあなたの夢がない今はミサカも夢がないということになります。と、ミサカはしょんぼりします。しょんぼり」
「う、うーん…でも夢っていうのは自分のために向かっていくもんじゃないのか?」
「もちろんミサカの為でもありますよ。ミサカはただ単にあなたといたいだけですから。と、ミサカはお姉さまと違い正直に告げます」
「御坂?」
「お姉さま、いい加減自分に嘘をつくのはやめたほうがいいのでは? と、ミサカは呆れて煽ってみます」
「で、でも…」
「まぁ無理にとは言いませんよ。ミサカはミサカでお姉さまの分までよろしくやりますので。と、ミサカは腕を絡めます」
「お、おい。そんなくっつくと色々…」
「あ…」
「とか何とか言って振りほどかないところを見ると満更でもないんですね。と、ミサカは頬を染めます」
「そっそれは女の子に腕を抱かれて嫌なわけないけど…」
「では問題ありませんね。それではお姉さまミサカ達は今からデートに行きますので御機嫌よう。と、ミサカは勝利を確信し去ろうとします」
「お、おい…そんな引っ張る――――」

「ま、待って!!!」

 美琴は離れていく上条達に叫んだ。
 美琴の心は激しく揺れている。でも。でもここで素直にならないと上条がどこか遠くに行ってしまうような気がした。
 そんなのは嫌だ。そんなのは耐えられない。
 ならいっそ言ってしまえばいいのだ。自分の中に溜め込んだもの全部。それでダメだら仕方ないし、言わないで後悔するよりかはずっとずっとその方がいい。
 美琴は上条の前まで歩いてくると、真っ赤になりながら上目遣いで言った。

「わっ私の夢も聞いて…」
「へ? あ、あぁ…でも、恥ずかしいんだろ? だったら別に無理して言わなくても…」
「恥ずかしいけど聞いて! アンタに関係してる事なんだから!!」
「俺に関係って…おまえも御坂妹みたいに俺の夢を守るってやつか? だからそうい――」
「違うの」
「――うのは…、って違う?」
「う、うん。でも今は言えない。でも明日! 明日絶対言うから聞いて!」
「あ、あぁ…。まぁ…、その休みだし補習もないからいいけど」
「ぜ、絶対だからねっ!」

 そう言うと、美琴は光の速さで帰っていった。あの速さならきっと超電磁砲を撃っても回り込んでコインをキャッチできるだろう。
 上条は一瞬にして消えた美琴に唖然としていたが、隣にいる御坂妹の温かさに気付き目を向ける。

「あ。えっと…、うん。それで何でしたっけ?」
「ミサカ的にはこのままデートと行きたい所でしたが、もう病院に戻らなくてはいけない時間なのでした。と、ミサカは肩を落します」
「そうなのか? まぁ、無理して体壊すのもあれだしな。病院まで送っていこうか?」
「…いえ。とてもありがたいですが、ミサカはお姉さまの夢を応援します。と、ミサカは名残惜しそうに腕を離します」
「……ん?」
「ミサカの夢はあなたの夢を守る事です。しかしあなたの夢が無い今は、ミサカにも夢がありません。そしてお姉さまは今、夢に向かって一歩踏み出しました。ですからここはお姉さまの夢を応援します。と、ミサカは再度出来る妹をアピールします」
「あの…、申し訳ないんですけど…わたくし上条当麻はレベル0でありまして、脳みそもレベル0でありまして、もう少しわかりやすく…」
「ではまた近いうちに。あなたからお義兄様になるかもしれませんが。と、ミサカは立ち去ります」
「…」

 御坂妹は黒猫を拾い胸に抱えると小さくお辞儀をして帰っていった。
 上条は御坂姉妹の意味不明な行動と発言に首を傾けることしかできない。
 とりあえず明日姉の美琴から何かしら告白をされて、それを聞いてやればいいのだろうか? 夢がどうとか言ってたけど…。
 上条は色々と考えるが、彼の脳ではスペックが足りないらしく、すぐに知恵熱を出してしまったので「とりあえず帰るか」と言って公園を後にした。



 上条は自宅である学生寮に戻ると、携帯を取り出し電話をかける。その相手は父である上条刀夜。

『もしもし。当麻か?』
「もしもし、父さん? 明日なんだけどさ、いつこっちくるの?」
『あぁ…。今母さんと話してたんだけどな、昼過ぎには行けると思うよ』
「昼過ぎ…か。じゃあ昼飯でも一緒に食った後映画にでもどうでせう?」
『私達は全然構わないよ。でも驚いたな。当麻が「いい夫婦の日だから俺が何かやってやるよ」って言い出した時にはさ』
「いえね。俺もたまには親孝行的な事をしようと思う事もありましてですね。うん」
『そうかそうか。いやいや、母さんもとても嬉しそうだし、私も嬉しいよ』
「そ、そっか。じゃあ…明日、…ん? 明日?」
『…どうした当麻?』
「え? いや…、何でもない。じゃあ明日昼過ぎな。第七学区の駅まで迎え行くからさ」
『わかった。じゃあまた明日な』

 上条は電話を切ると、ふぅと溜息を漏らし電話をしまった。
 彼は明日の11月22日に親である刀夜詩菜の夫婦円満を願いささやかながら食事会を開こうとしていたのだ。
 夏休みの時に子供二人目を作るとか行っていた仲良し夫婦に今更円満もないだろうけど…。

「あれ? でも明日何か別の用事を入れたような…何だっけ?」

 上条はうーんと考えていると携帯が何かを受信したのか着信音を奏で、ランプが光り出した。どうやらメールのようで着信音はすぐに鳴り止んだ。
 上条は母の詩菜からの楽しみにしてるメールだと思ったが、その相手はさっきまで一緒にして光の速さで帰っていった御坂美琴だった。
 そしてそのメールを見た上条は、心停止してるのではないのかと思わせるほどに微動だにしない。


  Time 2010/11/21 16:29
  From 御坂美琴
  Sub  明日の事!
  ――――――――――――――――
  集合は三時にいつもの公園ね!
  遅れたら今後は買い物の帰り襲撃して
  貴重なタンパク源とやらの生卵をゆで
  卵にするから!


「…」

 上条当麻の時は、

「そうだったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 激しく動き出す。
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