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 11月22日は別に特別な日であるわけではないが、世間では「いい夫婦の日」として知られているだろう。日本中の夫婦がずっと幸せでいられますように、という想いから作られたとても優しい幻想的な日だ。
 しかしここ学園都市では、八割が学生のためか「いい夫婦の日」と言われてもピンと来ない人が多い。
 そこである思い立った学生の一人がインターネット上で学園都市の11月22日を「いい夫婦になる日」と書き込んだのが全ての始まり。
 恋に敏感な中高生はもちろん、大学生や職員までその日は自分の恋人にプレゼントを渡したり、夜景が綺麗なレストランなどでその日を最高の思い出にしたりとバレンタインの様なイベントになる程学園都市では知らない人はいない日になっていた。
 「いい夫婦になる日」のコンセプトは、まだ年齢的に結婚は出来ずに夫婦にはなれないが、夫婦のように相手を思いやり普段は言葉に出しては気恥ずかしくなる『ありがとう』や『愛している』をカタチとして送り、バレンタインデーの告白の延長線上として迎え、約一年間の恋人生活を見直し、お互いもう一度初心に帰って幸せな生活を送ってもらいたいというものらしい。

 そんな幻想的な願いが込められた日の前日、11月21日に御坂美琴は何やら思いつめていた。
 美琴は常盤台指定の制服を身に纏い、雲一つない快晴の空を見上げて一人公園のベンチに腰掛けている。
 彼女の思い悩む原因。それは彼女が恋する上条当麻の事で、つい先日たまたま見つけてしまったサイトに書かれてあった文章を読んだためである。
 その文章の内容は「いい夫婦になる日」は恋人の為の日だが、同時に「その日のうちに恋人になれればいい夫婦になれる」という都市伝説のようなものあるらしく、これを見つけたが最後、11月22日に愛しの彼に告白するしかないと思い立った。
 と、そこまではいいのだが全然いいプランが思いつかない。
 最も簡単な方法をしては素直になって想いを告げるのが一番なのだが、ツンデレである美琴が直接そんな事言えるはずもなく、今日まで悩みに悩んできたが結局はいい案が出て来ず途方に暮れていたと言う訳だ。

「素直になれればこんな事考えないでもいいのに…、馬鹿だなぁ私……」

 今学園都市で明日のイベントを知らない人はいないだろうし、恋人がいない人はバレンタインを前に告白する人もいるはずだ。
 なので美琴は悩んでいた。明日は休日で学校は休みだが、自分が恋する上条当麻は何人からお呼びがかかって告白されるか分かったもんじゃない。
 上条が他の誰かから告白を受け、その日のうちに付き合ってしまったなら、自分は一体どうすればいいのだろう。都市伝説なんて噂よ、噂。あはは、などと顔をヒクヒクさせて笑っているのだろうか。
 上条当麻はとてもやさしい人間だ。それは自分が一番わかっている、つもり。
 その彼が女の子を好きになればその彼女に一途になるだろうし、彼の体質からしても他の女の子にも優しくするだろうが、それは距離を置いた優しさで彼女とは天と地の差があるに違いない。
 そういうことが分かってるのに。

「はぁ…、一体どうすればいいのよ」
「…お姉さま?」
「え?」
「こんにちは。と、ミサカは礼儀正しく頭を下げます」
「…ん? あれアンタ」
「はい。検体番号10032号のミサカです。と、以前見せたネックレスを再度見せびらかしながら返答します」

 美琴に話しかけてきたのは妹達の中の一人で、上条からは御坂妹と呼ばれている。
 手には黒猫が抱えられており、そんな彼女の首元には可愛らしいハートの形をしたネックレスが掛けられていた。

「ぐっ…な、何の用よ?」
「いえ。特に用という用はないのですが。と、ミサカは正直に告げます。ミサカはお姉さまが何やら思いつめているので話でも聞いてやるか。と、出来る妹をアピールしようと思ったまでです」

 御坂妹はそう言うと黒猫を地面に優しく置いて、頭を撫でた。黒猫は以前にもこの二人が向かい合ってるところを見たことがあるようで、キョロキョロと姉妹を見ると「にゃー」と鳴いた。大きくはなってもそんな仕草が可愛らしい。
 それを見た美琴は小さく笑った後、「うーん、そうね。まぁ…」と顎に手を当て言葉を濁す。

「またあの方絡みの事ですか? と、ミサカは予想する本命第一位で真相に迫ります」
「あの方? …あー、あの馬鹿ね。まぁその…、何ていうか夢? みたいな事を考えていたの」
「夢とは何ですか? と、ミサカは興味津々になりお姉さまに問います」
「夢ってのは…やりたい事? 未来の自分はこうなりたいとか、そういうものよ」
「そんな事で悩んでたんですか。と、ミサカは溜息を吐きます」
「そんな事ってアンタね! 誰もが悩むことよ!? アンタには夢ないの?」
「夢かどうかはわかりませんが、やりたい事ならありますよ。と、ミサカは間髪入れずに返答します」
「へ? ど、どんな事なの?」

 美琴は妹の夢がとても気になった。
 それもそのはずで妹も恋する相手は上条当麻なのだ。つまりは恋のライバルという事で、その妹の夢となってはほぼ確実に上条絡みだと考える方が自然だろう。

「ミサカのやりたい事は以前お姉さまに言われた通りあの方の夢を守ってあげる事です。と、ミサカは最近少し大きくなった胸を張ります」

 やっぱり―――
 美琴は妹の告白を受け、言葉が出なかった。やっぱりアイツの事だったから。
 美琴はしばらく思考停止状態が続いたが、やがて動き出し驚愕の声をあげる。

「あ、アイツの夢を守るぅぅぅぅ!? え、えっと…でも、私に言われたからってそんな事する必要は…っ! そ、それにそれは…あの時の事であって…その、あうあうあうあう」
「いえ。これはミサカが考えて自分で決めた事です。お姉さまに言われたからやるということではありません。と、ミサカは――」
「そっそうなんだ! で、でもさ…えっと、その…あぅ」
「うん? 動揺しているところから実は夢は既にあるんですね? と、ミサカは問い詰めます」
「そ、それは…こう、なれたら…いいなぁ…っていうのはあるけど…」
「何ですか? 私だけに言ってみてくださいな。と、ミサカは耳を傾けます」
「い、嫌よそんなの! 恥ずかしいじゃない!」

 美琴は本当に恥ずかしそうで、顔を真っ赤にして視線を外す。
 御坂妹に言ったが最後、彼女の頭の中で繋がれているミサカネットワークで残りの9967体の妹達+αに知われる事になるし、なにより自分の夢は幼稚園児でも最近は持たないだろうと思わせる内容だったからだ。
 しかしそんな美琴の夢は簡単に核心に迫られた。

「まぁ乙女な趣味を持つお姉さまの事ですから……、そうですね。大方あの方のお嫁さんになる、とかそんなところでしょうか? と、ミサカは仮説をたてます」
「なっ…ななな…」
「………まさか本当にそうなのですか。と、ミサカはネットワーク上の多数決で決した仮説に驚愕します」
「そっそれは…」
「ほらほら。正直に言った方が楽になりますよ? と、ミサカは刑事の様に真相に迫ります」
「あ、あいつには言わないでよね! こんな事知れたら会うたび会うたびにネタとしていじられるわ!」
「別にいいと思いますが。と、ミサカは依然として素直になれないお姉さまに溜息を吐きます」
「そ・れ・で・も! まだ告白もしてないのにいきなり、おっおおお嫁さんだなんて!」
「お嫁さんが何だって?」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「おや。噂をすればですね。と、ミサカはお決まりの展開に顔をニヤけさせます」

 御坂妹は依然無表情のままだが、どこか楽しそうに声のする方へ目を向けると、その噂の張本人上条当麻は学ラン姿で学生鞄を持ってダルそうに立っていた。
 上条の高校も今帰りだったのかばったり出くわしてしまい、美琴は上条のいきなりの出現に驚き妹の後ろに隠れてしまう。
 上条もそんな美琴に驚いたが、電撃が飛んでこないだけマシだなと思い御坂妹に目線を向ける。

「よ。御坂妹。おまえもう出歩いて大丈夫なのか?」
「まだ本調子ではありませんが慣れるために少しずつ外に出歩くようにしてます。と、ミサカはあなたの突然の出現にも驚くことなく対応します」
「え? あー、悪かったな、いきなり声かけて。遠くで一応呼んだんだけど、聞こえてないみたいでさ」
「そうなのですか。それは失礼しました。と、ミサカは頭を下げます」
「…で、おまえは何をしてるんだよ」
「うっ」

 御坂妹が頭を下げたことで美琴が丸見えになり、上条にジト目をされ問いかけられた。
 美琴は先程の話から上条の顔をまともにみれなくなり、俯いてモジモジしだすが、そんな美琴を見て御坂妹は美琴の変わりに上条の質問に答えた。

「将来の夢について話し合ってたところです。と、ミサカは先程までお姉さまと話していた内容を教えます」
「ちょっ―――!」
「将来の夢? すげえな。まだ中学生なのに将来の夢なんて。上条さんは夢なんて全然さっぱり思いつきませんよ~」
「あなたもですか。と、ミサカはお姉さまと同じように夢を持ってないあなたに溜息を漏らします」
「何だよ御坂。おまえも夢ないの? まぁおまえならやる気になれば何でも出来そうだけどな」
「な…ない事ない…、けど」
「あれ? でもさっき御坂妹が…」
「実を言いますとお姉さまの夢はあなたのおよ、ふごっ」
「だぁああああああああっ!!! い、言わないで! 恥ずかしいんだから!!!」
「あ? やっぱりあるのか? そんな恥ずかしがる事ないと思うけどな。立派なことじゃねぇか」
「ふごっ、ふごっ」
「そ、そう…なのかな?」
「ああ。夢、叶うといいな」

 そう言って上条は美琴に笑顔を向ける。
 美琴はその優しい笑顔に自分の中に溜めておいた何かが爆ぜるような感覚を感じた。顔は依然真っ赤なままで、だが視線だけはしっかりと上条へ向けられている。
 その目は熱を帯び、涙を溜めていたが、それは恥ずかしいからではなく嬉しかったからである。こんな感情を抱くあたり、自分は本当に上条が好きなのだと改めて思い知らされる。

「ところで御坂妹の夢って何だ?」
「ふごっふごごっ」
「あー、あの御坂さん? 妹さんが窒息死してしまうのでは…?」
「ふぇ? …あ! ご、ごめん…」
「ぱぁっ! …っあ、はぁはぁ…、み、ミサカは…ミサカはミサカ?」
「だ、大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…、はい。ところでミサカの夢ですが」
「おお。それそれ。何なの?」
「ミサカの夢はあなたの夢を守ってあげる事です。と、ミサカは本日二回目の回答をし胸を張ります」
「……へ? お、俺の…夢?」
「はい。ですからあなたの夢がない今はミサカも夢がないということになります。と、ミサカはしょんぼりします。しょんぼり」
「う、うーん…でも夢っていうのは自分のために向かっていくもんじゃないのか?」
「もちろんミサカの為でもありますよ。ミサカはただ単にあなたといたいだけですから。と、ミサカはお姉さまと違い正直に告げます」
「御坂?」
「お姉さま、いい加減自分に嘘をつくのはやめたほうがいいのでは? と、ミサカは呆れて煽ってみます」
「で、でも…」
「まぁ無理にとは言いませんよ。ミサカはミサカでお姉さまの分までよろしくやりますので。と、ミサカは腕を絡めます」
「お、おい。そんなくっつくと色々…」
「あ…」
「とか何とか言って振りほどかないところを見ると満更でもないんですね。と、ミサカは頬を染めます」
「そっそれは女の子に腕を抱かれて嫌なわけないけど…」
「では問題ありませんね。それではお姉さまミサカ達は今からデートに行きますので御機嫌よう。と、ミサカは勝利を確信し去ろうとします」
「お、おい…そんな引っ張る――――」

「ま、待って!!!」

 美琴は離れていく上条達に叫んだ。
 美琴の心は激しく揺れている。でも。でもここで素直にならないと上条がどこか遠くに行ってしまうような気がした。
 そんなのは嫌だ。そんなのは耐えられない。
 ならいっそ言ってしまえばいいのだ。自分の中に溜め込んだもの全部。それでダメだら仕方ないし、言わないで後悔するよりかはずっとずっとその方がいい。
 美琴は上条の前まで歩いてくると、真っ赤になりながら上目遣いで言った。

「わっ私の夢も聞いて…」
「へ? あ、あぁ…でも、恥ずかしいんだろ? だったら別に無理して言わなくても…」
「恥ずかしいけど聞いて! アンタに関係してる事なんだから!!」
「俺に関係って…おまえも御坂妹みたいに俺の夢を守るってやつか? だからそうい――」
「違うの」
「――うのは…、って違う?」
「う、うん。でも今は言えない。でも明日! 明日絶対言うから聞いて!」
「あ、あぁ…。まぁ…、その休みだし補習もないからいいけど」
「ぜ、絶対だからねっ!」

 そう言うと、美琴は光の速さで帰っていった。あの速さならきっと超電磁砲を撃っても回り込んでコインをキャッチできるだろう。
 上条は一瞬にして消えた美琴に唖然としていたが、隣にいる御坂妹の温かさに気付き目を向ける。

「あ。えっと…、うん。それで何でしたっけ?」
「ミサカ的にはこのままデートと行きたい所でしたが、もう病院に戻らなくてはいけない時間なのでした。と、ミサカは肩を落します」
「そうなのか? まぁ、無理して体壊すのもあれだしな。病院まで送っていこうか?」
「…いえ。とてもありがたいですが、ミサカはお姉さまの夢を応援します。と、ミサカは名残惜しそうに腕を離します」
「……ん?」
「ミサカの夢はあなたの夢を守る事です。しかしあなたの夢が無い今は、ミサカにも夢がありません。そしてお姉さまは今、夢に向かって一歩踏み出しました。ですからここはお姉さまの夢を応援します。と、ミサカは再度出来る妹をアピールします」
「あの…、申し訳ないんですけど…わたくし上条当麻はレベル0でありまして、脳みそもレベル0でありまして、もう少しわかりやすく…」
「ではまた近いうちに。あなたからお義兄様になるかもしれませんが。と、ミサカは立ち去ります」
「…」

 御坂妹は黒猫を拾い胸に抱えると小さくお辞儀をして帰っていった。
 上条は御坂姉妹の意味不明な行動と発言に首を傾けることしかできない。
 とりあえず明日姉の美琴から何かしら告白をされて、それを聞いてやればいいのだろうか? 夢がどうとか言ってたけど…。
 上条は色々と考えるが、彼の脳ではスペックが足りないらしく、すぐに知恵熱を出してしまったので「とりあえず帰るか」と言って公園を後にした。



 上条は自宅である学生寮に戻ると、携帯を取り出し電話をかける。その相手は父である上条刀夜。

『もしもし。当麻か?』
「もしもし、父さん? 明日なんだけどさ、いつこっちくるの?」
『あぁ…。今母さんと話してたんだけどな、昼過ぎには行けると思うよ』
「昼過ぎ…か。じゃあ昼飯でも一緒に食った後映画にでもどうでせう?」
『私達は全然構わないよ。でも驚いたな。当麻が「いい夫婦の日だから俺が何かやってやるよ」って言い出した時にはさ』
「いえね。俺もたまには親孝行的な事をしようと思う事もありましてですね。うん」
『そうかそうか。いやいや、母さんもとても嬉しそうだし、私も嬉しいよ』
「そ、そっか。じゃあ…明日、…ん? 明日?」
『…どうした当麻?』
「え? いや…、何でもない。じゃあ明日昼過ぎな。第七学区の駅まで迎え行くからさ」
『わかった。じゃあまた明日な』

 上条は電話を切ると、ふぅと溜息を漏らし電話をしまった。
 彼は明日の11月22日に親である刀夜詩菜の夫婦円満を願いささやかながら食事会を開こうとしていたのだ。
 夏休みの時に子供二人目を作るとか行っていた仲良し夫婦に今更円満もないだろうけど…。

「あれ? でも明日何か別の用事を入れたような…何だっけ?」

 上条はうーんと考えていると携帯が何かを受信したのか着信音を奏で、ランプが光り出した。どうやらメールのようで着信音はすぐに鳴り止んだ。
 上条は母の詩菜からの楽しみにしてるメールだと思ったが、その相手はさっきまで一緒にして光の速さで帰っていった御坂美琴だった。
 そしてそのメールを見た上条は、心停止してるのではないのかと思わせるほどに微動だにしない。


  Time 2010/11/21 16:29
  From 御坂美琴
  Sub  明日の事!
  ――――――――――――――――
  集合は三時にいつもの公園ね!
  遅れたら今後は買い物の帰り襲撃して
  貴重なタンパク源とやらの生卵をゆで
  卵にするから!


「…」

 上条当麻の時は、

「そうだったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 激しく動き出す。
Secret

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