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 翌日の11月22日。公園の自販機前で上条当麻は美琴と美琴の父、旅掛を待っていた。
 30分ほど前に父刀夜からあと一時間くらいで第七学区の駅に着くと連絡が入り、それを旅掛に伝えたところ既に美琴と一緒にいるらしくすぐ来てくれるようだ。
 上条は昨日のうちに今日は御坂一家も一緒に来ると刀夜と詩菜に伝えておいた。
 今日は休日もあって美琴の母美鈴も大学がないらしく一緒に学園都市に向かっているとの事。
 そんな事もあって呼び出しから15分後、上条が自販機で買ったザクロコーラを飲み終えたところで遠くから声をかけられた。

「アンタって奴はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!????」

 …まぁ、その声の主よりも先に電撃が上条の元にやってきたのだが。

「あっ…ああああアンタね! 何で一緒に食事なんか取ることになってんのよ! 私と約束があったでしょ!!!」
「…お前な。だから昨日も言ったように話すなら年上の人や親にも一緒に聞いてもらった方がいいって言ってんだろうが」
「うがーーーーーっ! だから、それじゃ言いづらいって言うか…、その…」
「はぁ? あ。旅掛さんこんにちは。すみません急に」
「やぁ当麻くん。いやいや全然構わんよ。俺も美琴ちゃんも暇してたからね」
「じゃあ行きましょうか。そろそろ駅に父達が着くはずですので」
「わかった。…ほら、美琴ちゃん行くぞ。何あうあうしてんの」
「あうあうあう…」

 上条は御坂父子と落ち合うと、第七学区の駅を目指し歩き出した。
 上条さん的には家族だけで済ます食事なら第七学区で済ませばいいと思っていたが、御坂家も加わり結構な大人数になった為、第四学区にある有名中華料理店まで行こうと決めたのだ。しかしこれで向こう二週間はご飯に塩だ。同居人は小萌先生に任せよう…。
 上条一行は美琴を先頭に当麻と旅掛が後について駅に向かって歩いている。まぁ美琴が何やらブツブツ呪文の様に言って、不機嫌そうに早足で先に行ってしまうので二人で追っているという形なのだが。
 ちなみに上条が話す昨日の事とは美琴とのメールのやりとりの事。
 旅掛から半ば強引に食事に参加+上条御坂両家の前でもしかしなくてもすることになるであろう夢という名の電撃プロポーズチックな事に頭を悩ませ、耐え切れずに上条と連絡を取ろうとしたのだ。
 しかし、さすがはツンデレで恥ずかしがりやな美琴なだけあって直接電話をする事は出来ずにメールでやり取りをしたのだが、結局は上条にうまく丸め込まれてしまった。

「ごめんな当麻くん。美琴ちゃん何故か知らんが今朝から機嫌悪くてなぁ」
「いえ全然構いませんよ。むしろいつも通りなので」
「…なんか言った?」
「イイエ。ナニモ」
「おお怖い。昔はこんなんじゃなかったのになぁ。とっても素直で可愛かった…、あぁ。あの頃の美琴ちゃんはどこへ行ってしまったのか」
「…なんか言った?」
「イイエ。ナニモ」
「…ったく」

 旅掛は帯電しながら歩いていく美琴の後ろ姿に涙を流すと、懐から革製の黒いカードケースを取り出した。きっとこのケースは何かすごいブランド物で、お嬢様の美琴の父親なのだがら中にはカード類がぎっしりに違いない。
 しかしそんな上条の妄想は的を外れ、カードケースを開くとそこには小学校の頃の美琴の写真が収まっており、運動会なのか紅白帽子と体操服でパンを咥えて一生懸命走っている姿だった。

「へぇ…、御坂にもこんな時代があったんですね」
「…?」
「そうだよ。可愛いだろ? この時なんか『パパ! かけっこで一番取ったら褒めてね!』とか言ってくれちゃって…」
「ぎゃああああああああああっ!!!! そ、それを持ってくん――――」
「あはは。可愛いですね」
「なぁぁぁ…って、言ってくれちゃったり…なんなりって……、え…? あの…」
「ど、どうした御坂?」
「どうしたの? 美琴ちゃん」
「あ、ああああの…、かっかかかっ…可愛っ…」
「川? 川なんか通らねぇよ、遠回りになるじゃねぇか」
「いや、その…あの、あぅ…」
「???」

 美琴は上条の「可愛い」という言葉に超反応し、頭から湯気が出るんじゃないかと思うほど顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。
 上条と旅掛は互いに見合って頭から大量の?マークを出しているが、時間が押し気味だったのでそのまま駅に向かって歩く事にする。
 美琴は暫くその場で動かなかったが上条が振り返ると目が合い、ビクッと体を強張らせていそいそを小走りで駆け寄ってきた。


 駅に着くと、既に刀夜と詩菜、美鈴が待っており旅掛の長身と派手な格好を見た美鈴が手を振って呼んでいるのが分かる。
 刀夜も詩菜も少し洒落た感じの服装だが、美鈴はシャツにスラックスと結構ラフな格好だった。

「いやー、お待たせしましたぁー」
「いや全然だよ。私達も今着いた所だからね。あ、御坂さんお久しぶりですな。また会えて嬉しいですよ」
「これはこれは上条さん。俺もですよ。いやいや、今日は当麻くんに無理を言ってしまって…」
「いえいえ。私達は全然。あ、紹介します。こちら妻の詩菜です」
「初めまして。当麻さんの母の詩菜です。美琴さんにはいつもお世話になって」
「これはこれは。私は美琴の父の旅掛です。いやぁ上条さん? 羨ましいですね、こんな若い奥さんなんて」
「…ちょっと、それは私が老けてるって言いたいわけ?」
「え? い、いやいや。そんなつもりは…。それよりその格好どうにかならんのか? 上条さん達はお洒落な格好してるのに」
「そう言うあなたこそとても食事に行くような格好じゃないでしょ? どこかのヤクザ者かと間違えられるわ」
「わっはっはっ。違いないな」
「あはは、そうでしょー」
「おやおや。夫婦円満で羨ましい限りですな」
「いやぁ…、上条さんの所には負けますよ」
「あらあら。ふふふ」
「…」
「…」
「なんか…、お前の所も大変なのな」
「言わないで、お願いだから」


 上条御坂一行は電車に乗ると第四学区へ向かった。
 電車内は休日もあってか少々混雑していたが、昼時な事もあって身動きが取れない程ではなく、第五学区になるとその車両の人が大学生が多かったのか結構な数が降りて座れる程になった。

「学園都市の大学はやっぱり外と比べると大きいし綺麗ね」
「そういえば御坂さんの奥さんは大学生でしたな。奥さんが大学生なんて…、御坂さん。あなたって人は――」
「あらあら刀夜さん? それ以上言うとアレをしますよ?」
「か、母さん…! もう言いません…」
「わっはっはっ。上条さんも奥さんには敵わないですか。ウチも実はそうなん―――」
「…なんか言った?」
「イエ。ナニモ」
「…ったく。そういえば美琴ちゃん。夢があるんだって? お母さんすごい気になってたんだけどさっ」
「ぶふっ! な、ななな何よ急にっ!?」
「あら。話してくれるんじゃないの? 当麻くんに聞いてほしいって言ったんだって? お母さんにも聞かせてよー」
「おぉそれそれ。昨日当麻くんに聞いて俺も気になってたんだ。何なんだ? 美琴ちゃんの夢って」
「えっ…えっと、その…あの……」
「ん?」

 美琴は美鈴と旅掛から問い詰められると赤くなって上条の方をチラチラと見始める。
 上条からして言えば何故こっちを向くのか状態なのだが、夢が自分に関係あると言っていたのを思い出し納得した。

「俺はいいからさ。言っちゃえば? 早く言った方が沢山アドバイス貰えるぜ?」
「そっ…それは……、で、でも…親の前だし……言いづらいって言うか…」
「はぁ? 何だよおまえ。今日必ず言うから絶対聞いてって自分から言ったくせに…」
「そ、それはそう…だけど、でも…あうあう…」
「こらこら当麻。そんなに言っちゃ可哀相じゃないか。まだ気持ちの整理がついてないのかもしれない」
「そうですよ当麻さん。そんな刀夜さんみたいに女の子を困らせちゃいけませんよ?」
「母さん…、もう許してください」
「まぁ…、俺はいいけどさ」
「うっ」
「………はっはーん」
「??? どうしたんだ?」
「くふふ。別に。美琴ちゃん美琴ちゃん。ちょっとこっちおいで」
「ふぇ? う、うん…」

 美鈴は空いてる席に移動すると美琴を呼び横に座らせた。
 美鈴も何やら上条の方をチラチラを見て、目が合うと笑顔で手を振ってきた事から多分美鈴には美琴の夢が何となく察しがついたのだろう。
 もちろんそんな事をされた美琴はこの上なく顔を赤く染めているのだが。

「美琴ちゃんの夢はさ…、彼に関する事でしょ?」
「かっかかかか彼っ!? か、彼って…だ、だだだだ誰の事よ?」
「こ、この子はこの後に及んでもまだシラをきりますか? 彼は彼よ、上条当麻くん」
「っ! そ、それは…」
「…違うの?」
「………違くない」
「うっふっふっ。でさでさ! その夢ってのはさ…、もしかして当麻くんのお嫁さんになる! とかじゃない?」
「だぁぁぁぁぁぁぁ! こ、声が大きいわよ! アイツに聞こえたらどうするのっ! そっそれに…何で知ってんのよ! あ、あれね! 何かの能力で私の頭の中覗いたのねっ!?」
「あ。ホントにそうなんだ」
「はっ! あ、その…あうあう」
「そっかそっか。じゃあ皆の前じゃ言いづらいわよねぇ。さすがに『わっ、私の夢はっ…、あっあああ…アンタのお嫁さんになることなのっ!』なんてねーっ! きゃーっ!」
「ぎゃあああああああああああああっ!!! もうやめてぇ! それ以上言わないで! 恥ずかしい! 恥ずかしくて死んじゃいそぉぉぉっ!」
「んんっ! …でもね、美琴ちゃん。安心して、私は美琴ちゃんの味方だから」
「……ふぇ? じゃ、じゃあ…二人っきりにさせてくれるの?」
「あっはっはっ。まっさかぁ! 皆の前で言わすに決まってんじゃん! 私は賛成よって事だけよ!」
「だぁぁぁぁぁ…」

「御坂と美鈴さん何か楽しそうだな。やっぱ親になら相談しやすいのか! うんうん。皆を呼んで正解だったな! いやぁ…、いい事したぁ」


 そんな賑やかな電車内からは反対に、風紀委員第177支部では緊張した空気が立ち込めていた。
 風紀委員の初春飾利と白井黒子、それに固法がいたのだが見回りという事で遊びに来ていた佐天が変わりモニターを見つめている。
 三人の少女は中学一年生とは思えない程真剣にモニターを見つめ、支部内はマウスのクリック音と時計の音しか聞こえない。

「(う、初春ぅ~…何だってこんな事しないといけないの?)」
「(うぅぅ…知りませんよそんな事。いきなり白井さんが…)」
「わたくしが何デスノ?」
「「ひぃっ!」」
「無駄口を叩く暇があったら一分一秒も早くお姉さまを見つけるんですの!」
「「は、はいっ!!!」」

 そのあまりの緊張感に耐えられなくなった佐天が初春に助けを求めたが、その刹那背後から声がかかる。
 振り返るとそこには鬼の形相をした白井が立っており、その圧倒的な威圧感からか二人の少女は言う通りにせざるを得ない。
 白井達の目的。それは学園都市の治安を守る監視などではなく、白井が慕う御坂美琴の現在位置を知る事だった。
 事が起こったのは30分程前、白井黒子の咆哮により始まった。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
「…し、白井……さん?」
「どっどどどどどうしたんです…か?」
「おっ…おおおおおお…、おーいおいおい…」
「…」
「…壊れちゃったか」
「思い出しましたわっ!!!!!!!!」
「「…はい?」」
「今日は11月22日。つまりは『いい夫婦の日』じゃありませんの!!!!」
「は、はい…。まぁ…、世間じゃそうみたいです…けど?」
「ここ学園都市では『いい夫婦になる日』じゃありませんの!!!!!」
「は、はい…。まぁ…、誰が作ったのか知らないです…けど? 今学園都市じゃ有名ですよね」
「『その日に告白して恋人になればいい夫婦になる』ってネット上で書いてあったじゃありませんの!!!!」
「は、はい…。まぁ…、都市伝説みたいな物ですよ。誰かが面白半分でサイトに書き込ん―――」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
「し、白井さん…。落ち着いてくださいよぉ…、一体なんなんですかさっきから…」
「おっ…、おおおっ…お姉さまは、お姉さまは今日…意中の殿方に告白する気ですわ……」
「「…」」
「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!?????????」」

 と、そんな事があって現在に至るのだが、一向に美琴は見つからない。
 それもそのはずで今白井達が探しているのは第七学区。美琴は今絶賛移動中で第五学区第四学区間にいるのだ。
 白井はわなわなと焦りと嫉妬の炎を、初春と佐天はガタガタと恐怖と罪悪感で震えていた。


 そして場面を戻し上条御坂両家一行は第四学区の駅前まで来ていた。
 上条は昨日のうちに携帯で調べておいた中華料理店が近くにある事を思い出し、キョロキョロと周りを探している。徒歩五分と書かれてあったので、そう遠くはないはずだ。
 上条を先頭に大通りを歩く一行は学園都市では珍しく、注目(主に旅掛)を集めているが本人達は意識していないようでスタスタと歩いている。
 そんな先頭を行く上条の後ろ姿を見て美鈴は美琴に話しかけた。

「美琴ちゃんさ、なーんか変わったね」
「な、なによ? 別になにも変わってないでしょ」
「うぅん。なーんかさ、当麻くんを見る目が変わったわよね。前と比べてさ」
「ふぇ? な、なな…、なん…」
「大覇星祭の時も意識してそうだったけど、今じゃもう本当にメロメロって感じね。まぁお嫁さんになりたいくらいだもんね」
「だっ! だから…、言わないでよ……恥ずかしいんだから…」
「何がそんなに美琴ちゃんを変えたのかなぁー?」
「あぅ…」
「あはは。もうっ、真っ赤になっちゃって可愛いな美琴ちゃんはっ!」
「ちょっ、頭撫でないでよっ! 折角セットしてきたんだから!」
「あ。当麻くん見てるよ」
「え!? うそっ!? あわわわわわ、あうあうあうあう」
「う・そ♪」
「あうあうあ…。…こ、この……!」
「う、うわっ! 美琴ちゃん電撃は無しだって!」
「からかい過ぎなのよ! も、もう怒った――」
「おい、御坂」
「…ふぇ?」
「着いたから早く入れよ。って漏電してるし! 危ねぇなぁ」
「あ…」

 上条は美琴の頭の上に右手を乗せ電撃を打ち消す。
 先程美鈴に手を置かれた時は激しく抵抗した美琴も、美鈴に電車内から今まで上条の事でからかわれっぱなしだったので、そんな事をされては指一本動かすことは出来ないようだ。
 どうやら自分と美鈴が話してるうちに店に着いたらしく、目の前には大きな中華料理店があった。美琴もテレビや雑誌で見たことがあるくらい有名な店だが…、上条の財布は大丈夫なのだろうか?
 そんな二人のやり取りを美鈴はニヤニヤしらがら見ており、しばらくすると「あー。急にお腹減っちゃったー」などと超棒読みで店の中に入っていった。
 残された上条と美琴も店の中に入ろうとするが美琴に動きは無く、その場で俯いたままだ。
 今なら上条と二人っきりだから。
 今日この先こんなチャンスは少ないかもしれないから。

「あ、あの…さ」
「ん? どした?」
「アンタに…聞いてほしいことがあるの」
「え? あぁ、御坂の夢の事だろ? それならさっき美鈴さんに相談して―――」
「あ、アンタに聞いてもらわないとダメなの!」
「そ、そうか。でもまぁ…、とりあえず中に入ろうな?」
「だ、ダメ! 今じゃないと! 二人でいる時じゃないとダメなの!」
「そっ、そうは言っても…」
「聞いて。お願い」
「わ、わかった。わかったからとりあえず回れ右してみようか」
「へ?」

 そう言われ美琴が振り返ると、そこにはカップルや少し年のいっている恐らく先生であろう人達が美琴の後で並んでおり、まだかまだかと二人を凝視していた。
 どうやら上条たちがいる所は出入り口だったらしく、美琴がそこで微動だにしなかったため長蛇の列が出来てしまったというわけだ。さすが有名中華料理店。昼過ぎでもその時間を狙うお客さんは多かった。美鈴は美琴の為に気を使ったのではなく、後に溜まってきた人達を見て気まずくなって店の中に逃げていったのだ。
 美琴はそんな人達を見て「あは、あはははは。うわーーーーーん」と上条の手を取り店の中に入っていった。


 店の中は大小様々な丸テーブルが置かれており、壁や天井の作りもいかにも中華ですと言っているようだ。
 上条たちは受付で先に入った刀夜達を探すと、奥の方の席で軽く手を上げて呼んでるのがわかる。
 その席は既に席を二つ隣りあわせで空けられているだけで、右に上条家、左に御坂家となにやらお見合いでもするのではと思わせる。
 美琴は友達同士なら上条の隣は断固死守したいと思うが、ここ、このテーブルだけは隣に座るのは相当の覚悟が必要な気がしてならない。
 そんな美琴を横目に上条は躊躇いも無く席に座る。空いている右の席に。まぁこの席順を見れば左に座る人などいないだろうが。
 美琴も何時までも立ってるわけにもいかなかったので、顔を真っ赤にしながらも可愛らしく上条の隣に座った。

「じゃあ頼もうか。あ、当麻。今日はお前がご馳走してくれるんだったな。大丈夫なのか?」
「も、もちろんですよ。上条さんにかかればここの支払いくらい…、どれどれ?」
「あらあら。チャーハン一品で2300円。これは大変そうですねー」
「…」

 上条は懸命に財布の中に住んでる諭吉さんの数を思い出す。
 昨日ATMという高層マンションより何人か引越してきたばかりだが、居心地が悪いのか夕方にはレジに皆さん引越すようだ。

「いやいや、こんな孝行息子を持って上条さんは幸せですね。これは将来いいパパになりますよ」
「あっはっは。いやいやそんな」
「でも本当にいい子よね当麻くんは。ねぇ? 美琴ちゃん?」
「なっ…、何で私に振るのよ」
「あれー? 美琴ちゃんはそう思わないの?」
「そっそれは…その…、あの……ん?」
「え?」
「当麻…さん?」
「…」

 上条当麻はメニューを持ったまま白くなっていた。
 刀夜は上条に安否を確認するが、上条はただただ頷くだけだった。


 しばらくして各々の注文した料理が運ばれてくると、美味しそうな匂いが漂い食欲をくすぐる。見た目や匂いだけでなく味の方も最高で、この金額を出してもいいとさえ思える程だ。 
 刀夜や詩菜も楽しそうに会話をしながら食事している所を見ると、上条はこの企画を立ててよかったと思える。…財布の中身以外は。
 上条家と御坂家の親御さん達はとても相性がいいらしく、息子娘そっちのけで会話に没頭していた。
 上条と美琴も、一応は話しながら食事を取ってるが美琴が小さく「うん」としか言わないので上条が一方的に喋ってる状態になっている。

「ん? 御坂。ちょっとこっち向けよ」
「ふぇ? なっ…、なによ。いきなり…んにゃあ!?」
「へ、変な声出すなよ。鼻についたチリソース拭いただけだろ。…ったく、お前は夏休みの時もそうだったけど、もっと綺麗に食えないのかね」
「あ、あう…あうう…」
「何々当麻くん。夏休みの時何があったって?」
「あぁ、えっと…、何か御坂が恋人の…ふごっ」
「だああああああああああああっ!!! 言うなーーーっ! それ以上言うなーーーーーっ!!!!」
「ぐぐぐっ…、く、くるひ…」
「あらあら。仲がいいのね、当麻さんと美琴さん」
「あうあうあう」
「うぐぐぐぐ」

 そんな事もあってその後も食事は続いていった。
 美琴もようやくその場の空気に慣れ始め、笑顔が出てきたまさにその時旅掛と目が合い背筋が凍る感覚に見舞われる。

「じゃあそろそろ美琴ちゃんの夢でも聞いちゃおうかな」
「え」
「電車の中じゃ俺は聞けなかったからね。どんな夢か非常に気になるんだ、うん」
「ああああああの…」
「ふんふん。このエビチリ美味しいわね」
「…」

 美鈴はどうやら助けてくれないようだ。


 そして旅掛から問われた美琴であったが、先程の笑みは消え、また顔を赤くし俯いて黙ってしまった。
 上条も美鈴には言えて旅掛には言えない夢とは何なのか? と考えていたが、あまりにあうあうしてたので助け舟を出してあげた。

「あー…、旅掛さん。何か御坂の夢って二人じゃないと言いづらいらしくて…」
「…!」
「え? あぁ、そうなんだ。なーんだ、残念だなぁ聞けないのか…(まぁ後で当麻くんと問いただして聞くけどね)」
「そうみたいなんですよ。じゃあこの話は………ん?」

 そう言って上条は目の前にあったシューマイに箸を伸ばすが、服を美琴に引っ張られ箸を止める。
 美琴は何やらモジモジしているが、やがて意を決したようにかすれる様な声で言い出した。

「…いて」
「え?」
「今言うから、聞いて。いっ…、いつかは皆にも知らせるっていうか…、その…」
「え? いいの? …まぁ御坂がいいならいいけど。…で?」
「わ、私の……夢は」
「うんうん」
「あの…」
「…」

 周りの大人たちも何なのかと期待して次の言葉を待っている。
 美鈴だけはその内容を知ってるので、拳を強く握り「いけっ! そこだ! 言っちまえ!」と言わんばかりに口を動かしているが、美琴に注目が集まっているため誰も気付かない。
 その後暫く美琴は言葉を選んでいるのか俯いて黙ってしまったが、キッと上条を上目遣いで睨みつけ真っ赤な顔をして夢を語った。

「あ、アンタと…、ずっと一緒にいる事なの」
「…」
「「「「え?」」」」

 美琴の夢。それは上条当麻とずっと一緒にいる事。
 その告白に上条以下刀夜、詩菜、旅掛は耳を疑った。てっきり夢というのは将来なりたい職業とかを話すものだと思っていたから。
 しかし確かにそれを話すなら何故言いづらいのかが分からない。
 なるほど、こういう事なら何故美琴がなかなか話せないのかが分かった。と、頷いた。…上条当麻を除いて。

「えっと…、俺と? 御坂が? ずっと一緒にいる? それは一体どういう…」
「だっ! だから…! あ、あああアンタの…お嫁さんに」
「…………………………………………………………………………………………………………へ? 俺の…、よめ?」
「う、うん…」
「よめっていうのは…、その…奥さんって意味の…嫁?」
「そ、そう」
「父さんの母さんみたい…、な?」
「う、うん」
「旅掛さんの美鈴さんみたいな?」
「そ、そうだって言ってんでしょ! 何回も聞かないでよ! 恥ずかしいんだから!」
「じゃ、じゃあ…御坂の夢って……」
「そ、そうよ! 可笑しいでしょ! まだ中学生で、しかも恋人にすらなってないのにいきなりって思うでしょ! えぇそう思うなら思えばいいわっ!!! で…でもね! どんなに笑われようとこの夢を捨てる事は出来ないの! アンタは知らないだろうけど、私はアンタに自分だけの現実をぶっ壊される程惚れこんでるのよ! こんなのはもう病気よ病気! アンタの事しか考えられなくなるし、それにこんな初恋じゃこの先どんないい男が現れたってそんなのは眼中に入らないわ! だからこの恋を無駄にしたくないの! 一生育てて行きたいの!」
「み、御坂…」
「今日は『いい夫婦になる日』だから…。今日告白すればいい夫婦になるって…、だから…」
「…みさ――」
「私と…、付き合ってよ。その…、結婚を前提に…」
「…」

 今、このテーブル席の時間は完全に止まっているだろう。
 常盤台中学のお嬢様が、無名の男子高校生に結婚を前提に付き合ってほしいと。
 しかもそのお嬢様はその少年の事をこれ以上無いくらいに惚れこんでしまっていて、もうその少年以外はありえないと。
 傍からみたら最高にハイになるぶっ飛んだ告白だが、周りの目が如何せん恐ろしすぎた。
 美琴は全てを言い切ったように俯いてしまったし、美鈴はエビチリを摘んだ箸を持ったまま固まってるし、旅掛はテーブルに肘を乗せて自分の事を凝視してるし、刀夜は口を半開きにして目を見開いているし、詩菜は右手で口元を隠しているが美琴の夢語りに驚いているしで上条はどうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。

「(一体…俺は今何をされたんでせう? 脳をフル回転してもとても演算が追いつかない…。御坂が…俺の嫁になりたいって? なんで? 自分だけの現実をぶっ壊すくらい惚れこんだから? だから結婚を前提に付き合ってほしいって? で、でも…御坂はまだ中学生だし、お、親の前で…こここここんな…。な、なるほど…確かにこれは二人っきりじゃないと言いづらい事だ!)」

 上条は時が止まっている間にある方程式を組み上げる。

 つまりは『御坂の夢=俺×御坂』って事か?
 つまりは上条美琴か御坂当麻という事だ。
 どちらを御坂は望んでいるのだろうか?
 いやいや、今の問題はそんなのではない。
 今の問題は、先程の方程式が成立するのかどうかの答え合わせをしないといけない。
 御坂は問題を出した。
 ならば俺はその問題に答えないといけない。
 御坂の夢=俺×御坂の俺の中には、俺の気持ちが関係している。
 俺が違う答えを出せば夢の方程式は成り立たず、御坂の夢は儚く散ってしまうということなのだろうか? などなど。

 上条は昨日と合わせて三度目の知恵熱を出し、声には出さないがうーんうーんと唸っている。
 それが時を動き始める切欠となったのか、上条に美鈴が語りかけた。

「当麻くん。美琴ちゃんは本気よ? 私達の前だからって遠慮しないでしっかりと答えてあげてね?」
「み、美鈴…さん。で、でも…上条さんの人生初の告白が結婚を前提にっていうのは…、いささかハードルが高いと言いますか何と言いますか…」

 その上条の言葉を受けて美琴が顔をゆっくりと上げた。
 美琴は顔を真っ赤にしたままだっかが、溜めていたものを全部吐き出してスッキリしたように真っ直ぐな目をしている。
 逆に上条の方がその視線にやられ、ドキっと胸を高鳴らせどうしたらいいか分からなくなったようにオロオロしてしまっていた。

「み、御坂…お前、本気なのか?」
「…うん。私はアンタと結婚したいくらい…、好きなの。だから付き合いたい」
「御坂…」
「当麻。これはもうここで答えるしかない。美琴さんは決死の思いで告白したんだ。これを棒に振るのかな?」
「と、父さん…」
「そうですよ当麻さん。女の子がこんなに頑張って告白したんですから、ちゃんと答えてあげないと」
「母…さん」

 しかし上条は答え云々よりも第一に恐怖を覚えていた。
 それは美琴にでも美鈴にでも刀夜にでも詩菜にでもない。そこにいる名前を聞かなければ恐らくスキルアウトのリーダーと勘違いするであろう御坂美琴の父、御坂旅掛に。

「…」

 先程から一言も話さずに自分の事を睨み続けてる気がする。

「…」
「(こ、怖ぇぇぇ…)」

 上条は視線を外しもう一度だけチラっと旅掛の方を見るが、バッチリ目が合った。
 そしてとうとうその男が動き出す。

「当麻くん」
「は、はひっ!」
「美琴ちゃんの事を…、娘の事をどう思っているのかな? 正直に思った事を言ってくれ」
「え!? えっと…、正直ビックリしたっていうのが本音です。御坂くらい可愛い子だったら俺なんかよりずっといい男見つけて幸せになれるのに何で俺なんだ…? みたいな感じでして」
「…」
「で、でも嬉しかったのには違いありません。俺告白なんてされた事なかったですし、こんなに真っ直ぐ告白されたら…、その、意識しちゃうと言いますか…」
「…当麻くん。それに…、上条さん、奥さん。本当はあまりこの事を言いたくは無かったんですが」
「御坂さん、わかってますよ。当麻の不幸の事でしょう?」
「……えぇ。当麻くんには不幸が付きまとっていると聞きましたが」
「確かに小さい頃からちょっとした問題はありました。しかし、当麻は以前私に幸せだったと言ってくれた。ですから不幸だなんて――」
「その通りだっ!!! 全然不幸なんかではなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!」
「は、はいぃぃぃ!? 旅掛さん、それはどういう…」
「それはこの私が認めた男だからに決まってるだろう! 大事な一人娘をどこの馬の骨とも分からん輩に、はいどうぞと任せられるかな? 上条さんの事は知っている。とても素晴らしい人だ。妻も奥さんと仲がいいみたいだしこれ以上ないカップルだとは思わないかい? 両家公認という奴だ! よかったな面倒臭い挨拶とかなくて! わっはっはっ!」
「え…っと?」
「…と、言うワケで今すぐここで返事をしなさい」
「はあああああああああああああああああっ!!!????? た、旅掛さんまで…も、もっとこういうのは時間を置いてゆっくり……」
「当麻! 往生際が悪いぞ! さっさと答えんか! 他ならぬお前の父がこうやって…!」
「そうですよ当麻さん。あまり答えを先延ばしにすると、フラグとやらでいいづらくなる事があるみたいですから」
「母さん…、あの時は本当にすまなかった」
「当麻くん? 美琴ちゃんずっと待ってるのよ?」
「み、美鈴さん…。…御坂」
「聞かせて。アンタの答え」
「お、おお…俺は」
「うん…」
「俺はっ――――――」


 三時間後、上条御坂両家一行は第七学区のホームまで帰ってきていた。
 中華料理店の支払いは上条持ちで、顔をヒクつかせながら払っていた。案の定今の上条の財布部屋の諭吉さんはお引越しされたようだ。今人は住んでいない。桜が何個かあるだけ。
 上条は帰りには絶対にスーパーによって塩を買えるだけ買おうと心に決めている。

「ここまででいいよ。これ出るとまたお金払わなくちゃいけなくなるし」
「それじゃあ当麻、ご馳走様。本当に美味しかったよ。思い出の一日になった」
「当麻さん。ありがとう」
「当麻くん。すまないね、私達の分まで。昨日といい、また世話になりっぱなしで」
「あぁ、そういえば何で昨日コイツと一緒にいたのよ」
「裏通りで絡まれてるのを助けてもらってね。いやぁ、あの時の当麻くんは俺でも惚れ惚れするよ」
「…その人達もよくあなたに絡んだね。その格好だったんでしょ?」
「まぁ、うん。そうだね。あっはっは」
「はぁ…、ホントに昨日の夜は何事かと思ったわよ」
「しょうがねぇだろー、御坂の父親だなんて知らなかったんだから」
「当麻くん今日はありがとね! とっても楽しかった!」
「ははは…。ま、また余裕(なんて無いし出来もしないが)あったら皆さんの事呼びますんで」
「いやいや。今度は俺に奢らせてくれ。いつまでも借りを作りっぱなしなのは少々――」
「(…なるほど。確かに御坂は旅掛さんの娘のようだ)」
「ところで、当麻くん?」
「はい? なんですか、旅掛さん」

 11月22日いい夫婦の日。日本中の夫婦がずっと幸せでいられますように、という想いから作られたとても優しい幻想的な日だ。
 しかしここ学園都市では、八割が学生のためか「いい夫婦の日」と言われてもピンと来ない人が多い。
 そこである思い立った学生の一人がインターネット上で学園都市の11月22日を「いい夫婦になる日」と書き込んだのが全ての始まり。
 恋に敏感な中高生はもちろん、大学生や職員までその日は自分の恋人にプレゼントを渡したり、夜景が綺麗なレストランなどでその日を最高の思い出にしたりとバレンタインの様なイベントになる程学園都市では知らない人はいない日になっていた。
 「いい夫婦になる日」のコンセプトは、まだ年齢的に結婚は出来ずに夫婦にはなれないが、夫婦のように相手を思いやり普段は言葉に出しては気恥ずかしくなる『ありがとう』や『愛している』をカタチとして送り、バレンタインデーの告白の延長線上として迎え、約一年間の恋人生活を見直し、お互いもう一度初心に帰って幸せな生活を送ってもらいたいというものらしい。
 「いい夫婦になる日」は恋人の為の日だが、同時に「その日のうちに恋人になれればいい夫婦になれる」という都市伝説のようなものあるらしい、が。
 どうやらその都市伝説は――――

「これからは、いつでも『お義父さん』と呼んでくれ」

 どうやら本物のようだ。



【後日談】


 御坂美琴の電撃プロポーズ&上条御坂両家公認のお付き合いより一週間後の11月29日。美琴は上条の部屋で何やら怒鳴り散らしていた。
 上条はそんな美琴の前で肩を震わせながら、茶碗にたんまり盛られた塩かけごはん(+海苔)を持って正座している。
 どうやら美琴は上条に昼食でも作ってあげようと思って部屋に来たらしいが、そこに丁度昼飯時の上条と鉢合わせたらしい。

「アンタって奴は! 何か最近元気がないって言うか体調悪そうだと思ってたら…、こんな食生活で一週間も過ごしてたの!?」
「で、ですから…上条さんもたまには親にいい格好を見せたいと思う時もありましてですね。そ、それに米だけならあるし! 塩もたんまり買ったし!」
「そんなんで威張るなーーっ! 大体アンタはね他人の事を気遣うあまり自分の事を疎かにする―――」


  ――15分後――


「―――――――って事なの! 分かった!?」
「zzz…」
「寝てんじゃないわよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばっ! あああああああああああ!!! な、なんて事するんだ! ご飯焦げちまったじゃねぇか!」
「アンタが人の話聞いてないからでしょうが!」
「はぁ。聞いてます聞いてますよ。ったく俺の嫁さんかっつーの。もぐもぐ…」
「っ! ………そ、そうじゃん」
「……そうだったな」
「ねぇ当麻。もっと自分を大切にしてよ。もうアンタだけの体じゃないんだからさ」
「み、美琴たん…! そんな誤解を招くような発言は外では絶対に控えましょうね?」
「…家の中ならいいの?」
「まぁ、上条さんのヒビが入った鉄壁の理性が壊れない程度なら」
「えへ」

 美琴は照れくさそうに笑うと、足を崩してあぐらをかいた上条の足の上に優しく乗った。痺れて痛そうだけど、そんな事は気にしない。

「えへへ…、当麻。大好き」
「…お前も人の話聞いてねぇのな」
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