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 12月23日。御坂美琴は上条当麻の婚約者になりました。そんな噂が彼等の知人友人に知られてから一ヶ月が経つ頃、御坂美琴はもうすぐクリスマスという事で、常盤台の寮にて彼氏である上条当麻へのプレゼントを編んでいた。
 自分が好きなゲコ太の緑をベースにした可愛らしい手編みのマフラーだ。
 もちろん模様も忘れずに。マフラーの両端にも「とうま」「みこと」と赤の毛糸で編み込まれてれおり、首に巻きつけるとその二つの名前がくっつくようになっている。
 こんないかにもバカップルですよと宣言しているようなものを上条が恥ずかしげも無くつけるわけはないのだが、美琴は今や上条の彼女なので彼の弱点は付き合って三日で見破ったいた。
 それは押し。上条は押しに滅法弱いのだ。
 付き合って初めての映画館のデートでは美琴の見たい『劇場版ゲコ太―孤島の大事件! 髭を剃られたゲコ太男爵―』というタイトルからしていかにも危険な映画も、美琴の涙を溜めた上目使い&優しいハグ攻撃でイチコロだったし、上条の部屋に遊びに行った時も門限の時間が近くなっても帰りたくないと抱きしめればちょっとだけ長くいさせてくれた(まぁ結局は帰らされるのだが)。
 そんな事を思い出してはニヤニヤしていると、突然携帯が何かを受信したのかゲコ太の目がキラキラと光出し着信音を奏でた。
 この着信音は電話だが上条からではない。美琴は付き合って一週間で携帯がなる度に一喜一憂してしょうがなかったので、上条だけ違う着信音にしたのだ。
 美琴は「この忙しいのに誰よ?」と不機嫌そうに携帯と持つ。恐らく上条からなら編んだマフラーが解れてもいいから投げ出し携帯に飛びつくだろうけど。
 携帯を見てみると、そこには『母』と表示されており、また何か変な事でも考えてるんじゃないのかと鬱になった。

「もしもしー? 何よ、今忙しいんだけど?」
『やっほー、美琴ちゃん♪ そんなつれない事言わないでよぉ。マフラーなんかいつでも編めるでしょ?』
「ぶふっ! なっ…、何で知ってるのよ!? まさかどこからか見てるんじゃ!?」
『ふっふっふっ。美琴ちゃんの考えてる事なんかすぐに分かっちゃうのよ。当麻くんにクリスマスプレゼントって事で編んでて…、多分そのマフラーは緑色でしょ? で、赤で「とうま」とか「みこと」とかって入れてるんでしょ?』
「なっ…、なななな……」
『あら、正解なの? あっはっはっ。美琴ちゃんらしいなー』
「う、うっさいわね! 用事は何なの!? 用が無いなら切るわよ! じゃ―――」
『あれー? いいのかなー? 当麻くんに関する事なのになぁー』
「とう…ま?」
『どう? 気になるでしょー?』
「ぐっ」

 美琴は携帯から発せられた『当麻』という言葉に興味が沸いて沸いてしょうがなかった。
 だっ、だって…わ、私の彼氏の名前だし? べ、別に知らなくてもいいんだけど知っておいて損は無いというかごにょごにょ…、と付き合っても当人以外はツンデレキャラは崩せないようだ。



「で、何なのよ? 当麻がどうかしたの?」
『実は…、美琴ちゃんには黙ってて言われたんだけど……』
「え?」
『当麻くん。今度引越すことになったらしいのよ』
「……うそ」
『美琴ちゃんにはこの前の事もあって言いづらいって…、だから―――』
「う、うそよ。そんなの…。当麻が引越しちゃうなんて…。だってだってやっと恋人になれたのに…、うっ、うぅ…」
『……まぁ冗談はこれくらいにして本題なんだけどね?』
「うっ、うぅ……。…う? じょう…だん?」
『冗談に決まってるじゃない。そんな話があったら、当麻くんは真っ先に美琴ちゃんに知らせるでしょ?』
「……こ、この馬鹿母っ…! よくもそんな笑えない冗談をっ…!」
『み、美琴ちゃん落ち着いて! 話せば分かるから!』
「うっさいうっさい! もうホントのホントに怒ったんだか―――」
『ほっ、本題って言うのは年末年始に上条さんの実家で当麻くんと二人で暮らして欲しいって事なの!』
「らぁぁぁぁぁ…って、え? 今なんて?」
『だーかーらー。年末年始実家に帰ってくるでしょ? 先月美琴ちゃんの激しい告白があったから元旦は両家で年越そうって話があってさ』
「そ、それが私が当麻の実家で暮らすのとどんな関係があるのよ?」
『上条さんと話して旦那さんと詩菜さんは御坂家に遊びに来てもらう事になったの。短い間だけど新婚生活を味わって貰おうかなぁーって思ってさ。お母さんナイスアイデアじゃない? どうせ当麻くんの事だから門限近くなったら帰されちゃうんでしょ?』
「……あっ、ああああアンタって奴は!」
『嫌?』
「さっきはごめんなさい。私が短気でした」
『あはは、いいのいいの。私の方こそごめんね~。美琴ちゃん可愛いからついからかいたくなっちゃってさ』
「えへへ。もぅ、お母さんったら♪ えへへ」

 御坂美琴が上条当麻の事を知り尽くしてるのなら、御坂美鈴もまた美琴の事を知りつくしてるのだ。美琴の思考、行動、喜怒哀楽は手に取るように分かる。流石は母だ。母強し。

『でも美琴ちゃん?』
「えへへ…へ? な、なに?」
『お父さんはまだ孫は早いってさ』
「まっ―――」
『私は賛成だけどねー』
「まごっまごっまごまごまごっままままままま…」
『あ、あれ? 美琴ちゃん? 美琴ちゃん?』
「ふにゃー」
『美琴ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!』




 今日から冬休み。
 付き合って1週間で発覚した上条当麻2週間塩ご飯計画も美琴の手により1週間で廃止になり、季節は寒くなっていく一方だが上条は心身共に温かくなっていった。
 この一ヶ月は本当に濃い一ヶ月だった。愛しの上条当麻とは結婚を前提に付き合えてデートも沢山出来てるし(3週目から)、彼もクラスメイトと和解(時々千切った消しゴムが飛んでくるらしいけど)したし、何より嬉しいのは上条が自分の事を美琴と呼んでくれてる事。もちろんここで紹介出来ない程まだまだ沢山あるのだが、ラブラブカップルの私生活を丸裸にしてしまうのは少々無粋なのでやめておこう。…いや、手抜きじゃないよ?
 しかし上条が美琴の事を「御坂」から「美琴」にするきっかけとなった、ちょっとした珍事件だけを紹介します。

 上条と美琴が付き合って5日後の11月27日。今日は珍しく上条の方が学校が早く終わったので、公園で美琴の事を待っていた。美琴は上条の高校まで足を運ぶのだから上条も常盤台中学がある学舎の園まで行くと言ったのだが、その辺りには女の子しかいないし色々と問題やフラグを起こしそうなので美琴が自分から公園で待っててと言い出したのだ。
 上条はベンチに腰かけ自販機で買ったザクロコーラを飲んでいると、公園の入り口から最近は見慣れた常盤台の制服に短髪の少女が入ってくるのが見えた。
 その少女こそ上条の彼女でもあり待ち合わせをしている相手、御坂美琴―――

「こんにちは。と、ミサカは久しぶりの登場に頭を下げます」

 ―――ではなく、妹達の御坂妹だった。
 手には黒猫が抱えられており、猫なのに「いぬ」と名付けられたその黒猫は上条を見るなりにゃーにゃー鳴き出した。夏休みの事を覚えているようだ。可愛い奴め。
 上条は御坂妹に挨拶すると今はここで姉の美琴を待っているのだと伝えた。今は付き合っている事も。

「そうなのですか。お姉さまの告白を…。と、ミサカは少々驚きを隠せませんがお姉さまの夢が叶ったみたいなので嬉しく思います。と、ミサカは再三に渡り出来る妹をアピールします」

 御坂妹は小さく笑うと、姉の幸せを素直に祝福してくれているようだった。
 しかし事件はこの次の御坂妹から発せられた言葉が切欠となって起こったのだ。

「そういえばあなたの夢は見つかりましたか? と、ミサカは以前の問いを再度あなたに問いかけます」
「夢? あー…、夢ね。えっと…」
「安心してください。ミサカの夢はあなたの夢を守る事ですが、あなたがお姉さまと幸せに暮らしたいと言うのであればそれを全力でお守りします。と、ミサカは健気さを全面的にアピールします」
「まぁ…、うん。恥ずかしいんだけど今の夢は―――」
「今の夢は?」

「『御坂』と一緒に笑って過ごす事かな」

「みっ…」
「…………あ、あれ?」
「(『ミサカ』と一緒に笑って過ごす事が夢…。と、ミサカは再度この方の夢を再確認し再演算します。しかしこの方は既にお姉さまとお付き合いをしていますし…、つまりは姉妹セットでご購入と)」
「御坂妹さん?」
「あ、いえ。不束者ですが宜しくお願いします。と、ミサカは頬を染めて体を預けます」
「へっ? あの…、な、何を――――」
「しとるんじゃアンタ達はーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!??????」
「あ、お姉さま」



 上条の不幸が呼んだのか、御坂美琴は御坂妹が上条に寄り添ったという今しかないタイミングで現われ電撃をぶっ放した。奇跡的に御坂妹は上条の左側にいたので幻想殺しの右手を差し出し電撃を打ち消す事は出来た。もし御坂妹が自分の右側にいたら…と、考えるとゾッとするので上条は考える事をやめた。
 美琴は猛ダッシュでベンチまで駆けて来ると、上条の制服の胸元を掴みガクガクと前後に激しく揺すり怒りをぶつけるのだった。これは浮気の現場よ! ここで強く行かないと後々面倒な事になるわ!

「アンタって奴はーーーっ!!! わ、私というフィアンセがいるにも関わらず妹にまで手を出すって言うのかーーっ!? そんなに妹って響きがいいのかーーーっ!?」
「なっ、何を言って…、やめっ…」
「何を言ってるのか分からないっての!? じゃあ聞くけど何で妹がアンタに頬を染めながらぴったりと寄り添ってたのよっ!!!」
「そ、それは―――」
「それはこの人の夢がミサカと一緒に笑って過ごす事だからです。と、ミサカは荒くなっているお姉さまに冷静に答えます」
「ですねって、御坂妹、お前な。恥ずかしいって言ったじゃねぇかよ…、ってあれ?」
「…」
「…御坂さん?」
「…うそでしょ?」
「え?」
「嘘よ嘘でしょっ!? 何で!? 私の事嫌いになっちゃったの!? 電撃でビリビリするから!? 当麻ってまだちゃんと呼べないから!? 私は…、私は…!」
「お、落ち着け御坂。お前さんはさっきから何を言って―――」
「ふぇぇぇぇぇぇん! もうビリビリしないからーーっ! 当麻ってちゃんと呼ぶからーーっ!! お願いだから捨てないでーーーーーっ!!!!!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ!!!! だから落ち着けって言ってんだろうがーーーーーーーっ!!!!!」
「…。と、ミサカは身の危険を感じるので無言でこの場を立ち去ります」
「あ! み、御坂妹! お前な!」
「ふにゃーーーーっ! ふにゃにゃーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
「あーもう! 静かにしやがれ美琴たん!」
「みこっ―――」
「美琴たんは何か大きな勘違いをしている。まず第一に上条さんはお前の事を嫌いになってなんかいない」
「で、でも…当麻の夢は妹と笑って過ごす事だって……」
「はい? あー…、御坂と笑って過ごすってのはお前とだよ。御坂美琴と笑って過ごすって事」
「わ、私ぃ…?」
「あぁ。前にも言ったけど上条さんは御坂さんにメロメロですので大丈夫なんですってば」
「じゃ、じゃあさ…その」
「ん?」
「わ、私の事美琴って呼んでよ…。ま、また勘違いするといけないでしょ!」
「え? あー、まぁそうですね、うん。じゃあ…美琴?」
「うん! えへへ」

 ………。

「美琴」
「なーに? 当麻ー」
「なぁもうそろそろ…」
「いや」
「はぁ…、美琴たーん」
「たん言うなー」
「美琴ー」
「ふにゃー」

 これが上条が美琴の呼び名を変えた珍事件。美琴はベンチで上条の隣に座ってぴったりと寄り添うと、気が済むまで愛しの彼に自分の名前を連呼させ続けるのだった。
 ところで御坂妹が妙に身を引くのが早かったのには理由があったのだが、公然といちゃいちゃしてる二人には知る由もなかった。




 そして時を戻し、来る12月24日のクリスマスイブ。
 上条と美琴にとってはカップル成立後初のイベントデーで、何をしようかと前日遅くまで電話で話し合っていたらしい(もちろんルームメイトの白井は学園都市製の最先端耳栓を装備)。
 冬休みに入っている事もあり、時間に余裕があったのでクリスマスプレゼントのマフラーも完璧な仕上がりだ。
 今日は昼に公園に集合しすぐにマフラーを巻いてもらう。その後は昼食を取ってショッピングしたり映画を見たり、夜にはクリスマスイルミネーションされた街中を手を繋いで一緒に歩き、最後は大きなクリスマスツリーの下でふにゃーなどと恋人モード全開な展開を美琴は期待していた。
 しかし、当日の昼になっても上条はなかなか公園に姿を見せない。約束の時間を30分…、一時間と過ぎても一向に姿を現さず、連絡も来ない。

「うぅ…、何やってんのよ。当麻ぁ…」

 美琴は半泣きになりながら何度も上条の携帯に電話やメールを送ったが、電話に出る気配も無ければメールが返ってくる気配もない。
 彼の性質上何かしらの事件に巻き込まれてしまったのだと頭をよぎり、どうしたものかどうしたものかと自販機の周りをぐるぐる回っていると携帯が鳴り出した。
 上条からの連絡かと期待したが、着信音を聞く限り彼では無いらしい。
 待ち受けには番号は載っているが、名前は出ていない。登録されて無い番号からかかってくるとか不幸の前触れだった。

「も、もしもし…?」
『もしもし? 第七学区の○○○病院ですが。御坂美琴様でしょうか?』
「は、はい。そう…ですけど」
『実は今こちらに上条当麻さんが運ばれてきたんですけど、彼の携帯があまりに鳴るもので失礼だと思ったのですが―――』
「と、当麻っ!? 当麻は! 当麻に何があったんですか!? 何で病院なんかに――」
『み、御坂さん落ち着いて。彼は学生寮の階段で足を滑らせただけですので』
「かい…、だん? ………………………はぁ、何やってんのよホントに」
『今先生が上条さんの事を治療してますので。御坂さんに一刻も早く安心させてあげてと言われてお電話をしたんですよ』
「そ、そうなんですか。すみません色々…、では今からそちらに伺いますので」
『はい。御坂さんも急ぎすぎて転ばないで下さいね? あと彼氏をあまり叱らないように。彼も恐らく急いで向かおうとしてたんですから』
「は、はい…。では…、失礼します」

 美琴は電話を切って大きく溜息を吐くと、先程の注意を聞き入れることなく全速力で上条が治療中の病院に向かった。
 折角のクリスマスイブに病院デートとは…、まぁ彼らしいといえば彼らしいのだが。




「当麻!」
「おー、美琴たん。いや、すみませんねぇ…上条さんの寮のエレベーターが故障中だったもんだからさー」

 美琴は病院に駆け込むと、受付に確認する事なく上条が運ばれたであろう病室に直行した。
 もう何回も上条も美琴もココに来ているので、自然と分かってしまうのだ。
 案の定半ば彼専用と化したその病室には上条がベッドに横たわっており、右足に包帯をぐるぐる巻きになっている状態だった。
 美琴はその有様に一瞬だけ息を飲んだが、上条の元気そうな顔と声に涙腺が緩み、今まで待たされた分もあり上条に抱きついて泣き出してしまった。

「…っ」
「みこと、たん…?」
「うぅ…、たん言うなって…っ、言ってんでしょうが……、馬鹿ぁ…」
「す、すみません。上条さんってば…」
「…いいの、もう。当麻が無事なら、それで」

 上条は胸の中で肩を震わせる美琴の頭を優しく撫でてあげた。安心を与えるために。謝罪を込めて。

「足。大丈夫なの?」
「んー…、骨は異常無いみたいだけど、何か捻り方が悪かったのか今日だけ入院になっちまった」
「そっか。それでも一日で治してくれるなんて…、流石リアルゲコ太ね」
「もう頭上がらねぇよ、ホントに」
「年末には痛みの残らないくらいに完治してそうね。実家に帰るんだしさ」
「あぁ。それなら大丈夫。もしもの時は松葉杖貸してくれるらしいし。美琴も帰るんだろ?」
「うん。私の家は当麻の家と一緒に年越すんだって頑張ってお節のメニュー考えてるみたい」
「マジで! お節とか16年ぶり(記憶にない)なんですけど! 楽しみだなぁ」
「そ、そんなの? じゃあ…、私も頑張って作ってみる」
「おぉ。美琴さんの料理もおいしいから楽しみにしてますよ」
「えへ」

 どうやら昨日のうちに上条のところにも詩菜から連絡があったらしい。最初は渋っていた上条だったが詩菜と電話を終えた瞬間に美琴から電話がかかってきて、何で嫌なのよ! の連呼連呼連呼。
 その後の美琴をなだめるのは大変で、何を言っても「私なんかどーせ魅力のみの字もなければ、巨乳のきょの字もない女よ」と超鬱モードに入り、体育座りをしながら壁に向かって当麻のとの字を書きまくっていたようなので上条は渋々オーケーしたのだった。
 美琴はオーケーを貰った瞬間に明るくなり、門限無いんだからいいでしょと言うが上条は理性の壁の事も考えてほしいと思っていたのだ。




「それで隣の土御門兄妹がさー」
「うん…」

 美琴は面会時間終了時刻に近づくにつれて元気がなくなっていった。
 クリスマスイブが病院デートで終わってしまった悲しさではなく、上条と離れてしまうのが寂しいのだ。
 上条は美琴とデートする度に最後にはこのような状態になるので、ふと夏休みに父刀夜が言っていた言葉を思い出す。
 母の詩菜も刀夜とのデートが終わる時間が近づくにつれて、決まって悲しそうな顔をしていたと言う。今の美琴が多分そんな感じなのだろう。詩菜と美琴からすれば、親子揃ってこんなに悲しませるなんて! と、思うところだがそれはそれまでが最高に幸せだった事の裏返しなので、その事はそっと自分の胸に仕舞っておくことにする。
 そして上条は美琴が離れても大丈夫なようにデートの終わりには決まってある魔法をかけてあげるのだ。きっと刀夜も詩菜にかけてあげたに違いない別れのキスを。愛を込めて。

「よしよし」

 しかし上条にはそんな恥ずかしい事はとても出来た事じゃないので、優しく頭を撫でてあげるだけだった。

「えへへ。じゃあまた明日ね、当麻。迎え来るから」
「あぁ。ごめんな、折角のクリスマスなのに…」
「いいの。当麻と二人っきりでいられるんだから」
「ありがとな。気をつけて帰れよ?」
「うん。じゃあ…、また、ねっ」

 美琴はそう言うと、上条の頬にキスをして帰って行った。
 彼等は本当に学生なのだろうか?
 その桃色ラブラブいちゃいちゃ空間は見ただけでやられそうなオーラを放っていた。
 これが学園都市初の二人で繰り出す能力。能力名【逆行再現―フラッシュバック―】。その能力は二人のいちゃいちゃオーラを見たが最後、夢にまでいちゃいちゃしてる二人がフラッシュバックしてくるという実にけしからん能力だ。今までもオーラを放っていたが、他人に影響を及ぼすレベルでは無かった。しかし今はレベル4。十分なレベルまで上がってきている。

「えへへ。クリスマス当日は時間たっぷりあるわよね。今日待たされた分たくさん甘えないと」

 美琴は病室を出るとマフラーで口元を隠し、ニヤニヤしながら病院を後にした。

「…上条さんの彼女は、笑ったり怒ったり泣いたり甘えたりと忙しそうですね」
「ホント見てられないよ」

 その様子を見ていた冥土返しと看護婦は溜息混じりでそう言った。この二人こそ、上琴逆行再現の最初の被害者である。
 どうやら容態を確認しに来たらしいのだが、あまりのいちゃいちゃに病室に入りづらかったようだ。
 ところで色々あってプレゼントのマフラーを渡しそびれた美琴は、寮に戻った後寮監に怒鳴られるのを覚悟したかのような大声で吼えた。
 そして足の怪我だが一応体温検査をした上条は、常温より1、2℃高かったらしい。





 翌日12月25日、美琴は朝早く起き身支度を開始した。
 イブの日も気合を入れて準備していたのだが、今日は100%デートなのでさらに磨きをかける。病院にいるんだし大丈夫よね、うん。
 そして美琴は泣きながら引き止める白井に電撃を浴びせ気絶させると寮を出て病院へ向かった。
 クリスマスという事もあり、面会時間開始時に既に病院に来てる人は少なく入院をしてるのであろう患者がチラチラといるだけだった。
 美琴は上条のいる部屋の前まで着くと再度身支度を整えドアを開いた。

「おーっす当麻ー。迎えに―――」
「すー、すー」
「(寝てるし…)」

 流石に早すぎた(と言ってもそろそろいい時間だが)のか上条はまだベッドで寝息をたてていた。
 起きてる時はキリッと見える(美琴ビジョン)上条も、寝ている時はとても可愛らしい寝顔だった。何だかんだで付き合ってからは始めてみる上条当麻の寝顔に、美琴は胸をキュンとさせた。
 そして美琴はベッドの隣にある椅子に腰掛けると、顔を赤く染めながら優しく上条の頬に目覚めのキスを―――

「なーんて、んむっ」
「むふぇ?」

 しようと思ったら、どうやら上条は起きていたらしく美琴の方を見てきたので、美琴は上条の唇にキスをしてしまった。

「あっ、あああああアンタおおお起きてっ!?」
「…もう、美琴さんったら朝からそんな」
「なっ…! あああああああ…、あうあうあうあう…」

 頬狙いのキスが唇に変わった恥ずかしさと、上条に知られてしまった恥ずかしさから美琴はプスプスと頭から湯気を出し、体はビリビリと帯電し始めた。こ、これはふにゃー化5秒前っ!
 しかしここは病院なので、美琴の電撃が撒き散ろうものなら色々な精密機器が一瞬にして亡くなる可能性が高い。なので上条は、今まさにふにゃーとする美琴を――

「み、美琴。おはよう」
「あ…」

 優しく抱き寄せて漏電防止&トドメを刺すのであった。そして見事にふにゃー化した美琴を椅子に座らせてなだめていると、病室に看護婦と冥土返しが入ってきた。昨日聞いたが、今日は朝一の診察で包帯を取ってすぐ退院できるらしい。

「おや。朝からお熱いね」
「あ、先生」
「お、おはようございます」
「おはようございます、御坂さん。早いですねー。そんなに彼氏が心配? それともこれからデートなのかしら?」
「え、あ、それは…、あぅ…」
「ふふ。はい、上条さん。包帯取りますので動かないで下さいね?」
「あ…」
「…ん? 美琴? どした?」
「な、なんでも…」
「???」



 上条は診察を受け、足は特に異常が無かったのでそのまま退院する事になった。昨日足を滑らせて転んだせいか服は汚れていたので、名前は思い出せないが病院備え付けの服を着ていた。
 心優しい看護婦が上条の汚れた服を洗ってはくれたのだが、結構激しく転げ落ちたのか穴が開いてしまってたので、一度上条の部屋まで戻る事になった。…まではいいのだが、病院から上条の部屋に行くまでの間、美琴は上条の腕にしがみ付きべったりとくっついて離れない。上条が看護婦に包帯を取られている時から何やら落ち着かない様子を見せていたのだ。
 この状態ではぶっちゃけ歩きにくい事この上ないが、甘えてくる美琴には甘えさせておくのがいいと上条は学んでいた。
 ちなみに美琴がツンツンして素直になれない時は頭を撫でる等をしてデレに持っていってあげればよし。
 美琴が上条の彼女で弱点を熟知してるのなら、上条も美琴の彼氏なので彼女の弱点を熟知していた。もうこうなってはツンツンしてようがデレデレしてようが、ビリビリしてようがふにゃふにゃしてようが美琴が上条に勝つ事は出来なかった。

「ところで美琴。今日の予定なんだけどさ」
「う、うん…あ」
「ん?」
「こ、これ…クリスマスプレゼント。私が編んだの」
「おぉ! 緑のマフラーとはいかにも美琴らしい。…つか模様とか凄ぇ。ありがとな、今巻いていい?」
「わ、私が巻いてあげる…。これ巻き方があるの」
「そうなの? じゃあお願いします」
「えへ。はい、どうぞ」
「サンキュー。…………ん? こ、この名前は…」
「えへ」
「…美琴たん。さすがにこれは少々恥ずかしいんですけ―――」
「ダメ…?」
「……だっ、ダメじゃないです」
「えへへ、当麻ー」
「はは…」

 いや、唯一勝てるとしたら美琴の押しかもしれない。
 上条の優しさと美琴の押し。主導権はどちらかが折れる瞬間に奪われるのだ。と言うか攻めた方が勝つのだ。守ってては勝てない。
 今回は美琴の頬を染め&モジモジ&上目使いに上条はただただ受け入れるだけだった。




「あ。そういえば」

 上条は美琴と一緒に部屋まで帰ってくると、思い出したように言い出した。
 昨日階段から転げ落ちてボロボロになった服は、病院の方で一度洗ってはくれたが一応外に出たのですぐさま脱いで洗濯機に押し込み、別の服に着替えている。
 ボロくなっても部屋着にくらいにはなるし、何より年末は色々と出費が多いので新しい服など買う余裕がないのだ。美琴は新しいのを買ってあげると言うが、漢上条この命灯火となるまで決してヒモにはなるまいと固く誓うのであった。
 そして今は洗濯機の終了待ちしているところ。冬とは言え今日は恐らく夜まで帰ってこないので、生乾きの良からぬニオイが出かねないので。あれはヤバい、マジで。
 ところで美琴はと言うと、部屋に着くなり上条がいきなり服を脱ぎ出しパンツ一丁になるもんだから、両手で真っ赤になった顔を隠している。
 しかし上条の事なら何でも知りたい電撃姫は、指の隙間から上条の生着替えをチラチラと見ては恥ずかしくなりまた顔を隠す、を繰り返し繰り返ししていた。
 そんな美琴を横目に上条は着替えの途中に何やらゴソゴソと鞄の中を物色しだす。美琴は何か探すならまず着替えてからにしてよと思っていたが、上条の探し物と肉体に興味津々で言うに言い出せなかった。

「美琴ー」

 ジーンズだけ穿いて上半身真っ裸のままの上条は、探し物が見つかったのかそれを隠し美琴の前まで歩み寄ってきた。
 もちろん美琴サイドからすれば半裸の上条が急に迫ってきたので、チラチラと覗いていた指の隙間を戻す事も出来ないくらいにカチカチに固まり、顔は染めるとかそんな表現では表せないくらいに真っ赤になり、頭からは沸騰したヤカンのようにポーッと湯気を噴き出した。

「ふにゃー」
「ええええええええっ!? 何でだ美琴たんっ! ここでそれは無しだってぇーーーっ!!!」

 先程ヒモにはなるまいと誓ったばかりの上条は、いきなりふにゃー化し家電製品に影響を及ぼす電撃を漏らしている美琴を抱き寄せると、そのまま頭を撫でて落ち着かせる…が、もちろんそんな事を半裸の上条にされようものなら―――

「と、当麻ぁ…。優しくして…ね?」

 美琴は壮大に勘違いする他ないのであった。
 そして、その爆弾発言を聞いた瞬間に上条当麻の理性の壁は何トン何十トンもある巨大な恐竜に体当たりさせたようにヒビが入り、衝撃には耐えても外側はボロボロと崩れていく。
 上条はいかにクリスマスのテンションとは言え、記憶上初の里帰りで両家集まる元旦の親睦会の中、孫の名前を考えて欲しいなんて不幸体質が無くなったとしても言える事ではなかったので、微力ながら壁の内側から支え何とか崩壊を免れたのだった。



「え、えぇっと…、んんっ! 実は上条さんからも美琴たんにプレゼントがありますー」
「は、初めて…?」
「ぶほっ!? み、美琴たんっ! 間違っても今の言葉をよそ様に言うんじゃないぞ! 美鈴さんや旅掛さんもダメ!」
「じゃ、じゃあ何よ? こんだけ期待(何を?)させておいて。あとたん言うな」
「ふにゃーってならないで下さいね」
「? 一体なんだって―――」

 上条は美琴の左手を優しく奪うと―――

「ハッピーウエディング。美琴」
「ふぇ?」

 隠していた銀の指輪を薬指に通した。

「あああああああの…! これっ…!」
「あー…、まぁその何だ。年末年始実家で仮夫婦として一緒に暮らすだろ? だから美琴には俺の妻としてはめてもらおうかなぁなんて。形だけなんで安物で悪いけどさ」
「当麻…」
「んで」
「ふぇ?」

 そして今度は両手で美琴の頬を挟むと―――

「ん」
「んんっ!? ん…、あふ…」

 誓いのキスとばかりに優しく美琴の唇を奪った。

「…っは。メリークリスマス、美琴」
「え、あ、わ、わわ私…、その…あうあうあうあう…」

 美琴はもうダメになった。もう本当に本当に本当にダメになった。こういう事は夜景が綺麗な所でとか、ムードがビンビンに出ているスポットとかでされたいと思っていた美琴であったが、場所なんかもうどうでもよかった。もう本当にどうでもよかった。何かうまく伝わらないかもしれないけど、つまり美琴はダメになった。これほどまでに演算が間に合わないのは初めてだ。
 だってだって…、えぇっ!? い、いきなり指輪をプレゼントされたと思ったら、きっ、キキキキキキスゥもプレゼントされて…? ああああ…、あ、あう、あうあう…。

「ふにゃー」
「みっ、美琴たーーーーーーーーんっ!!!!!」




「あの…」
「いや」
「ま、まだ何も言ってないんですけど」
「どうせ『洗濯物も干し終わったので…、もうそろそろ出かけませんか?』って言うに決まってる」
「…」
「だから、いや」
「いやって…、もう昼過ぎですよ? 遊びに行くならもうそろそろ―――」
「もう少しこのままがいい…」
「……わかったよ」
「えへ」

 今、美琴姫は当麻王子に後ろから抱きつかれて心底ご満悦だ。先程のふにゃーから帰ってくるや否や上条に抱きつき、洗濯機が終わろうが洗濯物を干そうがくっついて離れない。そしてひとしきり抱きつくと、今度は上条に後ろから抱きつかせて上条座椅子として堪能している。
 もうかれこれ1時間はこの状態なのだが、美琴姫は全然物足りないらしくずっと抱きつかせたままだ。この分だとイブは病室デート、クリスマスは自室デートになりそうです。

「えへへ、ふにゅ…」

 しかしまぁ、美琴がそれでいいならいっかと思う上条なのであった。
 美琴は完璧に猫化し、上条にスリスリしている。付き合ってからデレの頻度が高くなってきて今ではホントにツンデレなのですか? と言われてしまってもおかしくないくらいデレデレしている。
 だが、徐々にデレが増えてきたのは上条にとってもとても喜ばしい事だった。
 付き合ってツンデレが続き、いざいいムードになった時に急にデレてこられたのではデレに対する耐久が無く、我を忘れ一線を越えかねない。デレが少しずつ少しずつ増えていけば、耐性もちょっとずつちょっとずつ増えてくる。
 なので上条は今の美琴のデレデレ時々ツンツンという性格がとても好きなのだ。

「美琴たん。飯どうする? 上条さん朝から何も食べてないんですがー」
「ごはんー? じゃあ私が作ってあげる! 何がいい?」
「んー…、そうな。んー」
「冷蔵庫には何が入ってるの?」
「マーガリン」
「うん」
「…」
「うん?」
「マーガリン」
「…」
「…」
「……もしかして、指輪一組買うのにまた塩ごはん生活送ってるわけじゃないでしょうね?」
「…えへ」
「アンタって奴は…」




 上条と美琴は部屋を出るとスーパーへ向かった。美琴としてはごはんよりも上条座椅子の方がいいのだが、餓死してはたまらないので重い腰を上げたようだ。
 お互い左手の薬指に指輪をしている若いカップルは、冬の寒さなどものともしないくらい温かい。上条は美琴手作りの緑のマフラーを巻いているし、美琴は一生の宝物になるであろう指輪がはめられてる左手を上条が握ってくれているから。
 ちなみにこれから食材を買いに行くわけだが、上条はこの日のために財布の中に諭吉さんを一人隠して住ませてたみたいで、美琴がどんなに言おうが材料費は自分で出すと聞かなかった。クリスマスということでセールもやっており、ついでに買い溜めもしておくようだが、年末には実家に帰るわけなので2、3日分くらいの食材があればオーケーなのだ。
 しかしそうなると結構な額になり行きの電車賃が無くなる可能性があるので、クリスマスケーキだけは美琴に買ってもらう事にした。すみません、美琴たん。ダメな彼氏で…。
 上条は美琴に料理作ってもらう時には決まってメニューというか、主食を考える。「何でもいい」じゃ一番困るだろうし、美琴も上条の好きな物を知れて一石二鳥なのだ。後は美琴が足りない栄養を足せばいいので。

「ぐっは! 重かったー!」

 上条は両手いっぱいのビニール袋を持って部屋に帰ってくると台所に荷物を置いた。クリスマスと言う事でケーキにチキン、飲み物などと重量系の物が多い。
 もちろんこれを3日も続けられないので、安かった魚や肉も買い溜めし冷凍しておく。これなら食べたいときに食べれる。美琴はまだこの辺りの台所の事情や家事がまだよく分からないので、年末年始にある夫婦生活では美鈴や詩菜に弟子入りしそうだ。

「お疲れ様、当麻。じゃあ私作り始めるから休んでて」
「ありがとー、美琴たーん」
「たん言うな」

 美琴は食材を冷蔵庫に入れていくと、上条が食べたいといったカレーを作り始める。米だけはある上条家には作り置き出来るカレーはまさに最高の献立なのだ。カレーなら美琴も作るのが簡単で、煮込む間にいちゃいちゃ出来ると考えたのか手際よく調理を―――

「はっ!」

 しようとしたが美琴が何故か動かない。じゃがいもと包丁を持ってプルプルと震えている。

「ど、どした美琴? 怪我した?」

 美琴が微動だにしないので心配になった上条は美琴の手元を見るが、別に怪我をしたというわけではないらしい。
 では一体どうしたのだろうか? 上条は美琴の手元と顔を交互に見ていると、美琴が上条に気付いたのか顔を向けた。その目には涙が溜まっている。

「と、当麻ぁ…」
「どうした美琴たん! な、なにかマズイ事でも―――」
「指輪」
「………え?」
「指輪が汚れちゃう」
「ゆ、指輪? あー、指輪ね。外せばいいんじゃ―――」
「いや」
「え?」
「外したくない」
「えっと…? じゃあそのまま―――」
「汚したくない」
「…」

 どうやら上条はとんでもないものをプレゼントしてしまったらしい。




「う~~~…」

 美琴は何やらしかめっ面で料理をしている。先程のやり取りで料理を作り出せない美琴は部屋に連れて行かれ説得を受けていた。
 何だって美琴はそんなに指輪を外したくないのかと聞くと、

「こ、この指輪をつけてる時は、私は上条美琴だもん」

 との事。美琴はおもちゃを取り上げられたくない子供のように左手を隠しているが、上条が溜息を吐いて「じゃあ俺が作るよ」と立ち上がると折れた。
 美琴は上条の腰に抱きつくと、今度は差し押さえられた宿の女将のようにわんわんと泣き出した。
 もう上条は色々と疲れたので美琴の指輪をヒモに通し、首から掛けてあげた。美琴からしたら大切な指輪なので腑に落ちないのだが、料理が出来ない妻だなんてのは絶対嫌だったので大人しく料理をしているというわけだ。

「そういえばいつから学園都市出れるの?」
「うぅ…」
「…美琴たん?」
「な、なによぉ」
「え、えっと…いつから学園都市出れるのかなぁって」
「ぐすんっ…、に、29日から」
「そ、そうですか」
「うん。…あ。もうすぐ出来るから…、んっ、待っででぇ…」
「は、はい」
「冷蔵庫に福神漬けが入ってるから出じでぇ…」
「わ、わかりました」
「ふぇぇぇん」
「ど、どうしたの美琴たん」
「ご飯炊くの忘れてたぁ…」
「あー…」

 上条は美琴と付き合ってから様々なモードの美琴を見てきたが、これは初めてだった。とりあえず上条は美琴の頭をよしよしと撫でてあげるとご飯を早炊にセットした。




「はい、当麻。あーん」
「あー…、むっ。もぐもぐ」
「おいしい?」
「うん」
「えへへ。はい、あーん」
「あー…、むっ。うまうま」
「えへ」

 先程の美琴はどこに行ったのか、今度は完全にデレデレの美琴になっていた。美琴は上条の隣に座り四角いテーブルの一辺しか使わないし、スプーンは美琴の持ってる一つだけであーんしてくるし、喉が渇いたから水を…と思ったらこれはさすがに自分で飲めた。
 料理が終わった瞬間に首に掛けてあった指輪を戻すとそれを見ては頬を染めてもいる。今になって思ったが、この状態で常盤台に帰ったら白井黒子はどうなるだろうか。また再戦しかねない?
 昼過ぎまで美琴が猫化してた事もあり、材料の買出しや美琴の説得の後料理をしていたらもう夕方になっており、日が短い12月ではもう外は真っ暗になっていた。
 テーブルの上には美琴が買った緑色のガラスのツリーが置いてあり、部屋の電気を消してツリー中にロウソクを入れて火を灯せば部屋の中でもとてもいい雰囲気になる。

「ねぇ、当麻ぁ」
「だーめ」
「まだ何も言ってないじゃない」
「どーせまた『今日泊まってもいいでしょぉ?』だろ?」
「うっ」
「もうすぐ一緒に住むんだからそれまで我慢しなさい」
「うぅ…、だってぇ」
「だってじゃありません。はい美琴、あーん」
「…あー、む。もぐもぐ」
「おいしい?」
「ふつう」
「厳しいなぁ」
「うちの母や詩菜さんに教えてもらおうかしら」
「もう十分だと思いますけど」
「まだまだ。当麻が泣いて食べるくらいの作るの」
「辛すぎるのは無しですよ」
「えへへ。大丈夫。とびっきりあまーいやつ作るから」
「甘いカレーですか」
「辛さは変えないわよ。でもとっても甘いの」
「すげぇカレーだ」
「でしょ? はい、あーん」
「あー…、むっ。もぐもぐ」
「おいしい?」
「うん」
「えへ」

 こうしてカップルの聖夜は過ぎていった。何かもう二人は夫婦だった。
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