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「美琴ー、そろそろ行くぞー」

 夫婦生活2日目は御坂家に顔を出すことになっている。
 上条が起きたのが遅かったこととその後にいちゃついてた事もあり、時計の短針はまもなく真上を指そうとしていた。
 上条は玄関で黒のコートと緑の上琴マフラーを装備し美琴待ち。美琴が言うには近所なのでそんなに急がなくてもいいみたいだが、遅くなればなるほど帰りがおそくなるぞと言ったら速攻で支度をし始めた。

「美琴たーん、まだー?」
「もうちょっとー」
「何やってんのー?」
「乾燥機ー」
「…なんで?」

 美琴は支度を始めるや否や洋服を持って脱衣所に駆けて行った。そこで何やら洗濯機をかけているのだが、それが終わると今度は乾燥機にかけているらしい。
 もうかれこれ20分くらい美琴&乾燥機待ちなのだが、しばらくすると終了のアラームがなり、それと同時に「きたっ!」という声と共に美琴が駆けて来た。

「当麻ー、お待たせー」
「何を乾燥機にかけてたんだ? そんなに急いで乾かさなくても―――」
「これ…」
「ん?」

 美琴が持ってきたのは先程まで美琴が着ていた上条のワイシャツ。触ってみるととても温かく乾燥機にかけられていた事が分かる。

「これ…、着てって」
「え? だってこれ美琴のパジャマになるんだよな?」
「う、うん。だから…、着てって」
「…?」

 上条は疑問に思いながらも、美琴が何やらモジモジしてるし着て欲しそうだったのでコートとセーターを脱ぎ捨てワイシャツを着込んだ。下着、ワイシャツ、セーター、コート、マフラー…暑い。ワイシャツが特に。
 美琴の狙い。それは上条のワイシャツをパジャマにする事。しかし自分が一晩着たために上条の匂いが薄れてしまったので、洗濯しておニューのワイシャツを上条に着て貰わなければ。もう美琴は『上条のワイシャツ』という事だけではダメになっていた。
 そして上条がワイシャツに袖を通すのを確認すると美琴は顔を真っ赤にした。一度覚えたワイシャツのあの心地よさをまた味わう事が出来ると思うだけでふにゃーとなりそうだ。

「…お前それで寒くないの?」

 美琴は茶色のコートを着てはいるが、スカート姿。上条は…というか男なら多分一度は思う事だろうが、女の子は冬でスカートというのは寒くないのだろうか。慣れとか?

「寒いけど、家近いから」




 上条と美琴は部屋を出ると美琴の実家へ向かって歩き出した。鍵を閉める際に、美琴は『上条 当麻 美琴』の表札に再度頬を染めエレベーターの中ではずっとあうあうしていた。
 一階に着きエレベーターホールを抜けると、レンガが引かれた敷地を歩き一般道に出る。

「そういえば美琴ん家までどれくらいなの?」
「ここ」
「近っ!」

 そこには確かに「御坂」と表札がかけらている一軒家があった。上条家より徒歩5分。マンションを出てからは徒歩2分もかかってないだろう。なるほど、これなら美鈴さんは寂しくないはずだ。すぐにでも上条家に遊びにいける。…つかマンションに来る前に通ったような。

「…」
「…当麻? ど、どうしたの?」
「……いえね。なんつーかもっとこう、どんな家なのかとか想像して行きたかったっつか」
「そ、そうなの? 普通だって言ったじゃない」
「普通…ねぇ」

 お嬢様でもある美琴の実家としては普通だったが、それでも結構な大きさだった。家は洋風な作り、美しいガーデニング、…ってあれ? でも美鈴さんが一人で住んでるんだよな? もしかしてガーデニングが趣味とか? 乙女の美琴の母親ならもしかしたら……。

「おや、おー! 当麻くん! 来たかー!」

 そう言って話しかけてきたのは美琴の父親の旅掛。旅掛は玄関の前の石段で腰かけて缶コーヒーを灰皿に(一番安い)タバコを吸っており、首と頭にタオルを巻いていた。
 スーツでない旅掛を見るのは初めてで大掃除中なのかジャージ姿だった。こうしてみるといいお父さんでスキルアウトなんかじゃない。…いやスーツでも違いますけどね?

「旅掛さんこんにちは。お久しぶりです」
「久しぶり。いやー、うちの美琴が迷惑かけてるみたいですまんな」
「い、いえ…って、大掃除終わってなかったんですか?」
「いやいや、昨日で家の中は終わったんだけどね。今日は庭の手入れしてたんだ。今終わったところ」
「呼んでくれれば手伝ったのに…」
「わっはっはっ。ありがとう、でもそんな事したら怒られそうだ」
「え?」
「ふぇ? な、何で私を見るのよ」
「おかえり美琴たーん」
「た、たん言うなっ!」
「何か当麻くんよりキツイんじゃない?」
「…………あぅ」
「はは」
 
 旅掛はあうった美琴に笑うともう一度タバコを吸って缶コーヒーの中に入れた。短いと濃くなるので結構くるようだ。

「ささっ、寒いだろ? 家の中にどうぞ」
「あ、はい。お邪魔しますー」
「ほら、行くぞ美琴ちゃん。何あうあうしてんの」
「あうあうあう…」




「はぁー…」

 上条は御坂家の玄関で声を漏らした。その原因は内装にあり、広々とした玄関に2階まで筒抜けな天井は開放感溢れる。廊下も広く、伸びてる方に垂直に寝そべっても余りありそうだ。

「何なのこの木みたいの。こんなの置いてあるのドラマだけかと思ってたんですけど」
「去年帰った時はこんなの置いてなかったわね」
「まぁ自分の家だと思ってゆっくりしてってくれ。半分はもう当麻くんの家だからね」
「ちょっ、旅掛さん!」
「あぅ…」
「そ、そう言えば父さんはどこですか?」
「上条さんならリビングにいるよ。そこ左ね。俺トイレ行って来るからさ」
「わかりましたー」

 旅掛はそういうと何やらドアを開けて入って行った。なるほど、あそこがトイレか。
 上条も先程言われた通りに行こうとしたら美琴が我に返りスリッパを慌てて用意した。脱いだ靴も綺麗に揃えて出来る女をアピールしなきゃ! こういう所からしっかりしないといけない。…と、学校で習ったような習ってないような。

「こ、コートはここ」
「うぉ。何この上着掛け。何かどんどん美琴と俺がつり合わない感じが出てきてるんですが」
「ふぇ? なっ、なななな何言ってんのよ! こ、これはその…、あの…」
「あー、冗談です冗談です。そんな泣きそうな顔すんなよ」
「うぅ…」

 上条はそう言って美琴の頭を優しく撫でると「お邪魔します」と言って上がった。美琴は「ただいまでもいいのに…」と小声で言ったが、上条は聞こえないフリをした。
 広い廊下を歩いていくと突き当たり、そこを左に曲がる。そうするとトントントンという音と共に何かいい匂いがしてきた。そこはキッチンのようで、エプロン姿の詩菜が何やら調理をしているところだった。既に何品かは出来上がっており、テーブルの上に並べられている。

「あら、当麻さん。美琴さん。こんにちわ」
「よ、母さん。いい匂いだなー」
「今お昼を作ってる所なんですよ。当麻さん達の分もありますから待ってて下さいね」
「マジですか。楽しみだなー……ん?」
「…」
「……美琴、たん?」

 美琴はそんな詩菜の料理を見てプルプルとしている。一体どうしたのだろうか。もちろん理由は見た目で既に負けを認めているからなのだが。
 そして美琴がプルプルしていると、リビングの方から美鈴が入ってきた。 

「おー、新婚さんいらっしゃい。…もぐっ」
「こんにちわ美鈴さん…って、つまい食いですか」
「ふぇ? …んぐっ、まぁまぁ、お二人もどうぞ」

 美鈴はそう言うとつまみ食いしたかぼちゃの煮物が入った皿を差し出した。かぼちゃの匂いと砂糖の甘い匂いが食欲をそそる。

「うまっ!」
「おいしいでしょー? ほら美琴ちゃんも」
「……あむっ」
「どう?」
「…………、おいじぃ…」
「ふふん。これは私作の料理ですよん」
「ぶぇぇ…」

 美琴の自信は完膚なきまでに打ち砕かれた。常盤台で習ってるといっても、専業主婦の料理と夫娘がいる主婦の料理には天と地の差を感じたようだ。何といっても家庭的で何か温かい料理なのだ。
 一体何が違うっていうの? 愛なの? 愛なら誰にも負けないというかごにょごにょ…。





「やっぱり美琴さんは手際いいですね。そうそう、そこに切れ目入れてね」
「は、はい」
「包丁の切れ味が落ちてきたらお茶碗かなんかの底の裏を砥石代わりに使うの。そうすると大分違いますよ」
「は、はい」
「ふふ」

 美琴は早速詩菜に弟子入りしていた。美鈴が着けていたシンプルな黒い無地のエプロンをかっさらい詩菜の隣で料理を作っている。
 詩菜が何か言うたびにいつの間に入れたのかポケットの中からメモ帳を取り出しは書き込んでいる。チラッと見えたがタイトルは「マスター主婦への道」らしい。

「何か頑張ってんなー、美琴」
「ふっふっふっ。よっぽど私の料理に敗北感を覚えたのね」
「確かに美鈴さんの料理はうまかったですよー」

 カッ――――!

「み、美琴さん。それはぶつ切りではなくて…!」
「ふぇ? あ、す、すみません! あわわ…」

 ……。

「と、当麻くん。あ、あっちにお父さんいるから行ってましょうか」
「そ、そうですね。と、父さんに会いたいなー」

 上条と美鈴は美琴から発する何かに恐怖し、犠牲になった何かに合掌するといそいそとキッチンを後にした。このままここにいて会話を進めていったら恐ろしい事になりそうだ。

「…って、あれ? 父…さん?」
「あ。当麻か、久しぶりだな」
「久しぶり…って、どうしたの?」
「…」

 キッチンの隣はリビングで、そこにあるソファーに上条の父刀夜はうつ伏せに寝ていた。腰には湿布。

「上条さん、ぎっくり腰になっちゃってね」
「…マジか」
「……恥ずかしい」
「だ、大丈夫なの?」
「もう痛みは引いてきたよ。御坂さんのご好意で昼まで休んでるんだ」
「そ、そうなんですか。まぁ…、ゆっくり休んでください」
「うぅ…掃除の手伝いに来てるのにぎっくり腰とは。情けない…」
「あー…」

 上条と美鈴は何とも言えない空気に気まずくなったが、しばらくするとキッチンから「お昼出来ましたよー」と詩菜の声が聞こえてきたので何とかその場を繋ぐことが出来た。
 刀夜は後で食うよと言うが、上条が皆で食った方がうまいだろと刀夜を支えキッチンに向かっていった。




「じゃあ、皆揃った事だし。いただきまーす」

 旅掛は合掌しいただきますコールをした。御坂家は3人家族のハズだが全てにおいて大きいので、テーブルも上条家入れての6人を余裕で配置出来ている。
 テーブルの上には様々なおかずが揃っており、とても昼ごはんだとは思えない。…が、とりあえず涎の止まらない上条はがっつく事にした。

「いただきまーす。…んむっ、うまっ!」
「ほぉ。これはうまい。昨日も頂いたが上条さんの奥さんの料理は素晴らしいですな」
「あなた。それ、私が作ったんだけど」
「…」
「ん。こっちは母さんの味付けだな」
「あらあら。分かりますか刀夜さん」
「そりゃあいつも食べてるからね」
「あらあら。うふふ」
「…」
「…? 美琴ちゃん? 食べないの?」
「え? あ、う。た、べる…」

 美琴はそう言って箸を持つが、モジモジしてるだけで料理に手をつけない。何やらおかずの中の玉子焼きをじっと見ているような。

「…?」

 上条はそんな美琴に疑問を抱きながらも箸が止まらない。ここ最近自分で食ってない上条は「がっつく」という言葉を思い出したようにまさにガッツガツいっていた。
 そして美琴の視線の先の玉子焼きにも手を付け―――

「あ…」
「あむっ。もぐもぐ…」
「…」
「うまっ!」
「……………えへ」

 上条のうまいに機嫌と言うか笑顔が戻った美琴は、先程上条が取った隣の玉子焼きを摘むと半分頬張った。一応はうまく出来てるけど…、詩菜さんには敵わないな(美鈴にも負けてるがくやしいのでカウントしない)。で、でもいつか―――!

「美琴ちゃん。ご飯食べ終わったら詩菜さんと一緒にお節作るんだけど一緒に作る?」
「…!」

 美琴は「お節」というワードに超反応した。確かクリスマスイブの時に上条が楽しみにしてたような。そしてその時に頑張って作ってみるって言ったような。

「つ、作る!」
「うふふ。一緒に頑張りましょうね、美琴さん」
「は、はい!」

「何か美琴やる気になってんなぁー」

 上条はいいところでいつも鈍感だった。美琴はアンタの為よ! と大声で言いたかったが、言ったら言ったでまた美鈴と旅掛にからかわれるので言わない事にした。

「当麻くんに食べさせたいんだよねー?」

 しかし美鈴にはバレていたらしい。あうあう…。




「かまぼこは切って紅白で並べると見栄えが良くなりますよ」
「は、はい」
「ちょうろぎうまっ」
「伊達巻も丁度いい太さにね」
「は、はい」
「数の子うまっ」

 昼ご飯を食べ終わり女性陣(主に詩菜と美琴が。美鈴は試食と言う名のつまみ食い)が料理をしている中、男性陣はリビングで食休みしていた。

「母さーん。お茶くれー」
「俺も頼むー」
「美琴たーん。俺も熱々のをお願いしますー」

 この3人は似た物同士のようだ。きっと上条が刀夜旅掛と面識が無くても絶対に息が合い、親しくなっていただろう。

「刀夜さん。ここは御坂さんのお家なんですよ? あまり行儀の悪い事はしちゃいけません」
「はい…」
「あなたも。上条さんが見てんのよ?」
「す、すみませんでした…」
「あ、アンタも! えっと…、その……とにかくぐーたらしない!」
「わ、わかりました…」

 その似た物同士に説教するこちらも似た物同士の3人。当麻、刀夜、旅掛は各々の妻(一部予定含む)の美琴、詩菜、美鈴の前で正座させられていた。11月22日の時にチラッとだけ聞いたが、頭が上がらないのは本当のようだ。
 …俺はそんな事なかったハズなのに、この場の空気が。母さんと美鈴さんが発するオーラに美琴たんが…。
 しかし何と言うか上条さんと美琴のいちゃいちゃと言うよりも、上条家と御坂家のいちゃいちゃである。もう仲が良すぎなのである。
 そんな中美琴はここにいる全員左手の薬指に指輪がはめられている事に気付き、俯いてあうあうしだした。詩菜の事は詩菜さんと呼んでいるが、刀夜の事は何て呼ぼうか? お、おおお…お義父さん、とか? ふ、ふにゃー…などと考えてもいた。

「美琴ちゃん。その調子よ。デレデレするだけが妻の務めじゃないの。やっぱり旦那をちゃんと調教しないとね」
「ふんふん」

 妻たちは旦那に説教するとキッチンに戻り料理の続きを始めた。そこで料理だけでなく妻としての心得も美琴に伝授する。

「そうですね。美琴さん? たまにはお預けにする精神も持ってないといけませんよ」
「は、はい」

 美琴は美鈴と詩菜の助言をしっかりとレポートに書き込んだ。これなら突然電池切れになっても大丈夫だ。





「…じゃあそろそろ聞いちゃいますか」
「あらあら。美鈴さんったら」

 美鈴は突然(つまみ食いの)手を止めると、詩菜に向かって笑みを見せ何かしらの合図を送った後美琴の方を向いた。
 こ、この笑み…絶対何か企んでいる顔だ。ど、どうしよう…多分って言うか絶対当麻関係の事よ。わ、私の顔が…真っ赤に……プスプス。

「そうねー、まずはその大事そうに首からかけてある指輪について聞いちゃおうかな」
「あぅ…」

 やっぱりーーっ! 当麻助けてー! …と思いリビングの方をチラッと見るが、愛しの上条は暇だったのか刀夜、旅掛と一緒にトランプしていた。ババ抜きのようで(誰がババだって?)一位刀夜、二位旅掛、負けはやっぱり上条だった。
 ところで昨日会った時に言われたが、美琴は結局料理する時は指輪を外しネックレス状にしている。汚れないにしたってちょっとは違うハズだし…。
 ちなみにここだけの話だが、美琴はシャワーと言うか風呂に入る時間が前に比べると大幅に減った。それでも結構な時間入っているのだが、理由はもちろん指輪。美琴は風呂の時も指輪を外し浴室に持って行かないため、その時間はとてもウズウズしている。
 今は夫婦生活の為同居しパジャマに上条のワイシャツを使っているが、着るとふにゃーってなるためにその隙に指輪がどこかに行きかねない。…が、ワイシャツよりも指輪の方を優先しているので大丈夫のようだ。

「いつプレゼントされたの?」
「………クリスマス」
「どこで?」
「と…あ、アイツの部屋で…」
「他には何か貰ったんですか?」
「ふぇ? そ、それは…」
「もしかしてぇー、チュウ?」
「っ!」
「あらあら、美琴さんから煙が…」
「ふんふん。当麻くんも意外と手が早いわね…」
「あうあうあう…」
「あとさ、当麻くんセーターの下にワイシャツ着てるじゃない? あれは?」
「ふぇ!? あ、あれは…その、そう! アイツが寒いって言うから厚着を―――」
「美琴ちゃん? 嘘だって顔に書いてあるわよ」
「あぅ…」
「あまり当麻くんのワイシャツに慣れちゃうと常盤台に戻ったときに寝れなくなっちゃうわよ?」
「あぅ…」
「じゃあ私からは…、そうですね。昨日の夜は何したんですか?」
「―――――!」
「ちょっ、詩菜さんストレートすぎよ! み、美琴ちゃんが―――」
「あら? 献立の事なんですけど…」
「ふ…」
「きゃーーっ! 当麻くん! ちょっと来てすぐ来て早く来てぇーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ふにゃー」
「みっ、美琴たーーーーーーーんっ!!!!!!」

 美鈴の声に超反応した上条はグラビトン事件並の速さで美鈴と詩菜の前に割ってはいると、美琴からの漏電を掻き消した。その後は頭に手を置きトドメを刺した。
 え? 昨日の夜? それはその…、あう…。





「当麻ー、大根おろしすってー」
「うーい」

 上条と美琴は現在住まいであるマンションの部屋に帰ってきていた。ふにゃーから帰ってきたら既にお節が作り終わっており、年越し蕎麦にも取りかかろうとしたが茹でるだけだし添える大根も切るだけなので今日はここまでにしたのだ。あまり長居すると夕食の準備が疎かになるし、いちゃいちゃ出来ないっていうかごにょごにょ…。
 帰りに近くのスーパーで食材を買うと料理を作り始める。妻としての心得その1。地域の食材の相場を把握せよ。美琴はレベル5であるが故にお金には困らないためか何でも買っていたが、将来のために生活費もちゃんとしなければならない。将来のことって? そ、それはその…、本当に結婚した後とか? こっ、子供の養育費とかあうあう…。

「お。魚いい感じですね。で、大根は?」
「はい。皮ちょっと剥いてね」
「はいはい」
「ハイは一回でしょ」
「はい」

 妻としての心得その2。料理は妻だけやるものだと思わせない。一緒に作った方がその後も楽しく食事できる。

「出来たー」
「お疲れ様。じゃあ食べよ」
「おー、ってあれ? 今日は向かいに座るのな」
「な、何よ。普通でしょ?」
「まぁ…、俺はいいけど」
「うっ」

 妻としての心得その3。たまにはお預け。たまにはお預け…って、私がお預けされてるような! ふにゃーーーっ!!!

「うまうま」
「うぅ…」
「どしたの美琴たん。食わないの?」
「ふぇ? た、食べるわよ! もぐもぐ…」
「…」

 そこで上条は思った。これは久しぶりの素直になれないツンツンモードの美琴なのだ、と。そして美琴マスター上条当麻は少しばかしいじわるをしてやろうと思ったのだ。

「はい美琴たん。あーん」
「ふぇ? あー…って、んんっ! じ、自分で食べる!」
「………あ、そういえば今日はいっぱい汗かいたからワイシャツは洗濯しなきゃなー」
「ふぇ!?」
「今日は冷えるみたいだから温かくして寝たいなー。そうだ、湯たんぽ! 湯たんぽでも使おう」
「あ、ああああの…!」
「まだ早いけど今日はご飯食べ終わったら早く寝るかな。明日は大晦日で遅くまで起きてるしね」
「ふにゃーーーーーーーーーーーーーっ!!???」

 ツンツン妻モード美琴陥落。その後は瞬時にしてデレデレになり上条の隣にやってきては箸を奪い取りあーんしまくった。流石はレベル5。状況に応じて柔軟に対応する脳を持っている。…ただ我慢できなくなっただけだが。
 そしてワイシャツを上目使いで脱がせると昨日と同じくまた脱衣所で倒れ、上条に担がれてリビングまで運ばれる。だって気持ちいいんだもん。





「ほら、美琴。もう遅いから寝るぞー」
「もうちょっと…」
「…俺先寝る―――」
「行く」

 上条はふにゃふにゃな美琴とじゃれ合うと、和室に入っていった。年末という事もあり特番が組まれていたテレビ番組を一通り見終わると結構な時間になってしまった。まぁ明日は夜までに御坂家に行けばいい約束をしたので寝坊するには全然問題ないのだが、正月といえど正しい生活を送らなくてはならない!(意識が薄れてくると何かしでかしそうなのが本意)。

「今日は一段と寒いなーって美琴たん。お前ホントに大丈夫か? ワイシャツ一枚で」
「寒い」
「そりゃ寒いだろうがよ。何か着てきた方がいいんじゃないの? 風邪でもひいたら厄介ですよ?」
「布団の外はもっと寒い」
「…ったく、ほら」
「ふぇ?」

 そう言うと上条は自分の布団を開け、美琴に「おいで」のサインを出す。本当に風邪なんかひかれたら厄介だし、さっきちょっといじわるしてしまったのでそのお詫びも兼ねてるのだ。流石美琴マスター上条当麻。ツンデレの扱いに抜かりはない。

「…いいの?」
「寒くて寝れないんじゃ困るでしょ」
「……えへ」

 美琴はモゾモゾと上条にくっつくと優しく抱きしめた。そうすると先程までの寒さが嘘のように全身を温かくなり心地よい睡魔に襲われる。上条は何か別なのに襲われる。…が懸命に表には出さない。
 今日も幸せの時間が終わっちゃう。でもいいんだ。夢でもいつも一緒だし…。また明日も明後日も、この先ずっとずっと一緒だし。えへへ。

「おやすみ、美琴」
「おやすみ、とう…ま」

 そして二人は夢の世界に入っていった。現実でも夢の中でもバッチリいちゃついてる上条と美琴は、もう他の人から何もいえない。言っても無駄なくらい熱いのだ。冬の寒さ、仮にふぶきが吹こうとも心地よいそよ風になるだろう。
 上条当麻と上条(仮)美琴の同棲生活、いちゃいちゃ年末年始2日目終了。明日は大晦日でいよいよ新年を迎える。いい年で、ありますように…ふにゃー…。
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