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 12月31日、夫婦生活3日目の大晦日。夜中寒かったのか上条当麻は何かを抱きながら眠っており、目が覚めたら目の前にいい匂いがする茶色の頭があった。
 それはもちろん昨日一緒に寝た御坂美琴。上条が目を覚ますと美琴は既に起きていたらしく、かすれそうな声で「おはよう」と言った。ふにゃーしそうなものだが、2日目の朝と違い上条が美琴の事を抱いているので漏電はしない。
 どうにも寝心地がいいのかまた寝坊してしまったようで、時計を見ると10時近くになっている。昨日もこの時間くらいに起きたのだが、今日はどうやら美琴は朝食を作っていないらしい。理由は一つ。上条に抱きつかれていて動きたくても動けなかったからである。…まぁ、動きたいなんて思ってなかったみたいだが。
 その後は二人で一緒に起き上がり朝食を一緒に作った。今朝は昨日の特売品でもある納豆に目玉焼きに詩菜から伝授した味噌汁。うまい。

「そ、そういえば今日の午後なんだけどさ」
「ふぁい?」

 美琴は納豆をウネウネさせながら上条に話しかけた。上条は海苔を半分口に入れた何とも笑える状態で美琴の方を見る。

「わ、私ちょっと用事があるから実家の方に行ってるね」
「ぱりぱり…んぐっ。そうなの? じゃあ俺も―――」
「だっダメダメ! 当麻はここにいて! 3時には戻るから!」
「…まさか皆で壮大なドッキリを仕掛けて俺を笑いものにしようと!」
「そんな事しないわよ。ね? お願い」
「まぁいいけど」
「ありがとっ!」

 …という会話もあって現在上条はマンションの一室にて一人何するわけもなくぽけーっとしながらテレビを見ていた。平和だ。実に平和だ。
 しかし何か引っかかる。それは美琴に関する事ではなく自分の…何かこう、いつも忘れている事を忘れているような…。今日は12月31日。冬休みもあと一週間をきって新学期が始まる。始まる……新学期? あれ? 冬休みですよね? 春休みではなく冬休み。つまりは課題―――

「…」

 上条当麻の時間は停止した。リモコンの持つ手も瞼も呼吸も。テレビの中ではお笑い芸人がギャグを連発してるが眉一つ動かさない。もし会場の観客が全て今の上条の状態だったのなら、その芸人は舞台を降りた瞬間に解散するだろう。
 そういえば冬休みに入ってからは美琴と一緒に遊んでる記憶しかないような…。所々に補習はあったが、正に「勉強した気」になっていた。
 そして上条は忘れていたように目を閉じると、大きく息をゆっくりゆっくり吸う。咆哮のために。最悪発狂の可能性もある。そして肺に酸素を送り込むのを止めると、目を大きく見開き―――

「……っかぁ~~~~、まぁいっか。休みの間ずっとここにいるわけじゃないし。3、4日余裕あるし」

 最大に息を漏らした。上条は半ば諦めたのだ。…いや、諦めてはいませんよ? でも課題は学生寮のテーブルの上なので仕方ないですよね、うん。そして3、4日で課題が終わらないって言うのなら、まずはそのふざけた幻想をぶちころろ。




 そんな中、上条当麻の妻(予定)御坂美琴は御坂家の和室にて美鈴、詩菜に振袖を着付けてもらっているところだった。
 紺をベースにした落ち着いた感じの振袖は裾側から美しい花の刺繍が入っており、14歳の美琴でも少し大人の風貌を漂わせる。

「去年までは振袖なんて全然興味なかったのに、なーんで今年に限って着たいって言い出したのかなぁ?」
「あぅ…」
「まぁまぁ美鈴さん。…どうですか美琴さん? 苦しくない?」
「は、はい。ちょっと苦しいですけど…大丈夫です」
「あはは、それにしても昔の私の振袖が入ってよかったわ。腰の折りが私より少ないのはショックだけど」
「美琴さん足長いですからね」
「ふぇ? そ、そんな…」
「…まぁ私が14の時より胸は無―――」
「言うなーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 そんなこんなで美琴は振袖に着替えていた。美琴は髪が短いため、かんざしではなく薄いピンクの花が可愛らしい髪留めを使用している。いつもつけてるヘアピンよりちょっと大きい。

「美琴ちゃんはまだ化粧はしないで素のままでね」
「う、うん」
「でもこの魔法を香水を授ける!」
「ふぇ?」

 美鈴はそう言うとポケットから紫のビンを取り出し美琴の手首にシュシュッとかけた。美琴は両手首で擦り合わせると掌にも広げ、首筋にも触れ香りを広める。

「いい匂いですね」
「でしょ? 私この匂い好きなんですよ」
「…」

 美鈴の魔法の香水は確かにいい匂いがした。それほど強い匂いじゃないし、ほのかに香ってくる。
 で、でも私は朝まで着てた当麻のワイシャツの匂いの方がごにょごにょ…。

「よし完璧! 行ってきなさい美琴ちゃん! 当麻くんを完全におとしてくるのよ!」
「わ、わかった! ありがとね!」
「美琴さん、草覆バックと草覆も忘れずに」
「そ、そうでした。…じゃあ行ってきます! 夜には来るから!」
「「いってらっしゃーい」」 

 そして美琴は駆けて行った。しかし振袖でいつものように走ろうものなら結果はもちろん壮大な大転倒で、美琴は頭から襖に突っ込んだ。そして丁度その時廊下を歩いていた刀夜は、いきなり襖から美琴の頭がズボっと出てきたのでビックリして尻餅を着き、また腰を痛めてしまった。
 す、すみません、おっおおっおと…お義父さ―――プスプス。

「美琴ちゃん? 元気なのもいいけどたまにはお淑やかにしないとダメよん」

 美琴はあうあうしながらもう一度着付けを美鈴と詩菜にしてもらうのだった。そして刀夜は旅掛に肩を借り、またソファー行きになったのだった。





「落ち着け、美琴たーん…」

 上条当麻はそう言うとソファーの上で寝返りをうった。現在時刻は午後3時を回ったところで、本来なら美琴が帰ってる時間だが3時ギリギリまで着付けをしていた美琴がいざ向かおうとした矢先に色々大破させたので現在絶賛着付け中&掃除中なのだ。
 リビングにあるソファーは背が低く、一般のソファーと座椅子の中間くらいのやつで、この高さなら落ちても痛くないだろう、多分。落ちてもというのは妙に上条の寝相が悪いからである。普段はそんな事ないのだが今見てる夢がそうしてるのか上条はバタバタしている。
 もちろんこんな状態であるならば落ちる事は目に見えており、しかも不幸体質なため上条は顔面から床に落ちてクリスマス以来のキスをするのだった。

「いてて…鼻打った……って、あれ? 夢か。妙にリアルな…、振袖姿の美琴たんが部屋にやってきて、そのあまりの可愛さに言葉が出ず、何を思ったかキスをしたらふにゃーされる夢を見たぜ…」

 上条はあぶねぇあぶねぇと言い、手の甲で汗を拭うと時計を見る。そろそろ午後3時30分だ。確か3時には美琴は帰ってくるって言ってたけど…何かあったのだろうか? もし何かあったら大変だ! よし、すぐ行こう! 今行こう! 早く行こう! と、上条は走って玄関へ向かった。ただ単に上条は暇だったのだ。

「よーし、待ってろ美琴たん。今この上条当麻が迎え―――」
「たっ、ただいま! 遅れてごめんねっ」
「に?」

 上条が早口で言いながら靴紐も結んでいるのと同時、美琴が帰ってきた。

「…」
「あ、あれ? 当麻? どっか行くの?」
「…」
「ちょっと、おーい?」
「…」

 美琴はもしもーしと上条の前で手をふりふりさせるが上条の反応は無い。それもそのハズで今の美琴は先程の上条の夢そのものだった。紺の振袖に薄ピンクの髪留め、可愛らしいバックに上条は名前は知らないがサンダルみたいやつ。
 …あ、あれ? 何だ? 体が勝手に動くんですが―――

「美琴」
「ひゃ、ひゃい! んっ―――」

 上条は立ち上がると美琴の両肩を掴み、唇を奪った。いきなりな上にちょっと強かったのか美琴はびくんとなったが、上条が放つ何かしらのオーラで全くもって動けなかったのだ。

「んんっ、ん…あふ」
「――――っはぁ、………あ、あれ? 俺は今まで何を…って美琴、たん? どしたそんな綺麗な格好して」
「…」
「…? 美琴たん? 美琴たんってば、おー―――」
「っ」
「い?」

 キスされた美琴はしばらくの間意識不明の重体であったが、やがて回復すると上条の胸に顔を埋めて抱きついた。ふにゃーとならない! これは素晴らしい進歩だ! …が、美琴は抱きついたまま動かない。こっちはこっちで何かと厄介なようだ。上条を振袖姿でおとしにきた美琴であったが、成功した先の事を考えてなかったのでいつも通りになってしまった。
 だっ、だってしょうがないでしょ! 好きな人とのキスがこんなに気持ちいいのが悪いのよ! わ、私が悪いんじゃないんだから!




 美琴が上条のマンションに帰ってきたのが3時半頃。そして時刻はもうすぐ7時になる。上条と美琴はこの3時間半の間に何をしていたのか。今日は大晦日ということで夕食はお節に年越し蕎麦だ。もう出来ている。では何を? 答えとなりそうなのは沢山あるが一つ言うと、ただひたすらに美琴が上条座椅子を堪能していたのである。
 最初の頃は何やらいい匂いがするなとか、何かいつもとは違う美琴たんに上条さんはたじたじですよとか言ってたが、さすがに3時間半はもたなくテレビを見たりほっぺをつねったりしていた。
 テレビでは既にカウントダウンが始まっており、新年まであと05:02:13らしい。生放送でスタジオには普通の番組で顔となる有名人が顔を揃え、そして芸人は地方に行き企画をしている。他チャンネルでは紅組と白組に別れ歌合戦してるし、また他チャンネルでは絶対に笑ってはいけない何かもやっている。上条はこの番組で美琴と勝負をし、笑ったら「美琴たんアウトー」とほっぺをつねっていたのだ。ちなみに僕のオススメは病院かハイスクールです。

「あはは」
「はい美琴たんまたアウトー」
「むふぇー」
「ってもうこんな時間か。これ始まってからすっかり見入ちゃったけどそろそろ行かないとな」
「ふぇ? も、もう行くの?」
「いやだってもう7時ですよ? 腹減らない?」
「減らない」
「本音は?」
「減った」
「だろ? あまり遅くなると父さん達が飢えてしまいますからそろそろ行かないと」
「うぅ…」
「……、早く美琴の作ったお節が食べたいなー」
「…!」
「すげぇうまいんだろーな。美琴が頑張って作ってくれたんだもんなー」
「と、当麻! そろそろ私ん家行こ! 母達が全部食べちゃうかもしれないし!」

 美琴は完璧に毎度の事に引っかかっていた。釣堀にいる魚でももう少し警戒するであろう針付きの餌を食べ、丸呑みしてしまうのだ。これは面倒くさい。口元なら簡単に針は外せるが丸呑みとは。受付のおっちゃんに針飲んじゃいましたと言いに行かないといけないのだ。
 だが頭の中が上条一色になってる美琴は餌に針が付いてる事など全く気付かず、釣り上げられた後も元気にスリスリしてくる。
 上条の部屋からは徒歩5分だが、その時間はエレベーターの現在位置に大きく左右される。部屋がある階に止まっていれば早いのだが、一番遠かったり閉まった瞬間だったりするとこの上ない絶望感に見舞われる。快速電車に乗りたいがために階段を駆け下りたが黄色い線で閉まってしまったのと同じ、ゲコ太ストラップの為にクレープ屋に並び目の前でストラップ切れになってしまったのと同じ、期末や中間テストで29点取ってしまったのと同じ。ちくしょう、あそこを「ア」にしておけば…。だって鉛筆が「ウ」にしろってごにょごにょ…。
 上条の不幸からエレベーターは一番距離がある所にあると思ったが、美琴がその不幸を中和してくれてるのかエレベーターは一階上にあり、しかも下ってくる。ありがたや、美琴さん。
 扉が開くと、そこにもまだ若いカップルがいて上条達と同じく男の方は私服で女の方は振袖姿だった。…が、決定的に違うものがある。それは―――

「(で、でかい…!)」

 何がでかいのか。それはとても言えた事ではないのだが、その上条の一瞬の戸惑いを見逃さないのが御坂美琴であった。
 美琴は「むっ」とした表情になり、その女の人から一番遠い所に上条を押し込むと、握っている手の力と強めぴったりと寄り添った。狭いエレベーターだが4人しかいないのならそこまで窮屈では無いはずなのだが、上条は何とも言えない息苦しさを感じる。…まぁ、実際苦しいんですけどね。
 一階に着くと扉に近い上条達が普通なら先に出るのだが、美琴が全くもって不動のため奥にいるカップルに先に出てもらった。変に思われないように上条が「どうぞ」と言って。しかしそのカップルがいなくなるとエレベーターの中はさらに息苦しくなる。何故だ。密度は減ってしかも扉は開いてるのに…。

「すっ、すみませんでした」
「なにが?」
「え…っと、その…すみませんでした」
「別に、怒ってないもん」

 確かに美琴の顔は言葉通り満面の笑みだった。なので怖い。アクション映画などのラスボスクラスの奴がマシンガンを持っている主人公に素手で笑いながら近寄ってくるような、そんな恐怖感がある。上条は美琴がたまに垣間見せるヤンのプレッシャーにただただ謝り続ける事しか出来なかった。なので上条は絶対に浮気の類の事はしないだろう。ここに関してだけ言えば美琴は既に詩菜が手を焼いたフラグ男の調教を完了していたのだ。
 もう見ません。何も見ません。美琴さん以外のは何も見ません。美琴さんのがベストです。最高です。慎ましさが最高でごほごほっ。

「早く行こ」
「は、はひ」




 御坂家に着くとリビングの方から笑い声と何かに耐える声が聞こえてきた。どうやら刀夜達も笑ってはいけないシリーズを見ていたようだ。昨日の昼と違い、今日はリビングで夕食を取るのかキッチンは綺麗になっている。美琴はこの様を『妻としての心得その13、支度は後片付けまで』に当てはめた。

「お、来た来た。遅いじゃない美琴ちゃん、何やってたのよ」
「べっ、別になんだっていいでしょ! …す、すみません遅れてしまって」

 美鈴にはキツくあたるが刀夜と詩菜には礼儀正しい御坂美琴14歳。それを受けて詩菜が美鈴をなだめるという公式が出来つつある。
 既に宴のスタンバイは完了しているのかお節などが並べられており、席も決まっていた。方や詩菜、美鈴、空席。方や刀夜、旅掛、空席だ。これはもう座る場所は決まっている。
 いや…、それにしても美鈴の前に大量にスタンバってる酒は何なのだろうか? あれ全部飲むの? と思わせる酒がそこにはある。

「当麻くん、当麻くん」

 旅掛は何やら小声でちょいちょいと上条を呼ぶ。それに気付いた上条は美琴を美鈴の隣に座らせると、自分も旅掛の隣に座った。旅掛は美琴の方をチラチラと見ているので、上条もつられて美琴の方を見る。美琴は何やらこそこそしている上条と旅掛に「なによ」と言うが、旅掛は笑ってるだけだった。

「あの振袖姿…、なかなかの破壊力だっただろ?」
「ぶふっ! ふ、振袖…? まぁ、はい…見てしばらく自我を失ってたようで」
「普段は女の子っぽくないのに突然ああいう格好で現われられるとなぁ、こっちはもう耐え切れんよな?」
「…あれ、まさか旅掛さんもですか?」
「あれは妻のお下がりだ、間違いない。しかもコンビ技として何やら思考を鈍らせる香水もつけてるらしくて…」
「は、はぁ…?」
「しかし…、あれを着た美琴ちゃんは昔の妻そっくりだな」
「…という事は美琴もゆくゆくは美鈴さんみたいな」
「そうだ。ぼんぼんぼんになるんだ」
「誰がぼんぼんぼんよっ!」
「ぐはっ!?」

 美鈴からお猪口が飛んできた。旅掛はそれを鼻で受ける。それと同時に注がれていた液体が宙に舞い…って、え? 液体? これはなんでせう? と上条は思っていたが、美鈴の後ろには既に空のビンが何本か転がっていた。
 しかし…あの振袖が旅掛をもおとしたなんて。これは何か凄い魔術を秘めているに違いない。しかし幻想殺しでは消えなかったので普通に美鈴と美琴のギャップに旅掛と上条が耐え切れなくなっただけだろう。それに素晴らしい情報も入った。あまり大きな声では言えないが、あのきゅっきゅっきゅの美琴たんがぼんきゅっぷりの美鈴さんみたいになるなんて…、まぁ母子なので似るのだろうけど。
 そう思うと上条はちょっとだけニヤニヤする。だってあれじゃないですか。男はさ、やっぱりごにょごにょ…。





「「「「「「いっただっきまーす」」」」」」

 上条御坂両家の年末の宴が始まった。また腰を痛めたのか刀夜は詩菜に色々取ってもらい、美鈴は心置きなく酒を頬張り、旅掛も鼻を擦りながら蕎麦を食べている。…が、やっぱり美琴は箸を持ったままフリーズしていた。

「…」

 美琴は何やらお節の中をじっと見つめている。なるほど、この中に美琴が手がけた料理が入っているのか。伊達巻や数の子は市販の物を切っただけだろうし…ん? こ、これは玉子焼き! 上条は恐る恐るそれを箸で取ると―――

「あ…」

 と美琴は目で追ってきた。これだ、これが美琴特製玉子焼きなのだ。上条はその玉子焼きを半分ぱくりと食べると、美琴の方を向いた。

「うまいよ」
「………えへ」

 何故自分が作ったのがばれたのたのだろうとちょっとビクっとした美琴であったが、素直に喜ぶ事にした。そしてまた上条が取った隣の玉子焼きを小皿に取ろうとすると―――

「あむっ」
「あ」

 狙っていたのか隣の玉子焼きは美鈴の口の中に消えていった。美琴はまた箸を持ったままフリーズ&ぷるぷる&うるうるしている。こ、これはマズイ! 早くなんとかしないと…! と上条は半分残っていた玉子焼きを素早く美琴の小皿に置いた。

「…!」

 しかしそれが更に美琴を悩ませる原因になった。この半分の玉子焼き。つまりはかっ…、かかかっ…間接ふにゃーって事で…。と既にキスを済ませているカップルが間接で何をそんなに悩むのかと思うところだが、美琴にとっては一大イベントのようだ。
 美琴は夏休みのホットドッグの時みたいに玉子焼きの角を小さくかじった。もちろん上条が口をつけた所を。その後美琴は頭からちょっとだけぷすぷすと湯気が出ているが、換気されていく。
 上条はホッとすると改めて初お節を頂くのだった。うまい。しかし何だかんだ言って美琴が作った玉子焼きが一番美味かった。





 宴開始から2時間程過ぎた頃、リビングで動いてるのは詩菜、上条、美琴だけになっていた。
 上条と美琴が来る前から既に酒をいっていた美鈴はいち早くダウンし、旅掛に連れられ今はソファーで爆睡中。刀夜は何とか腰の痛みに耐えてはいたが、リビングのテーブルでは低かったのか腰の痛みに耐え切れなくなったようでフローリングで休養中。旅掛は全然元気だったが、ちょっと一服と言って行ったっきり帰ってこない。酔い冷ましも兼ねてるのだろう。
 旅掛がいなくなったこともあり上条の隣の席が空いたので美琴は速攻でそこに陣取り、詩菜に気付かれない程度にあーんしたりテレビ見たりしていた。この2人はまだ未成年で酒は飲まないためまだまだ元気だった。お腹はいっぱいだが。
 しかしここで気になるのは上条の母、詩菜。美鈴がまだ元気だった頃に隣にいた詩菜は相当に飲まされていたが大丈夫なのだろうか。見ると頬を少し赤く染めているだけで平気そうだが、今やってる行為が平気そうじゃなかった。

「…はぁ。…っぱぁ。…ふぅ」

 詩菜は常温、冷や、熱燗様々な酒を一定のテンポで飲んでいる。待て、待つんだ母さん。それ以上飲んではいけない。

「か、母さん…?」
「…? なんですか?」
「えっと…、大丈夫か? そんな飲んで」
「ふふっ、いやですね。これくらい大丈夫ですよ」
「そ、そうですか」
「それより刀夜さん? さっきから私がいるのになんで美鈴さんとそんなにいちゃいちゃしてるんですか?」
「…は、い?」
「そんなに大学生がいいんですか?」
「ま、待ってくれ母さん。俺は刀夜でもなければ隣にいるのは美鈴さんでもない」

 と上条が言って刀夜の方をチラッと見るが刀夜は目を閉じていた。あ、あれは寝たフリ…! この状態の母さんは危険だと知って…、くっ!
 そして詩菜動き出す。大瓶にお猪口を持ってフラフラと上条に近づいてきた。上条はちょっと涙目になっている。理由は怖かったから。

「し、詩菜さん落ち着いて。私は美琴です、御坂美琴」
「美琴…さん?」
「は、はい!」

 上条の危険を感じたのか美琴は必死に詩菜を説得にかかった。そして美琴の声が届いたのか詩菜は美琴の顔をじっと見る。近い。

「あらあら。ごめんなさい美琴さん。てっきり美鈴さんかと思って」
「い、いえいえっ。全然いいんですよ! あはははは…」
「でも刀夜さん?」
「へ?」
「当麻さんの婚約者までに手をかけるとはいけませんね。ちょっとこちらへ」
「だーーーっ! だから俺は刀夜じゃなくて当麻だっつの!」
「嘘ならもう少しマシな嘘をつきましょうね」
「と、当麻!」
「助けて美琴たーん!」
「美琴さんはちょっとここにいてくださいね」
「ふぇ? で、でも…」
「いてくださいね?」
「は、はひ!」

 そして上条は詩菜に連れて行かれた。美琴は久しぶりに味わう戦っても敵わないプレッシャーに膝から崩れ、刀夜は心の中で息子に謝り続けた。母さんは『アレ』をやるつもりだ…。『アレ』は嫌だ、『アレ』は嫌だーっ! と、11月22日の時に脅された『アレ』に刀夜は恐怖していた。
 そして暫く経った後、御坂家のどこかから上条の悲鳴が聞こえてきたのだった。





「あ、あれ…? ここは…?」
「あ、気がついた」
「美琴…?」

 上条は気絶していたのか目を覚ますと詩菜に連れて行かれた場所とは違う所にいた。可愛らしいインテリア、棚には無数のぬいぐるみ。

「ここ私の部屋なんだ」
「なるほど。どおりでカエルがいっぱいいると思った」
「常盤台に入りきらなくなるといつもここに送ってるの。年に二回くらいしか帰ってこないけど、その時会えるから」
「そっか。…って、あれ? 何か枕が柔らかい」
「あぅ…」

 上条はベッドに横になっていたが、正確には頭を美琴のももの上に乗せ膝枕状態だったのだ。今回美琴は振袖姿のためにいつぞや味わった直の柔らかさではないが、それでも温かく気持ちいい。
 見上げればあの時と同じように美琴が見下げており、えへえへと額と頬を優しく撫でてきている。

「そういえば、母さんは?」
「詩菜さんはお父さんが連れてきた。酔いつぶれたらしいって言ってたけど。今リビングで寝てる」
「そっか…って、俺結構気失ってた?」
「うん。もうすぐ明日になる」

 美琴はそう言うと時計を見る。上条も美琴の視線の先を見るが、そこには可愛らしい猫の掛け時計があり、あと1、2分で新年になるらしい。歌合戦も、笑ってはいけない何かも終わってしまっただろうか。

「あー…、年の終わりが気絶で終わるとはいかにも上条さんらしいですね…」
「…あ、あのさ」
「うん?」

 上条の言葉に美琴は何か言いたいのかモジモジし出した。美琴のこの状態。何やら恥ずかしい事をしたいかしてほしい時なのだが、気絶していて思考がうまく回らない上条には鈍感もさることながら美琴のそれを感じ取る事は出来なかった。

「あ、あの…! よ、よく言うじゃない? 終わりよければ全てよしだとか、何事も始まりが肝心だとか」
「あー…、まぁうん。…で?」
「だっ、だからさ…その」

 美琴は気付いてくれない上条にあうあうしっぱなしだ。長針も59を指し、秒針も30を過ぎたところ。あうあうあうあう。

「…美琴、ちょっと」
「ふぇ? な、なに? んっ―――」

 美琴は上条に何やら内緒話でもするポーズを取られ、顔を近づける。実は上条は美琴があうあうしてる時に気付いたのか、近づいてきた美琴の顔を両手で押さえると、そのまま唇を奪った。美琴が欲しがっていた終わりと始まりを繋げる年越しキスを。

「――っ、明けましておめでとう。美琴」
「ふにゃー」
「えええぇっ!? こ、ここでですかばばばばばばばばばっ!!!!!???????」





 リビングに行くと美鈴と詩菜は爆睡しており、旅掛と刀夜で一杯やっていた。もう料理やお節の箱は残ってなく、テーブルの上にはお酒と上条達が飲んでいたお茶があるくらいだ。

「おぉ当麻生きてたか。明けましておめでとう、美琴さんも」
「当麻くん美琴ちゃん、明けましておめでとう」
「おめでとうございます」
「ふにゃー」
「あ、すみません。ちょっと風に当たってきます」
「おぉ。あ、それなら初詣に行ってくるといい。私達は母さん達があの状態だから明日の昼にでも行ってくるからさ」
「初詣…分かった。行ってくるよ」
「当麻くん」
「はい?」
「今年もよろしくな。美琴ちゃん共々」
「は、はい。じゃあ…ほら、行くぞ美琴」
「ふにゃー」
「…」
「…御坂さん」
「なんでしょう上条さん」
「娘さんを、息子にください」
「あっはっはっ。何を言いますか上条さんは。もう結婚してるようなもんですよ」
「あっはっはっ。それもそうですな。ささっ、御坂さんも」
「おぉ、すみません。いやぁ…今年は酒がうまくてうまくて」
「子供に感謝ですな」

 ……と、騒ぐ父親達を他所に上条は玄関先で止まっていた。深夜なのでとても寒く、コートとマフラーは欠かせない。美琴も振袖だけじゃ寒いと思い、丁度よく着物系に合いそうなふかふかしてるのがあったので上条は美琴の首に巻きつけた。
 さて、問題はここからだ。何せ初詣の神社の場所を知らない。これは美琴がふにゃーから帰ってくるまで待たないといけない。普段部屋の中でならいくらでも待つのだが、外は寒いし中には父達がいるしでとにかく美琴が早く起きてくれる事を願うだけだった。
 なので上条は対ふにゃー用の特別攻撃を開始する事にした。上条はふにゃふにゃの美琴の耳元に口を持っていくと―――

「美琴。俺先に寝るからなー」
「ふにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!???」

 美琴にしか効かない呪文を唱えたのだった。次の瞬間ふにゃーから即刻帰ってきた美琴は「私も一緒に寝る」だの「お風呂入り終わるまで待ってて」だの「ワイシャツ貸して」だの言って来たが、訳を話し神社まで案内してもらった。美琴は安心したようなガッカリしたような感じで、だが楽しそうに上条の腕を引っ張って初詣に向かった。





 初詣の神社は流石に人ごみに溢れていた。ここまで来る道で段々と増えていく人だかりに上条と美琴は歩きづらさを感じだが、美琴がしっかりと上条の腕を抱いている事と押し寄せる人の圧力でさらに接近する体に美琴はとても嬉しそうだ。
 屋台も沢山出てるし、おみくじや名前があるのだろうが鈴をじゃらじゃら鳴らすやつもある。
 上条と美琴は、屋台はとりあえず後回しにして最初はじゃらじゃらに向かった。結構大きめの神社なようで一度に3人じゃらじゃらできる。しかしこの圧倒的人口の前に中々進まなかった。

「美琴は何をお願いするの?」
「ふぇ!? そ、それは言えない。言ったらダメだって聞いたことあるし」
「そうなの? 終わった後じゃなかったっけ?」
「ど、どっちでも! そういう当麻は何をお願いするのよ」
「俺? 俺は美琴と――――」
「わっわっわっ! いいっ! やっぱり言わなくていいっ!!!」

 などと公然いちゃついていると、上条達の番が回ってきたようだ。上条と美琴は互いにお賽銭を投げ入れ、願い事をした。上条はとてもシンプルな願い事だったのかすぐにその場を離れたが、美琴は何やら沢山お願いしてるのかなかなか動かない。やっと終わったのか上条の元にやってきた美琴の顔はりんごのように真っ赤だった。

「美琴たん。神様も大変なんだから何か一個にしないと」
「あぅ…」
「ほら。次は…、おみくじ……は止めといて」
「ふぇ? な、なんで?」
「いえね。何か凶じゃないにしても不幸になりそうな予感がビンビンと…」
「そ、そうなの? じゃあ…お守りだけ買って行こ!」
「それなら全然OKですよ。じゃあ俺は…家内安全、身体健全、厄除け・方除・災難除け、学業成就、お金の源『種銭』(切実)…くらいかなぁ」
「や、やたら買うのね」
「このお守り達を右手で触れる事なくバッグに大事に入れておく事がポイントなのですよ」
「ふぅん。じゃ、じゃあ私は…恋愛成就のお守りを」
「恋愛成就…? まさか美琴たん! 俺の他に男が!」
「ふぇ!? ち、違うわよ! わ、私はその…あうあうあうあう」
「ふーん、美琴さんはもう上条さんなんかどうでもいいんだ、ふーん」
「あ、いや、違っ…あの……、ふぇぇぇ」
「うわっわっ! じょ、冗談です冗談! す、すみませんお守りくださいな!」

 楽しみ等をお預け喰らうと泣きじゃくる習性+上条に勘違いされてもうどうにも耐えられなくなった美琴はぽろぽろと泣き出した。
 上条はちょっとばかしいじわるが過ぎたのかと、美琴に「恋人ならこっちのお守りがいいですよ」と巫女さんが勧めてくれたお守りを買ってあげた。『愛を育むお守り』を二個購入。上条はそれを急いで自分と美琴の手に乗せると頭を撫でてあげた。周りからの視線も突き刺さり気まずいからである。
 美琴はそのお守りを見るとぴたりと泣き止み、変わりにえへえへと笑いだした。そこでようやく上条は一息つけた。振袖美少女と初詣デートをしているだけでも殴られそうなのに、それに加え泣かせしまったとなればそれはもうフルである。フルでボッコボコである。上条は命永らえると、いそいそとお守り売り場から離れた。
 ありがとう身体安全のお守り。さっそくご利益があったみたい。




 屋台は後で…と言ったが、夕食にお節と蕎麦をこの上なく食べたのでお腹いっぱいの2人は、美琴がどうしても欲しいと言ったゲコ太お面だけ買って神社を後にした。
 帰りの夜道をえへえへと笑いながら歩く美琴嬢の姿は知人でも恐怖するかも分からない。とりあえず上条は怪しまれないように美琴にお面を被せると腕を引っ張りちょっとだけ早足で歩く。
 上条と美琴は御坂家まで帰ってくると、リビングへ向かった。…が、そこには起きている者は一人としていなく、みんな夢の中のようだ。美鈴と詩菜は家を出る時を同じポーズで寝ているし、旅掛と刀夜はテーブルに額やほっぺをつけて寝息を立てている。
 さすがにこのままでは風邪をひくだろうと思った2人であったが、どうやっても起きる様子はないので寝室から毛布も持ってきてかけてあげた。全く…世話の焼ける親御さん達だ。しかし美琴は何やら楽しそうだった。
 刀夜と詩菜が泊まっているので美琴の部屋の毛布も使わないと間に合わかったらしく、上条と美琴はマンションの方に帰る事にした。戸締りOK。元栓OK。電気OK。暖房…は弱めにかけておこう。
 美琴は御坂家を出る前に私服に着替えたいらしく、上条を待たせ和室で着替えを始めた。せっかくの振袖なのに一日だけでいいのかと聞いたのだが大まかな目標は達成したし、やっぱり着づらい事もあったらしい。

「おまたせ、じゃあ帰ろ」
「帰ろって…、ここが美琴ん家じゃないですか」
「いいえー。今は上条ですー」
「…指輪を取ると」
「ふぇぇ…」
「…戻すと」
「えへ」
「…ほら、いくぞ美琴」
「うん!」

 そういうと上条はリビングに置手紙を置いていくと、美琴を連れて御坂家を後にした。外には今から初詣に行くのか疎らに人がいる。上条のマンションも今の時間帯ならまず真っ暗なのだろうが、今日に限っては消えてる部屋の方が少なかった。
 寒さはどんどんと増していくが、こういう時は家が近くてよかったと思える。
 上条と美琴は部屋に戻るとシャワーだけ浴びた。もちろん上条が先で、脱いだワイシャツを美琴がパジャマに使い脱衣所で倒れる。上条はもはや習慣ついたように美琴をおぶると、布団を引いて美琴を寝かせた。今日はもう遅いのでリビングでのふにゃふにゃタイムは無しだ。

「ふにゃー」
「温かいうちに寝ちゃおうぜー、美琴たーん」
「ふにゃー」
「はいはい。ほら」
「ふにゃ」
「おぉ…、温かいなー美琴たんは」
「ふにゅ…」

 こうして上条夫妻のいちゃいちゃ年末年始3日目が終わったのだった。もう早く結婚してほしいものだ。
 夢の中で美琴は上条と一緒にまた先程の神社へ向かう。そこには神様っぽい人が忙しそうに願い事が書かれたふわふわした何かを見ては何かしている。そのふわふわはピンクだったり黒でツンツンだったりと沢山あるが、一つだけやたら大きいふわふわがある。他はバスケットボールくらいのサイズなのに対し、それだけは小学校の運動会で使う大玉くらいあった。
 色はブラウンで形はゲコ太の頭。美琴はあれは多分自分のだと思いその行き先を見ていると、そのふわふわを取った神様がちょっとづつちょっとづつ小さくしていくのが見える。叶えてくれているのかも。そう思うと嬉しくて仕方がない。美琴はそのふわふわが全部なくなるのを見送ると、一緒に見ていた上条の首に腕を回し、幸せそうに背伸びでキスをするのだった。
 初夢の1富士2鷹3茄子は見れそうにないが、美琴はそれを上回る1当麻2当麻3当麻を見るのであった。当麻、とうま…ふにゃー……。
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