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 とある夏休み。
 上条当麻は補習を終えると、スーパーに特売品を求めて入って行ったがお目当ての物が買えなかったのか溜息をついていた。
 上条は高校二年生になっており、今年の夏休みには脱貧乏生活を企画している。
 夏休みはまだ始まったばかりでアルバイトをしてお金を貯めようとしているらしい。
 そんな上条がアルバイトの面接を受けたのが一週間前。
 その時に一週間後に合否を携帯で教えると言われていたので、上条は携帯に目を落としながら歩いていた。

「やっと見つけたわよ!」
「んぁ…?」

 上条はその元気のいい声の主が誰か分かった。
 もう何回もこのやりとりをしているので、体が危険だと知らせている。
 ここで聞こえないふりをしたり、いや、本当に聞こえなかったとしても、その瞬間に危険度MAXの電撃が飛んでくるし、
 何よりその後その雷神が不機嫌になる事この上ないので上条は足を止める。
 上条はその声の方を見ると、案の定その主は電撃使いの御坂美琴で手に電撃を溜めて立っていた。
 彼女は今中学三年生。上条は気付いてないが、出会ってから一年で彼女も大人に近い体型に成長している(と言っても本当に些細な成長だが)
 美琴は上条と目が合うと途端に顔を真っ赤にし、手を後ろで組んでモジモジしだした。

「おー、御坂。どうした? 何か用か?」
「ぇ、ぇっと…、その…あ、あの…」
「ん?」
「あ、あのさ! 明日! 明日ひ――」

♪~ ♪~ ♪~

 美琴がなにやら話してる時に、上条の携帯が鳴った。
 番号を見てみるとそれはバイト先の採用担当の人の番号で、上条はドキッとする。
 美琴は話の腰を折られて不機嫌になったが、電話なら出ないわけにはいかないでしょと上条に促す。
 上条はすまんと一言だけ言うと、恐る恐る通話ボタンに指をかけた。

「も、もしもし? …はい。俺です。はい。…は、はい。え!? 本当ですか!? ありがとうございます! はい!
 ………え? 明日…?」

 そういって上条は美琴の方を見る。
 そういえば明日がどうとか言っていた気がするけど…。
 美琴は上条からの明日という言葉を聞いてビクッとしたが、聞こえない振りをしていた。
 そんな美琴を見て上条は大した用事でもないのだろうと思い、携帯に向かって話す。

「あー、はい。大丈夫です。何時に伺えばいいですか? わかりました。では明日9時に伺います。はい。失礼します」

 上条は携帯を切るとふぅと息を吐き、美琴の方を見た。
 美琴はさっきまではモジモジとしていたが、明日上条に用事が入ったのが分かったらしく、今はどこか暗そうだ。

「あー、悪い悪い。…で、何だっけ?」
「あ…えっと、明日…用事入っちゃったのよね?」
「あーすまん。バイトでさ」
「バイト? アンタバイトしてたの?」
「いや。明日初日なんだよ。いきなりで悪いけどって言われて」
「そ、そう…なんだ」
「明日なんか用があったのか?」
「え!? あ、いや…その、……な、何もないわよ。ただ暇なのかなって思っただけ」
「そっか。俺明日からバイトでバイトない日は補習だから、この夏休みは暇な日少ないかもしれないな」
「………そう」
「悪いな。じゃあ俺ちょっと買い物して帰るから。またな」
「うん。また…ね」

 上条はそう言うと、手を振って帰っていった。
 美琴はその背中を見送ると、溜息を吐き、後ろに隠していたチケットを見る。
 そのチケットは遊園地のペアチケットで、期限は明日までだった。
 以前より上条とこの遊園地に二人で行きたいと思っていた美琴だったが、言うに言い出せず今まで来てしまったらしい。
 そしてさすがに期限切れにしてしまうのも勿体無いと思い、決死の思いで誘いに出たのだが失敗してしまった。

「バイトじゃ…仕方ないわよね。黒子でも誘って行こうかしら」

 美琴はトボトボと常盤台の寮へ向かって歩いて行った。
 その途中で何かを思い出した様に立ち止まる。

「あ。そういえばアイツがどこでバイトするのか聞いてなかったわね」

 
 翌日。
 上条当麻は時間通りにバイト先へ向かい、事務所で説明を受けていた。
 そして担当者が一通り説明し終わるとロッカーの上にあるダンボールを降ろし、テーブルの上にドカっと置いた。
 上条はそのダンボールの中身を知っている。
 上条当麻のバイト先。そのバイト内容。それは――――

「あじぃ…」

 上条のバイト先は第六学区にある遊園地で、そのバイト内容はキャラクターの着ぐるみを着て風船を配るというもの。
 何故このバイトにしたかというと、内容はともかく時給が良かった。
 その辺のスーパーやファミレスよりも200円くらい高く、交通費完全支給、社員割引など色々あったので上条は即決したようだ。
 そしてそのキャラクターは、美琴が大好きなゲコ太の着ぐるみだった。
 何かのキャラクターとは聞いていたが、上条はよりにもよってカエルかよっと漏らす。
 上条は子供達に風船を配ったり、一緒に写真を撮ったりと忙しかったが、案外楽しくてすぐにお昼の時間になった。
 休憩所に行くと食堂があり、上条はスタミナ定食を頼んだ。
 社内食という事もあり、定食でも350円。上条がここを選んだ理由の一つだ。
 上条は食堂のおばちゃんから定食を受け取ると、空いてる席を探し、そこに向かった。

「ん? これ…」

 上条はその途中で、ダンボールの中に大量に入ってるゲコ太のぬいぐるみが付いたキーホルダーを見つけた。
 そのダンボールには『社員・アルバイト限定品。ご自由にどうぞ』と書かれてあり、上条は昨日元気がなかった御坂にでも、と思いそれを一個取った。
 そして上条は席に着くと手を合わせてご飯を頂く。
 普段自分で自炊しているが、ここまでの味は出ないよなと食堂のおばちゃんに負けを認める。
 休憩時間は一時間だったが、ご飯と担当者に報告することがあったので、あっという間に過ぎ、またゲコ太を装備して出て行った。
 9時~13時-休憩-14時~17時のシフト。
 上条は午後も風船を配ったり、写真撮ったりと走り回ったが、16時を過ぎたあたりで客足が少なくなってきた事と感じる。
 そういえば17時にある観覧車の前でイベントがあるから皆それを観に行くんんだよ、と担当が言っていたのを思い出し、ちょっと休憩ーとベンチの上に腰を下ろした。
 ここから観覧車へは結構離れているし、客がそっちに流れているならバイトの終わりまではこのままでもいいかと思う。
 何せ初日だったため、緊張もあってか色々疲れた。
 このまま何もなく終わってくれよー、と思っていた矢先に。その少女はやってきたのだ。

「わーっ! ゲコ太だ! ゲコ太! 巨大なゲコ太!!」
『(…!? げ! み、御坂…っ!)』
「お姉さま…そんな小学生みたいな反応はしないでくださいまし」
『(白井も…、不幸だ…)』
「いいじゃない別に。ここには私達とゲコ太しかいないんだし」
「その着ぐるみの中の人に失礼ですわよ?」
「中の人とか言うな! 夢がないな黒子は…ねぇ? ゲコ太?」
『(…)』

 上条(ゲコ太)は美琴の問いに必死にコクコクと頷いた。
 どうやら美琴達は二人でこの遊園地に遊びに来ていたらしく、手にはパンフレットが握られていた。
 上条はあと一時間もないバイト時間なのに、最後の最後で御坂達かよっと鬱になった。
 白井は美琴のゲコ太への懐きっぷりが見てられないのか「クレープでも買ってきますわ」とどこかへ行ってしまった。
 上条は美琴と二人でベンチに座り、何をしようかと考えていると、美琴が一人ごとのように話だした。

「ゲコ太は本当に可愛いよねー。黒子は子供っぽいって言うけど、私はゲコ太が大好きよ?」
『(子供っぽい…)』
「今日もここでゲコ太と出会うあたり、私の愛がゲコ太を引き寄せてるとしか思えないわねー」
『(中身は俺だけどな…)』
「…はぁ。でも今日は本当はアイツと来たかったなぁ…」
『(あいつ? だれ? 誰か誘ったけど断られたのか?)』
「それなのに今日からバイトだなんて…、私は寂しいよ。ゲコ太…」
『(―――ん?)』
「うぅ…、それにアイツこの夏休みは暇な日少ないんだって。つまんないなー。せっかくいっぱい遊ぼうと思ったのに…」
『(あれ…この話どこかで…)』
「まぁ今日はゲコ太に会えたからいいけどね♪」
『(…)』

 上条(ゲコ太)は美琴が笑顔を見せたので、恐る恐る頭を撫でた。
 美琴は最初はビクっと反応したが、その後はゲコ太の方をじっと見て動かない。
 上条はそんな美琴にどうしていいか分からなくなり、頭を撫でる手を止めた。
 しばらくすると、美琴は何かを感じとったのか顔を真っ赤にして俯いてモジモジし始めてしまった。
 上条はそれを見て、昨日の美琴の姿を思い出す。
 ああ。こいつ、俺の事誘おうとしてたのか…。
 上条はそう思うと、何か美琴に悪い事をしてしまったと思い、俯いてる美琴の頭をまた撫でてあげた。
 美琴は今度もビクっとしたが、今度はこちらを見る事なく頭を預けてきた。
 その行為に上条は大変驚いたが、美琴が嫌じゃなさそうだったのでそのままにしておいた。
 白井はどこまで行ったのかまだ帰ってこない。
 そんな感じで周りをキョロキョロしていると、美琴がまた話しかけてきた。

「ねぇ、ゲコ太」
『(…?)』
「ゲコ太は好きな子いる?」
『(…………は、い? いや待て。そんな事聞かれてても俺知らねぇ! …ど、どうしよう)』
「私はいるの。好きな人」
『(どうしようどうしようどうし…よ? う?)』
「そいつは人の気も知らずにどんどん危険な事に首を突っ込んで行っちゃうし」
『(……ん?)』
「私が何かに誘っても興味無さそうに素っ気無くするし」
『(…あれ?)』
「年上のくせに馬鹿で、鈍感で、スルーされる事があるけど…」
『(お、おい…)』
「でもね、それ以上に優しくて…かっこよくて…、強くて」
『(…)』
「そんな人を私は好きになっちゃったみたい」
『(御坂…)』
「ねぇゲコ太。ずっと言おうと思ってたんだけど、私…そいつに告白した方がいいと思う?」
『(…)』

 上条は固まってしまっていた。
 美琴の突然の告白に。告白とは愛の告白ではないのだが。いや、愛の告白予告を告白されてしまった事に。
 その相手は上条の知る限り一人しかいない。
 もちろんその他にもいくらでもいそうなものだが、上条はその一人なのだと確信するに至る理由があった。
 それはこの気の緩み。
 いくらゲコ太が好きだと言っても、美琴も流石に本物だとは思っていないだろうし、中に人が入っていると思っているはずだ。
 それに自分が知る御坂美琴は、常盤台の超電磁砲はこんな簡単に他人に自分の本心を言う人間ではない。
 ということは美琴は自分の中に想いを溜め込み、そしてそれが溢れ出したという事だろうか。
 それは何故?
 ゲコ太を見たから?
 ゲコ太に頭を撫でられたから?
 いや、違う。
 きっと…美琴は知っているのだ。
 ゲコ太の中身を。
 
『(…)』

 上条はそう思ったが、喋れない。
 美琴の恋のベクトルが自分に向いている事をしってしまったから。
 美琴の事が嫌いなわけではないが、今ここですぐ返事をする事は出来ない。
 なので上条は美琴の頭を優しく離すと、立ち上がってモゾモゾとし出した。
 美琴は一瞬だけ悲しそうな顔をするが、そんなゲコ太をじっと見つめている。
 上条はなんとか着ぐるみの中でポケットに手を入れる事に成功し、そこからキーホルダーを取り出した。
 そして美琴の前に立つと、美琴の手を取って優しく渡した。

「これ…キーホルダー? しかも超レアものだわ」
『(…)』

 上条は美琴がキーホルダーに夢中になって見入っている頭を撫でた。
 美琴はそんなゲコ太を見上げる。
 顔は真っ赤に紅潮し、目は涙が溜まっていた。

「ありがとう、ゲコ太。私はまだそいつと付き合えないみたい」
『(…)』
「でも私は諦めないわよ? そいつが私と付き合いたいと思うほど好きにさせればいいだけだしね!」
『(……はは。なんとも御坂らしいな)』
「ありがとね! ゲコ太! 私はやっぱりアンタが大好きだわ!」

 美琴はそう言うと遠くに見えてきた白井のもとへと走りだして行った。
 その足取りは軽く、悲しみもあるだろうが、それ以上に自信や喜びに満ちており、明日への希望へと向かっていくようだ。
 美琴は白井の所まで行くと、白井の手を取り帰っていった。
 途中で一度だけ振り返って。

「ゲコ太ーーーーっ! ありがとーーーーーーーーーーーっ!!!」

 上条当麻は美琴の後ろ姿を見送ると、ゲコ太の頭を取り、息を吐いた。

「ふぅ…完全にバレてたかな」

 そして上条は小さく笑う。

「それにしても…、御坂が俺を?」

 上条の顔は赤かった。
 今は16:30くらいだ。夏なのでまだまだ太陽は赤くない。

「御坂…」

 上条はそう言うと再びゲコ太を被り戻っていった。
 そして時間いっぱいまで歩き回り、ちらほらいる親子連れやカップルに風船を配ると、今日のバイトは終了だと言われて着替えて帰った。

 
 上条は裏口から出て、遊園地の壁に沿ってレンガでひかれている道を歩いていると、入り口のゲートに美琴が立っているのが見えた。
 白井と待ち合わせをしているのかキョロキョロとしている。
 上条は先程の事もあったので見つからないように帰ろうとしたが、目が合ってしまい美琴が走ってきたので冷静に振舞う事に集中した。

「おー、御坂じゃん。どうしたんだこんな所で…って遊園地に遊びに来たんだよな」
「そうよ。今日までのペアチケットがあったから黒子と一緒に来たの」
「ふーん…で、白井は?」
「黒子には先に帰ってもらった。今は私一人」
「何で? 何か忘れ物?」
「うぅん。改めてお礼言おうと思って」
「お礼?」
「これ」

 美琴が取り出したのは先程上条があげたゲコ太のぬいぐるみが付いたキーホルダーだった。
 美琴はそれを嬉しそうに上条の目の前に出すと、胸に戻し大切そうに抱きしめた。

「受付の人が言ってたんだけど、これ社員専用なんだってね?」
「…そうなんだ。知らないけど」
「その人がね、きっとあなたの為に貰ってきたんだろうって」
「そ、それは…うん。えっと…、誰から貰ったんだ?」
「これは私の大好きなゲコ太からのプレゼント♪」
「………そ、そっか。よかったな」
「うん! えへへ、ありがとね!」
「は? いや俺ゲコ太じゃねぇし…俺にお礼言われてもな」
「ねぇ。アンタは週何回バイトしてるの?」
「あれ…聞いてます? 御坂さん? えっと…週4かな? 月・水・土・日」
「そっかそっか。ならその日は暇じゃなくなりそうね♪ えへへ」
「はぁ? おまえな、何を言って…」
「ほらほら! そんな事より早く帰ろう! 帰りに何か奢ってあげるわよ」
「…マジですか。御坂さん」
「うん! 私今すごく気分がいいから何を言われても大丈夫だわ」
「…ビリビリ?」
「ビリビリ言うなっつってんでしょうがああああ!! いい加減にしろぉぉぉぉおおおおお!!!」
「ぎゃあああああああああああっ!!!!! お、おまえ! 何でも言えって!!!」
「そういう事を言えって言ってるんじゃないわよ!! この馬鹿ーーーーっ!!」
「ひぃぃぃぃ!! た、たすけてーーーーっ!」

 こうしてまた二人の追いかけっこは始まった。
 そしてこの夏休み、遊園地にはやたら走り回るゲコ太と、それを追いかける少女がいたそうだ。
 そしてゲコ太は気づく。こういう事をしているうちに、恋のベクトルがその少女に向けられていく事に。少しずつ、少しずつだが。
 その少女は、この夏休みの最終日に最高の喜びを得る事になる。
 それこそがその少女がこの一年間で待ち焦がれた、最高のプレゼントなのだ。
 
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