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2010.07.31 左手デート

「決心した」

 上条当麻はそう言うと突然立ち上がり、身支度をし始めた。

「え? ちょ、ちょっと…どこ行くのよ?」

 上条の言葉と行動に反応したのは御坂美琴。
 そしてここは上条当麻の部屋であり、二人は一ヶ月程前から付き合っていた。
 以前は出会い頭に電撃を浴び続けてきた美琴も、上条への恋心を認めると後は一直線にアタックをかけるのみだった。
 途中どうしたらいいか分からない時期もあったが、いざ付き合ってみればその迷った時期もいい思い出だ。
 問題はその上条が、どうやって自分の事を好いてくれるか。
 美琴は自慢じゃないが普段の接し方で上条に好意を持って貰えるとは思ってなかった。
 しかし恥ずかしさからかなかなか素直になれずにいた。
 だが何時までもこんな状態が続くとこっちの心が持たない。初めての恋だったし、何よりその初恋相手が世界へ飛び回るもんだから
 いつ旅先で不幸に合うか分かったもんじゃなかった。
 美琴は、想いを伝えないまま今生の別れになるなんてそんなのは絶対に嫌だった。
 だから伝えた。恥を捨てて。いや、人を好きになる事に恥ずかしい事は無いのだが、美琴にとってはこの上なく恥ずかしい事だったのだ。
 しかし美琴の告白で上条はOKしなかった。友達と思ってたから、と。
 そんな二人が何故恋人になったか。それは上条が恋の対象として美琴を見始めたからである。
 フラグを立てまくっている所為で勘違いしている人も多いが、上条は恋愛に対しては全くの素人で、美琴の好き好き電波を受信したが最後
 上条は美琴の事しか考えられないくらいに彼女の事を愛するようになった。まだ学生と言う事もあって大事になる事はしていないが。
 だが、そんな上条にも一つ悩みが―――

「ほら、出かけるぞ美琴。準備して」
「だ、だから何処にいくのよ? 今ご飯食べ終わったばかりじゃない」
「遊園地だよ。デートだデート」
「え!? で、デート!? やったぁ! す、すぐ準備するからちょっと待ってて!」

 美琴はデートという言葉に過剰に反応すると、テーブルの上に置いてあった食器を流し台に置いて水に浸す。
 そして洗面所に入っていって歯を磨いたり髪をセットし直したりしていた。
 上条もそんな美琴の隣で歯を磨いている。
 二人の仲の良さは、その光景が証明してくれているように息がぴったりで、同時に歯を磨き終わり、同時にうがいをし、同時に吐き出した。
 タオルで口の周りを拭いて準備完了のようだ。
 美琴は上条の腕を取ると、玄関を出て鼻歌を歌うくらい上機嫌になっていた。

「そんなに楽しみなの?」
「そりゃそうよ! アンタから誘ってくれたの初めてだし♪ 一体どういう風の吹き回しかってね♪」
「…実を申しますと美琴さんに報告しなくてはならないことがあります」
「え――――」

 美琴はその上条の言葉に浮き足立った気持ちが一気に引くのが分かった。
 さっきまではスキップでもしようかと思っていたが、今は上条の次の言葉が気になってそれどこれではなかった。
 まさか、まさかまた何処かに行くからとか、そんな話なのでは…。

「い、嫌! 何処にも行かないで! ここにいて! 私、もうアンタがいてくれないとダメなんだから! もう離れたくないの!」
「は? お、おい美こ――」
「どうしてもって言うなら今度は私もついていく! 嫌われても絶対ついていくんだから! だ、だから…お願いだから、一人にしないで…」
「ちょ、ちょっと待て! 美琴。おまえは何か勘違いをしている」
「う…うぅ、ふぇ? …かん、ちがい?」
「ああ。まず俺は何処にも行かない。美琴の隣にずっといるから」
「ほ、ほんとぉ? よかったぁ…」
「全く…、心配しすぎだっての」
「だって…、また一人で危ない所に行くんだって思ったら…」
「よしよし。んで、さっきの話だけど」
「…うん。何の報告なの? デートに関すること?」
「さすが美琴さんですね。その通り、今日のデートにはルールがあります! それは―――」

「美琴さんには上条さんの左手を握ってデートしていただきますー」
「…………………へ? な、なん…で?」
「ふふ。なんでってそりゃ決まってるじゃないですか、美琴さん♪」
「?」

「おまえがキスする度にふにゃーってなって家の電化製品を根こそぎダメにしてるからじゃああああああああああああああ!!!!!」
「なっ! …なななっ」
「おまえなぁ、乙女にも程があるだろうがよ。俺達付き合って一ヶ月ですよ? キスは告白以降だったけど最近になって毎日してるし」
「だ、だって…嬉しいから……」
「初々しいままでいてくれるのは嬉しいんだけどさ、考えてみてくださいよ美琴さん」
「な、なによ?」
「仮に俺の幻想殺しが無くなったらどうしましょうか?」
「え? そ、それは…ビリビリ、しちゃう」
「でしょう? つまりは上条さんはキスする度に生死の境をさ迷わなくてはいけなくなるわけだ」
「うぅ…」
「だからこれから左手デートを実行します。幻想殺しがなくてもいいようにな。たとえこの体朽ちるとも、愛する美琴たんと生きていくために!」
「あ、愛するって…! えへ、えへへ…」
「やってくれるな? 美琴!?」
「…う、うん! 私頑張る! 私ずっとアンタと、当麻と一緒にいたいから!」
「美琴っ!」
「当麻っ!」

 そうして二人はひしっと抱き合った。
 もちろん上条の玄関先でそんなやり取りをしていたバカップルだったために、隣の土御門宅から苦情が来たので謝りに行った。
 美琴は上条から離れると、いつもの右側のポジションでは無く、未知のファーサイドへと足を踏み入れた。
 そして恐る恐る左手を握る。
 そんな緊張が伝わったのか上条はぴくっと反応し、それにビックリした美琴はピリッと軽く電撃を流してしまった。
 もちろん静電気程度だったので上条は平気だったが、美琴は途端に暗くなってしまった。

「うぅ…ごめんね。いきなりこんな感じで」
「いいって。それよりほら。デートなんだから笑ってくれよ。美琴のそんな顔見たくないからさ」
「……うん! えへへ」
「じゃあ行きますか。楽しみだな!」
「うん!」

 こうして寮を後にした。向かう先は遊園地。
 果たして二人(上条)は問題なく帰ってくる事が出来るのだろうか?
 しかし二人は何より、今こうしてお互いの体温を感じる事が出来る幸せに笑顔を見せていた。


 そして午前十時を少し回った頃、二人は遊園地に到着した。
 早速パスを買い、仲良く入っていく。
 上条は付き合い始めて何回かこの遊園地に来たが、未だに正確な位置は把握しきれていないため、美琴の行きたい所に行く事にした。

「すみませんね、物覚え悪くて…」
「いいの。他のデートとかはちゃんとリードしてくれてるんだから。今日は私がリードする!」
「じゃあお任せいたします」
「うん! 美琴センセーに、まっかせっなさい!!」

 そう言って美琴が最初に向かったのはメリーゴーランドだった。
 いきなりキツイやつ行ってビリビリしたら元も子もないからとの理由のようだ。
 しかし何せここは学園都市。つまりは遊園地も学園都市仕様。
 幼稚園児や小学生なども活用するが、学生のデートスポット一押しでもあるが故に、メリーゴーランドもカップル仕様だった。
 そのお馬さんは二人乗りで、確実に密着しなければ危なそうな感じなのである。
 上条と美琴は、メリーゴーランドの列に並ぶと普段とは違うドキドキに見舞われていた。
 二人はチラチラッとお互いの事を意識し合い、まるで付き合いたて(と言ってもまだ一ヶ月しか経ってないのだが)の初々しいカップルの様だった。

『次のお客様、どうぞー』

 上条たちの番が回ってきた。
 美琴はしっかりと上条の左手を握ると、何かを覚悟したかのように跨った。
 そしてその後ろから上条が跨ぐ。
 美琴は上条の温かさに気持ちよくなって頭から軽くぴりっと漏電するが、すぐに意識を集中させ、それを引っ込めた。
 上条は漏電が収まるのを見送ると、右手で優しく頭を撫でる。
 美琴は最初だけビクっとしたが、この頭を撫でる上条の手がとても好きだったので、上条に体重を預け甘えてきた。

「お。なんだ美琴、結構漏電しないじゃないか。頭撫でたらビリビリするかと思ったのに」
「えへへ、まぁね。私だってアンタに迷惑かけっぱなしだから少しは努力してるんだよ? その成果!」
「すごいな。これなら行けるんじゃないか?今日の目標は『キスしても漏電しない』だからな」
「わかってるわよ。へへ、この状態ならキスの一つや二つお茶の子さいさいね♪」
「お。では…」
「へ!? ちょ、ちょっと――」
「キス、してもいい?」
「ああああ、あの…そのっ」
「ダメなのか?」
「だ、ダメじゃない…けど」
「では、んー」
「あ…あぅ、ふにゅ…にゅ、…ふ」
「え」
「ふにゃー」
「み、美琴ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!?????」


 上条は左半身の服だけを少し焦がし、ベンチに座っていた。
 メリーゴーランドの時は、美琴がキス目前でふにゃー化したため慌てて右手でイマジンブレイクしたが、体の距離が0だったために
 左半身に行く漏電は防げなかった。
 漏電は上条の体からは離れなかったため、右手を美琴の頭に乗せ、メリーゴーランドを楽しんだ。…上条は。

「う…うぅ…」
「いつまでも泣いてるなって。ほら」
「だ、だって…言ってるそばから漏電なんて…恥ずかしすぎて、ぐすっ…」
「美琴。このデートは漏電をしないための訓練でもあるけど、まずは二人で楽しまなくちゃいけないんだよ」
「わ、わかってるけど…」
「ほら。俺は大丈夫だから、笑いなさい。じゃないと置いていきますよ?」
「うっ…な、泣き止むから、置いていかないでぇ…」
「よしよし」
「……ありがと」
「いいよ。じゃあ次は何に乗る?」
「じゃ、じゃあ…えっと、コーヒーカップ…とかは?」
「はいよ。行こうぜ」
「うん。えへへ」

 上条は立ち上がると、美琴の手を引いて歩き始めた。
 美琴も手を握られた事で安心したのか、涙はすっかりと引き、笑顔で肩を並べて歩き出す。
 一度泣いた美琴は少し緊張が解れたのか、コーヒーカップでは漏電する事なく無事に乗り切った。
 その場でキスとまでは行かなかったが、上条が勢いよく回しすぎて美琴が上条へ体を預ける形となってもなんとか耐えた。
 美琴はコーヒーカップで自信をつけたようで、笑顔になって言い出した。

「よっしゃああああ! 今度こそ絶対大丈夫!」
「おぉ! さすがです美琴さん!」
「ふふん。じゃあ次はあれ! あれに行くわよ!」
 
 そう言って美琴は元気よくピッと指を刺した。
 上条はその行為に笑顔になって美琴が指した先を見る。しかし――
 そこには『本日よりオープン! 究極のホーンテッド…いらっしゃいませ。そして逝ってらっしゃい』と書かれた看板があった。
 どうやらお化け屋敷のようだが…。

「…」

 上条はこの先の未来を何となくだが予想できた。
 とりあえずハンカチやティッシュは何枚かあったほうがいいようだ。

「ま、待て美琴。ここはまだ早いんじゃないかな?」
「え? そう?」
「ああ。きっと早い。もうちょっと時間というか時期を置いた方が…」
「だって今日オープンよ? こんなの行かない手はないじゃない?」
「うーん…でも、さ」
「……ははーん。さてはアンタ怖いんだ? 大丈夫よ! 私がずっと隣にいてあげるから!」
「た、確かに怖いんですが…(別の意味で)」
「ほらほら! 今日は私がリードするんだから行くわよ! それ~♪」
「神様…」

 そして上条たちはお化け屋敷に入っていった。
 美琴は全然平静を装っていたが、内心はかなりドキドキしており、何が起こるのかが楽しみでしょうがないようだ。
 対する上条は、恐らくこのお化け屋敷で何回か走馬灯を見るのだろうと考えており、震えてしょうがないようだ。
 そんな手を繋いでた美琴は、上条は怖いから震えているのだと思い、繋ぐ手を左手に変えると空いた右腕を上条の左腕に絡めてきた。

「(うわっ! み、美琴さん! そんな腕組みなんて…い、今ここで漏電したら確実に……)」
「(えへへ。コイツったらこんなに震えちゃって。こ、ここは私が優しくリードしないとダメよね。うん)」

 上条と美琴は違う意味でドキドキしながらお化け屋敷を進んで行くと、次々に仕掛けが発動し始め、その度に二人はビクっとした。
 美琴は素に驚きて上条に抱きつき、その後に感じる上条の温かさにドキドキ。
 上条は仕掛けには多少驚いているが、それ以上に美琴はいつ漏電するのかと気が気でないドキドキ。

「(わっわっわ! どさくさに紛れて抱きついちゃったけど、こいつすごいドキドキしてるじゃん! こ、これは…)」
「(み、み、み…美琴ぉぉぉ。か、かか上条さんのガラスの心はもう壊れる寸前です! 漏電…しないよな? お、俺は信じてるからな?)」
「あ、アンタ…怖いの?」
「…あ、あぁ。こ、怖い…かも」
「わ、わわ私もちょっと怖いけど…ちゃんと隣にいるから安心してね?」
「そ、そそ…そうですね。お、俺は…み、みみ美琴を信じてるからな?」
「えへへ…うん。信じて………ん?」
「え?」

 二人は道を間違えたのか、行き止まりの所まで来てしまった。
 しかしここまで一方通行で間違えるわけはない。上条はおかしいなぁと冷静だったが、美琴はリードをすると言っておきながら
 道に迷ってしまったのかとオロオロとしだす。
 するとその上条たちの場所だけスポットライトが当てられた。
 周りを見てみると、前右左上と4方向に鏡が設置されており、何やら呻き声のような低い声が聞こえてきた。
 その声に美琴は恐怖し、震え始める。
 もちろん上条はそんな美琴に震え始める。
 前の鏡には自分達以外なにも映っていない。上条は美琴に一緒に右の鏡を見ようと言って、ギギギと右を見た。
 ――――いない。
 ほっと美琴が息を漏らすと、じゃあ次は左と上条が言い出し、左を見る。
 ――――いない。
 さらに上と見るが、どうやら何も自分たち以外映ってないみたいで美琴は小さく笑った。

「あ、ははは。何よ結局変な声だけだったじゃ―――」
「そ、そうだな! こ、こんなんじゃその辺にある仕掛けとなんら変わりな―――」

 上条と美琴は、前→右→左→上と見て前の鏡に視線を戻すと、そこには――

『あああああああああああああああああああああっ!!!!』
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!!」
「ふぎゃあああああああああああああああああっ!!?????」

 なにやらどろどろになったモンスター系の何かが叫んで迫ってきた。
 実はこの鏡は一瞬にしてCGを映す事が出来る画面になるハイテクなもので、どこかに仕掛けられているカメラで従業員がその映像を流すという
 大変手の込んだ仕掛けだったようだ。
 もちろん究極にビビっていた二人は、その映像にこの上なく驚き大声を出して抱きついた。

「ふぎゃああああ! ふにゃあああああ! ふにゃああああああああ!!!」
「お、おおおお落ちつけ美琴! し、CGだ! 幻覚だ! 幻想だっ! そのふざけた幻想を――」
「ふんにゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
「だ、ダメだ…帰ってこない。こ、こうなったらッ…!」

 そう言うと上条は美琴の耳元まで顔を近づけ、優しく囁いた。

「み、美琴。落ちつけ、だ、だだ大丈夫だから」
「っ!!!!??????」

 そんな上条の甘く優しい声に、美琴は今まで以上の衝撃を受け、頭からボボンと湯気がたった。
 今までの仕掛けがコーナーをついた緩いカーブだとすると、この上条の声は全く反応出来ないど真ん中の渾身のストレートだ。
 もちろん美琴はさっきまでの恐怖など綺麗さっぱり吹き飛んで、変わりに心臓が飛び出るんじゃないのかと思うほどドキドキしていた。

「ほら…よく見ろよ。もう何も映ってないだろ?」
「う、うん…」
「でも…怖かったな」
「う、うん。で、でも…もう大丈夫。と、当麻が…抱きしめてくれたから」
「はは。美琴たんはこういう時は素直で可愛いな」
「か、かわっ!? あ…あぁ……」
「…美琴?」
「…ふ」
「ん?」
「ふにゃー」
「みっ!? みごごごごごごごごごごごごっ!!!!!!!!」

 上条当麻は付き合ってもそんな急には女心が分かるはずもなく、いつも美琴がやられて嬉しいような事を耳元で囁き続けた。
 美琴はそれは大変嬉しかったのだが、今この状態でそれをやられるもんだから、ワン・ツーの緩急ある攻撃を食らったように
 膝から崩れ、見事にふにゃー化した。
 頼みの幻想殺しは美琴に触れていなかったので反応に遅れた。
 その所為で美琴の漏電は上条に直撃し、意識が飛んだ。
 しかしそんな上条は薄れ行く意識のなか、美琴の手を右手で握ろうと懸命に伸ばす。辺りに電撃が撒き散らさないように。


 美琴は上条を連れてお化け屋敷を出てベンチに座っていた。
 上条は依然意識を失っており、美琴に膝枕されている格好となっている。
 その上条の額に手を置いて美琴は顔を伏せるように心配そうに覗き込んでいた。
 そしてしばらくして上条の意識が戻る。

「……ん、あれ。ここ、は?」
「あ、あぁ…き、気がついた! よ、よかったぁ…よかったよぉ…う、うぅ…」
「あれ美琴さん。何で泣いてるんでせう?」
「ごめんね。ごめんね? ほんとに…っ、ごめん…なさい……」
「……あー、いいんだって。前聞いたけど、おまえがこういう事になるのは嬉しいからなるんだろ?」
「うぅ…う、…っ、う、うん…そう、だけど…」
「じゃあ上条さんも嬉しいですよ。美琴が喜んでくれてるならさ。しかし久しぶりに食らったけど、改めておまえがレベル5なのが認識できたわ」
「ふええええええん! ご、ごめんなさーい! 私の事嫌いにならないでぇーっ!」
「お、おい! わ、悪かった! 泣くな泣くな! ならないから! 嫌いにならないから泣きやんで!」

 上条は右手を動かし、美琴の頬に添えた。
 美琴はその手を両手でしっかりと握るとしばらく泣き続けた。
 そんなベンチは周りからすると何とも言いがたい空間で、通り過ぎる人々はあえて避けて歩いてるようにも見えた。
 しかし上条は気にする様子もなく、美琴が泣き止むまで右手を預け、左手で頭を撫でてあげた。美琴の好きな撫で方で。
 その後しばらくすると美琴が泣き止み、上条の顔に落とした涙をハンカチで優しく拭いてお礼を言った。
 上条はその言葉を受け、立ち上がると腹が減ったから何か食おうと言い出した。
 美琴もそういえばお腹が減ったと立ちあがると、携帯を開き時間を確認する。
 昼の時間はかなり過ぎて、今は午後3時を指そうとしていた。
 上条は夕食が食えなくなるからクレープでも食おう、と美琴の手を握って歩き出した。
 美琴はいつも感じる上条のさり気ない優しさがたまらなく大好きで、真っ赤になりながらも素直に手を引かれ後ろについていく。


「ほらよ。いちごクレープ」
「あ、ありが…とう」
「よし、じゃあ食おうぜ。…んん? うまいなコレ」
「アンタは何買ったの?」
「俺のはチョコバナナ。同じやつにしようかと思ったけど、二つの味も食べてみたいしさ」
「へ? あ、あの…じゃあこれ、食べる?」
「おお。くれくれ」
「はい。あ、あーん…」
「あー…む。んん! こっちもうまい! ほら美琴。チョコバナナ、あーん」
「あ、あー…んっ。んぐんぐ…」
「うまいか?」
「……うん」
「そっかそっか。…んぐ。うん、うまい」
「えへへ」
「あれー? 御坂さん? あぁ、やっぱり御坂さんだよ!」
「わー! ホントですね! こんにちは御坂さん!」
「へ?」
「ん?」

 上条と美琴はその声のする方を見ると、そこには可愛らしい私服を来た女の子が二人クレープを持って立っていた。
 美琴が挨拶するとその女の子達も挨拶を返し上条の方を見て自己紹介してきた。
 どうやら頭の上に花を置いてるのが初春飾利さんで、黒髪ロングな子が佐天涙子さんらしい。
 二人も遊園地に遊びに来ていて、疲れたのでクレープでも食べようとした所に美琴を見つけたので声をかけたらしい。

「ところで御坂さん? さっきたまたま見てしまったんですが…」
「そうです! この人に『あーん』ってしてましたよね!? という事はこの人は御坂さんの彼氏さんなんですか?」
「え? えぇ!? み、見てたの!? あ、あの…その……」
「あー、どうも。上条当麻です。美琴がいつもお世話になりまして」
「んなっ!?」
「きゃー! 聞きました佐天さん!? 美琴ですって! 御坂さんの事、美琴って言いましたよ!」
「聞いた聞いた! 御坂さん水臭いじゃないですかー。彼氏出来たんなら教えてくださいよー」
「そ、それは…その、黒子に知られたら大変そうだったから…、ごめん」
「なんだよ。おまえ友達にも言ってないのか? そんな悪い事してるわけじゃないんだからいいじゃねぇか」
「そ、それは…そう、だけど…その……、恥ずかしくて」
「(あ、あの御坂さんが…こんな可愛くなるなんて!)」
「(この彼氏さんは相当に出来る人ですね! 後で支部に行って調べてみよう)」
「はぁ…まぁいいけどさ」
「あ、あの…上条、さん?」
「ん? えっと…、佐天さん…だっけ?」
「はい! その、ずばり聞きますけど…御坂さんのどんな所が好きなんですか!?」
「ちょ、ちょっと佐天さん!? 恥ずかしいからそんな事聞かなくていいって!」
「えー? 何でですか? 御坂さん知りたくないんですか?」
「そ、それは…」

 よくよく考えると、美琴は何で上条が自分の事を好きになってくれたのか知らない。
 自分が告白した翌日から女の子として見てくれて、それで好きになったとは言っていたけど理由は知らなかった。
 そう考えると、美琴は途端に理由を知りたくなって上条の方を見た。
 上条は顎に手をあてて、うーんと考えているが「あ」と思いついたように言い出した。

「美琴は俺の全部を知ってて唯一向かい合えるから…かな?」
「…」
「…」
「…え?」

 初春と佐天は互いの顔を見合わせた。今この彼氏は何て言ったのか?
 俺の全てを知っている。全て。全てって、何? 分からない。
 あはは。なるほどなるほど。
 私達には分からない事か。いやー中学一年生と二年生じゃこれほど知識の差があるなんて。
 それとも常盤台の人だから頭がいいからなのかな? あはは。

「あ、アンタね! そんな紛らわしい言い方するな! 確かに人には言えない事知ってるけど!」
「なんだよー。ホントの事なんだからいいじゃねぇか」
「そ・れ・で・も! ご、ごめんね? 初春さん佐天さん。コイツの言ってる事はそういう事(どういう事?)じゃな――」
「「御坂さん」」
「…くて?――――」
「「結婚式には呼んでくださいねっ!!」」
「「ぶぅぅぅぅぅ!!!」」

 上条と美琴は、初春達の飛びぬけた台詞に壮大に吹いた。
 初春達はそれだけ言うと「恋人たちの仲にお邪魔するのも悪いので失礼しますねーあははー」と言って走り去った。
 美琴は俯いてぷるぷるし始める。
 恐らく明日からの地獄の質問攻めと、黒子による涙を流しながらの理由追求があると考えると目の前が真っ暗になった。
 上条はそんな美琴にオロオロして話しかける。

「ええっと…な、何かごめんな? 変な誤解させちゃったみたいで」
「……いいわよ別に。あながち間違っても無いし」
「え?」
「わっ私はアンタと結婚するつもりだからね! こんな私じゃ他に貰ってくれそうにないし」
「け、結婚!? …でも、まぁそうですね。普通ならみんな感電しちゃいますもんね」
「うっ…だ、だからアンタと結婚するの! そ、それにちゃんと好きだし文句ないでしょ!」
「上条さんは美琴さんの事大好きですよ?」
「なっ…わ、私なんかアンタの事、超好きよ!」
「ふふんかかったな。じゃあ俺は絶対好きだ。どうだ、これでこれ以上好きになれないだろーわっはっは」
「むかーっ! それでも好きったら好きなんだからーっ!」
「はいはい。つか俺まだ高校生で、おまえなんてまだ中学生じゃないか。こういう話は働き始めたらしような」
「じゃ、じゃあさ…その時になったらちゃんとプロポーズしてくれる?」
「ああ。絶対するよ。だから今は今を楽しもうぜ」
「うん! えへへ」
「おまえあの子達の前とは全然違うのな。別人のような甘えっぷりなんですが…」
「当たり前じゃないそんなの。恥ずかしいもん」
「お、俺の前じゃいいのかよ」
「いいの。好きな人なら全部見て欲しいから」
「そんな素直に愛情をぶつけてきてくれる人がいるなんて、上条さんは不幸時代を抜け出したのかもしれないですな」
「え?」
「俺おまえといるとさ、不幸なんて全然思えない程幸せなんですよ。まぁビリビリはちょっと勘弁だけどそれ以外は本当に楽しい」
「ちょ、ちょっと…真顔でそんな恥ずかしい事、言わないでよ…」
「いいの。好きな人には全部見て欲しいから」
「あぅ…」

 二人は完全に二人だけの世界に入っていた。
 その周りには近づきがたいラブラブオーラが出ており、通行人は目も合わせない。
 二人の距離はどんどん近づいていき、後ほんの少しでキスするところまでくると、手に持っていたクレープのクリームが
 その熱に耐えられなくなったのかとろりと溶けて、互いの手を汚してしまった。
 二人はそれで笑いあい、クレープを片付けて次のアトラクションへと向かって歩いていった。


「う、うぅ…」
「ほら大丈夫? はい。お茶買ってきたから飲んで」
「す、すみません美琴たん…」
「たん言うな!」

 上条と美琴はクレープを食べ終わったのが午後4時くらいという事もあって、ジェットコースターへと向かった。
 食後の絶叫系はいかがなものかと思ったが、美琴の寮の門限を考えるとあと乗れるのは二個程だろう。
 最後に乗るのは決まっていたのでその前にこれ、ということらしい。
 しかし上条にはやはり壁が高かったらしく、乗り終わると真っ白になっていた。
 美琴はそんな上条をベンチに座らせるとお茶を買って上条に渡す。
 その時つっかかる台詞を投げかけるが、それは上条が今頼れるのは自分だけだからという嬉しさの裏返しで、上条もその事をよく理解している。
 上条はしばらくすると立ち上がり、復活をアピールした。

「よし、もう大丈夫だ。ありがとな美琴」
「いいわよ。彼氏の世話は彼女の役目だしね!」
「恐れ入ります」
「それじゃあ最後に行きますか! 二人の思い出の場所に!」
「ああ」

 二人は手を取って最後のアトラクションへと向かった。
 そこは上条が美琴に告白した思い出の場所。遊園地の中でも最高のデートスポット、観覧車だ。
 上条の告白は、ゴンドラが一番高い所に来た時にするというベタなシチュエーションだったが、恋する美琴には最高のシナリオで、
 その言葉を聞いた時には観覧車が揺れて落ちるんじゃないのかと思うほど、勢いよく抱きついてきた。
 そしてその後に二人のファーストキスという正にドラマのような展開だった。
 その後また遊園地に来ても最後には観覧車に乗り、てっぺんに着いたらキスをしている。
 もちろん今回もそうなるだろう。
 今まで漏電してなかったのは、上条がちゃんと右手を握っていたから。
 今日これまでの勝敗を見てみると、最初のメリーゴーランドで黒星。その後のコーヒーカップでは白星。
 お化け屋敷では黒星。ジェットコースターでは勝ちを拾う(というか上条が美琴に対して気分が悪くなって何もしなかったからだが)という二勝二敗。
 夕方の観覧車は案の定混んでいたが、二人はこの待つ時間も楽しかった。
 これから二人だけの時間があるので、それを考えるとそれだけで美琴はふにゃー化しようになる。
 そしていよいよ今日最後にして最大の試練の時間がやってきた。――が。

「ほら、美琴」
「え?」
「お手を。姫」
「…いいの?」
「ああ」
「ありがとっ!」

 上条は先にゴンドラに乗り込むと、美琴に右手を差し出して招いた。
 美琴は笑顔でその手を取ると元気に乗り込んで上条の隣に座る。
 係員の人から「ごゆっくりどうぞー」と言われドアを閉められた。
 そして二人だけの空間はゆっくりと動き始める。

「ねぇ。今日は漏電しないためのデートじゃなかったの? 右手で握ってちゃ漏電してないかわからないじゃない」
「そうなんですけど…その、俺も気にしないで美琴さんとキスがしたいっていうか…」
「え!? あ…ぅ、そう、なんだ…えへへ」
「だから今日はもう左手デートはお終いだ。今まででも結構抑えてたんだろ? ごめんな?」
「うぅん。私の方こそごめんね。二回も漏電しちゃって、しかもお化け屋敷の時なんか気絶までさせちゃって…」
「また今度頑張ろうぜ? 時間はたくさんあるんだからさ」
「うん。ありがとう、えへへ」

 上条はそう言うと美琴の頭を優しく撫でた。
 美琴はその手の気持ちよさに顔を緩めると頭を上条の肩に預け、途端にモジモジし出した。
 最近分かった事だが、美琴がモジモジする時は上条に対して何かを期待している事があり、それを待っているのだ。
 まあ普通に考えれば分かりそうなものだが、鈍感な上条は付き合い始めて初めてその事に気付く。
 もちろんこのゴンドラの中での期待される事といえばキスなので、上条はてっぺんに行くまで夕日に染まった
 学園都市を横目に美琴の頭を優しく撫で続けた。
 そしてゴンドラはてっぺんまで登りきると上条は右手を離し、美琴の右頬に手を添えた。

「美琴」
「っ!――」

 美琴は顔を真っ赤にしながらも、待ってましたとばかりに目を瞑り、顔を少し上に傾けた。
 上条も最近は毎日キスしているからと言っても、この一瞬だけはどうしても緊張する。

「当麻、大好き…」
「ああ。俺も美琴が、大好きだ」

 そうして二人はキスをした。
 それはとても熱く、甘く、優しく、安心できるキス。
 美琴はその瞬間に何とも言いがたい幸せな気持ちになった。
 私は幸せだ。こんなに好きな人に、こんな愛しいキスをしてもらえるんだから―――
 美琴はそう思うと、全身が溶けてしまってるのではないかと思うほどにトロトロになるのが分かった。
 するとそんな中、愛しの上条当麻が囁いた。

「おめでとう、美琴」
「…ふぇ? な、なにが?」
「あなたは左手デートの目標を見事クリアしました」
「……え!? だ、だって右手で触ってたんじゃ……あ」
「実はキス手前で右手は離してたのです。いやー、ドキドキした」
「ほ、ほんとに右手は触ってなかったの?」
「え? あぁ…そうだけど」

 美琴は上条の右手を見ると、確かに右手は行き場を無くしたようにワキワキしていた。
 しかし、それでは美琴は納得いかなかった。
 それは何故か。理由は簡単だ。
 今日はいつにも増して上条とのキスを心待ちにしており、その所為もあって最高にキスが心地よかったから漏電しないわけがなかったからである。
 では何故漏電しなかったのだろう?
 しかし、その理由も実に簡単なものだった。
 あ。そっか…私―――

「私まだ心のどこかでアンタがどこか遠くに、手の届かない何処かに行っちゃうんじゃないかって思ってたのね」
「へ? だから上条さんはどこにも行かないって…」
「うん。でも、そう言われてもまだどこかで信じてなかったんだ。でも今日のアンタの、当麻の幸せを知って気付いた」
「幸せ?」
「さっき言ったじゃない。私といると不幸なんて全然思えない程幸せだって。その言葉を聞いて私も本当に幸せで、本当の意味で繋がった気がした」
「つ、繋がる…とは?」
「言い方は悪いけど、今までは形だけで付き合っていたのかも。でもさっきの言葉で心から当麻と一緒になれた気がする」
「…そっか。それならもう、俺たちが離れる事はないな。心で繋がってるんだからさ」
「うん。…ねぇ? アンタが私を好きになってくれた理由って、本当にさっきのなの?」
「そうだなー。あの二人に言った事が大体だけど、あえて補足をさせていただくと…」
「いただくと?」
「本当の俺を知ってて、本当に心の底から俺を信じ愛してくれているから、俺も心の底から美琴を信じ愛する事が出来るんだと思う」
「……そ、そっか。えへへ…嬉しい。本当に嬉しいよ、当麻。ずっと…一緒にいてね?」
「ああ。ずっと、ずっと一緒にいる」

 そして上条はもう一度美琴にキスをした。
 もう美琴からの漏電は無い。自分でも気付かなかった心の奥底のモヤモヤが綺麗さっぱり消滅し、絶対なる信頼と愛情を手に入れたのだから。
 こうして上条と美琴の脱・漏電左手デートは完結したのだ。
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